神レベルのDJハーヴィーにもわからないこと
ダンス ミュージックを牽引してきたリビングレジェンドが音楽とファッションを語る
- インタビュー: Sam Cole
- 写真: Kevin Amato

DJハーヴィー(DJ Harvey)と言えばダンス ミュージックの代名詞。だが、ひとつのジャンルに縛ることは不可能に近い。音楽の世界で30年以上も輝かしいキャリアを重ねてきた彼は、知る人ぞ知る「リビング レジェンド」だ。1990年代にはロンドンのクラブ、Ministry of Soundを沸かせ、クラバーたちの汗をダンスフロアに染み込ませた。人気観光地イビサ島では、夏毎にクラブのレジデントDJを務めた。「Dekmantel」や「Meredith」をはじめ、世界の音楽フェスに登場して、聴衆を熱狂させた。こうして揺るぎない名声が築かれた。
DJハーヴィーの影響を語らずして、ダンス ミュージックの歴史を考えることはできない。とりわけ英国では到底無理な相談だ。数世代にわたるレイヴ ファンが彼の音楽を体験してきたのだし、たくさんのサウンドと共に進化したDJハーヴィーは、デッキの後ろで絶対確実な技を披露する。ダンス ミュージックへの飽くなき献身は、はるか大陸を超えて、クラブ カルチャーに多大な貢献をもたらした。一方で、数々のクリエイティブな試みは、アーティストとしての才能の広がりを示している。
ロンドンやイビサ、ニューヨークにとどまらず、ディスコ、パンク、ハウスをブレンドしたダンス ミュージックで世界のクラブを揺るがすDJハーヴィーは、サウンドと同様、多彩な要素を吸収したスタイルにも磨きがかかっている。2013年にオープンしたオンラインショップ「Harvey's General Store—ハーヴィー雑貨店」では、StüssyやWACKO MARIAなど、ストリートウェアの人気ブランドと提携した。新しいパートナーはHowlin’だ。
「PUNX NOT DAD」は、ノリのいい命名にふさわしく、DJハーヴィーのCDJと同じバイブスを発散するカプセル コレクションだ。ファッションの街アントワープを拠点とするHowlin’の優れた品質に、世界の多様なカルチャーを融合し、歴史を彩るサブカルチャーと関連させ、チューンナップされた色使いで完璧に自己主張する。Harvey’s General Store x Howlin’は、DJハーヴィーが質とミュージックとスタイルに捧げる愛の表現であり、あくまでDJハーヴィーその人が中核にある。
ラインナップは、最高級のアルパカ混モヘアにハンドスプレーダイ加工をほどこしたカーディガン、グラフィックTシャツのほか、DJハーヴィーのパンクなルーツを表現した、スタッドで飾られたウールのボンデージマスクなど、定評のあるミュージック ブレンドに負けず劣らず明確だ。
DJハーヴィーは、もっともエキサイティングに時代を画したダンス ミュージックの鬼才であるから、長年のワイルドなスタイルをコレクションに落とし込むのは、生易しいことではない。そこには妥協を許さない緻密な理解が要求されるが、Howlin’は、10年以上も不屈の精神で取り組んだ手仕上げの職人技を素晴らしいニットウェアに凝集して、見事期待に応えた。だがコラボの成功に何より重要だったのは、DJハーヴィーというひとりのアーティストの技量だ。
キャリアを通じてミュージックとファッションの緊密な関係を体感し、点と点を結びつけ、さまざまなアイデアと体験の豪華なタペストリーを構築してきたDJハーヴィーにとって、コラボ パートナーとの共生関係を理解することは、第二の天性なのだ。

