語り出す小さなバッグたち
Arc’teryx System_A、
EDEN Power Corp、
Sophia Websterを
見る、考える、感じる

バッグは、スタイリングの一部として語られることが多い。着る服の色やシルエットに合わせ、バッグの色や形、サイズを決めることも珍しくない。とりわけ、クラッチバッグやポーチといったコンパクトなバッグとなれば、いっそうアクセサリーとしての役割が増していく。そこに疑問が生じる。バッグそのものの魅力、価値、意味について、もっと語られてもいいのではないか。ここに登場する小さなバッグたちは、そんな疑問への回答を示してくれた。

画像のアイテム:バッグ(ARC'TERYX System A)
己の手と足で岩壁を登るクライミングには、滑り止めのチョークを保管するチョークバッグが欠かせない。都市生活においても、スマートフォンのように、次々に生じる問題を解決し、持っていなければ不安になる持ち物がある。Arc’teryx System_Aは、クライミングに必須のバッグをシティバッグへと転換した。ドローコードを緩め、現代生活に必須のアイテムを取り出し、ビルの谷間を黄金に輝くアークテリクスの始祖鳥と共に歩こう。

画像のアイテム:クラッチ(Sophia Webster)
唐突な蝶のアップリケ。バッグ本体がシンプルな形だけに、余計に奇妙だ。だが、このクラッチバッグを手に持ち、街中を歩く姿を想像した時、自然と笑みがこぼれる。そこには、シリアスなユーモアと呼びたい感覚が芽生えている。ユーモアとは、カラフルな色やポップな柄の専売特許ではない。シリアスなモチーフでユーモアが表現できることを、ソフィア ウェブスターは証明した。

画像のアイテム:シガレット ケース(Lemaire)
「バッグはモノを入れて持ち歩くだけのものだろうか」と、ルメールはシガレットケースで問いかける。漆黒の渋い輝きと、最小限の曲線を備えたフォルムは、レザーで作られた彫刻のような存在感を放つ。タバコを入れて首に掛けるのが、このケース本来の使い方だろう。しかし、この革の彫刻は、ソファに座り、手に持って黒い造形美を眺めていたい気分にさせる。鑑賞する楽しみが、このシガレットケースにはある。

画像のアイテム:クラッチ(Mame Kurogouchi)
そこに存在するのは確かだが、それが何かはよくわからない。言葉通りの意味で、存在が透けているクラッチバッグをよく見てみると、表面を何かが覆い尽くしていることに気づく。アールヌーボーな植物モチーフの美しい連なりが見えてくる。無色透明のバッグに、無色透明の装飾を施されている。マメ クロゴウチは、繊細な装飾を見えなくすることで、クラッチバッグの存在感を心と脳に刻む。

画像のアイテム:バッグ(EDEN power corp)
スローな気分に浸りたくならないか? エデンパワーコープのメッセンジャーバッグが、荒々しくも素朴なテキスタイルとクラフトの技が冴えるかぎ針編みで見せるのは、草葉が茂り、花咲く野原の風景だ。瞳に優しく映るベージュは、心を穏やかにする。ショルダーストラップの長さは、子供が大人サイズのバッグを肩から掛けるようで微笑ましい。メッセンジャーバッグは、幼き日々の牧歌的記憶を届け、時をゆったりと刻む。

画像のアイテム:クラッチ(Alexander McQueen)
見た瞬間すぐに、贅沢の凝縮という言葉が思い浮かぶ圧巻のエレガンス。クラッチバッグの表面をアシンメトリーに覆い尽くすビーズとシークインに、クリノリンスカートが全盛を極めた19世紀のヨーロッパのエレガンスが見え隠れする。装飾性が誇りだった過去を、アレキサンダー マックイーンは現代に呼び戻す。このクラッチバッグを持つ手は、人々から視線と関心を奪う美しい作品となるだろう。
新井茂晃は神奈川のテキスト デザイナー。2016年より「ファッションを読む」をコンセプトに、ファッションデザインの言語化を試みる『AFFECTUS』を主宰し、『TOKION』でも記事を執筆している
- 文: Shigeaki Arai
- Date: November 15, 2021

