チーム RMは「いるべきではない場所にいるべき人々」

RMを囲むクリエイティブなチームが、BTSを超える新たなK-POPの展望を切り拓く

  • 文: Hyunji Nam

防弾少年団(BTS)は、ここ何年も、世界的な知名度を誇るK-POPグループだ。そのリーダーとして生きる日々を想像してほしい。圧倒的な名声は、甘美であるより重荷となる。しかし大多数の人には背負いきれない重責を、アールエム(RM)は11年間、物議を醸すこともなくこなしてきた。国連本部で3回のスピーチとパフォーマンスを行ない、グラミー賞にノミネートされてパフォーマンスを行ない、ホワイトハウスでジョー・バイデン(Joe Biden)大統領と会見してアジア系に対する憎悪犯罪への対策を話し合った。RMとBTSのメンバーたちは単なるセレブにとどまらず、韓国の文化大使という役割を果たしてきたが、常にその先頭に立つのがRMだ。アーティストが信念、明晰な知性、謙虚さを備えた公人であることを求められるうえ、儒教の特性も色濃く残っている韓国で、次第に、RMは完璧に近い人物像の鋳型にはめられてしまった。

写真:ロージー・マークス。冒頭画像:サンヤンとRM、写真:TEAM RM。

RMが自分自身を問い始めたのも当然だ。今年の初めにBTSのメンバーであるジミン(Jimin)と交わした対話では、「あらゆる人の期待に応え続けたら、死んでしまうような気がする」と語っている。RMというペルソナの背後で、現実の青年キム・ナムジュン(Kim Namjoon)は、アーティストとしての自分を証明する必要性をひしひしと感じていた。そんな熱い欲求をあますところなく表現したのが、新アルバム『Right Place, Wrong Person』だ。BTSが掲げた「Love Yourself ー 自分を愛そう」という愛と希望のスローガンから離れ、「世界にはどうしようもない奴らがたくさんいる」と率直に認めるRMは、これまでとは違うRMだ。

「RPWP」制作中のRM。写真:TEAM RM

RMに必要なのは、従来のK-POPの語りを覆す新たなアプローチとそこに命を吹き込むチームだった。RMのアイデアは、サンヤン(San Yawn)と対話を続けるうちに形になっていった。現在、韓国でもっとも興味深いオルタナ ミュージックを牽引するバーミング タイガー(Balming Tiger)のリーダー/ディレクターだ。「BTSをちょっと休憩して、色んな体験をしてきた個人としての君をドキュメントしてみたら?」というサンヤンの助言から、RMは韓国の成年男子に課せられる兵役前に2枚目のソロアルバムを制作しようと決意した。

入隊の時期が迫るなか、チーム RMが結成された。サンヤンがプロデューサー兼クリエイティブ ディレクター、ジャンクヤード(JNKYRD)がプロデューサー、セフン(Sehoon)がA&Rを引き受けた。制作に1年以上をかけたプロジェクトには、ソクジュン(Seokjun)、ジミン(Jimin)、スビン( Soobin)、リョータ(Ryota)、マヒト(Mahito)といったクリエイターたちも参加した。サンヤンは「RMを取り巻く創作環境を根こそぎ変えようと思った。そのためには、BTSのリーダーを作り出すことに力を貸した人たちではなく、まったく新しい視点を提供できる人たちが必要だった」とSSENSEに語っている。

RMは、ソーシャル プラットフォームWeverseで、「自分自身に対して100%正直になろうとしたアルバムだ」と説明している。RMは、どの作品でも、傷つく弱さと成長への欲求を表現するから人々に愛される。だが重要なのは、何であれ、ポップ カルチャーには必ず賞味期限があるのをRMが理解したことだ。アーティストであり続けるには、自分を打ち壊し、再建し続けなくてはならないことも理解した。RMにとって、チーム RMは破壊と再建の場だ。

「ㅠㅠ (Credit Roll)」ビデオ撮影中のRM。写真:TEAM RM

アルバムのタイトルが『Right Place, Wrong Person』になった経緯は?

