2024年秋
トレンドレポート

今、ベーシックが主流へ返り咲く

  • 文: SSENSE Editors

はっきり言って、「普通」のシーズンだ。1月から2月にかけて行なわれた2024年秋シーズンのランウェイショーを目にして以来、SSENSE エディターチームは秋を支配するトレンドについて意見を戦わせ、今、「ベーシック」で合意しつつある。現実に着られるメンズウェアとブラウンの膨張したウィメンズウェアの隆盛、優位に立つ白いソックスとその適切な長さ「正統の雪辱」を熟考し、「サブカルチャーの死」「ベーシックの復活」を宣言するファッション業界の友人知人の言葉に耳を傾けた数か月だった。春シーズンのスタイルがノームコアとその由来、 ノームコアを最初にとりあげたブランドを中心に論議されたのも、おそらく同じ状況だったのだろう。

実験精神を抑えたわかりやすいファッションへ向かう流れが、不安定なラグジュアリー市場の反映であることは言うまでもない。だが同時に、トレンドの寿命が数日で尽きる文化的背景の反映でもある。「控え目な慎み」が月曜日にバイラルになり、金曜日にはもはやそっぽを向かれる。とてもブランドが歩調を合わせることなどできない。消費者はどうか? ノア・ジョンソン(Noah Johnson)がGQで書いたように、猛烈なスピードでトレンドが生成され消滅するサイクルは、2021年にはバイブスを、2022年には美学を、そして2023年には時代を消し去っただけではない。ことによると、トレンドそのものを抹殺したのかもしれない。「すばらしいウェアがたっぷりあって、そのどれもがまったく背景を持たない」のだ。

そう言われたって、一体どうすればいいのか? 毎日何かを着なきゃいけないことに変わりはないし、もっと大切なのは、着るものに対して、やはり何かを感じる必要があることだ。

そこでファッションを超えた「今」を理解するために、SSENSE エディトリアルチームの面々はランウェイから世界へ視線を転じた。世界では、伝統的な暮らしの礼節とフラッシュを浴びながら床を転げまわってカオスを礼讃するパーティが正面衝突していた。時代に左右されない洗練されたルックがZ世代を魅了する一方、政治家たちは中道に迎合してミレニアル世代とZ世代の票を狙っていた。ジーンズの股上の長さが最大の論点になる上品なベーシックスタイルは、過剰なアクセサリー、過剰なレイヤリング、過剰な消費に戦いを挑まれていた。それが世界の「今」だ。

あなたも自分の目で見渡してみよう。

左:The Row (写真:Lukas Wassmann)。右:LEMAIRE (写真:Lukas Wassmann)。冒頭の画像:AURALEE (写真:Eva Losada)。

家庭生活を大切にするハズバンドたち

2024年メンズウェアのスタイルを見るのは、長寿トーク番組だった『ジェリー・スプリンガー(Jerry Springer) ショー』を見るようだ。父親のあるべき姿は? 信頼できる助言を与えてくれるのは? 今秋のファッションを体現する父親像は? 答えは、2度の離婚を経験した後の3人目の夫、家庭生活を大切にする父親だ。人生経験を積んで、酸いも甘いも噛みわけるが、ことさら自分を証明する必要も感じない。ジャケットとトラウザーズを組み合わせる程度のスタイリング感覚は持っているが、肩書きとか出世とか、どうでもいいことは気に掛けない。ノーネクタイで、ブレザーかmfpenのCarless コートAURALEEのゆったりめのスラックス、サンダルかおとなしいスリッポンのスタイルだ。LEMAIREは2025年春夏ショーで多様なデザインの外出ルックを発表したが、大半は用途に適した実用性が中心だった。早めのディナーへ出かけるのか、子供たちをサッカーの練習に連れていくのか、上から4番目のパートナー候補者に会いに行くのか? 外出の目的は何であれ、決して軽装過ぎず、かといって力みも感じさせない万能ルックだ。もしかしたら今年は女性大統領が誕生するかもしれない。立派な妻にふさわしい夫の心構えで、身なりを整えよう。 — ロビー・ケリー(Robby Kelly)

