デニムジャケットの神は細部に宿る
The Row、Acne Studios、Kenzoが、ステッチ1本にも目を凝らす

フラップ付きの胸ポケット、胸から裾に向かって前身頃に入ったV字型ステッチ。デニムジャケットには、デニムジャケットとして成立するために必要なディテールや仕様が、いくつも存在する。そこに超えてはならない一線があるからこそ、青い綾織生地のジャケットは、わずかなデザインの違いで、新鮮な表情を生み出せる。長い歴史の中で愛され続けてきたワークウェアの今を、形や色はもちろん、ステッチや素材の混率など、細部にまで神経を集中して見ていこう。

画像のアイテム:デニムジャケット(The Row)
色褪せも汚れもない、真新しく濃厚なインディゴブルーと、現代の感性を投影するオーバーサイズシルエット。コットン100%の青いノンストレッチ生地だからこそ、自分の体に馴染んだシワが生まれ、唯一無二の表情が生まれるデニムウェアの楽しみも増幅する。ザ ロウが、服の外観と体験の双方からデニムジャケットを更新する。

画像のアイテム:デニムジャケット(sacai)
フラップ付きアウトポケット、サイドアジャスター、ヨークと、デニムジャケットの肝を抑えながらも、左右の胸ポケットを大胆に斜めに横断するジッパーにサカイらしさが覗く。ファスナーを用いた前開きと、その前開きディテールを隠す比翼仕様は、ライダースジャケットと融合したかのようだ。ベーシックを代表するアイテム二つを、一つにしたデザインは、ハイブリッドデザインを得意とするブランドの真骨頂と言えよう。

画像のアイテム:デニムジャケット(Gucci)
アクションプリーツ、ヴィンテージな風合いの生地、コンパクトなフォルムなど、デニムジャケットならではの要素のせいで、一見、オーソドックスな印象が強い。だが、細部に目を凝らすと、両胸のポケットを、通常よりも下方に移動させて視線を誘導し、ポケット端から伸びるタブに取り付けたゴールドトーンのホースビットが、イタリアメゾンのロゴと重なることに気づく。グッチはシンプルなアイデアで、日常着にラグジュアリーを匂わせる。

画像のアイテム:デニムジャケット(Naked & Famous)
藍色に染まった生地は上品で艶やか、シルエットはトレンドのビッグシルエットとは一線を画すスリムラインだ。究極のカジュアルアイテムが、端正なテキスタイルと正統派のディテールによって、テーラードジャケットに勝るとも劣らない品格を見せる。プレミアムな日本産デニムとカナダの生産技術から生まれたた、ネイキッド アンド フェイマス デニム渾身のジャケットである。

画像のアイテム:デニムジャケット(Isabel Marant)
ヒップを完全に隠すレングスは無骨で、フロントに付けられた4つのマチ付きポケットはいかにも作業着という存在感を放つ。肘にコバステッチで押さえられたエルボーパッチと、色褪せた風合いが経年変化の味も加える。しかし、首元を引き締めるスプレッドカラーと、フロントに規則正しく配置されたスナップボタンで、着用した姿は決して土臭くならず、気品さえ漂わせるのが、イザベル マランだ。

画像のアイテム:デニムジャケット(Acne Studios)
アクネ ストゥディオズは、ミニマルデザインという北欧ファッションのイメージを、大胆に破壊する。短い着丈、ワイドな量感の身頃と袖、幅広の袖口の絶妙なバランス、そして、激しい加工のテキスタイル。気鋭のストックホルム ブランドによる異彩を放つ1着だ。

画像のアイテム:デニムジャケット(ALAÏA)
淡く褪せたブルーは柔らかく、ループボタン一つで留めるフロントが、前開きの隙間からひっそりと肌を覗かせる。セーラーカラーにも似たフーディの形が、マリンスポーツの世界へいざなう。デイリーウェアのデニムジャケットを、清涼感が香る麗しい姿に生まれ変わらせたのは、パリで美を探究し続けるアライアの卓越した審美眼だ。

画像のアイテム:デニムジャケット(Kenzo)
Nigoのアーティスティックディレクター就任以降、ブランドの歴史を尊重するデザインを発表してきたケンゾー。伝統を大切にする姿勢は、デニムジャケットにも見て取れる。胸のポケットを跨ぐVステッチという、王道のディテールを踏襲し、胸元は着物の衿型に仕上げ、西洋と東洋の特徴を1着に閉じ込めた。スピーディに進化し続ける現代であっても、名作に目を向け、未来の服を見つけたい。
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新井茂晃は神奈川のテキスト デザイナー。2016年より「ファッションを読む」をコンセプトに、ファッションデザインの言語化を試みる『AFFECTUS』を主宰し、『TOKION』、『装苑』でも記事を執筆している
- 文: Shigeaki Arai
- Date: September 5, 2023