サンヤン:RMと今回のプロジェクトをスタートすることになった頃の、ある出来事に繋がってるんだ。実は僕は冗談交じりに「今まで、一体どうやってイメージを守ってきたんだ?」ってRMに尋ねたことが何度かある。否定的な意味じゃなく、沈着で、礼儀正しくて、頭が良くて、ファンの親たちにも愛されるアイドルNO.1というペルソナのことだよ。実際のRMが別人格というわけじゃない。ただ、RMには色々な面がある。不器用な場合もあるし、難解な哲学的文章を理解する一方で簡単な言葉に躓くこともある。家で本を読むのが大好きだけど、夜遅くまで友だちと遊ぶのも好き。僕の友だちのなかでも、最高にユニークで矛盾した部類に入るね。

ともかく、アルバムについて話し合うために、ふたりで寺へ行こうとしてたんだ。雪が降りしきってる日でさ。僕らふたりともすっかり雪景色に夢中になってたせいで、標識のない道に迷い込んだのも気が付かず、結局行き止まりになってしまった。そしたらRMが笑いながら「ここは僕らがいるはずの場所じゃないよな(wrong place)」と言ったのが、僕には意味のある言葉みたいに聞こえて、メモしておいた。後になって、BTSのマネジメント会社のHYBEでミーティングをしてるときに僕がその「いるべきではない場所(wrong place)」を持ち出したら、RMが「Right Place, Wrong Person(いるべき場所、いるべきではない人)」を提案したんだ。それは僕の目に映ったRMのイメージを完璧に表していると思ったし、たくさんの人が関連を感じられる言葉だという気もした。

今回のプロジェクトの制作には色んな場所が関わっていますが、始まりは?

セフン:2023年の2月にソングライティング キャンプをやって、その後はスタジオに集まって曲作りを続けた。ソウル以外で最初に作業セッションをやったのは2023年5月、場所はカピョンにあるミュージック ビレッジ音楽駅1939だったな。チーム RMのほかに、ヒョゴ(Hyukoh)のオ・ヒョク(Oh Hyuk)とイ・インウ(Lee Inwoo)、落日飛車(Sunset Rollercoaster)のクオ(Kuo)も参加して、一泊二日で頭の中を整理して、「Come back to me」の下書きを仕上げた。気が向いたらファチョンにある湖やチェジュの海みたいな静かな場所へ行って、夜遅くまで話し合ったり歌を考えたこともある。東京とロンドンも忘れられない場所だよ。BTSは有名だけど、少人数のクルーで動いて、裏通りでアルバム用の写真やビデオを撮影したんだ。RMは、最初のミックステープを作った後、友だちと一緒に山湖公園や漢江やホンデをうろついてデモ作りをしてた頃を思いだす、と言ってた。

「Groin」ビデオ撮影中のRM。写真:TEAM RM

「RPWP」レコーディング中のRM。写真:TEAM RM

ハラハラするような出来事もありましたか?

JNKYRD:イギリスで一度、どうしようもない事情から、撮影場所を前日の夜に変更する羽目になったことがある。直ぐにメンバーに連絡して、新しい撮影場所を確保して、深夜まで下調べして、翌朝撮影。めっちゃハラハラしたけど、最終的にNutsのライブ ビデオを撮り終えた。あれだって、少人数のチームだからこそできたことだと思うね。迅速に対応したから、最初の計画よりもっとスタイリッシュで自然な出来上がりになったし。

リトル・シムズ(Little Simz)、ドミ(Domi)&JD ベック(JD Beck)、モーゼス・サムニー(Moses Sumney)たちとの共同作業はどうでしたか?

JNKYRD:どれも気持ちのこもった本物のコラボだった。ドミ(Domi)&JD ベックもモーゼス・サムニーも、最初にZoomでこちら側を自己紹介して、僕たちの音楽づくりやコラボの方法を話し合った後で実際の作業を始めたんだ。みんな温かくて親切だったから、時間をかけて、何度もレコーディングとアイデアをやりとりできた。

リトル・シムズの場合は、両方がたまたま同時にロンドンにいるとき、一緒に一曲作ろうって決めただけ。スタジオを訪問して中を見学してるうち、自然に曲作りが始まったんだ。初めて会ったのにすごく気が合って、リトル・シムズはその場で歌詞を書いて、レコーディングまでしてくれたんだぜ。歌詞の最後の部分だけ韓国語に訳して、って頼まれた。

写真:水島貴大

3人の写真家が撮影したビジュアルも印象的ですが、それぞれのレンズを通して伝えたかったビジョンは?

