ホームジムのすすめ

必要なのは
多少のスペースだけ

  • 文: Sam Reiss
  • アートワーク: Skye Oleson-Cormack

僕にも身に覚えがある。以前は、あちこちにチェーン展開しているフットネス ジムで、ウェイト リフティングに励んでいたから。トレーニングには、ジムまで自転車を走らせる時間も含めて2時間を要した。僕が利用していたジムは昼間でも異常に混んでいて、実際にウェイトを挙げている時間より、道具や場所が空くのを待つ時間のほうが長かった。その間に脈拍は元に戻り、落ち着かないエネルギーで気が散る。

ジムほど不快な場所はそうそうあるものじゃない。それなのに、僕たちの多くはジムへ向かう。体が触れるものをいちいち消毒する面倒、聴きたくもない大音量の音楽、僕をじろじろ見ているのかいないのか知らないが神経質そうなやつら、長すぎる待ち時間。ほんの1回でも非常に満足できるトレーニングができるのでなかったら、とても割に合わない。混雑していないジムとかウェイトが置いてあるスパとか、それほど悪くないジムもあるにはある。だが大多数のジム環境では、ヘッドフォンをするか、トレーニング パートナーと組むか、究極の集中力で無視するのがいちばんだ。総じてジムは体を鍛えるのに便利な場所ではあるが、実のところはスクワット ラックのある最悪の巣窟にすぎない。できることなら、誰だって他所へ行くだろう。

ただ、パンデミックの前は選択の余地があまりなかった。仮に資金と場所がたっぷりあったとしても、家でウェイト リフティングをやるとなったら、使わないときのダンベルはソファの下に入れておくといった中程度から最大限の努力を意味した。しかし大半のジムが閉鎖された去年の変化で、自宅トレーニングは当たり前のことになり、ついにはジムを超えた。

ウェイト リフティング歴はかれこれ20年。不十分なジムにすっかり慣れっこだった僕は、ロックダウンが始まると、先ずeBayでケトルベルとエクササイズ バンドを手に入れた。4月には、僕のトレーニング メニューはすべて、ブルックリンにある慎ましいアパートのキッチンで事足りるようになっていた。チートコードを見つけたようなもんだ。その後、制限が解除されてからも、ジムに戻ることは考えていない。永劫に思えるほど長い期間、自分の家でウェイトを挙げ続けるうちに、僕は工夫やアイデアを思いつき、好きな自宅と好きではないジムの差は消滅してしまった。

必要条件

どんなホーム ジムであれ、確実に必要なのは多少のスペースだ。手足を伸ばして動かせる幅と思いっきりジャンプできる高さがあれば申し分ないが、おそらくそこまでの必要はないと思う。もちろん道具も大切だが、最初はエクササイズ程度で始めるほうがいい。僕だって、理想の世界ではモンタナに住んでいるか、少なくともモンタナでウェイトを挙げているだろう。暖房完備のガレージでね。現実には、プルアップ バー、エクササイズ バンド、使わないときはオーブンの中に収納するケトルベル2個があるだけ。だが、パワーリフターでない限り、これで十分なのだ。何もかもが揃っているホーム ジムなんてごく僅かだし、それを言うなら、すべてを備えている人間もごく少数だ。それに、モンタナではおいそれと映画館へ行くこともままならない。

必要最少限

ジムには必ずウェイトがあるが、エクササイズに必ずしもウェイトが必要なわけではない。収監されている人は監房の中でジャンピング ジャックや腕立て伏せをやって体を鍛えるし、体操選手は逆立ちをやる。どちらの方法でも重量挙げの選手並みの体になれる。そこで彼らを見習って、懸垂バー、エクササイズ バンド、数種類のボディウェイト トレーニングを利用する。浴室内にトイレがある場合は、浴室のドアに懸垂バーをひっかけておき、入るときと出るときに5回ずつ懸垂をする。在宅勤務中あるいは勤務中ではないが在宅時間が長くて、きちんと水分補給をする人なら、1日に数十回は懸垂をすることになる。懸垂ができなくても問題ない。バーのいちばん上の位置からなるべくゆっくり体を下げていくエクササイズをくりかえす方法で筋肉に負荷をかけるうち、筋力がつく。

レジスタンス バンド 、別名エクササイズ バンドはウェイトと同様の働きをするが、場所をとらない。厚みのあるゴム製で、長さ1メートル程度のループ型を購入しよう。薄いゴムのバンドは理学療法用なので、要注意のこと。片端を暖房配管に縛りつけ(暖房で配管が熱くならない夏期に限る)、バンドがピンと張る程度の距離に立ち、フェイス プルをする。つまり、バンドを顔の位置まで引っ張るわけだ。バンドの抵抗を感じなくてはならないが、体のバランスを崩すほどであってはならない。バンドの上に立って、ボートを漕ぐように引き上げる動作でもよい。

前腕、肘、つま先でうつぶせの姿勢を保つプランク、下半身を鍛えるスクワットやランジなど、体重を利用するトレーニングは疲れ果てるまで、あるいは足下のカーペットに汗が浸み込むまで、繰り返せばいい。週の4日は何種類かのボディウェイト トレーニングを組み合わせて行ない、残りの3日は体を休めるなり、ペットのインコと遊ぶなり、映画の脚本を書くなり、自由だ。

レベルアップ

ボディウェイト トレーニングに比べて回数が少なくてすむウェイト リフティングは、いちばん効率的なトレーニング方法だ。しかし場所をとるうえに重い。そこでケトルベルの出番。このトレーニング器具は、ウェイトが一端に集中した薬缶の形をしている。速く動かすとさらに重量感が増して、腱と関節を強化し、筋肉をつける。スピードをつけて弾道を描くように動かすと、有酸素運動にもなる。おまけにひとつかふたつで事足りる。7~16kg程度のものから始めよう。

