Raga Malakは
ファミリー ビジネス
デザイナー デュオが「西洋ではアラブ過ぎ 東洋では西洋過ぎ」なブランドを語る
- インタビュー: Alek Rose
- 写真: Gadir Rajab

ガディール・ラジャブ(Gadir Rajab)とラクエル・サバ(Raquelle Saba)は、大きなダイニング テーブルに隣り合わせで座っている。話すと互いの肩が触れるほどの近さが、紛れもなく、ふたりの関係、そしてふたりが立ち上げたブランドと彼ら自身との緊密な関係を象徴している。Raga Malakは2019年にレバノンのベイルートで誕生したが、218人が命を落とし、およそ30万人が家を失った2020年のベイルート港爆発事故のあと、ふたりが生まれ育ったオーストラリアのメルボルンへ拠点を移した。「僕たちはベイルートでコンテンツを作っていくつもりだったけど、コロナが始まって、爆発事故があって、おまけに政府の腐敗もあったから」とラジャブは説明する。
想定外の障害だったが、ラジャブとサバはコロナによる2年間のロックダウンを、サンプルを完成させて将来の方向性を練ることに費やした。「メルボルンのロックダウンはすごく厳しくて、それが2年以上続いたの。世界で一番厳格に封鎖された街だと思う。だから私たちはその時期を利用して、ずっと仕事を続けて…」と語るサバの声が小さくなると、ラジャブが話を引き継ぐ。「サンプル作りに時間をかけたんだ。僕は典型的な双子座だから、ひとつの場所に2年間閉じ込められるのは、ある意味で理想の状況だったよ」。対話の途中で、ふたりはごく自然に言葉を挟む。話の腰を折るのではなく、相手の言いたいことを完結して次の話題へ繋ぐから、体験談と説明とジョークが淀みなく続いていく。そんな家族同然の強い絆こそ、Raga Malakというブランドの核心だ。

画像のアイテム:ワンピース(Raga Malak)、フーディ(Raga Malak)、ジャンプスーツ(Raga Malak)、Tシャツ(Raga Malak)冒頭の画像のアイテム:ワンピース(Raga Malak)
「西洋ではアラブ過ぎ、東洋では西洋過ぎ」というキャッチフレーズを掲げるRaga Malakの初コレクションは、レバノン人の両親のもとで成長したラジャブとサバの体験を物語っていた。同時に、国際法からKiko Kostadinovのクリエイティブ ディレクション、YEEZYのデザインまで、ふたりの幅広い経歴を反映し、あくまで実際に着られるデザインに根差し、バズる接点を結びつけてTikTok視聴者やセレブたちの関心をそそった。代表的なスタイルは、2000年代の過剰な美学を取り込んだトラッカーキャップや極小のビキニ、オーバーサイズのフーディ。しかし大切なのは、大胆なグラフィックやダメージ加工に、中東人の両親に育てられた体験を絶妙に盛り込んでいることだ。異なるカルチャーを合わせたこの巧妙なバランスに、アイス・スパイス(Ice Spice)、ドージャ・キャット(Doja Cat)、ローデス・レオン(Lourdes Leon)、アディソン・レイ(Addison Rae)、その他多くのセレブが魅せられた。わずか1年前に最初のコレクションを発表しただけのブランドとしては、信じられないほどの快挙だ。
もっと信じられないのは、あれよあれよという間にスポットライトを浴びたRaga Malakの小ぶりな運営方法だ。YEEZYの仕事を続けているラジャブはロサンゼルスとメルボルンを絶えず往復するので、時差とスケジュールの都合で、Raga Malakのスタジオは今現在も全面的にリモートワークが基盤だ。2名のアシスタントを除けば、スタッフも厳密に家族だけ。「僕たちの家族はすごく協力的なんだ。ふたりとも実家暮らしだよ」と言うラジャブの言葉にサバの言葉が重なる。「私の父もブランドを手伝ってくれてるし、妹もそう。すごく『家庭的』なバイブスなの」
僕の質問に対する答えがふたりの間で飛び交い、ふたりの肩がぶつかり合う。同じようにブラックを着ているふたりの、どこまでがサバでどこからがラジャブなのか、わからなくなる。

