ミーム時代の
2023春夏トレンド レポート

SSENSEエディトリアル チームが
広範なデータから到達した結論は?

    トレンド レポートは、2023年のファッションを指南することだ。そこでSSENSEエディトリアル チームは各地でのファッションショー、ショーのストリーミング、Spotify Wrapped、TikTokの「For You」ページを広く検討した結果、「トレンドは消滅しつつある」という結論に達した。かつてアメリカ人の4人に1人が観たという国民的コメディドラマ『となりのサインフェルド』は「とりたててまったく何も起こらない番組」と言われたものだが、それと同じく、私たちは、ああでもないこうでもないとトレンドを詮索すること自体がトレンドの時代に突入したのである。

    そんな時代に、どんなファッションをすればいいのか? すべてをやり尽くす、あるいは、まったく何もしないことだ。グランジな白いタンクトップへ向かってもいいし、舞踏会デビューするようなドレスにハマってもいい。パジャマ姿にJacques Marie Mageのサングラスを合わせてもいいし、Teklaのバスローブでベッドにもぐりこんでもいい。SSENSEエディトリアル チームは、さまざまな選択肢を提示するのみ。どの道を辿るかはあなた次第だ。真面目な話だが、真剣になり過ぎてはいけない。SSENSE 2023春夏トレンド レポートも、やがては消滅する運命にある。そしていつの日か、新しいトレンド レポートを報じるときがやってくるだろう。

    人生のエグゼクティブたち

    給料を貰って働く労働者と無職を楽しむ失業者が自由気儘な階級を作り出す。あなたが落ち着く場所は?

    2023年のもっとも安定したアイテム

    Asics x Kiko Kostadinov 2023春夏

    不確定の時代には、足元の確かさが大きな意味を持つ。精神を安定させるためのお薦めは、 Kiko KostadinovAsicsが継続しているコラボの最新アイテム、Gel-Quantum Zientzia スニーカー。ランニング シューズでもあり物理実験でもあるGel-Quantum Zientziaは、動きの原理とファッションを融合させたスニーカーの代表選手だ。

    2023年のもっともカオスなアイテム

    Comme des Garçons 2023春夏

    Comme des GarçonsのSS23コレクションで発表されたルック16のドレスは、大胆で、立体的だ。しかし、必ずしも称賛を浴びるデザインではない。奇想天外なシルエットはほぼ実用に向かないし、頭上の被り物は早すぎる終わりを嘆いているようだ。ギャザーを寄せたフローラル柄と緩く襞を畳んだブラックのサテンは、ナルシストが覗き込む暗い水溜りと底知れぬブラックホールの両方を連想させる。川久保玲の説明によると、「今日の世界の悲嘆にたいする失望」を表現しているらしい。カオスが君臨する。

    Marniを探せ

    群衆の中でも際立つMarniとCarharttのコラボレーション

    スキンケアの未開の領域

    頭皮トリートメントで髪輝く

    顔にはビタミンC セラムに始まり、レティノル、カッサ。ボディはドライ ブラッシングとボディ オイル。ジュエリーよりBalaのウェイト バングルをつけ、パンチ カードはボロボロになるまでトレイシー・アンダーソン(Tracy Anderson)のワークアウトに参加している。何か忘れていないだろうか? そう、2023年が大切にするのは体のてっぺんだ。

    スキンケアの最後のフロンティアは、あなたの目の前、頭髪の下に隠れている。頭皮ケアを優先し、Sachajuanが特別に調合したスカルプ スクラブで、頭皮の洗浄とマッサージをしよう。同時に潤いもあたえてくれる優れものだ。毛包を刺激して頭髪の成長を促すには、R+CoCrown スカルプ スクラブVirtueエクスフォリエイティング スカルプ トリートメントPhilip B ヘアケアScalp Booster Oil ヘアオイルDr. Barbara SturmSuper Anti-Aging Scalp Serum スカルプ セラムで、一晩たっぷり髪を甘やかすのも良い。手入れを続けた髪は、ピラティスで鍛えた腹筋より頼もしい存在になるだろう

    メンズウェア? ウィメンズウェア? 何でもウェア?