息を抜くオンライン ハウスワイフたち

世界の気候が不安を煽る今、家で過ごす時間や暇な時間にかなりの魅力を感じるのではないだろうか? であれば、明日も出勤だし今月も家賃を払わなくてはいけないにせよ、装いに新しい考え方をとり入れ、ファッションに自由を見出す道がある。これまでのすべてから完全にドロップアウトして、トラッド ファッションへ向かおう。頑張り一辺倒の文化から身を退き、牧歌的なシルエットや田園生活を思わせる肩の凝らないドレスを着よう。農場での毎週の写真撮影には、流れるようなSandy Liangのホワイト Opa ミディアムワンピース
がふさわしい。シリアルを準備するときは、コットンとサテンを使ったTao Comme des Garçonsのオフホワイト 刺繍 チュール ミディアムワンピースのような、自然素材のエプロン ドレスが良く似合う。農家を改築した自慢の自宅を見せるには、GANNIのホワイト アイレットレース ティアード ワンピースとカメラ用の三脚が必要だ。オンラインで対話を仕掛け、忠実なフォロワーを心酔させるには、Frankies Bikinisのホワイト Christabelle マキシワンピースがいいだろう。ただし、決して、コンテンツ作りの裏話を明かしたり手に入れる収益を仄めかしてはならない。社会から距離をとり、優雅に家事をこなしてみせるオンライン ハウスワイフをいちばん素敵に見せるのは、「無言の暗示」なのだから。 — ドーラ・ボラス(Dora Boras)

左から右へ:Coperni (写真:Eva Losada)、Courrèges (写真:Eva Losada)、Jil Sander (写真:Eva Losada)、S.S.Daley (写真:Eva Losada)。

伝統の礼節、新生のエキセントリック

『リアル ハウスワイフ~アトランタ』でネネ・リークス(Nene Leakes)が「アタシは大金持ちなんだから」と言い放ったのは有名な話だが、2024年秋シーズンのバイブスには彼女のセリフがぴったりだ。先祖代々富裕な家系に生まれ育った人たちには、無作法な発言に思えるかもしれない。だがいつの時代も、富はシックな美学をさりげなく伝達し、魅惑のスタイルを表現することができる。

抑制されたエレガンスからヤンチャなエキセントリックまで、富の美学は幅広い。古くから「カネは喋るが、富は囁く」という言い習わしがあるとおり、一方には、さりげなく富を示す技がある。クワイエット ラグジュアリーの出番だ。クワイエット ラグジュアリーは今も大きな場所を占め、時代に左右されないミニマルなデザインは「わかる人にはわかる」を自認するファッション通に熱愛される。最高品質のファブリックを使い、一部の隙もなく仕立てたスーツを想像してほしい。代表的なブランドには、流れるようなシルクのスリップドレス、カットの美しいトレンチコート、ありえないほどしなやかなレザーのローファーを提供するThe Rowが挙げられる。Bottega Venetaは同じくクワイエット ラグジュアリーながら、ラインの明確なシルク混紡のシャツ、クロコ型押しレザーのコート、リネンの揺れ動くミディドレスなど、テクスチャと華やかさを加味している。目玉が飛び出るほどの値札にもかかわらず、どれも時の試練に研鑽され、いつまでも長く魅力を持ち続ける確かさに鍵がある。

他方で話題になりつつあるのが、典型的な英国貴族の生活様式に関連するエキセントリックなスタイルだ。エキセントリックではあるが、完成されている。乗馬を趣味とし、草花が美しい庭の手入れをする。そうでなければ、田園地帯に屋敷を構え、暖炉の脇に置いたチェスターフィールドの長椅子に座って葉巻をくゆらせる。そんな美学に共感するのは、大自然を愛し、貴重な初版本を収集し、なおかつバハマ諸島で2か月を過ごせるほど時間的余裕のある人たちだ。だが、新生エキセントリックの源は英国貴族だけではない。普段の生活にプレッピー ファッションが君臨するアメリカ富裕層のルーツも、別種の源だ。いずれにせよ、プリント柄やテクスチャが大胆であればあるほど、ルック全体のインパクトも大きくなる。長年にわたり英国の伝統の旗頭を務めてきたBurberryがブランドを象徴するチェック柄のモヘアセーター、カーキのパンツ、ピローミュールの組み合わせで新生美学を成功させたのは当然だ。Bodeは、いかにもアメリカらしいカウンティフェア調のデザインでひねりを利かせ、ハンドメイドのツイードジャケット、レトロなプリント シャツ、クロシェ編みのベレーなど、独特な趣の貴族風スタイルを作り出す。2021年にHODAKOVAを立ち上げたエレン・ホダコヴァ・ラーソン(Ellen Hodakova Larsson)は、馬牧場で成長した過去を表現している。ウールのスーツパンツを逆さにした斬新なアイデアのスカートなど、アップサイクルを目指す造形的なデザインに郷愁が漂う。 — アレックス・ケスラー(Alex Kessler)