画像のアイテム:シャツ(Raga Malak)、スカート(Raga Malak)
アレック・ローズ(Alek Rose)
ガディール・ラジャブ(Gadir Rajab)、ラクエル・サバ(Raquelle Saba)
まず最初に、ふたりはどうやって知り合って親友になったの?
サバ(以下、S):フェスティバルで会ったのよ。私がガディールのところへ行って、「あなた、すごくホットね」って言ったの。
ラジャブ(以下、R):実のところ、それ、僕は覚えてないんだ。フェスティバルで頭に血が上ってたから。
S:私は元々ガディールの兄弟と友達だったんだけど、すぐにガディールと意気投合してね。ほかのファッションブランドで一緒に仕事をしたこともある。いつも最高にウマが合って、何をやっても楽しいの。それにふたりともレバノン系だから、文化の共通項もあるわ。
R:そう。家族みたいな感じ。ラクエルのお母さんが僕にソックスを買ってくれたりする。
Raga Malakは、最初、ベイルートで立ち上げたの?
S:そうよ。実は私、国際法が専門だから、ベイルートでビジネスを始めるつもりで、2019年にオーストラリアからベイルートへ移ってたの。国外で暮らすレバノンの人々に貢献したいと思ってた。そしたらガディールが「僕も仲間に入るよ。一緒にやろう」って。だけどレバノンはメチャクチャな経済危機で、残念ながら、そんな状況の国に投資するのは合理的じゃなかった。暴動や抗議運動もあったしね。
R:おまけにコロナに爆発事故だろ。政治も腐敗していた。どうしようもないから、オーストラリアへ帰ることにした。
ベイルートからオーストラリアへ戻ったことが、デザインのやり方やブランドに対する考え方に影響を与えたと思う?
S:そう思う。あれからもうずいぶん時間が経つから、もちろん変化も成長もあったし、ずっと長い間、何かに集中してると、なんて言うか、多少は気が済んじゃう部分もある。
R:うん。2019年の僕らの焦点と今の焦点はすごく違う。デザインをやり始めてもう3年だから、新しいコレクションは、今現在僕たちが好きなものがもっと前面に押し出されてる。そもそもブランドを作ろうと思いついたのは…僕の家族が暮らしてたメルボルンの郊外にはいろんなアラブ系の地域があってね、意図的ではないにせよ、ファッションにアイロニーがあった。おまけにレバノンへ帰ると、ロゴだらけ。Gucciのスペルは間違ってるし、カットもミックス&マッチも、何もかもやり過ぎなんだ。
S:そうなの。アラブの人たちはスーパーへ買い物に行くにも、好きなドレスを着てお洒落する。カジュアルで地味な服装には興味がないの。
R:それにオーストラリアは、世界からすごく切り離されてる。ファッションの影響がここでは全然違うし、細かいサブジャンルやサブカルチャーがたくさんあって、何もかもが一緒くたって感じ。
オーストラリアの中東移民として成長するのは、どんな体験だった?
S:私たちの両親はレバノン内戦を逃れてオーストラリアへ移住した世代だから、トラウマをたくさん抱えてるし、当然、子ども達もそのトラウマを感じながら大きくなる。でも、メンタルヘルスはきちんと対処されてないと思う。だから子ども達は一種ハイブリッドなアイデンティティを持つようになる。なのに、親には「あなたはオーストラリア人じゃないんだから」なんて言われたりするわけ。結局、その場その場でアイデンディディが入れ替わるのよ。ガディールと私はかなり西洋化されてる面もあるけど、ふたりとも、中東の子ども達を閉じ込める境界線を打破したところはあるわ。
R:うん。僕の両親もオーストラリアへ移住したんだ。姉はレバノン生まれだけど、僕はこっち生まれ。12歳まで公営住宅に住んでたし、6歳頃までまともな英語は話せなかった。小学校に上がるまで英語が話せなかったんだよ。すごく中東色の強い環境で育って、友達も中国人やソマリア人やスーダン人ばっかり。そういうカルチャーの中で育って、僕にはそれが当たり前だった。
S:私が育った環境は全然違うの。両親は英語圏の出身じゃなかったけど、私は白人が大多数の地域で育ったから、周囲とはいつもすごく違ってたわ。近くに移民の家族はいなくて、郊外へ行かなきゃアラブ人の子どもには会えなかった。
R:君に初めて会った時のことを覚えてるよ。アラブ人なのに、僕が知ってるアラブ人の女の子たちとは違う印象で、すごく驚いた。ラクエルと僕は、中東のルーツとカルチャーから受けた影響を表現するし、レバノンやベイルートのクリエイティブな人たちを表舞台へ連れ出したいと思ってる。
S:レバノンの創造力あふれる人たちにしても、中東のクリエイターにしても、世界の目につかないのよ。ポップカルチャーの世界でさえ、ほとんど見かけない。アラブ人は、「アラジン」みたいな東洋風のステレオタイプで見られるか、無視されるか、どちらかの気がする。だから、アラブの若者たちのためにも、現実のアラブ人を表現できるのはすごく嬉しい。

画像のアイテム:Tシャツ(Raga Malak)、スカート(Raga Malak)

画像のアイテム:ビキニ(Raga Malak)

画像のアイテム:フーディ(Raga Malak)、スカート(Raga Malak)

