オリーブグリーン観察

Maison Margiela、Olēnich、rag & boneが
色で語る

    色は、視覚的な印象を通して人の心理に大きな作用を及ぼす。白いシャツを着ると、引き締まる緊張感で爽やかな気分になり、黒いソファに身を委ねれば、小休止にラグジュアリーな寛ぎを覚える。ではオリーブグリーンはどんなイメージだろうか? ミリタリー? アウトドア? それともディナーを飾る前菜だろうか? ここに登場する6つのアイテムは、すべてオリーブグリーンが主役だ。現代の暮らしに欠かせないアイテムの中で、この深みと渋みを備えた色がどんな役割を果たしているのか、読み解こう。

    画像のアイテム:ブーツ(rag & bone)

    サステナビリティが問われる今、ラグ&ボーンはリサイクルストレッチ素材を使用したコンバットブーツで、時代の課題に応えた。色は、発色に優れた鮮やかなグリーンではなく、滑らかで落ち着いたトーンのグリーンが使われている。サステナビリティへの取り組みは困難を伴うが、問題を避けるのではなく、挑むことで解決に近づく。アッパーを覆うグリーンの渋さと滑らかさは、現在の困難と未来への希望なのだ。

    モデル着用アイテム:コート(Maison Margiela)

    ダブルのロングコートといえば、上質な黒いウールで仕立てるのが王道だ。だが、メゾン マルジェラは、常識、伝統、王道、それらを捻り、壊し、服の美を問いかける。裾から上に向かって侵食していくキルティングは、表地と裏地の間で生物が蠢くような躍動感を示し、オリーブカラーのタフタ素材は、姿を見せない生物たちの行進を不気味に表す燻んだ緑の大地となった。

    ボトル越しに眺めるグリーンは、生い茂った深い森林というよりも、もっと現代人の生活に近い自然をイメージさせる。例えるなら都心部に所在する大きな公園であり、東京で言うならば新宿御苑のように再開発が常に進む都市の中で、癒しと安らぎが感じられる場である。少し足を伸ばせば体験できる自然は、忙しなさが迫る現代人には貴重だ。手摘みのオリーブオイルとホホバ油を配合したグリーンは、主張を抑えた控えめな色調で、本来なら存在を訴えるはずのブランドロゴはボトルに溶け込むようにデザインされ、目からも優しさが伝わる。タタ ハーバーのモイスチャライザーがあれば、足を伸ばす代わりに手を伸ばすことで、現代の潤いに浸れる。

    画像のアイテム:ウォレット (Saint Laurent)

    サンローランの歴史において、まず思い浮かべる色は黒だ。1970年代に発表された黒のスモーキングルックは、妖艶な美しさとアンドロジナスな魅力を備え、ファッション史に変革をもたらした。だが、1960年代のサファリルックをはじめ、ミリタリーやスポーツウェアもサンローランを語る上で忘れてはならない要素だろう。黄金のロゴとグリーンのカーフスキンが組み合わされたこの財布は、メゾンが誇るもう一つの歴史を色で語っている。

    モデル着用アイテム:トラウザーズ(Olēnich)

    長い年月を経たスタイルは、進行した時代の価値観と齟齬を起こした時に、古いと形容される。だが、かつての美しさを現代のバランスに整え、古さをノスタルジーに転換することで、過ぎ去った時間を掬い上げることもできる。それがOlēnichのエレガンスだ。フェイクレザーを使ったパンツは、ややフレアにも見えるストレートシルエットとハイライズに1970年代の面影を匂わせ、ダークオリーブが、熟成の味のごとく洗練された渋みを演出する。

    モデル着用アイテム:スノーパンツ(The North Face Kids)

    白い雪が舞うなか、迷彩を着た子供たちが笑顔ではしゃぐ姿を想像するだけで、笑みがこぼれる。防水性に優れたサテン、テープとエレメントが露わになったフロントジッパー、バックパックを思わすショルダーストラップには、アウトドアウェアのリアルがキッズウェアに宿り、ノースフェイス キッズのオーセンティシティーは年齢を超えていく。ベージュ&グリーンの本格迷彩は、このスノーパンツの始まりに過ぎない。

    新井茂晃は神奈川のテキスト デザイナー。2016年より「ファッションを読む」をコンセプトに、ファッションデザインの言語化を試みる『AFFECTUS』を主宰し、『TOKION』でも記事を執筆している

    • 文: Shigeaki Arai
    • Date: November 26, 2021