画像のアイテム:Praying スカートBottega Veneta シャツ

適合と秩序への回帰

2024年大統領選を揺るがす美学は「ベーシック」の一言に尽きる。ハリスーウォルズ(Harris-Walz)陣営のニュースに登場したカモ キャップはたちまち完売。その後もバーシティ Tシャツ無地のフーディなど、普通(すなわちノームコア)の定番アイテムを販売している。2016年の選挙では、ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)支持者がシークインを縫い付けた「I’m With Her」ミディドレスを着たものだが、今年の選挙ファッションに強い主張はまったくない。トランプ(Trump)陣営が繰り広げる過激で杜撰なミームの選挙活動と比べ、ハリスーウォルズは中道(すなわち中西部)を念頭に置いて、親しみを感じさせる普通人のルックを志している。

この状況とラグジュアリー ファッションはどう関係しているだろう? 確かにマイクロムーブメントは花盛りだ。しかしウォルズのフィールド ジャケットがトレンド記事を巻き起こしたとおり、大多数の人が「普通」を求めるのが2024年秋の現実だ。社会主流の消費者が好むのは、派手過ぎず、特別過ぎず、極端すぎないスタイルだ。例えばカモ キャップ、ジーンズのショートパンツ、馬に乗るためのブーツ、レトロなスニーカー、バンス クリップ、ブランド不明なブラウン レザーのキャリーオール バッグ、等々。東海岸はニューヨーク州ファイアー アイランドから西海岸はカリフォルニア州ロス フェリズまで、今や中西部美学がアメリカ全土を支配する。ここでひとつの疑問が浮かび上がる。混じり合えるとき、目立つ必要がどこにある? かくして、適合と秩序へようこそ。 — ステフ・ヨッカ(Steff Yotka)

左:VAQUERA (FW24 写真:Eva Losada)。右:doublet ジャケット.

2024年のヒップスター

またこの話へもどるのか? どうやら、そうらしい。2009年、『n+1』マガジンのオタクたちは「ヒップスターとは何だったのか?」と題するシンポジウムを開いた。「だった」という明確な過去形の使用はともかく、先ず最初に明らかにされたのは、1940年代後半から1950年代にかけて「ヒップスター」と呼ばれる人々が存在したことだ。その後1999年からの10年間も「ヒップスター」が復活したわけだが、当時の定義に次のようなものがある。「『ヒップスター』とは『ヒップな消費者』…物事の事情を心得ている文化人を指し. . . 特定のビンテージ Tシャツ、特定のジーンズ、さらに言えば特定の食品までを含め、一般的な大量消費分野における消費者の購入がアートの一形態であることを理解した人々を意味する」

2000年代初期の「ヒップスター」は、「インディ スリーズ」と呼ばれるマキシマリスト的美学を好んだ。身近な商品の特定の嗜好を懐かしむノスタルジーだ。例えば「トラッカー キャップ、アウターウェアとしてのタンクトップ(デトロイトで妻を撲殺した夫が着ていたことから「ワイフ ビーター」という汚名で呼ばれることもある)、地下の娯楽室に転がっていたようなポルノ、フラッシュ撮影したポラロイド写真、木材に似せた人工の板」など、挙げればきりがない。では2024年の「ヒップスター」はどんな人種だろう? おそらく、こぎれいなリッジウッド地区のアパート暮らしで、素敵な映画館メトログラフや洒落たバーを楽しめるクランデスティーノ辺りをぶらつくことが多い。映画記録アプリのLetterboxdに、エドワード・ヤン(Edward Yang)の映画に関する洒落たコメントを残す。ファッカーズ(Fcukers)を聴き、SSENSEにまつわるミームと場合によってはSSENSEがシェアしたミームを好む。着るのはPALYDoubletAshley WilliamsDsquared2VAQUERAMarine SerreABRA。君もヒップスターの一員かもしれない。僕もそうかもしれない。 — ロス・スカラノ(Ross Scarano)

画像のアイテム:132 5. ISSEY MIYAKE トラウザーズGerrit Jacob パンツAURALEE (写真:Eva Losada)、Coperni (写真:Eva Losada)、Diesel ブラレットY/Project パンツ

