ジャパニーズ ブレックファスト
ソウルへ帰る
回想録『Hマートで泣きながら』の大成功とアルバム『Jubilee』のグラミー賞ノミネートを体験した後、ミシェル・ザウアーは生まれ故郷の韓国へ戻ることを決めた
- 文: Hyunji Nam
- 写真: Peter Ash Lee

2024年の終わりも近づき、斬新なファッションと広告が密集するソウル特別市カンナム区のノニョンドンにも、年末のお休み気分が漂っている。そんな中、とあるスタジオのヘア&メイク室へミシェル・ザウナー(Michelle Zauner)が入ってくると、温かいエネルギーで室内の雰囲気が一気に明るくなる。丁寧にお辞儀をしてスタッフのひとりひとりに挨拶するミシェルから、親しみと落ち着きが放散する。 いかにも、経験を積み、ステージに立つことに慣れたK-POPアイドルにふさわしい。「まぁ、韓国語が上手ね」とひとりのスタッフが褒めると、ミシェルはお礼を言う代わりに、謙遜する。「まだ全然ダメ!」
韓国人の母とユダヤ系アメリカ人の父のあいだに生まれたミシェルは、この1年、ソウルのソガン大学でみっちり韓国語を勉強してきた。生まれはソウルだが、1歳の誕生日を迎える前に一家はオレゴン州ユージーンへ移住した。アメリカで成長しながらも、夏になると韓国へ里帰りする習慣を大切に守り続けていたが、完全に韓国語の学習環境に飛び込むのは初めてだ。ミシェルの心の中では、「1年も韓国で暮らしたら、あっという間に話せるようになるわよ」と繰り返した母の言葉がこだましていた。
母イ・チョンミ(Lee Chongmi)の存在はミシェルの創作に深く影響し、音楽にも著作にも影響が色濃く表れている。その母が癌で逝ってしまった後、ジャパニーズ ブレックファスト(Japanese Breakfast)として発表したデビュー アルバム『Psychopomp』(2016年)は、サウンドによる喪失の表現だ。アルバムカバーには、母がフィルムカメラで撮影した写真が使われている。韓国人だった母の「味」の記憶を中心に、母との関係を振り返った回想録『Hマートで泣きながら』は高く評価され、出版と同時に『New York Times』ベストセラーに入った。韓国語にも翻訳されて大きな成功を収め、すでに第17刷が発行されている。
Sandy Liangの花柄のフェイクファー ジャケットを羽織ったミシェルは、鏡の前に坐り、ヘア&メイク チームと韓国語で会話している。「今日の撮影はすごく楽しくなると思うよ」と、期待に顔を輝かせる。コンセプトは1980年代のソウル。ミシェルの母の世代が暮らし、私たちは両親の写真アルバムから想像するしかない街の光景だ。1980年代はソウルが急速に変貌を遂げた時期だった。あちこちに高層ビルが出現し、夜間外出禁止令が解除され、国民の海外旅行が自由化された。民主化運動からソウル オリンピックにかけて、社会と政治が劇的に変化した10年だ。
撮影はウルチロのSeun Arcade Caféでスタートした。韓国にコーヒー文化が根を下ろす前、常連がお茶を啜っていた当時の雰囲気を残す、昔ながらのカフェだ。撮影の合間に、ミシェルは韓国の古いファッション雑誌をめくり、まるでタイムカプセルを開けたように夢中になっている。次の撮影場所はトンジャク大橋。背景のハンガンとナムサンタワーが、えも言えぬ雰囲気を醸し出す。最後に、伝統的な様式の結婚式場。レトロな魅力がいっぱいだ。撮影が終わった後、ミシェルはフォトグラファーのピーター・アッシュ・リー(Peter Ash Lee)と夕食を共にした。テーブルの上には、チャジャンミョン、チャンポン、タンスユクなど、中国料理と韓国料理が入り混じったお馴染みのソウルフードが並ぶ。タンスユクのソースは多いほうがいいか、少ないほうがいいか、ふたりは笑いながら言い争っている。そんないかにも韓国らしい時間が、すっかりミシェルの身についている。
一方で、ソウルを去り、ニューヨークへ戻らなくてはいけないことを恐れる気持ちも芽生えていた。「ほろ苦い感じ」とミシェルは言う。だがすでに、スケジュールは埋まりつつある。2025年の3月に4番目のアルバム『For Melancholy Brunettes (And Sad Women)』のリリース、続いてワールドツアー、コーチェラ フェスティバル、韓国での暮らしをテーマにした2冊目の執筆。ミシェルが歩む道のりは、一歩一歩が深く彼女自身に関わっている。常にアイデンティティ、喪失、帰属、そしてもちろん韓国の味を見つめる。

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ヒュンジ・ナム(Hyunji Nam)
ミシェル・ザウナー(Michelle Zauner)
ヒュンジ・ナム:韓国で暮らしたこの1年で、韓国語はどの程度上達しましたか?
