アール・スウェットシャツの平凡な日常

父性、ファシズム、そして新アルバム『Live Laugh Love』をめぐる、長く親密な対話

  • 文: Ross Scarano
  • 写真: Yudo Kurita / Servicio Represents
  • スタイル: Sage Elsesser

「最近はね、けっこう幸せなんだよ」とアール・スウェットシャツ(Earl Sweatshirt)は、含み笑いをしながら打ち明けた。その言葉が口をついたのは、2時間近い会話の果てであり、まるで黙示録的な冗談のパンチラインのように響いた。話題はテクノファシズムからサイエントロジー、死や継承、芸術的犠牲にまで及んだ末に、この言葉へ行き着いたのである。

Earl Sweatshirt着用アイテム:Stone Island。

彼は「幸せな顔」を実演してみせた。口を大きな笑みに形作る。しかし一瞬後、その表情は縁なしの楕円形の眼鏡の奥で、仮面のように凍りついたまま動かなかった。眼差しの隅には不安と緊張が漂い、それもまた幸福の一部を成していた。言い換えれば、きわめて2025年的な幸福であった。

​​「Live Laugh Love(生きて、笑って、愛して)」──郊外のデパートのインテリアコーナーで見かける、ため息が出るような決まり文句。しかしその陳腐な言葉を、アール・スウェットシャツは新作アルバムのタイトルに選んだ。かつて「心はスーパーの冷たいニンジンみたいに冷え切ってる」とラップした男が、今や温もりを見せる。もちろん、自らの陰鬱を笑い飛ばすユーモアも忘れてはいないが。このアルバムには、彼のキャリアで最も美しい音楽が収められている。

今夏、妻であり俳優・コメディアンのアイダ・オスマン(Aida Osman)が無事に女児を出産。31歳のアールは、その生々しい体験について語る準備ができている。しかし本作は甘ったるい結婚讃歌や、長々としたセラピー記録ではない。「CRISCO」の冒頭で彼はこう吐き出す──「グラン ツーリスモ、札束を握りしめ、ハッパの煙をくゆらせて、狭い檻から抜け出す」。ハードボイルド小説顔負けの言葉だ。しかし同じ曲で彼は、父親になることの重みや、父性が取り得る多様な形態を──必ずしも優しいものとは限らない──息もつかせぬ勢いで駆け抜けるように歌い上げる。「親父はダメな奴で、その代わりとして現れた男は、暴力で俺を鍛え直そうとした」と息を大きく吸い込みながら、言葉を前へと押し出していく。

​​『Live Laugh Love』は昼間に収録したアルバムだ。自然とのつながりを感じさせ、鉱物や元素を織り込んだリリックが記憶に残る。彼はしばしば、友人たちと体を動かしたあとに録音に臨む。クイーンズ出身で、長く親交のあるプロデューサー、Theravadaもその仲間だ。「Live」の後半のように、ずれたループに埋もれ聴き取りにくい箇所もあるが、アルバム全体は深呼吸のように澄み渡っている。最後の一節は、距離を隔てながらも思いやりを届ける願いである──「空便で力を送るよ」と。

彼と対談するのは今回で二度目。初回はbilly woodsについて語り合った。テベ・ネルーダ・コシツィーレ(Thebe Neruda Kgositsile)として生まれた彼は、自在かつ率直に、ラップと人生について思考をめぐらせた。(ちなみに今回の対話の長さは2時間、前2作の合計収録時間のほぼ倍に及んだ。)

娘の誕生について語るとき(以前のパートナーとの間に息子もいる)、アールは畏怖とユーモアをないまぜにした物語を展開した。最近の小児科医の診察は、まるでスタンダップコメディのようだったという。「医者がさ、『見ろよ、彼女(赤ちゃん)の後ろ姿!』って言うんだよ。ほんとにそんな調子で。だから俺、『いやもっと医学的に言えよ』ってなったよ」

