特別な一夜の
ブラックドレス

Tommy Jeans x Martine Rose、
Gucci、Dries Van Notenが、
ラグジュアリーの定義を問う

    特別なシーンだけに袖を通す服がある。日常的に着回しすることはできず、人生で数えられる回数しか身に纏わない高級な服や靴を、高いお金を払って手に入れるとしたら、酔狂だと思われるだろうか。たとえ一生に一度しか着なかったとしても、後悔はない。限られた1日、特別な一夜のためだけに。そんなファッションこそがラグジュアリーではないか。

    モデル着用アイテム:コート(Tommy Jeans x Martine Rose)

    掠れた色味の生地に浮かぶフォントは、カラフルなポスターを黒く塗りつぶしたようで、アシンメトリーなグラフィックが、シンメトリーなシルエットと対比をなす。眠りを誘うバスローブ型のフォルムが、追いかけた夢を諦めた自分の胸に響く。夢は眠った時にだけ見るもので、これからは現実を見て生きるだけ。トミージーンズ x マーティン ローズのジャカード タオル コートは、新しい道に踏み出す私の背中を押してくれる。

    モデル着用アイテム:ドレス(Gucci)

    バストをコンパクトに包むカット、ボディコンシャスなシルエット、キルティング加工のシルクサテンとナイロンメッシュの異素材ミックスという構造は、ミニレングスのブラックドレスというシンプルな外観とは裏腹に、重厚で濃厚だ。カクテルよりも私に酔って欲しい。決意した日にこそ、グラマラスなグッチを選ぶ。

    モデル着用アイテム:コート(Feben)

    イエローのフェイクファーから垣間見える衿や箱ポケットが、毛皮の下に隠れたトレンチコートという空想の服を描かせ、ブラウンに染まるサテン生地の質感がドレッシーでもある。ランダムに配置された黄色い毛並みは、上品さとは対極の荒々しく原始的な迫力を表す。会社までの道のりを、いつもより自信に満ちて歩きたい。そんな日には、Febenのエネルギッシュなコートを着る。

    画像のアイテム:ブーツ(PARIS TEXAS)

    シルバーに輝くスネーク型押しのレザー、高いスティレットヒールと陰影を生むギャザーが、足首をゴージャスな雰囲気で包み込む。ミラーボールがフロアを派手に彩る、あの頃に戻ることはもう二度とない。パリ テキサスを履けば蘇る色褪せない思い出、いつまでも大切にしたい記憶が、私にとってのラグジュアリー。

    ダイナミックな植物プリントが、ブライトなイエローで鮮烈な存在感を放つ。一方でジャケット本体は、本切羽の袖口、オーソドックスなノッチドラペル、センターベントのバックスタイルと、伝統の構造に準拠している。このギャップこそ、アントワープシックスに名を連ねる伝説的デザイナーの魅力だ。ドリス ヴァン ノッテンは、人生の晴れの舞台に立つ私を、1日限りのスターにする。

    画像のアイテム:シャツ(Tom Ford)

    ビスコース x シルク混の生地がすでに艶かしいのに、臀部と局部を隠すレングスと甘いピンクが、サテン生地の下に隠れた裸をイメージさせる。トム フォードの手にかかれば、肌の露出などなくとも、色気は引き出されてしまう。美しい自分の姿を愛でるという密かな欲望を楽しみたいときは、この流麗なシルエットに体を沿わせる。

    新井茂晃は神奈川のテキスト デザイナー。2016年より「ファッションを読む」をコンセプトに、ファッションデザインの言語化を試みる『AFFECTUS』を主宰し、『TOKION』、『装苑』でも記事を執筆している

    • 文: Shigeaki Arai
    • Date: November 29, 2022