ミシェル・ザウナー:正直なところ、かなり悪戦苦闘してる。帰ってきたときは、自分の韓国語が実際より上だと勘違いしてたのよ。確かに読み書きはできたけど、俄然語彙が少ない。すぐに知識不足を思い知ったわ。私は半分韓国人だから、両親がふたりとも韓国語を話すキョポ(韓国外の同胞)みたいな基礎がなくて、なかなか上達しない。
レベル1から初めて、頑張って、ようやく今レベル4。1年後にアメリカへ帰るときは流暢に話せるだろうって期待してたけど、全然現実的じゃなかった。結局、言葉っていうのは一生続く関係なんだよね。そのことがわかったわ。でも今のところは、この1年の進歩を誇りに思ってる。ちゃんと有意義な会話をできるようになったし。ときどき曖昧になることもあるけど、それでも意味のある話ができる。ただし、仕事や複雑な内容を韓国語で話し合うのは、まだちょっとレベルが高すぎ。
すぐに覚えた言葉や文章はありますか? 流行語とかミームになる言葉とか?
言葉では、「kkondae (꼰대)」、昔風の人や団塊世代のこと。「no-jam (노잼)」は「つまらない」。「inssa (인싸)」もよく耳にしたな。あちこちで引っ張りだこの活動的な人、クールな人とかコネが多い人みたいな誉め言葉。だけど私がいちばんよく使うのは「yuk-shi (역시)」じゃないかな。誰かがいかにもやりそうなことをやったときにぴったりなのよ。「ああ、だろうね」みたいな感じ。私の仲間うちで流行ってるジョークは、昔のドラマを観て覚えた「Gyoyang jom chariseyo」。「少しはお行儀良くしなさい」って意味。色んな場合で使えるけど、いつでも大爆笑よ。
“韓国で暮らして、とても楽しい体験をしたけど、本当に文化を理解しようと思ったら、欠陥も認める必要があるでしょ”
韓国での1年を振り返って、大切な思い出や印象に残る思い出はありますか?
イ・ミンフィ(Lee Min-Hui)やイ・ラン(Lang Lee)とやったコンサートが、特に記憶に残ってる。権利を重視してた公務員雇用制度から身体障害者が締め出されてしまったから、その人たちの復職を支援する非営利の団結コンサートだったの。ミンフィやランみたいに素晴らしい仕事をしてる女性とコラボすることには、すごく特別な意味があった。強い繋がりを感じたし、韓国でたくさんの人たちと有意義な友情を持てたことも実感できた。
韓国は多くの社会問題を抱えています。同性婚とか差別禁止法とか、他の国では法律で認められていることが韓国では立ち遅れている(ミシェルが韓国を去る直前にも、戒厳令と抗議の弾劾運動が発生した)。韓国で暮らしてみて初めて知った社会問題、気懸りな社会問題はありますか?
