BYBORREの
開かれた世界
立体的な触感が際立つ、ボーレ・アッケルスダイクの未来派デザイン
- インタビュー: Max Berlinger
- 画像/写真提供: ByBorre

ボーレ・アッケルスダイク(Borre Akkersdijk)はテキスタイルに憑りつかれたデザイナーだ。純粋主義者と呼ぶほうが正しいかもしれない。彼が立ち上げたBYBORREは、一見するとアパレルのブランドだが、実際の事業内容はそれをはるかに超える。最先端ファブリックのメーカーであると同時に、技術プラットフォームの役割も担い、独自のテキスタイル開発を目指す進取の気性に富んだブランドを支援する。今後のファッション業界の可能性として、規模を縮小して過剰なマーケティングから製品へ焦点を移行させる方向性も、垣間見せてくれる。そのためにファッションの根底から出発し、一からファブリックを作り出す。「ファッションの仕事をしたいと思ってはいたけど、いわゆる『ファッション業界』の仕事はしたくなかったんだ。体制そのものを信頼できないから」とアッケルスダイクは言う。「何かを作るときには、基本の素材から始める必要がある。それが昔からの僕の信念」
専攻したのは産業デザインだ。卒業を控えた年にテキスタイルを作りたいと教授に伝えたら、「織物工場へ行くことだな」という答えが返ってきた。その通りに工場へ就職したら、マットレス用のパッド入り生地を生産する機械に遭遇した。アッケルスダイクの目が吸い寄せられたのは、生地に織り込まれる小さな点だった。それらの点のおかげで、キルティングの効果が高まるのだ。どうやって点を作るのかをマネジャーに尋ねたら、「コンピューターのプログラム」だと教えられた。プログラムを変更すれば、点じゃなくて、例えば線でも織り込めるのかを尋ねたら、「できる」。この瞬間、目の前に広大な可能性が開けた。それから数週間のうちに、アッケルスダイクは件のコンピューターを「ハッキング」して、布地に織り込むデザインを作り上げた。
素材へのこだわりからティルブルフのテキスタイル ミュージアムへ赴いたアッケルスダイクは、十分に活用されていない円形織機を実際に動かして、限界や制約を見極めることができた。そして現在に至るまで円形織機を使い続けている。一方で、リドヴィッジ・エデルコート(Lidewij Edelkoort)との共同作業も進めた。エデルコートと言えば、ニューエイジ的な予知能力で先を見通し、トレンドを正確に予測することで知られる伝説的人物だ。彼女を通じて、家具からテクノロジーまで、さまざまな分野の最前線で未来を志向している人たちを知ることができたし、同時に、Volvo、Moncler、Nikeなどと、テキスタイルを中心とするコンサルティング プロジェクトも進展した。
2015年、アッケルスダイクはテック起業家のアーノウド・ハヴェルラッグ(Arnoud Haverlag)と出会い、ハヴェルラッグは、後にBYBORREのCEOになる。さてアッケルスダイクが目指すテキスタイルのイノベーションを事業として考えた場合、予測される障害は、コンセプトが具体的な形を持たず、頭に描きにくいことだった。だが、洒落たジャケットやトレンディなパンツにして見せることができれば、話は別だ。「テキスタイルに目を向けてもらうには、テキスタイルの素晴らしさを見せる手段も必要だ」とアッケルスダイクは思った。そこで、テキスタイルのイノベーションが意味しうる成果を実証するために、小規模なアパレル コレクションを立ち上げる。
そして迎えた初のシーズン、パリ ファッション ウィークへやって来たバイヤーたちと会う約束を取りつけようとしたが、「多忙」を理由に軒並み断られた。そこで頭を働かせ、コレクションを積み込んだトラックを他のブランドが設置したショールームの外に駐車して、ショールームを訪れる人たちに「後でちょっと覗く」ように誘いをかけた。結局、日本のブティック数店がコレクションの製品を買い、そこから火がついた。

