マイケル3世式
悶々と思い悩む術

思案に暮れることは精神状態ではなく、ひとつのスタイルである

    きゃっきゃっと騒ぐチンパンジーがいっぱいの部屋に入れられたとしても、オレはニコリともしない。そして、オレはピエロに面と向かって、おどけるのを止めるように言う最初の人間になるはずだ。土星の影響を受ける気質のせいで、「気難しい」面を持つオレは、その証拠に、土星までぶっ飛んで帰ってきてもお釣りがくるくらい、徹底的に偏屈になれる。要するにね、写真家先生。君が求めているのが悶々と思い悩む姿なら、オレがそれを提供できるということだ。それ以外に何をしていろと? 今この瞬間を生きる? バラの香りを嗅ぐ? パトリック・デマルシェリエ(Patrick Demarchelier)のために微笑む? 君はそんなのを求めているのではないんだろう? 写真家先生、嘘じゃない。君の望むあらゆる方法で、オレは微笑まずにいられる。本当だ。

    オレが求めるものなど、ほとんどない。君のためにカメラの前に立つチャンスが欲しいだけだ。大した理由のない感情の闇。それをオレはよく知っている。この魅力的な状態を表現する機会が欲しいだけなんだ。写真家先生、それって大した要求じゃないだろ?

    オレはここでじっと立っているから、君はその間に写真を撮るといい。その間に、ちょっと話をしよう。肩越しにも、肘の下からも、あるいは脚を空中にあげた状態でも、オレは考え込むことができるとわかるはずだ。屋内であれ、屋外であれ、今シーズンであれ来シーズンであれ、プリント版であれデジタル版であれ、ランウェイをぶらぶらと歩くのであれ、エヴァネッセンス(Evanescence)のミュージック ビデオの中であれ、オレは物思いに沈むことができる。

    スタイリストには、ベージュでも、タータン チェックでもギンガム チェックでも、物思いに耽ることができると伝えてくれ。ウェディング ドレスを着たオレは、「なんと美しい、物憂げな花嫁でしょう」という言い回しに、新たな意味を与える。本当だ。機会さえあれば、ニットや、性的コンテンツが禁止される前のTumblrで見られたような、メランコリックなパステル ピンクをした艶やかなフェイクファー ジャケットを着て、オレの守備範囲の広さを証明することもできる。薄紫色に包まれて、君のためだけにどんよりしてあげてもいいし、バラ色のジャケットを着て、妙によそよそしい態度を取るのもいいだろう。イブニング ドレスを着れば、合図ひとつで、行くあてもないのに完璧にドレスアップしてがっかりしたときの表情もできる。

    ドレス ダウンが君の目指すスタイルなら、それだってオレにはできる。田舎へ下るもよし、下町に行くもよし、川を下るもよし。一人天下、このオレがあらゆる状況に対応できるのは君も知る通り。デニムを履いたオレが、どれほど不愉快な顔をしているかを見るのは、さぞかし愉快だろう。ブルー ジーンズと呼ばれるだけのことはある。ところで写真家先生、君はテネシー・ウィリアムズ(Tennessee Williams)は好きかい? オレなら、目に涙を浮かべた観客のために物憂げな表情だってできる。オレはシャツを剥ぎ取り、名演技で君の心をズタズタにしてみせよう。「でもね、パパ!」オレはデニムにデニムを合わせた、全身デニムスタイルで叫ぶ。「私は、この街から出て行かなきゃならないの — 行かなきゃならないのよ! ここに私が求めるものは何もない。これからだって、決して見つからないわ! 私には誰も愛せない。自分のことですら愛せないの」とね。ご希望であれば、ここからさほど遠くないところに、撮影にうってつけの納屋の扉があるよ。