韓国では、女性の権利が米国ほど保証されてないよね。性的平等、賃金格差、リーダーシップの機会も、韓国は大きく出遅れてる。「フェミニズム」がまるで汚い言葉扱いなんだもの。進歩派でさえそうだから、びっくりしたわよ。基本的な性的平等のために戦ってる友人もいるけど、他の国では基本的人権として認められていることを擁護するのが、過激だと思われてる。
一方で、マイノリティグループがお互いに助け合っていることに、とても感動したわ。韓国はすごく均質な国だから、LGBTであれ障害者であれ、少数派のグループが結束するの。どれも小さいコミュニティだから、互いに支え合う。その連帯が素晴らしいから、私もコンサートに参加したいと思ったの。韓国で暮らして、とても楽しい体験をしたけど、本当に文化を理解しようと思ったら、欠陥も認める必要があるでしょ。あのコンサートは、問題に光を当てると同時に、困難を乗り越える力を認識する機会だったと思う。

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ピョンヤン ネンミョン(平壌冷麺)ならEulmildaeがソウルでいちばん美味しいって言ってたけど、地元の人が行くお店で、韓国を訪れる外国人に薦めたいのは?
ちょっと待って、地図を出すから! さてと、Myeongdong Kyojaはもう有名よね。あそこのカルグクス(包丁で切る麺)とキムチは絶品よ。過大評価だって言う人もいるけど、私はそうは思わない。Okdongsikのクッパ(豚肉と米のスープ)もすごくおいしいけど、大抵行列待ちだし、韓国の電話番号がないと予約できない。ニューヨークにも支店があるのよ。タッカルビ(鶏肉のスパイシーな炒め焼き)なら、シンチョンに私の大好きな店があるわ。昔風のお店で、居心地がいいの。しょっちゅう行くから、お店の人がもう私の顔を覚えてる。ああ、それから定番のジョン(韓国風パンケーキ)を食べたかったら、絶対Yennal Gamjajeonのカムジャジョン(ジャガイモのパンケーキ)を試してほしいな。
では、近々リリースされるアルバムについて教えてください。
私にとっては初めてのスタジオアルバムで、1月に発表、3月にリリースの予定(新アルバムからのシングル『Orlando in Love』は1月にリリースされる)。音楽を作り始めてもう10年以上になるけど、これまではずっと友達のスタジオか間に合わせのセットでレコーディングしてきたの。それが今度はSound Cityでレコーディング、プロデューサーはフィオナ・アップル(Fiona Apple)やパフューム・ジーニアス(Perfume Genius)やアラバマ シェイクス(Alabama Shakes)を手掛けたブレイク・ミルズ(Blake Mills)よ。この前のアルバムは喜びに溢れた雰囲気だったけど、今度のは少し物悲しい感じ。ギターが中心で、歌詞も複雑で、ちょっと暗いけど、いちばんいい意味で暗い。
セソニョン(Se So Neon)のファン・ソユン(Hwang Soyoon)をはじめ、韓国のインディー系ミュージシャンともコラボしていますね。シリカゲル(Silica Gel)やヒョゴ(HYUKOH)といったバンドも、韓国の若い世代の音楽を作り出しています。韓国のインディー系の音楽界をどう思いますか?
韓国の音楽界に携わってる人たちは、レベルが高くて、本当に感心してる。インディー系でも、驚くようなテクニックを持ってるもの。バーミング タイガー(Balming Tiger)のようなバンドも、イ・ミンフィ(Minhwi Lee)やイ・ラン(Lang Lee)みたいなミュージシャンも、みんな素晴らしい仕事をしてるし、もっと注目に値すると思う。だけど、難しいのもわかるんだ。韓国にはツアーのルートが無いに等しいから、インディー系のミュージシャンには色んな困難があるよね。米国ではミュージシャンが収入を得るためにツーリングが欠かせないけど、それに比べて、韓国での選択肢は少ない。だからこそ、韓国アーティストの独創性や音楽への献身には余計に刺激を受けるわ。
あなたの音楽が典型的なK-POPと非常に違うのは確かですが、将来コラボしてみたいK-POP アーティストはいますか?