瞬く間に注目を集めた理由は、一目瞭然。BYBORREのウェアは、とにかく立体的で、感覚に訴える。僕が会った日のアッケルスダイクは、ブラックのボンバー ジャケットを着ていた。畑の畝みたいに見えるキルティングのデザインだ。彼の動きに合わせて、パッド入りのラインも動き、うねり、まるで生きているようだ。東洋風のゆったり垂れ下がるパンツやニットのパネルを対照的に配したテクニカル コートなど、どれをとってもアッケルスダイクのデザインには三次元があり、それが特に今という時期に強い魅力を発揮する。パンデミックのせいで、ファッション界には快適で着心地のいい「インドア ウェア」を歓迎する風潮が生まれたが、同時に、干しブドウとピーナツに象徴される、昔ながらの「アウトドア ウェア」の実用性が尊重されることは言うまでもない。どうしたものか、BYBORREではこれらふたつの価値感がひとつに溶け合って、力みのない、だが確かなエレガンスとして浮かび上がる。同じ作用が、多様なイノベーションに一貫している。
未来志向のデザインを口にするブランドは多いが、過去に紐づいた製品も同じくらい数多い。BYBORREも、馴染みのあるフォルムを使う。例えば、ゆったりしたパンツとラップ式ジャケットは、東洋武術の「道着」を思わせる。ところが、コンピューターのチップに似せたジャカード模様、電子回路ボードを描いたブロケードなど、使われているテキスタイルは何光年も先の未来を感じさせる。未来の文明が織ったルネサンス調タペストリーとでも言えばいいだろうか。未来の織機を使った手織りのテキスタイル、いや、巨大な3Dプリンターの電極から吐き出されたテキスタイルだろうか。

アッケルスダイクは、テック起業家が事業を語る口調で、製品ではなくプラットフォームとしてのBYBORREを語る。繊維の機能性から織り方までを含めて、一からファブリックを作り出す方法、選択するデザインや色に合わせたレイヤリング、そしてオープン ソースの利用について語る。「ある時、自分たちのためにできることは、他の人たちのためにもできるはずだと思ったんだ。僕たちがもっといいテキスタイルを作れて、もっといい方法も提供できるんだったら、業界をリードするブランドと共有すればいいじゃないかと思った」
その時から現在まで、名だたるパートナーと組んできた。幅の広さにおいても種類においても、壮観というほかない。サイクリング アパレルで一際高い存在感を放つRaphaとは、水平方向に細い畝が並ぶジップアップ ジャケット。日本のメンズウェア ブランドKapitalとは、ニューメキシコがモチーフの織り地ベスト。イタリアの家具メーカーNatuzziとは、インテリア用ファブリック。日本の鞄ブランドPorterとは、一連のバッグ。愛すべきテキスタイル開拓者のGore-Texとは、通気性のあるテクニカル ニット。近年はハイファッションにも進出し、LVMHアワードを受賞した南アフリカ出身デザイナーのテベ・マググ(Thebe Magugu)、元Lanvinデザイナーのアルベール・エルバス(Alber Elbaz)がスタートした新ブランドAZ Collectionなどと、共同プロジェクトを行なった。ただし、BYBORREの活動をコラボレーションという「括り」で片付けてはならない。「僕たちは本当の意味でのパートナーだ。もちろん僕たちが作るテキスタイルには僕たちのブランド名をつけるけど、パートナーはそれを使ってクリエイトする。僕たちはパートナーを手伝っているだけ」
BYBORREの立ち上げに際し、現在ファッション界が大きく捕らわれた物流チェーンに対して、アッケルスダイクが物言いをつけるつもりだったとは思わない。今日のファッション業界の体制は、切り離されたいくつもの分野に依存している。それぞれの分野は窓のない「サイロ」と同じで、周囲が見えない。だが、ひとつのサイロに作用すれば、それは連鎖反応となって伝播していく。そのことをアッケルスダイクは語る。彼が実践したようにあらゆるものをひとつ屋根の下に集めれば、BYBORREは敏捷かつ柔軟に動ける。BYBORREというブランドの存在によって、アッケルスダイクはオルタナティブな方向、もっと慎ましくてサステナブルな何か、純粋だが大局的な思考を指す。
だがサステナビリティについて質問すると、アッケルスダイクはたじろぐ。テキスタイルの生産は、それだけですでにサステナブルな活動ではない。だから彼は「イノベーション」、「効果」、これらふたつを共存させる方法の追求にエネルギーを傾ける。一例として、先頃発表された非営利海洋環境団体Parley for the Oceansとの共同プロジェクトでは、海岸線に漂着したプラスチック類を再利用してファブリックに変える。アッケルスダイクの願いは、現実に意味のあるやり方で、サステナビリティにまつわる対話を膨らませることだ。最高度の耐久性を備えたファブリックを作り、トレンドに関わりなく長く愛用できるスタイルに仕上げるために、BYBORREはどんなイノベーションを実現すればいいか? BYBORREの製品から、どんな効果を期待できるか? シーズン毎に使い捨てる流行のデザインで大量消費主義の回転を助けるより、そのほうがはるかにサステナブルだ。「大量消費は中毒だ」とアッケルスダイクは言う。「だけど僕は、服を長く愛することをみんなに教えたい」

- インタビュー: Max Berlinger
- 画像/写真提供: ByBorre
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: March 17, 2021

