トートバッグの神は
細部に宿る
MM6 Maison Margiela Eastpak、
Marni、CFCLの
シンプルで複雑なバッグの世界

トートバッグをひとつも持っていない人は少数派だろう。どんなスタイルにも合わせやすいシンプルな形、肩に掛けるだけでの使いやすさ、内ポケットもあればなお良く、非常に利便性の高いバッグである。ここにきて気づくのは、このデザインは、あまりに完成されているということだ。だからこそ細部に目がいき、ちょっとしたことも気になってしまう。ハンドルがあと2cm長かったなら、バッグの底がマチだったなら。あなただけが注目する小さく細かい差異が、きっとあるだろう。トートバッグの価値は、そんな細部に宿っている。

画像のアイテム:トート(Satta)
肩から掛けられ、手でも持ちやすい実用的なストラップとハンドル、派手さから距離を置く形と色が実直な印象を与える。波打つ曲線のキルティングのステッチは、どこか隠し絵のようで、壺にも人間の横顔にも見える「ルビンの壺」を見るときのように、目は何かを探す。謎が存在しないところに、謎を感じとり、心が揺れ動き始めたらなら、それはサッタのMJ トートに魅入られた証拠だ。

画像のアイテム:トート(MM6 Maison Margiela)
イーストパックは、頑強な作り、色展開の豊富さ、優れた収納力のバッグを量産し、多くの人々に愛用されてきた。一方マルジェラは、過去の衣服に特殊な技法を施し、希少性の高い作品に作り変えるアーティザナルで、多くの人々を魅了した。世代を超えて愛されてきた二つのブランドだが、そのアプローチは対極にある。MM6とイーストパックのコラボ トートバッグは、まったく異なる文脈を融合して、新たな文脈を作り出している。

画像のアイテム:トート(Roussey)
異物で不気味な突起物は、意思を持つ目に監視されるSF映画の1シーンを思い出させる。人工的でどこかフェイクじみたパープルは、生命の温度を消失させたように冷たい。トートバッグはエイリアン的イメージを掻き立て、グロテスクにさえ思えてくる。だが、見ているうちに醜いと思えた外観に惹かれていき、心地よくなっていく。ああ、もっと気持ちよくなる気持ち悪さを。SSENSE限定トートバッグで、Rousseyは人間の感覚を書き換えようとしているのかもしれない。

画像のアイテム:トート(UNIFORME)
デザインがシンプルであればあるほど、理想のバランスに出会うのは難しい。「ああ、あと少しサイズが大きければ完璧なのに」。インパクトの強さよりもバランスの美しさが欲しい。ユニフォームのオーバーサイズトートは、そんなもどかしさを解消する。正方形のフォルム、無装飾のコットンツイル、A3ファイルを収めるに十分なサイズ、キャリーハンドルの程よい長さ、そこに驚きはなくとも、探し求めた完成形がある。

画像のアイテム:トート(Marni)
シンプルこそがトートバッグの魅力とわかっていても、時折物足りなく感じてしまう。求めるのは、形は端正なまま、大胆さも備えたデザイン。そんなわがままを、マルニの創造性が叶える。深く濃く青い光沢の上を非対称に侵食する黒い線が、マルニの「M」の面影を残し、ブランドの象徴をあえて崩したかのようなディテールに心躍る。これこそが、ベーシックであってベーシックではないトートバッグだ。

画像のアイテム:トート(CFCL)
これは間違いなくバッグである。だが、生け花に使う花器に見えてくるのは、気のせいだろうか。色鮮やかな花を2〜3本だけ生けるのにふさわしい造形に思えてしまった。CFCLが得意とするニット技術を生かしたリブニットは、バッグ本体から滑らかに淀みなく繋がり、ハンドルをも形作る。この特異なニットバッグを持つ手は気づくだろう。ニットの優しい感触が、使い心地もデザインしていることに。
新井茂晃は神奈川のテキスト デザイナー。2016年より「ファッションを読む」をコンセプトに、ファッションデザインの言語化を試みる『AFFECTUS』を主宰し、『TOKION』でも記事を執筆している
- 文: Shigeaki Arai
- Date: December 17, 2021