私がコラボしたいと思うミュージシャンで、おそらくいちばん相性がいいのはアール エム(RM)じゃないかな。RMのクリエイティブ ディレクションをしてるサンヤン(San Yawn)とは知り合いなの。すごく才能のあるクリエイター。特に『Indigo』アルバムが大好きで、強烈な印象を受けたわ。RMは素晴らしい人みたいだし、いつかコラボできたら嬉しい。
ニュー ジーンズ(New Jeans)も大好きよ。間違いなく今好きなK-POPに入るし、いつか一緒に仕事してみたい。それから私、アイドゥル((G)I-DLE)のソヨン(So Yeon)をすごく尊敬してるんだ。グループのプロデュースでも、それぞれのメンバーとの関係や特にボーカルの面でも、彼女の個性と性格が光って、すごい情熱を感じる。

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韓国の親はとかく、新聞やテレビに出ることで有名度を計る傾向があります。『Hマートで泣きながら』は、バラク・オバマ(Barak Obama)の推薦図書に選ばれたり、『New York Times』のベストセラー入りをしたり、大きな成功を収めました。親戚のみなさんの反応は?
叔母さんはすごく喜んでくれてる。事実、今回の帰国では、それがいちばん貴重な経験のひとつになったわ。私、長い間本当には家族がいないような気がしてたから、さっき話したレストランのオーナーもそうだけど、応援してくれる人、私を誇りに思って自慢してくれる人がいることに、すごく大きな意味があるの。私の物語を知ってもらって、私の母、母と一緒に歩んだ道のりに感謝する機会が持てたのは、とても光栄だと思う。あの本を書けたのは、私自身だけじゃなく、親戚のみんなにとっても素晴らしいことだったわ。
『Hマートで泣きながら』では、出てくる料理を全部韓国語の発音で書いていますね。以前は韓国の文化を西欧の読者に合わせて、キムチチゲを「キムチのシチュー」、テンジャンチゲを「味噌味のシチュー」などと表現したものですが、韓国語の発音にこだわった理由は?
あれが私の話し方だから。私、「キムチのシチュー」なんて絶対言わないもの。私が食べてるものや友達に食べてほしいものを全部、私が普通に友達に話すときのように書いたの。韓国人の読者をわかりきった説明でうんざりさせるより、ストーリーに引き込みたい。韓国人以外の読者は、好奇心を刺激して、興味を持ったらもっと韓国文化に深く踏み込んでほしい。韓国人の友達や韓国人じゃない友達と一緒にテーブルを囲んで、話しかけてる感じ。それが、私自身の自然な声でストーリーを語れる手法だったわ。
以前、トック(餅菓子)みたいにネッチリした食感は外国人に好まれないと思われていたけど、今はトッポッキが人気だし、考え方も変化していますね。
そのとおりよ。おかしなことに、外国人が韓国へ来ると、韓国の人は高級な韓国料理のフュージョンレストランへ連れていこうとするでしょ。西欧人にも韓国の伝統料理を楽しむ人が多いのに、そのことを知らないのかもね。私の友達のほとんどはキムチチゲの大ファンだし。
韓国の人は流行に固執するところがあるよね。例えばTrader Joeのキンパが大人気なのを見て、外国人はああいうのが好きなんだと思い込む。だけどこの何年かで世界の味覚はとても拡大して、私たちが思う以上に、新しい食べ物を受け入れるようになってる。
韓国の文化には、冒険的な料理を紹介することへの気配りというか、おそらく多少の躊躇いがあるんじゃないかな。韓国料理には強烈なものがあるし、必ずしもあらゆる人が美味しいと思うものでもないから。だけど時代は変わってる。もちろん全部の人ってわけにはいかないけど、大半の人は冒険的な味を受け入れる準備ができてると思う。私たちの味覚がどんどん進化していくのは、すごくエキサイティング。
YouTubeやTikTokでも、最近は韓国料理専門のアカウントが急増してますね。以前はマンチ(Maangchi)がいたけど、今は「きゅうり男」の異名をとるローガン(Logan)がTikTokの有名人です。興味を持っている韓国料理コンテンツはありますか?
