ジョシュ・イティオラに
部屋作りを学ぶ
Vitsœのプランナーに転身した
多才なエンジニアが
大切な宝物を語る
- インタビュー: Naomi Skwarna
- 写真: Marquale Ashley

ジョシュ・イティオラ(Josh Itiola)は、カメラのレンズを通して初めて、自分の部屋を「見た」。工学を学び、現在はデザイン志向の家具ブランドVitsœでプランナーの肩書を持つイティオラは、若い頃から生まれ育ったニューヨーク シティの建築を写真に撮り始めて、インテリアに対する好奇心に目覚めた。彼が言うところの「あらゆることを味わう」欲求と直感に突き動かされて、周囲の建物の内部に思いを巡らせた。インテリアは、私たちが眠り、食事を作り、仕事をするだけの場所ではなく、私たちの周囲に心地よさと美しさと実用性を作り出す機会でもある。
オンラインとオフラインを含め、現在イティオラが暮らしているアパートは想像しうる限り最高にエレガントで、印象的で、個性的な場所のひとつに違いないだろう。だが興味を掻き立てる人物の例にもれず、イティオラの場合もまた、表には出していない部分にこそ大きな意味が隠されている。例えば、ベッドフォード=スタイベサント地区にあるアパートでは収納室をオフィスに変えて使っているものの、そこで取り組んでいるいくつかのプロジェクトについて、今はまだ何も話したくないと言う。そのオフィスの写真を、多数のコメントが寄せられるInstagramのアカウントに掲載することもない。一方で、欠点ひとつなく整えたアパートを考え抜いた角度から撮影した写真には、イティオラの愛するヨーロッパのデザイナーや建築家のアート作品とオブジェが溢れている。エットレ・ソットサス(Ettore Sottsass)、ガエターノ・ペッシェ(Gaetano Pesce)、インゴ・マウラー(Ingo Maurer)、アフラ&トビア・スカルパ(Afra and Tobia Scarpa)。華やかなイタリア風マキシマリズムの合間に、ケリー・ジェームズ・マーシャル(Kerry James Marshall)やジェイコブ・ローレンス(Jacob Lawrence)など、強い影響を及ぼした黒人画家の作品も目につく。そしてあらゆる方向へ長い首を伸ばした照明が、イティオラの見せたい場所へ視線を導く。配線も自分で変えてしまうことが多いという。
イティオラの真の姿は三次元コレクターだ。物を移動させ、彼自身のビジョンと響き合う構成にまとめ合わせる。時としてそれは、大切な宝物を彼だけが楽しめる場所へ置くことでもある。
ナオミ・スクウォーナ(Naomi Skwarna)
ジョシュ・イティオラ(Josh Itiola)
ナオミ・スクウォーナ:今日は家の中のことをやるって言ってたけど、具体的にはどんなこと?
ジョシュ・イティオラ:あちこち散らかったままの物を片付けるってこと。片付けても、火曜日か水曜日には元通りだけどね。
どう散らかるの?
参考にした本が積み重なってるし、オフィスの椅子は脱いだ服のクローゼット状態。今日は、あちこちの山積みに突撃だ。
あなたのすばらしいアパートにも片付いてないときがあるなんて聞くと、嬉しいわ。
みんなと同じだよ! インターネットではそういう部分は見せずに済むけど、実際のところ、僕の椅子の上には本当に服が積み重なってる。

自宅の写真はあちこちに出してるけど、特にInstagramでたくさんシェアしてるでしょ。自分が暮らしてる場所を不特定多数の人に見せてしまう。そのことについては、どう考えてる?
自分のアパートを見せることに関しては、奇妙な気分になることもある。最近は『Architectural Digest』の記事とか、色んな場所へ転載されることが多くて、特にそう感じる。もともとかなり内向的な性格だしね。でも僕のアパートは個人的なプロジェクトだから、僕がやってること、僕にできることを見てほしい気持ちもある。それに、見せるのはほんの一部だし! クローゼットの中やバスルームは誰にも見せたことがない。キッチンを見た人もいない。
キッチンというのは、とてもプライベートな場所よね。
そのとおり。友だちを招いて料理するときには、見られてしまうけど(笑)。
Vitsœのプランナーとしては、どんな仕事をするの?
Vitsœ社の家具そのものを扱う。Vitsœの製品で一番人気の606 ユニバーサル シェルビング システムにはたくさんコンポーネントがあるから、クライアントのニーズに合わせて、システムを構成していくサポートが僕の主な仕事。
テクニカルな思考が必要な空間にチャレンジするのが好きだと話してたけど、そういう思考で問題を解決した実例を教えて。
床と天井の間に支柱を圧縮してシステムを取り付ける案件を、これまでに2~3回、すごく楽しませてもらったよ。Vitsœには壁に取り付けるタイプとスペースを区切る圧縮タイプの2通りのシステムがあるけど、クライアントの希望は圧縮タイプだった。そういう場合は天井の正確な高さが非常に重要なうえに、天井に勾配があった。天井の高さに合わせて支柱をカットするのに、天井が斜めだから高さも一定じゃない。そこで例えば壁から5インチの場所の高さ、そこから5インチの場所の高さ、という具合に細かくきっちり測定して、実際は傾斜があっても、一直線に見えるようにユニットを設置する。