ケトルベルを使うトレーニングはいくつもある。ベストな2種類は30分で覚えられるが、完全にマスターするには一生かかる。まず初心者向けのスイングは、地面を離れずに走り幅跳びをするに等しく、背中、腰、太腿の後ろ側など、特に体の後ろ側の筋群を鍛える効果がある。迷惑メールの処理作業で特にやられる部分だ。上級者向けのトルコ式ゲットアップは、仰向けに寝て肩の近くにケトルベルを置く姿勢から始まり、8つの段階を経て、ケトルベルを持ち上げて立ち上がった姿勢で終わる。これはともかく全身に効く。

ケトルベルのいちばん良いところは、頭を使わなくて済む単純さだ。これからの人生、1日に100回かその倍の回数のスイングを1週間に5日やり続けるなら、その他のトレーニングは一切必要ない。退屈そうだと思うのは大きな勘違いだ。スイングをものにするのは、盆栽を仕立てたり完璧なフランス風オムレツを作るのと同じくらい難しい。10年も経てば自分がやってきたことを理解し始めるだろうし、たくましく発達した脚ですっくと立てば、満足感を感じることだろう。

有酸素運動

ジムが称賛に値するのは、必ずあり余るほどのランニング マシンとエアロバイクがあることだ。僕には中庭があるからいいようなものの、キッチンで全力疾走するのはそれほど簡単なことではない。そこで自宅では違う種類の有酸素運動をやることになるが、同様の成果は出せる。要は、集中的な長距離走に類似した動きをすればいいわけだ。例えば、1日に15分の縄跳びを週4日やるのもひとつの方法だ。ジャンピング ジャック、腕立て伏せ、バーピーのような運動を1セットとし、1分全力でやって1分休むというタバタ式トレーニングもある。ローイング マシンも素晴らしい選択肢だ。使用後は折り畳めるものもあるが、公平を期すために言っておくと、折り畳んでもかなり場所をとる。

僕の理想は、Craigslistでファン付きのエアロバイクを手に入れることだ。厳密には、70年代に生産された、ブルータリズム彫刻みたいなシュウィン社製エアダインがいい。ファンがついているためにペダリングの負荷が増し、筋肉が鍛えられる。6分乗るだけでくたくたになる。だが僕のキッチンは小さすぎて、エアダインを置こうと思ったら、食洗機を捨てるしかない。使わないときにはメキシコ製の毛布をかぶせておけば、その下にバカでかいエアダインが隠れているとは誰も気づかないんじゃないかとも思ったが、そうするためにはコーヒーテーブルを処分する必要がある。

高機能器具と回復

ジムの価値は設備で決まる。そしてアメリカにある何千というジムの中で、多少なりとも良いと言えるのはほんの200〜300程度だ。グルート ハム デベロッパー(略称GHD)やリバース ハイパーなど、背骨に負荷をかけずに背筋を鍛える最高のマシンがあるジムはほぼ皆無で、非常に高額の専門的なエリート ジムでしかお目にかかれない。これはお粗末な不公平であり、みすみすチャンスを逃すことでもある。僕たちの多くは生活のためにデスクにかじりつき、背筋や臀筋や太腿裏側のハムストリング筋を損なっているし、筋肉を鍛えて回復するマシンがあれば徐々に問題を解消できるのだ。できないのは、ほとんどのジムにこれらのマシンがないから。GHDとリバース ハイパーの一方または両方があるホーム ジムは、間違いなく、アメリカ国内に散在するどのチェーンのジムよりも優れている。背中が痛む人は、場所さえあるなら、絶対にどちらかを手に入れるべきだ。ほかの人に使わせて使用料をとっても罰は当たらない。トレーニング後の筋肉の回復は、宇宙銃のような形のハンド マッサージャーTheragun、そしてエプソムソルトを入れた定期的な入浴で。さもなければ、昔の映画にあったように、誰かに背中を踏んでもらうこと。

やる気

何であれ、カネが絡んでないことにはなかなかやる気が出ない。だからこそ、人はトレーナーや栄養士にカネを払い、有料のクラスに申し込む。誰かに命令されたり指図されるほうが、一生懸命になる。もちろんこうしたカネの使い方が悪いわけではないが、それだけがトレーニングの動機であってはならない。怒鳴ってくれる人間がいつも周りにいるとは限らないのだ。

そこで僕からのアドバイス。これは僕自身にも役に立っているのだが、ジムに行かずにすむメリットに意識を集中しよう。運動したくはないが、しなくてはならない。そんなときでも、ホーム ジムなら最低限、マシンが空くのを待ったり、わざわざジムへ出かけたり、バーにショーツを置き忘れるといった大いにありえる失態を犯すことはない。自宅でのトレーニングは完璧ではないし、不十分な点もあるし、何もかもが揃っているわけではないが、手っ取り早くて、清々しく、純粋だ。一切混じり気なしのトレーニング、ただそれだけなのだから。

Sam Reissは『GQ』でビンテージの服についてのニュースレターを執筆し、Inverse.comではパワーリフティングと栄養学について執筆、また家具やデザイン、その他のテーマについて『GQ Style』、『ESPN』などで執筆している。Snake Americaのニュースレターは本となりShining Life Pressから出版されている

  • 文: Sam Reiss
  • アートワーク: Skye Oleson-Cormack
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: February 25, 2022