サンヤン:音楽が伝えるエモーションと表現を延長するビジュアルが欲しかった。ナムジュンの色んな面を、フィルター無しに、別の視点から見せるビジュアル。背景も年齢も異なる写真家が、それぞれにどんな視覚のストーリーを語ってみせるのか。そこに興味があった。

ロージー・マークス(Rosie Marks)は英国の新人で、彼女の作品は僕の好みにぴったりなんだ。ずっと前から一緒に仕事をしたいと思ってたし、RMの思いがけない部分や今回のアルバムを表現するのに最適だという確信があった。『Right Place, Wrong Person』というタイトルの本質を直感的に捉えるはずだと思った。

水島貴大の作品はメディアで目にしたわけじゃなくて、台湾のポンディンにある本屋で、たまたま写真集を見つけた。写真集はたくさんあったけど、粉飾のないピュアなフィーリングが際立ってたよ。人物写真が中心で、被写体のストーリーを語る力強い写真を撮る。

ウィン・シャ(Wing Shya)は、今回のプロジェクトで僕が最初に打診した写真家。『花様年華』を含め、ウォン・カーウァイ(Wong Kar-wai)作品多数のスチール カメラマンとしてよく知られている。僕は長年彼の作品を称賛してきたから、彼の豊かな経験がナムジュンのストーリーに別の次元を与えてくれるという自信があった。ウィン・シャの写真には必ずストーリーがある。ナムジュンのストーリーのなかの、ともすれば見落とされる刹那の瞬間を、ウィン・シャなら掴まえてくれるだろうと思った。

ペンナッキー(Pennacky)がクリエイトした「Groin」、「Domodachi」、「ㅠㅠ (Credit Roll)」のミュージックビデオで目指したのは?

サンヤン:ペンナッキーはずいぶん前からのコラボ仲間なんだ。今回のプロジェクトに選んだ理由は、ペンナッキーならRMの生の本質を掴めるという確信があったから。これまでのK-POPのビデオを観ると、音楽には多様性があるし、歌詞は挑発的なのに、ビジュアルは型にはまってることに気づかされる。「Groin」、「Domodachi」、「ㅠㅠ (Credit Roll)」のビデオは、その型を破ることを目指した。僕が「DIYの王様」と呼んでるペンナッキーだから、ナムジュンの多様な面をありのままに捉えられる理想の人材だと思ったしね。「Domodachi」のビデオにはRMもリトル・シムズも登場しないが、インパクトと観るものを引き込むストーリーが必要だった。

写真:ウィン・シャ

ドラマ シリーズの『BEEF/ビーフ ~逆上~』を監督したイ・ソンジン(Lee Sung Jin)が「Come back to me」に関わったことも見逃すわけにはいきません。イ・ソンジン監督は、Instagramで、あなたからのダイレクト メッセージを受け取ったのが始まりだったと説明していますが、どんなふうに作業は進みましたか? 映画監督、脚本家、映画プロデューサーのパク・チャヌク(Park Chan-wook)がアート ディレクターのリュ・ソンヒ(Ryu Seong-hee)やその他のスタッフを紹介して、俳優のジョセフ・リー(Joseph Lee)とキム・ミンハ(Kim Min-ha)も参加しましたね。

サンヤン:イ・ソンジンは天才だ。去年の初めに『BEEF』を観たときは、頭を殴られたような衝撃で、一刻も早く脚本家と監督を知りたいと思った。韓国の要素が色濃く出てたから、韓国人だろうとは思ってたよ。だから一緒に何か面白いことをできそうな気がして、DMを送ってみた。その後イ・ソンジンはもっと有名になったけど(笑)、ありがたいことにバーミング タイガーのファンだと返信してくれて、それから親しくなった。何か月か後、RMのミュージック ビデオを考え始めたとき、最初に頭に浮かんだ監督がイ・ソンジンだった。『BEEF』で、普通の人たちのすさまじい、だけど個人的な人生を描いたように、RMのストーリーを逆説的に炙り出してくれるだろうと期待した。