    写真家先生、君の前で考え込んで見せるためなら、オレは何だって犠牲にするよ。そう。ファッションの名において、吸血鬼になることすら考えている。繰り返される人類の愚行をずっと見てきた吸血鬼たち。闇に包まれたその陰鬱さをお望みなら、もちろん、オレは彼らのような不機嫌な顔をしてあげられる。今日のトップ記事を読んで、実は、もうそんな顔になっているんだけどね。オレは影のような色をした柔らかな生地を身に纏うだろう。それは、先の尖ったピンや、歯や、木の柱に当たっても、裂けることも破れることもない。ただし、この撮影は夜間限定だ。もちろん、キスマークをつけたり、聖水に浸かたりするささいな楽しみは諦めることになるだろうが、これも写真家先生と仕事をするための、ちょっとした代償だ。それにダサい格好の吸血鬼なんて見たことあるかい? 彼らは実際、ドレスアップして殺しにかかってくる。でもご心配なく。オレは写真家先生に噛みつきはしないよ。

    オレにライバルなど存在しない。まわりを見てくれ。壁にもたれかかり、やる気ゼロの彼らが、パーティーで起きている出来事を十分に観察していたことなど、これまであっただろうか。苦い顔をして、きっかり1分と47秒間、瞬きをせずにいたことなどあっただろうか。一体どこに、他人の手を借りずに、寝室を「ブドワール」に変えた人がいただろうか。アンティークな書き物机や、気を失ったときに倒れ込むための長椅子、ひゅうひゅうと風の吹きす廊下、鐘楼、予備の足枷、そして簡易キッチンのあるスイスの古城 の購入を検討したことがあるだろうか。彼らは月にラブレターを書いたことがあるだろうか。この程度のこと、オレなら想定の範囲内だ。

    君のために木の上で考えあぐねてみせてもいいんだよ、写真家先生。自然の中のオレは自然体だ。もう少し高いところまで登るから、ちょっと手伝ってくれ。そうすれば、もっといいアングルで撮れる。ここなら十分に意気消沈して見えるかな? オレのタレ目は十分に落ち込んでいるだろうか? 気の滅入るようなオレの考え方は、十分オシャレかな? 今ちょうど、ボーイフレンドがオレと別れたような振る舞いを(3回も)見せたくせに、実は浮気を「していなかった」と判明したときのことを思い出しているところだ。セルフ精算レジの煩雑さと、時間を割いてそれを使おうとする人々の剛勇さも。それから、「ゴシップガール」の正体が誰かわかったときのことを思い起こしている。写真家先生、こんなところでどうだろう?

    このドレスを着てヒッチコックの映画の乙女を演じるオレはどう思う? ハトに襲われて羽で顔をビンタされたところや、シャワーを怖がっているところなんか、どうだろうか。ケーリー・グラント(Cary Grant)に宝石を盗まれてしまったところも、いいかもしれない。まあ、ケーリー・グラントを呼ぶほどの予算はないかもしれないけれど、続きを聞いて。いや、わかったよ、写真家先生、オレのアドバイスは気にしなくていい。ただの提案だから。確かに、度を越した発言だった。思うに、1日中こんな感じでモデルをやり続けるしかないんだろ。この現場のやり方を決めるうえで、オレに口を挟む余地なんかないんだ。で、一体全体、担当者は誰なんだい? 写真家先生、これまでオレについて聞いたことは? オレ、マイケル3世だよ?

    そもそも、最初から君の手を借りる必要など、なかったのかもしれない。オレのポートフォリオは、トルストイが『指輪物語』を読み、ラナ・デル・レイ(Lana Del Rey)の音楽を聴くがごとく、それ自体がひとつの作品なんだ。主婦必携の『Better Homes & Gardens』誌の379ページをめくれば、暖炉のかたわらで惨めに過ごすオレの姿が見られる。あまりにも長時間いたせいでブリーフが焦げてしまったくらい。『ナショナル ジオグラフィック』誌の1253ページでは、オレはロッキー山脈よりもっと険しい顔をしている。そしてオレのiPhoneには、オレが思案に暮れている証拠の写真がきっかり1万3002枚あって、「セルフィー」と名前のついたフォルダーの中にきちんとしまいこまれている。だから、オレに君は不要なんだ。

