マクシミリアン・
デイヴィスの
カリブ魂
注目の新人デザイナーが発信する、
黒人による黒人のラグジュアリー
- インタビュー: Kimberly Drew
- 写真: Maximilian Davis

「日曜日のこと、話してもいいんだっけ?」とマクシミリアン・デイヴィス(Maxmilian Davis)が尋ねる。Zoomインタビューの途中で質問した相手は、礼儀正しくカメラをOFFにして控えているデイヴィスのエージェントだ。フェードカットにした髪と眉を綺麗なブロンドに染めてビンテージのEminem Tシャツを着たデザイナーは、大西洋を挟んだ両側に私と共通の親しい友人がたくさんいるにもかかわらず、話す内容にまだ慎重だ。そこへ神の声のように穏やかに、エージェントが承諾を与える。「いいと思う。言うだけ。書かないでね、キンバリー。ツキを落とさないでよ」
評価がますます高まりつつある中で、英国ブランドMaximilianのデザイナーは、一歩一歩を慎重に歩む。
人々の視界へ舞い上がったのは、パンデミックのさなか、Fashion Eastからデジタル形式で発表した2021年春夏ショーだった。圧倒的に白人多数のマンチェスターで育ったデイヴィスにとって、ファッションはいつだって救命ボートに等しかった。「学校には白人が大勢いた」とデイヴィスは言う。「僕たちは学校史上初の黒人家庭だった。そのことが、僕が感じる居心地の良さや悪さにいつまでも消えない影響を残したと思う。僕は質問しないままの疑問を沢山抱えていた」。彼を育てた母は70年代にモデルをやっていたし、父も一時期ファッション デザインを学んだことがあった。祖母は6歳のデイヴィスにミシンの使い方を教えた。
自分と同じような仲間はどこにいるのか、あるがままの自分で生きるとはどういうことなのか? 漠然とした疑問に多くの答えが見つかり始めたのは、2013年にロンドンへ移ってからだ。「ミシャ・ノットカット(Mischa Notcutt)に出会って、公共の場で愛情を表現するPDA (Public Display of Affection) を知ったんだ。ミシャが作ったPDAの場で初めて、危険を感じることなく、好きなときに好きな恰好をしてるたくさんの人に出会った。ゲイを気にする人なんか、ひとりもいなかった」。おそらくパンデミックの前にPDAのパーティを体験した読者もいるだろうが、それはロンドンで暮らすクィアたちや有色の人々にとって数少ない安全な避難先のひとつであり、恍惚境のダンスと大胆なスタイルの場所だった。他の多くの人々と同じように、デイヴィスはPDA空間で解き放たれる心地がした。若く才能豊かな黒人であることが意味する、窮屈な定義から飛び出せるようだった。「スキニージーンズが初めて出てきたときのことを覚えてるよ。ストレートの連中がやって来ては、頭がイカレてるとかなんとか悪口を言われたもんだ」。頭のイカレた青年がキスし、キスされ、見つめ、抱かれることができる、それがPDAの空間だった。

パンデミックの前にデイヴィスのベッドルームで育ち始めた2021年春夏コレクションは、トリニダード トバゴのカーニバルの幕開けを告げる「J'Ouvert」と名付けた。父方の家族はジャマイカ、母方の家族はトリニダードの出身だから、カーニバルが始まる朝とルーツのカリブを宣言したのだ。カリブ諸国の全域で毎年開催されるカーニバルは、元来、「灰の水曜日」前の月曜日と火曜日に祝う。だが奴隷制度が廃止されるまで、年季奉公人や奴隷にされた島民たちはカーニバルを祝うことを許されなかった。そこで奴隷にされたトリニダードの人々は「カンブレー」を祝うことにした。世界に広まったカリプソはこの祝祭が発端だ。1834年の奴隷解放以後の祝祭は、年季奉公から解かれた人々や自由の身になった元奴隷たちが、昔のように心おきなく盛大に収穫の季節を喜び合う場として発展した。表面的には力強く活気に溢れた式典は、同時に、自由が失われた歴史を思い出す機会でもある。楽器をかき鳴らして祝う2日間、黒人が肉体と精神の自由を求めて辿った歴史を振り返る2日間だ。
そのように豊かで過激なカーニバルの伝統が世界中のカリブ系コミュニティの創造力を刺激してきたことは、少しも不思議ではない。ファッションの伝統とカリブとの繋がりを共に学んだデイヴィスは、微妙なニュアンスを無視したステレオタイプの歴史に、もっと逞しくて複雑なレンズを向けようとする。「英国にはみんなが知らない場所がたくさんある。僕は自分のプラットフォームを使って、黒人文化のさまざまな要素をみせるつもりだ」