サム・コール(Sam Cole):近年は、adidasがイビサ島のCircolocoやAmnesiaといったクラブと提携したり、ファッションとダンス ミュージックの結びつきが非常に強くなっています。そういうクロスオーバーのせいで、ダンス ミュージックに対する見方が変わった点はありますか?
DJハーヴィー(DJ Harvey):俺に言わせるなら、ミュージックとファッションはお互いに不可欠だ。密接に関連してるし、これまでもずっとそうだった。
両方のパワーが弱まって、お互い、相手の力を借りなきゃいけないようなときもあるし、諸刃の刃みたいなときもある。いい場合も悪い場合もあるが、いずれにせよ、色々たくさんあるほうが楽しいんだ。素晴らしいものを目指すアートなプロジェクトなら、結果を期待できるんじゃないか?
独創性に溢れるひとりのアーティストとして、ファッションとはどんな関係ですか?
自称、ファッションの熱心なフォロワー。とは言っても、ファッションはもはや存在しないと思ってる。残ってるのは、スタイルだけだな。
何かがファッションになった頃には、もうそんなもの、スタイリッシュな連中は着てないさ。今は、いわば「ファッション」が店頭に並んで、ネコも杓子もそれを着る。それを着るのがファッションだと思い込んでる。
そうやってファッションが広まった頃には、そのルックを作り出した連中ははるか先へ進んでるよ。だが、スタイルは持続する。
ファッションの選択に、音楽のキャリアは影響していますか?
もちろん関係がある。大抵のアーティストは着る服が要るし、聴く音楽が要るからな。俺も若い頃は、色んなトライブを体験した。10代の頃はパンクやロッカー、モッズやスキンヘッド。どれも全部音楽がルーツで、それぞれのトライブにお決まりのファッションがあった。そういうトライブ ファッションがメインストリームに取り込まれてからは、若者たちのムーブメントのほとんどがスタイル全般に影響を及ぼすようになったね。物事が動いて、変化して、薄められて、リメイクされて、新しい解釈を与えられる。おもしろいぜ。色んな点で、それが今の俺たちとスタイルの関係だし、俺たちと音楽の関係はずっと前からそうだった。

過去にはStüssyやWACKO MARIAとコラボしていますが、ああいうスタイル面での繋がりはどうやって生まれるんですか?
大抵は、パーティーで顔を合わせて、ってのが始まりだ。「ああ、あいつクールだな。俺たちはカッコいい音楽が好きなんだ。俺たちはカッコいい服が好きなんだ。一緒に飯でも食うか。おい、これ、くれよ。ミックスを作ってくれないか? 一緒に何かをやってみようぜ」みたいなノリだ。多少の縁から、草の根的に双方向のフレンドリーな関係が生まれる。
Howlin’の場合は?
Howlin’のメンバーとは、何年か前、イビサのホテルPikesでレジデントをやってたときに知り合った。その後何点か商品を送ってくれたんだが、どれもすごくよかった。コラボを持ちかけられたときは、俺とニットウェアがどう繋がるもんだか、ちょっと考えたよ。昔から俺が好きなのはパンクだ。ちょっとグランパ系だが、一種ヒップなスタイル。実際にグランパの年齢になった今、グランパ系のスタイルを着るってのもおかしいよな。ともかく、Howlin’のカタログにあったものを土台にして、俺のアート感覚をつけ足したら、Howlin’のスタッフがすばらしいやり方で完成してくれた。すごいプロだ。
最終的に、クールなパンクのスタイルで、質のいいコレクションに仕上がったと思う。論より証拠、驚くほど好評だ。ある意味、ちょっと変だろ。なんでDJがカーディガン作ってるんだ? って。だが、コラボが生まれた流れを逆回しにしたら、完璧に理解できるはずだ。やってて楽しいし。ミュージックでもアート系のプロジェクトでも、俺自身が楽しくて、ハッピーな気持ちや懐かしい気分になれるんだったら、俺以外の人にとっても同じであることを願いたいね。
最近は、1990年代のツアー グッズをリメイクしているブランドが多いですが、アーティストとして、今でもミュージックにはグッズが必要だと思いますか?
俺のパーティーをやるときは、いくつかグッズを揃える。Tシャツ、バッジ、CD、そんな類のグッズだ。みんな、そういう物を持っていたいんじゃないか? ハリウッド ボウルにバーブラ・ストライサンド(Barbra Streisand)を聴きに行ったときは、俺もTシャツを買ったもんな。いい思い出になるし、15年経った今でも感動して顔がほころぶぜ。
Howlin’とのコラボも、同じ気持ちを感じさせるでしょうか?
肌寒い夜に暖かいセーターはありがたいもんだ。それだけじゃない。エキサイティングな流れに参加するのはいい気分だし、DJハーヴィーをサポートすることになるし、クールに見える。おまけに憧れのライフスタイルに通じるものがあるとしたら、いいこと尽くめじゃないか。