インターネットには近づかないようにしてるんだけど、実は、すごくクールなドゥビドゥバップ(Doobydobap)が大好きなんだ。ほかにもフォローしてるアカウントがいくつかあって、先ず、料理番組の『ミーノイ(Meenoi)のよりぞり』。私の場合、料理より韓国語の学習という面が強いけど、すごく役に立ってる。動画を見て、初めて知った言葉をメモして勉強するの。「yeolbatda」(キレる)みたいなスラングを覚えたのもミーノイから。Balming Tigerのオメガ・サピエン(Omega Sapien)とSPNS TVのポッドキャストもファンよ。つい最近、友達のジャングル(Jungle)が出演したばかり(ザウナー自身も出演]した)。どれも面白くて、いつも次が楽しみ。
“1年間お母さんと話していなかったけど、私の本を読んだ後、電話をしたって教えてくれた読者もいるわ”
私自身、カナダへ越した後、韓国食品店の通路を歩いてるときに胸がつまって、あなたの本を思いだしました。読者から、思いがけない反応や記憶に残る反応が寄せられることはありますか?
お母さんと喧嘩をした後で私の本を読んだら、最後は涙が止まらなくて、電話でお母さんをランチに誘ったなんていう感想を貰うと、とても嬉しい。そういうのが、私が本当の願いだったの。私と同じようにお母さんとの関係がもつれてる読者をちょっと後押しして、私ほど遅くならないうちに色んなことを整理してほしくて…。
1年間お母さんと話していなかったけど、私の本を読んだ後、電話をしたって教えてくれた読者もいるわ。あれやこれやでものすごく大変なときに、お母さんが手作りの料理を持ってくるのがものすごく煩わしかったけど、私の本を読んで、それがお母さんなりの愛情の表現だとわかったっていう読者もいる。私が書いたものがそういう理解のきっかけになったことを聞くと、謙虚な気持ちになるわ。

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Michelle着用アイテム:Sandy Liang グリーン Hunter トップス 、Justine Clenquet シルバー Daria クリスタル ピアス 。
映画化は進んでますか?
ああ、それは今中断してる。ハリウッドのストライキで問題が起きて、監督がプロジェクトから降りちゃったから。1年がかりで脚本を書いたのよ。大変だけど、やりがいのある作業だったわ。いつかきっと映画になると確信してるけど、近い将来じゃないね。それに今はほかのプロジェクトに集中してるから、映画は少しお預け。
近年は韓国系アメリカ人の作家が活躍していますが、その傾向を後押ししているのは何でしょうか?
出版社が以前より多様性を受け入れるようになったこと、読者もそれを求めてること。多分ゆっくりとだけど、アジア系アメリカ人のライターに与えられる機会が少しずつ増えていくんじゃないかな。それはすごく嬉しいことだし、その一端に参加できるのは光栄だと思う。これまでもずっと素晴らしいアジア系アメリカ人のライターはいたはずだけど、チャンスがなかった。時代は変わりつつあるし、今の私たちがあるのは、前の人たちが戦ってくれたおかげよ。
執筆に取り掛かる本は、アルバムと繋がりがありますか?
まるで別物。本のほうは、去年から書いてる50万語以上の日記を材料にして、来年ストーリーに仕立てるつもりだから、完成までに少なくとも後2年はかかる。今度は過ぎた時間を書く点が、リアルタイムで書いた『Hマートで泣きながら』とはすごく違うわ。時間がかかるだろうけど、完成するのが楽しみ。
“この前はレコードが陽気で、本は重くて深刻だったけど、今度は逆。レコードがメランコリックで、本は楽しくておかしい。ハッピーな気持ちになってもらえると嬉しいわ”
韓国語を学ぶことがテーマだそうですが?
そう、韓国語を勉強することがテーマだけど、当然、私の生活にも関わってくる。韓国語は、お母さんが「1年韓国で暮らしたらペラペラになるわよ」っていつも言ってたから、本当にそうなるか、試したかったの。それと、この3年は本もレコードも成功したでしょ。まるで宝くじに当たったような気分だったわ。人生が変わるような大きな経験だったけど、同時に、宝くじの当たり券を失くしちゃうのがすごく怖ろしくなった。それでプレッシャーと恐怖に圧倒されて、どうしても一休みする必要があったの。
ずっとツアー続きだったしね。だから1年仕事を休むことに決めた。そしたら、いちばんやりたいのは、韓国で暮らして、言葉を勉強して、どこまでやれるか確かめることだったのよ。出版社も協力的で、書きたいものを書いていいって言ってくれた。だから、今度の本はその1年間の記録。韓国語の勉強、体験、その他色んなことの考察。
前の本よりはるかに軽いわよ。10代ばかりの教室に30代が混じって限界に直面するんだもの、やらかす言葉の間違いは抱腹絶倒。この前はレコードが陽気で、本は重くて深刻だったけど、今度は逆。レコードがメランコリックで、本は楽しくておかしい。ハッピーな気持ちになってもらえると嬉しいわ。

Michelle着用アイテム:Dries Van Notenイエロー クレープ ブラウス、Dries Van Notenブラウン ティンセル ミディアムスカート。
あなたは韓国の要素をスタイルに取り入れていますね。指にはテグッキ(韓国の国旗、太極旗)のトリグラム、手には松と鶴のファトゥ(韓国花札)のタトゥー。あなたを形作っているのは、「韓国らしさ」のどんな要素ですか?