Maximilian 2021年秋冬コレクション、ルック3。

Maximilian 2021年秋冬コレクション、ルック2。
デイヴィスがコレクションの最初の数点に取り掛かっているうちに、新型コロナウィルスによる大規模な健康危機が世界を変えた。最初の6点を作った時点でデイヴィスはFashion Eastに応募し、承認された。かつて新進デザイナーとしてFashion Eastのプログラムに育てられた先輩には、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)、マーティン・ローズ(Martine Rose)、シモーネ・ロシャ(Simone Rocha)、マルケス アルメイダ(Marques'Almeida)などがいる。「助成金を貰えるなんて成り行きは、まったく予想もしてなかった」とデイヴィスは言う。「達成したい目標はもちろんあるけど、1日ずつ、1週間ずつ、進んでいくよ。今現在を生きるっていうのかな」
私たちが話しているあいだも、彼の背後のスタジオでは、カメラに写らない場所で秘密のプロジェクトを作業しているスタッフたちのエネルギーが渦巻いていた。次の日曜日に開催されるロンドン屈指のレッドカーペット イベント「英国アカデミー賞」の仕事だ。このイベントでの仕事は初めてだが、チャンスをつかむ準備は整っている。女優ミカエラ・コール(Michaela Coel)のためにデザインしたドレスで、観衆をあっと言わせるつもりだ。そして英国アカデミー賞の夜、コールは『I May Destroy You』で、テレビ部門の主演女優賞、脚本賞、監督賞、ミニシリーズ賞を手にした。コールは、基本的にネル・カロンジ(Nell Kalonji)にスタイリングを一任しているし、レッドカーペット イベントでも彼女自身か彼女の母が作ったものしかに着ないことで知られているが、今回の例外が正しい選択だったことは明らかだ。コールと同じように、デイヴィスもまた、自分がいちばん良く知っている「ルーツ」から最高の仕事を生み出すのだから。
デイヴィスがコールに着せたブラックのドレスは、Fashion Eastに応募する前に自宅のスタジオでデッサンしたデザインで、前と後ろのカットアウトがとても印象的だ。『Vogue』のインタビューで、デイヴィスはこう語っている。「このコレクションはカリブ海の貝殻をテーマにした。それから、僕の両親はトリニダードでタクシー会社を経営していたから、みんなでよく走った高速道路を思い出して、ドレスのバックの長いカットアウトで表現した」。ファッション界では新顔ながら、デイヴィスはロンドンのクリエイティブ集団の仲間入りを果たした。デザイナーのグレース・ウェールズ・ボナー(Grace Wales Bonner)、エディターでスタイリストのイブ・カマラ(Ib Kamara)、ファッション フォトグラファーのラファエル・パヴァロッティ(Rafael Pavarotti)など、そうそうたる顔ぶれだ。繋がりを見出したコミュニティと知名度のおかげで、1回目のコレクションを発表しただけのデザイナーにしては、デイヴィスはとても成熟して見える。「よく新人デザイナーにアドバイスを聞かれるんだ。真っ先に思うのは『どうして、まだ駆け出しの僕にそんなことを聞くんだ?』」

Maximilian 2021年秋冬コレクション、ルック15。
「ブラック ラグジュアリー」のビジョンを共有することは、デイヴィスが自認する願望であり、彼の言動の核心でもある。だが黒人が発信するラグジュアリーのコンセプトが吸収され歪曲される現状ではなおさら、私たちが立ち止まり、時間をかけてデイヴィスの作品のひとつひとつに向き合うことが大切だ。デイヴィスは美しい衣服を作り出すだけでなく、Balenciagaと「カリプソのキング」と呼ばれたハリー・ベラフォンテ(Harry Belafonte)を等しく受け継いだラディカルな伝統を、強く意識する。「『ブラック ラグジュアリー』については、とても多くの対話が脇へ押しやられてる気がする」とデイヴィスは言う。「僕は、押しやられているストーリーを語り続けたい。それは僕たち黒人の在り方だから。そして、僕たちだってできるんだと伝えたい」。デイヴィスのイノベーションやリメイクはホワイト ラグジュアリーだけを指向しない。むしろ、黒人の歴史という未解決の問題の蓋を開ける。黒人は一見平凡なものにエレガンスを見出し、常に前進し、向上してきた。正直なところ、素晴らしさは店で買ってくるものではないことを、私たち黒人は知っている。それは家庭で始まるべきものだ。ラグジュラリー、ひいてはその延長にある自尊心は、自然に生まれるより、育むものだ。デイヴィスはスタートを切ったばかりだが、これからの年月で彼が私たちを連れて行ってくれる旅路を楽しみに期待しているのは、私ひとりではないはずだ。
Kimberly Drewはアート キュレーター。共同編集によるアンソロジー『Black Futures』の著者でもある
- インタビュー: Kimberly Drew
- 写真: Maximilian Davis
- 画像/写真提供: Maximilian
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: September 8, 2021

