シャツを着て、
激る心を着る

Lu’u Dan、Rick Owens、Sulvamが
露わにする人間の内側

    シャツは、世界中で愛されるファッション随一の王道アイテムだ。ワードローブ必須のアイテムとして、多くの人々が所有しているだろう。1枚で様々な表情を見せるシャツ。ボタンのすべてを留めて首元を引き締めれば、その姿には凛々しさが表れ、ボタンをすべて開けて羽織れば、軽やかで自由な装いが顔を覗かせる。誰もが複数のSNSを使い分け、各々のSNSに応じた個性を表現する現代、Instagramの私と、Twitterの私は違う。ひとりの人間がいくつもの個性を形にして世界へ発信する世界を、シャツは投影する。6つのブランドが、定番アイテムの秘めた可能性を解き放つ。

    モデル着用アイテム:シャツ(KIM SHUI)

    一瞬、不気味なオレンジの迫力に目を奪われるが、このシャツが持つ真価はシルエットにある。ストリートの出現以降、ボリューミーなシルエットが主流だが、ビッグシルエットだけが世界唯一の正解ではない。コンパクトな肩幅に急激なウエストシェイプは、体の線を曖昧に見せるのではなく、体そのものの魅力を露わにする。キム シュイはSSENSEと手を組み、現代ファッションのコンテクストにカウンターを仕掛ける。

    モデル着用アイテム:シャツ(LU'U DAN)

    Kwaidan Editions(カイダン エディションズ)のハン・ラーが、自らのビジョンを先鋭化させるために設立した新ブランドLU’U DAN(ルー ダン)。かつてのクチュリエたちは、パリで次々に発表したドレスでファッションの規範となる美を創造し、伝説となった。今、新たなエレガンスは、アジアから生まれている。激る精神が濃厚濃縮された人間たちの、熱帯的で湿度の高い生き様。アジアにルーツを持つハン・ラーは、自身の新たな物語を綴り始める。LU’U DANのアニマル プリントのシャツは、獰猛な精神を全身に宿している。生き方にレッテルを貼ってくれるな。
    クレイジーだと人から思われても、強烈な服を無性に着たくなる瞬間がある。後になって振り返れば、恥ずかしさに頭を抱えることもあるが、未来の気分など今は関係ない。獰猛な精神が全身にあふれるLU’U DANのシャツが体現するファッションの歓喜。すれ違う人々すべてを振り返らせるのだ。

    モデル着用アイテム:シャツ(GANNI)

    シャツの王道である白いシャツに、変化を望む人もいるだろう。その希望を、デンマーク発のガンニが叶える。マリンルックのセーラーカラーを思わす襟が身頃と一体化し、さらに着丈の短さが相乗効果となり、ピュアなシャツはより清廉に、そのイメージは少女的領域にまで届くものとなった。だが、単なるガーリーには終わらない。胸元を深くえぐるVネックが色気を添え、少女は唇の端に笑みを浮かべ、こちらを見つめる。

    モデル着用アイテム:シャツ(Rick Owens)

    リック オウエンスが和を醸す。シャツの襟と前立てのデザインは、柔道の道着や茶道の着物、生地を染める渋いイエローは、日本の食卓に刺激を与えてきた和がらしを連想させる。近年のリック オウエンスは、他の惑星から地球に来訪した生物たちのためのファッションと呼べるようなコレクションを発表し、奇想な価値観を発表している。その姿勢は異空間にとどまらず、世界の東西も跳躍する。

    モデル着用アイテム:シャツ(Paloma Wool)

    パロマウールは、スレンダーシルエットとサイケデリックなグラフィックで、1970年代のカルチャーを呼び起こす。アメリカと旧ソ連による激しい宇宙開発が世界中から注目され、フューチャリズムが中心となった60年代への反動から、70年代はフォークロアやヒッピーなど自然への回帰が起こり、人々はユートピアを夢見た。テクノロジーが時代の中心にある今、再び自然への回帰が起きるだろうか。シャツが未来への示唆を滲ませる。

    モデル着用アイテム:シャツ(Sulvam)

    サルバムのデザイナー藤田哲平は、生地のほつれや衣服の表側に晒した縫い代で、荒々しさと刹那を表現する。この半袖シャツにも、藤田の攻撃的かつ繊細な精神が透けて見える。全面にプリントされた大ぶりの鎖に、肌を透かせるシアーな生地が、何本もの頑丈な鎖を纏う人間を想像させる。一方で、透けるクレープ素材で頑強な鎖は存在感を弱められ、拘束の力は減退していく。どんな人間も、どんな価値観も、サルバムを縛れはしない。

    新井茂晃は神奈川のテキスト デザイナー。2016年より「ファッションを読む」をコンセプトに、ファッションデザインの言語化を試みる『AFFECTUS』を主宰し、『TOKION』でも記事を執筆している

    • 文: Shigeaki Arai
    • Date: January 28, 2022