    Simone Rochaはメンズウェア、Bodeはウィメンズウェアをローンチし、Martine Rose とThom Browneはすべての人の服を作る

    2023春夏コレクションで正式にメンズウェアをローンチしたシモーネ・ロシャ(Simone Rocha)は、ショーが終わった後、「私に見えるのは男性か女性かの区別じゃなくて、両極の関係性」と語った。男性ファッションへの進出は、彼女が「ハードコア」の時代へ入りつつあるからだと説明するが、ジェンダーに対するファッション界の進化も反映している。ようやく訪れた変化だ。マーティン・ローズ(Martine Rose)やBodeのエミリー・アダムス・ボーディ・アウジュラといったデザイナーは、ウィメンズウェアとメンズウェアのコレクションを区別せず、あらゆるジェンダーのために服を作る

    フィレンツェで力作を披露した2023秋冬ショーの後で、マーティン・ローズ(Martine Rose)は「日常に興味を感じるし、ありふれた物や毎日の生活で見かけるような人たちの中に美しさが見える」と語っている。その言葉に嘘はない。思い切ったローウエストのジーンズは、あらゆる人のお尻を魅力的に露出する。迫りくる保守主義には、そんなスリルたっぷりのファッションで、セクシーな反旗を掲げる必要があるのだ。

    写真:Davit Giorgadze

    Martine Rose 2023秋冬 写真:Eva Losada

    Thom Browne 2023秋冬 写真:Adam Powell

    着古し感のメッセージ

    燃え尽き症候群に擦り切れたジャケットで応戦する

    Deloitteが千人以上を対象に行った調査によると、いつも疲労を感じている回答した人が77%に上る。ショッピング依存が精神衛生の問題を解決することは未だ証明されていないが、精神状態を映し出す鏡にはなりうる。気分が沈んで外出なんかしなくても、寝室から一歩も出なくても、Miu MiuGivenchyDsquared2Dieselなどの艶のあるレザー ジャケットは「ちょっとそこまで行ってきた」感を放散する。珍しく気分がいいときも、着古し感のあるレザー ジャケットは、スピリチュアルや鍛えた体幹やJuicy Coutureのトラックスーツを飛び越して、根強いY2Kトレンドへの敬意を率直明快に発信する。

    Diesel 2023秋冬

    FIDAN NOVRUZOVA 2023秋冬

    螺旋の行方

    2023年でもっとも美しいデザインのいくつかは、もっともカオスなデザインでもある。つかみどころのないこのレポートを手掛かりに、渦巻きの中で自分の場所を見つけてほしい。

    帝国の終焉

    30年の歴史を築いたRaf Simonsが別れを告げる

    スポットライトを嫌うベルギー人デザイナー、ラフ・シモンズ(Raf Simons)が創立10年後の2005年に語った言葉は、彼のキャリアを端的に表現している。曰く、「私は自分が信じることをやってきた。評価とは何かって? 私にとって、評価とは人々と関係を持つこと。私が作った服を、アメリカのどこかの街で誰かが着ている。それで幸せだ」。それからさらに長い年月を経て、Raf Simonsは謙虚な志をはるかに超えた。そんなブランドの唐突な終了宣言も又、シモンズ独自のビジョンの結晶であるように思える。

    シモンズがブランドを立ち上げたのは1995年のことだ。1989年にパリのとある遊び場で発表されたMartin Margielaのコレクションを観て、天啓とも言える閃きを得たときにキャリアが芽吹いた。1990年代のスリムなスーツ、独創的で不気味な動揺を喚起した2001年の「Riot Riot Riot」コレクション、グラフィックを多用して現代の音楽やアートとファッションを結びつける能力によって、シモンズは刷新を繰り返し、今日のメンズウェアを形作った。そして今、拍手に送られて別れを告げる。Pradaの共同クリエイティブ ディレクターとしての仕事は続けるが、Raf Simonsのコレクションは2023春夏シーズンが最後だ。Raf Simonsを熱愛するフランク・オーシャン(Frank Ocean)の「記憶に残りるデッドストック、俺の大切なとっておきを盗むなよ」という歌詞が心に響く