パク・チャヌク監督とRMはどこかの集まりで顔を合わせたんだ。そのとき、監督と長年一緒に仕事をしているアート ディレクターのリュ・ソンヒがRMのファンだという話が出たもんだから、そのコネを利用させてもらって、ミュージック ビデオのアート ディレクションをやってほしいとリュ・ソンヒに打診したら、快く引き受けてくれた。丁度その頃、イ・ソンジンもパク・チャヌクと知り合って、紹介されたシネマトグラファーのキム・ウヒョン(Kim Woo-hyung)が「Come back to me」の撮影監督を担当することになった。信じられないほど幸運な連鎖だろ。パク・チャヌク監督はわざわざ「Come back to me」のセットまで出向いて、撮影スタッフや出演する俳優をサポートしたり、励ましたりしてくれた。

そうやって完成したアルバムはビルボード TOP200の第5位から発進して、音楽界からも多くの声援を送られましたね。チーム内ではどんな反応がありましたか?

セフン:チーム内では、時間的な制約が話に出ることが多かった。長期間にわたって制作したアルバムだけど、本当はもっと時間が欲しかった。RMもよく言ってたけど、2023年の初めにやった最初のレコーディングと入隊直前の最後のレコーディングでは、曲に傾ける感情のレベルが全然違う。結局、スタッフ全員、最初からレコーディングし直したいという欲求を我慢しながら、あらゆる段階で最善を尽くして完成させるしかなかった。そういう全般的な心残りを別にすれば、ほぼ満足してるよ。

ロージー・マークスによる『Right Place, Wrong Person』ビデオ撮影中のRM。写真:TEAM RM

プロジェクトの期間中、チームはどんな内面の起伏を体験しましたか? 最後まで団結を守り抜けた理由は?

サンヤン:僕は、新しい環境と新しい人間関係のなかで、RMが自分の道を見失ったり疲弊してしまうんじゃないかってことが気掛かりだった。だから、RMとチーム RMのメンバーを励まして、士気を高めて、プロジェクトを完成まで持っていくことが僕の役割だと感じてた。RMは大きな存在だから、どうしても外部からの懸念や見方に直面することもありえたけど、この時期にこのメッセージを発信できるのはRMしかいない。その信念が僕たち全員を前進させる力だった。

セフン:僕らのグループチャットのトーク画面には「RMにしかできない」というメッセージが固定表示されている。RMの勇気と誠実さのおかげで、僕らは前へ進むことができたんだ。

「RPWP」のレコーディング中に話し合うチーム RMの面々。写真:TEAM RM

チームのなかでは、K-POPそのものの定義が見直されたはずだと思います。RMはBTSというK-POP アイドルグループの一員である一方、バーミング タイガーはオルタナK-POPと位置づけられることが多いですよね。

セフン:僕はずっと前からK-POPの熱心なファンだ。だからこそA&Rの仕事をするようになったんだし、他のK-POPのコンテンツに参加することもある。そういうわけで、チーム内でK-POPについて話すとき、最終的に、僕はファンの視点を代弁する立場に立つ。RMが今回のように率直なプロジェクトを企画できたのは、絶対、ファンからの愛を深く信頼してるからなんだ。僕らだって、本当に愛する人たちとなら、自分の深いところにある考えを分かち合うことができるだろ。それと同じように、アーティストとファンのあいだには音楽を通じた特別な絆がある。僕は、そういう特別な絆を尊重するひとりなんだ

サンヤン:K-POPや僕たちがやってる仕事に関して、僕はそれほど定義の重要性を感じなかった。なんであれ、僕らが作るものは当然K-POPなわけだから。その代わり、僕らの姿勢に目を向けて、K-POPに対する先入観に挑戦することを目指した。僕らも含めて、K-POPのクリエイターは視点を変え、きちんと評価して良い面を示し、至らない点を認め、それらに向き合うことで成長する努力をすべきだと思う。安全圏の保守的な要素に、敏感に気づかなくちゃいけない。そして、今ほど大きくなる前のK-POPがそうであったように、大きく羽ばたくことを夢見て、決して自分たち自身への挑戦を止めないことだ。

  • 文: Hyunji Nam
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: August 20, 2024