「理解できないサウンドだったら俺たちの気に入らないだろうし、俺たちには皆目見当もつかないことを若い連中がやってのけても、年を食った連中は毛嫌いする。実はそれがすごいものになる」
長年DJハーヴィーとして築いたダンス ミュージックのキャリアは今も健在ですが、ダンス ミュージックのカルチャーを生かし続けるものは何でしょうか?
いちばん大事な要素は、ダンス ミュージックの新しい場を作ることに時間と資金とエネルギーと愛情を投資してる人たちだ。俺は今、バリ島のリゾートPotato Headと組んで、Klymax Discotechっていうナイトクラブを一から作ってるところ。楽しみだ。
Ministry of Soundはあなたのキャリアの初期に大きな役割を果たしましたが、ダンス ミュージック カルチャーにとって、ああいうコンサート会場は今も大事でしょうか?
色んな意味で大事だね。今だに健在なのが何よりの証拠だろ。ああいう場所はダンス ミュージックのシーンを確立した基盤だし、今もすごいDJですごいパーティーをやってる。そうじゃなかったら、誰も行くもんか。代わりはいくらでもあるんだから、客の期待に応えなかったら商売にならない。
イギリス人は不平不満が多いが、全般的に、ダンス ミュージックもその環境も非常に好調だな。以前と比べて、生まれてくるダンス ミュージックも格段に多い。文字通り、自分のコンピューターで曲を作って、インターネットに出せる時代だ。誰かに気に入られて、どこかのDJがプレイしてくれるかもしれない。
テクノロジーのおかげでやり方は確実に変化したが、俺に関する限り、究極の目標は変わらないね。照明が点滅するダンスフロアで、クールな音楽に合わせて、友だちと踊って、最高に楽しむ。これだよ。


クリエイティブ面でのツールがますます身近になったせいで、音楽もファッションもかつてなく溢れていますが、過剰に飽和する危険はないでしょうか?
色んなものがたくさんあればあるほど、楽しいんだ。選択肢も増える。嫌なものは、放っときゃいい。
ダンス ミュージックの未来を作り始めているアーティストやDJは誰ですか?
まったく見当もつかない。今この時も、きっとどこかで、俺たちが全然知らないミュージック シーンが盛り上がってるはずだ。理解できないサウンドだったら俺たちの気に入らないだろうし、俺たちには皆目見当もつかないことを若い連中がやってのけても、年を食った連中は毛嫌いする。実はそれがすごいものになる。たとえば、どこかの砂漠に小さいコミューンがあって、10年前にコンピューターを破壊して、驚くようなものを作り出したとするだろ。ところが、俺たちがそれを知ったときは後の祭り。商業化された均質なホルモン過剰バージョンを買うしかないわけだ。
現在から振り返って、ダンス ミュージックは過去数十年でどんな進化を遂げたと思いますか?
ダンス ミュージックは、過去50年間、今のかたちのままで存在してきたさ。思わず足が拍子をとる、あのリズムは変わらない。延々と同じことをやってるんだ。テクノロジーは変化して、棒で丸太を叩く代わりに、ボタンを押すだけになる。だが俺たちが欲しいのは、「ズン、ズン、ズン」というあの響きだ。ダンス ミュージックの最先端は? ということなら、それは俺たちのこの対話の届かないところにある。それが何か、俺たちにはわかってない。
Sam Coleは、マンチェスターを拠点として、レイヴ カルチャー、ダンス ミュージック、スニーカー、ストリートウェア、およびそれらの交差軸をテーマにするフリーランス ライター。『Highsnobiety』、『Perfect Magazine』、『Complex』、『Soho House』、『The Daily』に記事を執筆している
- インタビュー: Sam Cole
- 写真: Kevin Amato
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: January 10, 2024