画像のアイテム:シャツ(Raga Malak)
チームとして、ふたりはどう作業するの? コレクションはどこから手をつける?
R:僕は重度のADHDなんだ。ラクエルのほうがはるかにしっかりしてて、何事もすごくうまくまとめてくれる。仕事にはそれぞれの長所を活かすけど、お互いにすごく協力的だよ。僕らはまだコレクションをひとつしか作ってないし、それにもかなり時間がかかったのは、まだ自分たちのリズムをつかもうとしてた時期で、実際に作業しながら理解していくプロセスだったから。
S:そこがガディールの本当に素晴らしいところだと思う。手に余るようなプロジェクトに手をつけて、見事にやり遂げるんだもの。「君と僕のふたりで、このデカイ仕事をやろう」って言い始めて、本当にやってしまう。すごく刺激を受けるし、ガディールのそういうところが大好き。
R:僕みたいなのがふたりだったら、ビジネスは1週間でおじゃんだったと思うよ。
S:家族みたいな関係なのもいいの。居心地がよくて、思いやりがあって。何か問題が起こっても、全然平気。
R:きょうだいみたいだから。何かにむかついても、落ち込んでも、次の日になったらいつもどおり。
デザインが完成したな」っていうのは、どういう具合にわかるの?
R:僕たちの場合、作りたいものと最終的な形がかなりはっきりわかってるから、そうなった時点ですぐにわかる。
S:そう。すごくよく売れたZidaセットなんか、手に入れた生地を(モデルに)着せかけて、ピンで仮り留めしただけで、「完成」って感じだった。
R:次のコレクションが楽しみだよ。今度は、前よりはるかに強く僕たちのアイデンティティを表現する。僕たちは宇宙を創造したいんだ。RAGAバースというユニバース。ブランドにとって、アイデンティティはとても大切だ。2〜3年前にはバレエコアの小悪魔的なデザインに全力で取り組んで、成功させることができたと思うけど、今見直すと、それとは違う新しい何かを作りたい気持ちがむくむく湧いてくる。
S:今はいろんなマイクロトレンドがたくさんあるし、インターネットも発達して物事が以前のように長続きしないから、難しい状況ではあるけど、私たちの最初のコレクションが時代に左右されないものに仕上がったことにとても満足してるの。何度見ても見飽きることがない。その要素を持ち続けながら、違う領域へ進化させていくわ。
君たちはTikTokで成功する秘訣を見つけてるようだね。TikTokの視聴者があれほど君たちのデザインに共鳴するのは、どうしてだと思う?
R:実は入念に仕掛けた結果なんだ。将来、顧客になりそうな人たちの目を引く画像を僕が投稿して、Raga Malakというブランドのアイデンティティに強い関心を持つフォロワー集団を構築していった。そのうちアディソン・レイみたいな人がフォロワーになって、チャットするようになって、写真を撮らせてくれるというからいくつか製品を送ったんだ。で、コルセットを着て、RAGAのロゴがあるトラッカーキャップを被ったアディソンを撮影することができた。カリ・ウチス(Kali Uchis)のアルバム用の写真撮影もスタイリングしたよ。その時は、僕たちがデザインしたドレスを着てもらった。つまり、Raga Malakをブランドとして立ち上げる前に、そういうセレブたちのコンテンツをしっかり構築してたんだ。
設立後間もないブランドなのに、錚々たる顔ぶれのセレブたちがRaga Malakを着てるのは驚きだよ。どんな気持ち?
R:ドージャ・キャットなんかは、Raga Malakにすっかり夢中なんだ。彼女はそれほどたくさんのアカウントをフォローしてないのに僕たちをフォローしてくれたんだから、ほんとスゴイことだよ。僕たちが大好きなローデスも、アイス・スパイスやラトー(Latto)も、コルセットを着てくれた。僕たちには広報とかまったくないから、そうやってセレブたちが着てくれることがブランドの評価に繋がる。最高だ。まだ1年にもならないのに、あれだけの人たちが着てくれてるのはメチャクチャ嬉しいし、僕たちが上手くやってる証拠じゃないかな。
Raga Malakの理想のミューズはいる?
S:ベラ・ハディッド(Bella Hadid)。
R:強い系美人だね。
S:中東のポップスターのハイファ・ワハビ(Haifa Wehbe)。私たちは、彼女の歌を聴きながら大きくなったのよ。
R:ダイレクトメッセージを送ったんだけど、彼女にはフォロワーが何百万人もいるからなぁ…。
S:それに、今はちょっと年齢が上すぎるかも。Raga Malakを着てくれたら、きっと素晴らしいと思うけどね。
R:年齢層が上の人たちにアピールするようなスタイルも考えてる。クロエ・セヴィニー(Chloë Sevigny)みたいなタイプが、すごくいい。僕は今32歳だけど、若い頃は、ああいう感じの女性に熱を上げてたんだ。

画像のアイテム:ビキニ(Raga Malak)

画像のアイテム:ビキニ(Raga Malak)
- インタビュー: Alek Rose
- 写真: Gadir Rajab
- 写真/スタイリング/キャスティング: Gadir Rajab
- ヘア & メイク: Rose Letho
- モデル: Guils drapac、Olympia Christou、Gem
- セットデザイン/クリエイティブディレクション アシスタント: Hugh Barton
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: December 14th, 2023

