ディラーラ・
フィンディコグルーの
女性革命

トルコ系デザイナーが描く
女性とセンシュアリティの
鋭利な切れ味

  • 文: Steff Yotka
  • 写真: Alex Soroka

髪、心、家族、女性であること…。自分のあらゆる部分を四方八方から圧迫する力を感じたことはないだろうか?

女性が男性支配の世界で生きるとは、そういうことだ。何事もなく過ぎる日もある。穏やかに始まり、トラウマで終わる日もある。すべての女性はその両方を知っているはずだ。

ディラーラ・フィンディコグルー(Dilara Fındıkoğlu)はこの現実を拒絶する。ロンドンで発表した2023秋コレクションは「女性の体を取り戻すために私が踊ってみせた小さな革命ダンス」だと言う。「Not a Man’s Territory — 男性の領分に非ず」と題されたショーは、自分たちの声を上げ、自分のものであるはずの自分自身を主張することで迫害される女性たちに、闘いを呼びかける。

ヒジャブで髪をしっかり覆っていなかったという理由でマフサ・アミニ(Mahsa Amini)が拘束され、3日後に死亡するという痛ましい事件は記憶に新しい。それに端を発してイランで湧きおこった抗議活動から今回のコレクションが生まれた、とフィンディコグルーは説明する。現在までに、抗議に参加した何百人もの人々が治安部隊によって殺害された。公開処刑された人たちもいる。フィンディコグルーは、抗議の意思を示すために「路上で髪を切る女性たちにとても感銘を受けた。とても力強かった」。だから髪を使い、胸の周囲で曲線を描きウエストでキュッと絞ったブラレット トップスやビスチェに編み込んだ。フィンディコグルーは断言する。「女性たちが自分の望むように髪を着るの」

ひとりのモデルは、全身をブラックのショールで覆って現れ、観客の前で脱ぎ捨てて大胆な2ピースを露わにした。別のモデルがキャットウォーク半ばでバターイエローのモヘア スカートを脱いだのは、マリリン・モンロー(Marilyn Monroe)の擬物化に対する反発だ。「あの映画、観たわ」。「あの映画」とは、酷評されたものの2022年度アカデミー賞候補になった『ブロンド』のことだ。「大っ嫌いだった」。またしても、誰かが、知りもしない女性に勝手なストーリーを貼りつけたからだ。

ここは違う。守護聖人ディラーラに導かれて、女性たちは自分の運命を自分の手に握る。ルックにはそれぞれ名前がある。レースのビクトリア朝ビスチェ ドレスにはコルセット手袋が付いており、背中に回った両腕を動かせないから「Innocent Bondage — イノセント ボンデージ」。胸に巻き髪が垂れ下がったメッシュのシャツと腿までスリットの入ったスカートは「Freedom — 自由」。レッドのシアなフードとミニスカートは「National Heroine — 国民的ヒロイン」。ビンテージのビーズとアンティークのファブリックを重ね、『コープス ブライド』のベールみたいなアイボリーのラッフルを引きずるルックは「Whore Star of Heaven — 天国の娼婦スター」。全身を覆ったアンティーク ナイフが小刻みに揺れるブラック ドレスは「Joan’s Knives — ジャンヌのナイフ」

フィンディコグルーはジャンヌ・ダルクを熱く語る。「彼女がセクシーな恰好をしてれば娼婦と呼ばれるし、男の恰好をしたら火炙りにされる。だからジャンヌは、今、自分の体を取り返した。復讐のために戻って来たのよ」

女性の復権に関して、ファッションショーのランウェイがさほど役立つとは思わないかもしれない。だが過去10年で、キャットウォークはギャラリーや劇場や映画やアカデミー賞と同じように、社会問題への取り組みが可能な場になった。パス・デ・ラ・ウエルタ(Paz de la Huerta)が、樹脂加工の花で覆ったスキンカラーのボディス「Typical Flower — 典型的な花」でキャットウォークに現れたことには大きな意味がある。「主要メンバーが全員女性のスリッツ(The Slits)というバンドに『Typical Girls』って歌があるの。私たちは典型的な女じゃないわ。私は女の典型じゃない。第一、典型的な女って何? 意味が分からない」。フィンディコグルーは鼻であしらう。「『Typical Flower』って名前にしたのは、ビクトリア時代でさえ、女性は物、処女、花として見られたから。でも私の『Typical Flower』は違う。典型的な花じゃない」

会場となったチャペルに足を踏み出したデ・ラ・ウエルタはまさにショーの要であり、彼女の出現によってショーは見事に開花した。女優でありモデルであるデ・ラ・ウエルタは、現在も、カリフォルニア州でハーヴェイ・ワインスタイン(Harvey Weinstein)と係争中だ。2度のレイプを主張する彼女は、元大物プロデューサーからのセクハラを申し立てている70人以上の女性たちのひとりだ。彼女のキャリアは権力を持つ男の手で潰された。よくある話かもしれないが、彼女という女性も、彼女から奪われたものも、当たり前ではない。

フィンディコグルーには、コルセットに託した深い悲しみに加えて別の痛みもあった。2週間前、母国のトルコと隣国のシリアが地震に襲われ、4万人を上回る死者が出たからだ。ショーに先立ち、フィンディコグルーはInstagramにステートメントを投稿して、被災者支援の寄付を呼びかけた。

魚座の新月の日、フィンディコグルーは、ビンテージのビクトリア朝ペチコートとレザー ジャケットの出で立ちで舞台裏にいた。色々なところから収集した羽根、不良在庫のモヘア、ビンテージの生地で作った服に、モデルたちが体を入れていく。台の上に立ったアディーナ・フォーリン(Adina Fohlin)の、ブラックのフェザー ドレスの紐を、アシスタントたちが締めていく。シビル・バック(Sibyl Buck)は、セクシーなウォークのために首の運動をしながら、廊下で出番を待っている。ルックの写真を貼り付けたボードの前に立ち、準備を監督しているフィンディコグルーは、ふと本音を漏らす。私と話した後で、「こんな写真をどうネットに上げればいいのか、わからないわ」と静かに呟く。頭にあるのは母国の惨状だ。「やるしかない。そうよね?」

数分後、ショーの最後に登場して観客の拍手に応えたときのフィンディコグルーは、サングラスをかけ、微笑に怖いもの知らずの自信を漂わせていた。

いくつかのタイツで目にした小さい模様について、「レースについてるあれはロゴなの?」と尋ねてみた。

「ノー、ノー、ノー、ノー、ノー」とフィンディコグルーはかぶりを振る。「そんなことは全然気にかけてない。わたしたちはもっとパンクよ」。大胆な反抗精神とアップサイクルが顕著なフィンディコグルーのデザインは、直感に訴える。ロックと浪漫、ビクトリア朝風の油断ならない女狐を同時に感じさせる。それほどにユニークな感性であっても、ブランディングによって私物化する気はない。フィンディコグルーはすべての女性のためにデザインする。

  • 文: Steff Yotka
  • 写真: Alex Soroka
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: February 24, 2023