時代の主役を顔が担う
Gucci、Rick Owens、Chloéが、
次々に表情を変える仮想を現実にする

現在ほど、顔に視線が集まる時代がかつてあっただろうか。ラップトップやスマートフォンに映る家族や友人の顔、マスクをつけた同僚や同級生の顔、気がつくと視線と意識は顔へ向き、マスクの下の素顔が気になることも珍しくない。そこでは、画面やマスクが1枚のフィルターとなって、自分と相手を隔てている。そしてそのフィルターは、ただ顔を隠すだけではなく、逆に顔を見せるツールにもなっている。目や耳や唇のすべてを装い、内なる衝動を大胆に表すことができるのだ。暮らしの変化に伴いスタイルが変わるファッションの歴史に倣うならば、これからの時代の主役は顔が担う。今こそ、顔の装いを通じて、抑制された思いを解き放とう。

画像のアイテム:美顔器(MZ Skin)
うっすらと笑みを浮かべるゴールドマスクは、一切の飾りを排したデザインが、美の究極を探究する姿勢を表したかのようで、ツタンカーメンのマスクがミニマム化した高貴さを思わせる。鏡を目の前にし、自身が理想とする美へ近づいていることを実感できた時に思わずこぼれる笑み。MZ スキンは肌を美しくするだけでは満足しない。肌がすこやかに整えられるその間、黄金の微笑みで時を満たし、未来の姿を叶える。

画像のアイテム:ヘッドバンド(Gucci)
シルバーとグリーンのヘッドバンドからひとつの想像が思い浮かぶ。とある国のプリンセスが1970年代のヒッピースタイルに憧れ、ヘッドバンドを欲するプリンセスは希望を叶えるため、礼装に用いるティアラを周囲に黙って解体し、ヒッピーなバンドを作ってしまう。プリンセスの本質は、同じ1970年代の現象でも、ヒッピーではなくパンクにあった。70年代カルチャーに近未来感を混ぜ、混沌を創造する現在のグッチ。その混沌はティアラにも具現化されている。

画像のアイテム:スノーゴーグル(Yniq)
雪山の頂から黄金の光が見えたなら、スキーヤーはユニックのスノーゴーグルを被っているかもしれない。左へ右へと、雪面を滑らかに颯爽と滑りゆくその姿は淀みなく美しい。スピードは恐れるものではない、快感へ導くものなのだと、冷たく頬を撫でる風が教える。フューチャリスティックなスノーゴーグルは未来への加速を促すかのごとく、黄金は太陽の光を浴び、さらに輝く。加速する先にあるものを目指して。

画像のアイテム:マスク(AREA)
クリスタルカットのビーズが連なりチェーン状に顔を覆うマスクから、ちりばめた宝石のような非現実的な贅沢感と、鼻輪や首輪を連想させる野生味が同時に迫ってくる。銀色の煌めきは、ラグジュアリーなエレガンスだけが唯一の正解ではない。人々に陶酔をもたらすジュエリー王道の美に、エリアはワイルドな荒々しさを加えた。相反する美意識は、関係を断絶するものではなく、両立も可能なのだ。

画像のアイテム:マスク(Rick Owens)
マスクというシンプルなアイテムにも、奇才の一端が覗く。なぜこの黒いマスクは、こんなにも長く広がっているのか。食事の際に汚れを防ぐため、このような形状なのか。だが、これはマスクであり、食事をするならば外さなくてはならない。いや、食べながらの着用も可能なのか。ここにリック オウエンスの真骨頂がある。意味がないと思えるものに意味のない思索を巡らす時間が、心地よく愛おしい。

画像のアイテム:サングラス(Chloé)
顔に教会を飾り立てたいと思うことはないだろうか。何を言っているのだ、そんな気持ちになるはずがないと思っても、一度このサングラスを掛けた横顔を眺めて欲しい。平面であるはずのレンズが立体的に見え始め、ゴールドとオレンジの並列が、ステンドグラスのように荘厳な美しさを目元に添える。クロエが織りなす幻想に魅せられたあなたは、歴史的建築物のエレガンスをきっと顔に飾りたくなる。
新井茂晃は神奈川のテキスト デザイナー。2016年より「ファッションを読む」をコンセプトに、ファッションデザインの言語化を試みる『AFFECTUS』を主宰し、『TOKION』でも記事を執筆している
- Date: January 10, 2022
- 文: Shigeaki Arai