私は韓国人であることを誇りにしてるし、韓国文化の色んな側面が私の人格を形成してる。言葉で説明するのは難しいけど、周囲への気遣いもそうだと思う。ほら、「ヌンチ」よ。自分以外の人たちが感じてることや必要としていることを察する直感。長所にも弱点にもなるけど、私の核のひとつであることは確かね。そういうふうに育てられたの。
創作の面でも、成長しながら吸収した韓国文化との繋がりを使ってる。例えば、アルバムのデザインにチャゲ(韓国伝来の螺鈿)を提案したのは、レコードのアートディレクションを担当してくれた友人のミンチェ(Minche)よ。海をテーマにした音楽と私たちが共有してる伝統を結びつけるのは、とても自然だったし、大きな意味があったわ。
“私のお母さんは、私がアーティストの道を選ぶのをすごく心配してたし、絶対に間違いだと思い込んでた。だけど、もしお母さんの言うことに従ってたら、今の私はなかった”
韓国では、長女が犠牲を強いられることがよく知られていますが、そういう両面的な家族関係をどう思いますか?
家族によって力関係が違うから、一言で言うのは難しいよね。虐待とかある場合は、生きていくために家族との絆を断ち切る人もいるでしょ。自分にふさわし人生を生きるために、家族との境界線を引く人もいるだろうし。今年、長女だった叔母さんの体験や長男だった叔父さんの苦労を詳しく知ったの。ふたりともすごく大きなプレッシャーをかけられてた。一人っ子だった私もお母さんの期待と戦わなきゃいけなかったけど、その上伝統に縛られた役割を押し付けられるなんて、考えられない。
家族って複雑ですね。愛情と憎しみが同時にある。
そう、エーチョン(愛憎)ね。私のお母さんは、私がアーティストの道を選ぶのをすごく心配してたし、絶対に間違いだと思い込んでた。だけど、もしお母さんの言うことに従ってたら、今の私はなかった。両刃の剣よ。私自身の言葉で『Hマートで泣きながら』を書かなかったら、私は今ここにいるだろうかって考えることがよくあるの。今振り返れば、家族は私を守ろうとしただけ、ってことがわかるわ。親は子供に最良のものを願う。だけど、広い視野を持てないこともある。
10年後にはどうしてると思いますか?
韓国とアメリカの両方を行き来しながら暮らして、インタビューをこなせるくらい韓国語が上達してるといいな。来年は新しいレコードのツアーをして、2~3年後には本を完成して、いつかは脚本を書いて、監督もやってるかも。母親にもなりたい。ずっと持ち続けてる夢よ。

Michelle着用アイテム:Shushu/Tongシルバー ノースリーブ ミニワンピース、Simone Rochaブラック Crystal Flower リボン バレッタ、Justine Clenquetシルバー&ホワイト Betsy チョーカー。
- 文: Hyunji Nam
- 写真: Peter Ash Lee
- スタイリング: Hyunji Nam
- タレント: Japanese Breakfast aka Michelle Zauner
- ヘア: Miyeon Jo
- メイクアップ: Huijung Hwang
- ネイリスト: Jisook Choi
- プロダクション: Boyeon Hur
- スタイリング アシスタント: Juyeon Ko
- Webデザイン: Jaime Salgado, Kristina Vannan
- Web開発: Kristina Vannan
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: January 30, 2025