    水の要素

    両生デザインが海面上昇とセイレーンを表現する

    海は美の果てしない可能性を秘めている。誘惑するニンフ、ギリシャの神々、煌めく鱗、海底に埋もれた宝、虹色の光沢を放つ真珠、色とりどりの魚たち、『Avatar』に出演したクジラ。もしかしたら、人類の次なる生息地になる可能性もある。予想の速度で地球の温暖化が進行すれば、2100年のベニスで水面に浮かんでいるのはゴンドラだけかもしれないのだ。そんな不安に向き合う世界で、BlumarineMaryam Nassir ZadehKNWLSElena Velezなどのブランドはライトブルー、シーグリーン、アクアマリン、ターコイズといった水の色に濡れている。ランウェイにも、人魚のシルエット、アシンメトリーな長い裾、ネット、アンティークなシルバーやゴールドのファウンド オブジェクト ジュエリーが溢れた。SC103のショーではモデルが水を滴らせながら歩いたし、JW AndersonはZiplocの中で金魚が泳いでいるようなドレスを登場させた。好むと好まざるにかかわらず、とにかく水の要素をとり入れよう。

    Botter 2023春夏

    Ferragamo 2023春夏

    JW Anderson 2023春夏

    Di Petsa 2023秋冬 写真:Christina Fragkou

    新たなセクシーゾーン

    ソーシャルメディア上のきわどい写真や思わせぶりなメッセージと同じく、ファッションも、次から次へとこれまでにない体の見せ方を探し出す。もはやアイデアは出尽くしたと思ったところで、再び大胆なデザインが生肌に新奇な表情を与えるのだから、要注意。

    Thom Browneは「クジラの尾びれのようなもの」で視線を吸い寄せる。快感をもたらすフィットは、コンドームではなく、Nensi Dojakaだ。Dilara Findikogluにとって、お尻を見せるのは良い趣味に他ならない。Dion Leeは、惜しみなく乳首を解放する。Ferragamoは、肩、鎖骨、胸に深いくさび形のカットを切り込む。Maryam Nassir Zadehのモノキニは、スイムウェアのラスボスだ。

    Nensi Dojaka 2023秋冬

    Ferragamo 2023春夏

    Dilara Findikoglu 2023秋冬

    Thom Browne 2023春夏

    「ホット」の新パラダイム

    「欲望は自然が人間に与えたものだから、自然に反する欲望がありえるだろうか?」—ミシェル・フーコー(Michel Foucault)

    「最高にセクシーな人」がソーシャルメディアで増殖していく人気ミームのスタイルと区別できない現在、「ホット」が向かう先を辿るのは至難の技だ。欲望は気だるい「ダーク アカデミア」や何とも言えないエモーションを引き起こす#corecoreの仮面をかぶることがあるし、性的な空想を方向付ける人たちのあいだでは、さらに進んだ「corecorecore」がすでに根を下ろし始めているとの噂も耳にする。メディアが私たちにホットな人、ホットなものを教えるのなら、次なる欲望の対象は何か? ゴスではないけどゴス ファッションの、セクシーでロマンチックなパートナーは時代遅れになるのか? おそらく、こんな問いすら野暮なのだろう。消費者分析、ソーシャル メディアのタグおよびコメント、多少仄めかすことはできるが全面的には開示できない情報および知識を統合したSSENSEでは、複雑なマトリクスから「ホットな人」の新たなパラダイムが姿を現しつつある。マシンから浮かび上がる、ホットなゴーストだ。

    Luar 2023秋冬 写真:Adam Powell

    Dilara Findikoglu 2023秋冬 写真:Aleksandra Soroka

    Eckhaus Latta 2023秋冬 写真:Adam Powell

    Ottolinger 2023春夏

    • 翻訳: Yoriko Inoue
    • Date: March 20, 2023