ライズの悩み

1990年代半ばにAlexander McQueenからヒップを露出する「バムスター」パンツが発表され、ローライズ トレンドの到来を告げた。センセーショナルなスタイルとして社会全体に広まったのは、パリス・ヒルトン(Paris Hilton)、クリスティーナ・アギレラ(Christina Aguilera)、リンジー・ローハン(Lindsay Lohan)など、セレブたちのおかげだ。その後の時間を早送りすると、街で見かける女子は一人残らず、Miu Miu風のスカートやパンツでローライズ ルックを謳歌するようになった。だが2024年を迎えて、ファッションは大きく旋回しようとしている。2024年秋冬ランウェイ ショーには、ハイライズの傾向が強く現れていた。問題はあなたの選択だ。

SSENSE本社のオフィスでも、いまだに幅を利かせているのはローライズだ。2024年秋冬ランウェイ ショーの全部がハイライズ トレンドに転換したわけでもない。例えば、Coperniのショーにはローライズしか登場しなかった。だが、Kiko Kostadinovその他のブランドはミドルライズからハイライズへ傾いているし、 AURALEEAMIRIのハイウエスト デザインは反響を呼んでいる。ローライズの時代は終焉を迎えつつあるのかもしれない。しかし、おいそれと引き下がることはないだろう。ミドルライズの存在も無視できない。丁度おへその下あたりまでカバーするから、ローライズと違って腹筋を鍛える必要もないし、着心地も良い。トレンドに左右されず用途の広いミドルライズは、影の英雄だ。— ヒュンジ・ナム(Hyunji Nam)

アクセサリーのアクセサリー

最新の「イット」バッグで完璧なルックが仕上がる時代は終わった。もはやバッグの役目は、内側に雑多な物を入れて持ち運ぶことではなく、スタイルを完成させるために欠かせないチャームや飾りで外側を装うことだ。ジェーン・バーキン(Jane Birkin)の飾らない精神を色濃く反映して多くの女性たちから熱烈に愛されたHermèsのバーキンは、進化を遂げて、バッグというアクセサリーにつけたアクセサリーが花形になる。ビーズのネックレス、スカーフ、キーチェーン、その他の装飾が主役となって、あなたのスタイリングをスタイリングする。Numberingのシルバー&ホワイト #9909 ブレスレットやSimone Rochaのホワイト フェイクパール バッグストラップ など、バッグの持ち手にパールを巻き付けてドレスアップしてはどうだろう。グラフィックなチャーム、クリスタル、ビーズを組み合わせたMarland Backusのシルバー&ピンク チェーン キーチェーンもおススメだ。スポーティなルックがお望みなら、カラビナをリメイクしたChopova Lowenaのシルバー&レッド Swirl Girl キーチェーン。ロッククライミングのジムで注目を集めることは間違いない。— ドーラ・ボラス(Dora Boras)

画像のアイテム:Moschino (写真:Eva Losada)、Conner Ives (写真:Eva Losada)、Dilara Fındıkoğlu (写真:Eva Losada)、Kiko Kostadinov (写真:Eva Losada)、JW Anderson (写真:Eva Losada)、VAQUERA (写真:Eva Losada)、Anna Sui (写真:Eva Losada)、Moschino (写真:Eva Losada)。

限りなくナンセンス

何がトレンドを決めるのか? 単にオンラインに現れた傾向か? ハリウッド スターやニッチなインターネット セレブのお墨付きが必要なのか? いや、もうひとつ、思いがけない視点がある。もし仮りに、共通項がありそうもないトレンドの断片の寄せ集めからスタイルが生まれたら? それこそがトレンドではないか! 意味不明のスタイリング、ナンセンスなファッションだ! ありとあらゆるテクスチャを組み合わせるChopova Lowenaに目を向けてみよう。バギーなブルージーンズの上にプリーツのカラビナ ミニスカートを重ね穿きして、中世の雰囲気を漂わせるポインテッドトゥのレザー ブーツを履く。パンツの上にスカートを重ね穿きするなんて、訳がわからない。そこがポイントだ。ALL-INには、ランダムな素材を組み合わせたスカート、シークインとジャージとレースのミックス、フワフワの白犬が描かれたブリキ缶の蓋がある。スカートは前が長く、後ろが短い。まったくクレージーだ! わかってる! さらに崩れたシルエットのレザー ブーツ、花のアップリケがついたモヘアのクロップ丈ホルターネックを組み合わせれば、純粋なカオスの完成だ。大切なのはそこ、不条理な組み合わせであればあるほど素晴らしい。— アレックス・ケスラー(Alex Kessler)

  • 文: SSENSE Editors
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: August 26, 2024