アートブックが
平凡な毎日を
打ちこわす
Taschen、Assoulineなど
新登場カテゴリーから
変革を感じ取る
- 文: Yoshiko Kurata

家にいて偶発性を感じることなんてそうそうない。スクロールする画面もなんだか実感がない。そんな平凡な毎日のなか、本棚に鎮座するアートブックは私たちにいつだって刺激を与えてくれる。彼らは決して平面的で動かないのに、ページに触れた瞬間、そこから買った時の思い出や印象、時を経て感じ直す感覚などが一気に家中へと立ち込めるのだ。

画像のアイテム:本 (Taschen)
同性愛が禁じられ、厳しく罰せられていた第二次世界大戦後に、トウコ・ラークソン(Touko Laaksonen)は夜な夜なこっそりと自由な性を謳歌する男性たちを自室で描いていた。仲間内で楽しむために描き続けられたそれらの作品は、ある日トム・オブ・フィンランド(Tom of Finland)という作家名でアメリカ雑誌の表紙を飾ったことで、瞬く間に世界中のゲイ コミュニティに革命を起こした。彼のその一歩がなければ、今日、ファインアートの領域でゲイカルチャーが表現されることはなかったかもしれない。そんな偉大なトムの60年に渡るキャリアを網羅する、未公開のドローイング、ペインティングなど含む世界中から集めた1000枚の写真が666ページの1冊に詰まっている。歴史の大きな一端を感じ取れば、日常の些細な悩みごとも吹き飛ぶはず。

画像のアイテム:本 (Taschen)
マート・アラス&マーカス・ピゴット(Mert Alas & Marcus Piggott)は、ファッション写真を語る上では欠かせないフォトグラファーユニットだ。1994年にタバコの火を貸したひょんなきっかけで意気投合したふたりは、『Dazed&Confused』誌の表紙デビューをきっかけに、数々のファッション雑誌や名だたるブランドのキャンペーン ビジュアルを手がけてきた。ギィ・ブルダン(Guy Bourdin)からの影響を公言する、ふたりの目を通して、被写体の女性たちは力強い美しさを見せる。自信を失ったときのパワースポットとして本棚に飾っておこう。

画像のアイテム:本 (ASSOULINE)
サルバドール・ダリ(Salvador Dalí)の名前を知らない人はいないだろう。リネンのクラムシェルボックスを開くと、そこには9.2キログラムという重さにたがわず、芸術家の80年の歴史を物語る130点の画像がぎっしりと凝縮されている。家の中で誘惑の視線を感じたなら、それはダリのミューズであったメイ・ウエスト(Mae West)をモチーフにした表紙の作品かもしれない。

画像のアイテム:写真集ボックスセット(Taschen)
漆黒の重厚感を感じさせる本書だが、現に、今回紹介するなかでも最大重量の11.57キロある。「コレクションカーの写真集ボックスセット」と聞いて、運転免許を持っていない私は反射的に眉間にしわを寄せてしまったが、ご安心を。シャーロット&ピーター・フィール(Charlotte & Peter Fiell)が厳選した100台の車は、それぞれデザイン性にあふれ、カーレースからフェスティバルまで、さまざまなストーリーを持つ。さらに、エンジニアリング、そして生産台数といった専門家による解釈文を読んでいたら、いつの間にか夕方になっていた。

画像のアイテム:本 (ASSOULINE)
家を彩りたい、気分を上げたい。そういう日は、帰宅前に自然と花屋に寄ってしまうのはなぜだろう? 花はそのような日常のひと時として私たちを癒してくれる一方で、ずぼらな性格や忙しさにかまけてしまうと生花の繊細さを忘れて枯らしてしまうことも。だが、本書をひらけば、マネ、ゴッホやロバート・メイプルソープ、アンディ・ウォーホルといった芸術家たちによって、時代を超えて様々な表現媒体で解釈されてきた250点の花のイメージに触れられる。花を買いに行けなくとも、この1冊で花が持つ儚い美しさ、色鮮やかさ、造形美に触れて、心を浄化できる。

画像のアイテム:本 (ASSOULINE)
2013年にジェレミー・スコット(Jeremy Scott)がMoschinoのクリエイティブデザイナーに就任してから、ファッションがエンターテイメントで溢れるようになった。2013年から2022年の9年間、ジェレミー・スコットが愛され続ける理由は、資本主義を明るく受け入れる一方で、そこに必ずウィットに富んだ視点があるからだ。マクドナルド、段ボールなど消費社会にひもづく記号をポップにデザインへ落とし込む魅力が、350点の写真とともに本書に凝縮されている。表紙に光るゴールドのMOSCHINOを入り口に、ページをめくれば、ジェレミーが織りなす祭のような賑やかな世界観が部屋中に響き渡る。
倉田佳子は東京を拠点とするフリーランス コーディネーター。『i-D Japan』、『HommeGirls』、『VOGUE JAPAN』等に執筆を行なう
- 文: Yoshiko Kurata
- Date: October 28, 2022