すごく微妙かつ精密なのね!
専攻した工学がいまだに体に染みついてるから、仕事に数学を持ち込むのが大好きなんだ! 工学とか建築とか、数学的に問題を解決することがとても楽しい。
好きな「ジャンル」の部屋はある?
さて、僕のオタク度をどこまで教えるべきかな!
遠慮しないで!
少し前に、友人がBBC制作の動画を送ってくれたんだ。ルーシー・ウォースリー(Lucy Worsley)が家の歴史について語る、とてもよく出来た動画。その中で紹介された接客用の小部屋にすごく刺激されたね。正式の広い応接間とは別に、家の主人が親しい人たちを連れてパーティーの喧騒から逃れる場所なんだ。所有しているアート作品とか非常に価値がある品とか、誰彼構わず見せる気はないけどやはり誰かに見せたい、そういう物を陳列しておく部屋でもある。将来僕が自分の家を持つことがあったら、ぜひとも欲しい部屋だな。特定の人しか入れないプライベートな部屋があったら素晴らしいと思う。
あなたが持っている家具や品物のなかでいちばんの貴重品、いちばん価値のある品は?
ああ、いちばんの宝は時計 (カメラの前に時計を持ち上げてみせる)! これ、ブラジルの形なんだ。ブラジルの「Free」という銘柄のタバコのためにガエターノ・ペッシェがデザインしたんだけど、生産はされなかった。ペッシェはそういう一点物をいくつか作ってる。

それがどうしてあなたの手に?
ペッシェのスタジオで仕事をしたことがあって、彼のデザインで大量生産された時計を買いたいと思ってたんだ。それで「あの魚の形の時計、まだ残ってるのがあるかな? ひとつ買いたいんだが…」とスタジオに問い合わせたら、「いや、ガエターノは君にプレゼントを用意してるぞ!」と言われて、貰ったのがこの時計。僕の知人でこれと同じ物を持ってるのはひとりもいない。おまけにサインまでしてもらった! 1日に何度もこの時計に目が行くから、今のところ、これがいちばん大切なコレクションだろうな。
照明器具の配線を変えることも含めて、電気系統を触るのはまったく平気らしいわね。
これまでやったなかで、いちばんクレージーなのが僕のキッチンだ。すごく手の込んだトラック照明にしてある (そう言いながら、小さな町の送電線並みの照明システムにカメラを向ける)。
うわ、すごい。
インゴ・マウラーのデザインで、配線がキッチンのほぼ端から端まで走ってる。基本的に配線が生きてて、そこへエレメントをぶらさげる。スイッチを入れると、配線とそれぞれのエレメントに通電する。
家でもオフィスでも、特にこだわる要素は?
すごく重要なのは自然光だね。それと、滑らかに流れるスペース。

流れ、ってどういう意味?
場所から場所への移動だよ。僕は、色んな物に制限されずに、自由に動き回りたい。それにはまず、空間を十分に見極める必要がある。自由に移動できる余地を作れるかどうか、考える。動き方は家具の配置次第で決まるからね。とにかく大切なのは、気持ちよく自然に動けること!
人の家やオフィスへ行ったとき、ついインテリアの問題点を解消したくなる?
口出ししないように、必死に我慢だ。
気づかれないように、そっと家具を動かしたことはある?
いつも、気づかれないようにそっと動かしてる。
実は私の実家を思い出してたの。あなたの実家は、あなたが暮らしてた頃と同じまま?
家自体は変わってないけど、ほとんどの部屋は変わった。悲しいことに (大きなため息)、僕の部屋は物置になってるよ。

実家から秘密で何かを持ち出すとしたら?
姉がハイスクール時代に作った胸像。誰の胸像か知らないけど、陶芸の授業で作ったらしい。僕の記憶をどこまで遡っても、必ずその胸像が存在してるんだ。先日目にしたときに「持って帰れたらなぁ」と思ったけど、あれがなくなったら、母さんはさぞかし取り乱すだろう。
家族の作った物がそんなに大切にされているなんて、素敵。そのためにはあらゆる危険を冒す覚悟があるんでしょうね。
実家には、アフリカのヨルバ族に伝わるドラムもある。トーキング ドラムといって、言葉代わりに使われる。今はどこに紛れ込んでいるのかわからないが、両親が僕たちのためにふたつ買ってくれたんだ。ぜひ探し出して、ひとつ持って来たいよ。
もう自分のものにした気でいるのね。
確か、僕のは壊れてしまった。もうひとつは弟のものだけど、こっそり持ち出せばわからないさ。
Naomi Skwarnaはトロントを拠点に活動している
- インタビュー: Naomi Skwarna
- 写真: Marquale Ashley
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: March 18, 2022