    さあ、いくらでも気に入ったモデルを選ぶといい。そして基準に達していない奴をみんな切ったら、写真家先生、君が最初から選ぶべきだったモデルが、ピアノのところで待っているよ。連弾をして最悪の気分になるの準備はできてる。お誘い、どうもありがとう。そんなに驚いた顔しないで。思案げな音楽家を演じることもできるという話はしたはずだ。失恋を歌った歌にオレは燃えると言わなかったっけ? 君も知っての通り、オレは控えめなタイプなんで、言わなかったのかも。

    もっと別な感じを求めているのなら、そう言ってくれていいんだよ。あまりゴチャゴチャ言わなそうな感じ、とか。「もっと違った作風」とか。オレは全然かまわない。ひとこと言ってくれさえすれば、オレはひとりピアノの前に座り、気分転換に自分で作曲して、もう口出しはしない。つい先日も、「気候変動 — どうしてオレがこんな目に?」っていう曲を書いたところだ。ぜひ聴いてほしい。最高傑作だから。アメリカのスタンダード ナンバーの物憂げな名曲集に載っていてもいいくらいだ。そうなると、もしかすると、オレが君の写真をとることになるのかな! 作詞作曲の黄金時代が過ぎてさえいなければなぁ。白銀時代の一部だったとしても構わない。白銀時代、あれは本物だから。でも、実際のオレは青銅時代のソングライターだ。あの感じだけは、本当に好きになれない。ああ写真家先生、オレのことは心配しないで。歌い続けるから。

    とはいえ、写真家先生。君がオレを選ばないと言うなら、オレは何をするかわからない。さあ、その言葉を口に出して言ってくれ。そしてその掴んだ手を放してオレを解放してくれ。オレにはもっと有効な時間の使い道があると思わないかい? 家に帰って、クマかウサギかオニカマスと戯れるとか。ペットたちはいつだってオレのそばにいてくれる。その点、ぜひとも一緒に仕事したいと言いながら、最終的にはもっと若い子や、もっとパニクった表情の子を選ぶ写真家たちとは、ペットは全然違う。それがこの業界の問題さ。君たちは、どうして目の前の人間がふさぎこんでいるか、決してわからないんだ。オレは、ファッションがオレたちに本物だと信じ込ませようとしている、しかめっ面をしたファンタジーそのものだ。それなのにまだ、他のモデルに引けを取っているときた。10着もの衣装変えを交えた独白をまとめるのがどれほど大変か、君はわかってる? このために、どれほどのメイクを試さなければならなかったか、このパンツだけでどれほどお金がかかったか、考えたことあるかい? 写真家先生、君は本当にひどい人だ!

    このポーズのままだって? 本当に? これがいいの? まあ、確かに、写真家先生、やっぱりオレは君を本当に嫌いになったりはできない。君が戻ってくることは、オレにはずっとわかっていたんだ。わかった、わかった、黙ってポーズをとるよ。全然、問題ない。君がこれまで一緒に仕事した中でも、いちばん口数の少ないモデルになる。オレがいつ部屋に入ってきたのかすら、わからないくらいに。コミュニケーションはボディー ランゲージで行い、ランチに何を食べたいかは携帯メッセージで送ろう。でもご心配なく。本当に言いたいことがあるときは、ここに立って、体を揺らすから。オレにはテレパシーの能力があるかもしれないっていう話はしたっけ? 以前コマーシャルで見たんだけど、そこで…、あ、そうだね、沈黙、沈黙。これなら君が後悔することは絶対にないだろう。いや、オレはニヤけてなんかないよ。ニヤけてないってば! こんなときにオレが笑うとでも? 目にゴミが入っただけだって。本当だよ、写真家先生。本当だってば!

    Michael the IIIはライター、モデル、フォトグラファー、ソングライター、マイホーム オーナー、ハグ専門家。『Gayletter』、『Document Journal』、『THEFINEPRINT』など多数に執筆を行う

    • 写真: Michael the III
    • 文: Michael the III
    • モデル: Michael the III
    • スタイリング: Michael the III
    • ヘア&メイクアップ: Michael the III
    • 不満感: Michael the III
    • セットデザイン: Michael the III