娘は「めっちゃタフ」だと、彼は誇らしげに言う。やがて話題は、アーティストとしてどう生きるかへと移った。彼はジャズの巨人サン・ラ(Sun Ra)を引き合いに出す。サン・ラは容赦ないバンドリーダーであった。「船を軽くして速く進むために、ものを投げ捨てるって発想があるだろ。速さを求める人間はなんでも投げ捨てる」と彼は言う。「俺はジャズミュージシャンに囲まれて育ったんだ。奴らはギャングスタラップをやってないってだけで『お前はチルでポジティブだ』なんて言われる。サックスをやっているだけで、そう思われるんだよ。でも彼らこそ、このカルチャーの立案者なんだよ。サン・ラは『自分であるためにすべてを犠牲にしなければならなかった』と言った」

しかし、アールはそうなりたくはなかった。

「俺はそんな環境で育ったけど、正直ダサいと思うんだ」と続ける。「だから俺の役割は、ちょっと普通でいること。全部じゃなくていい。娘が生まれたばかりで、今ポートランドにいて、あれこれ考えてる。でも普通っぽくいればいいんだ。オムツを替える、とかさ。それだけでいい」

Earl Sweatshirt着用アイテム:Stone Island。

ロス・スカラノ(Ross Scarano)

アール・スウェットシャツ(Earl Sweatshirt)

前回会った時は赤ちゃんの準備をしてたけど、家族は元気?

今は完全にベビーモードだよ。赤ちゃんが生まれたのは1か月半くらい前かな。親っていうのは、ある意味で秘密結社みたいなものさ。儀式みたいなものや血の代償もあって。で、「さあ、外の世界に戻るぞ」って感じなんだ。

出産シーンは衝撃的だよね。

人生で、最もクレイジーな瞬間だったよ。死人も見たことがあるし、人が死ぬのも見たことがある。でもあれは死じゃないんだ。映画『ホステル』みたいな体験なのに、終わったら、「オーツミルクください」って日常が待ってる。アイダと二人で話してたんだ。確実に、2週間くらいは幽霊みたいになるなって。みんなに「おめでとう」って言われるけど、こっちはまだ凍りついたように目を見開いてる。めっちゃ笑える体験だよ。

今はどこに?

ポートランドだよ。そしてここもヤバい。

どのエリア?

街のダウンタウン。

ポートランドのダウンタウンはちょっと荒れてる。

俺の人生で一番怖い場所だね、マジで。太平洋岸北西部を北上すると、街ごとにテーマみたいなものが見えてくるんだ。サンフランシスコはテック革命のメッカで、そこから上にも下にもその影響が広がる。で、ここまで来ると、細かいことはわからないけど、独立主義の歴史が色濃く残ってるんだ。テキサスみたいなノリでね。

反政府の民兵みたいな感じ?

まさにそんな雰囲気だね。明日があるという感触をつかみたいなら… スーパーで買い物してレシートをスキャンして出るしかない。Powell’s Booksでは、銃を太ももに巻いた奴がドアを開けてくれて、「さあ、ジェームズ・ボールドウィンの本を読め。禁止された本も読め。もし盗もうものなら、頭ぶち抜くぞ」みたいな。

Earl Sweatshirt着用アイテム:Stone Island。

僕が前回ポートランドに来たのは2024年秋だった。自分の子どもが生まれる直前で、大学の友人と最後のどんちゃん騒ぎをした。

ぴったりの場所だ。

でも同時に、アメリカのテクノファシズムの未来を示す兆候もある。

これがベルリンの雰囲気じゃないなら、他にどう例えられる? かつては栄華を誇った都市が、今や緊張感と居心地の悪さを孕んだ場所さ。人々は快適な生活を維持しようとする一方で、ファシズムはますます露骨になる。ほかの人も同じことを言ってたが、過去に国家が同じ道を歩もうとした時と比較できる。変だろう? そして皆、相変わらずシリアルを食べてるんだ。

新米の親としてはどうすればいいのか? 2時間後には保育園に子どもを迎えに行かなきゃいけない。

もちろんだよ。子どもは最高だ、だって自分がやるべきことがはっきりと見える。この状況で子どもを育てるのは怖いけど、怖がることは許されないんだ。

僕は、その2つの現実のバランスを取ろうとしてる。怖い、息子の将来が不安だ、でも同時に今、息子と遊んで幸せでいなきゃいけない。

まさにその通りだ。科学的にも、子どもの健全な成長のためには遊ぶ必要があるし、その姿は楽しそうでなくちゃならない。

不安そうな顔はできない。

「スティルフェイス」ってのを読んだことある? 育児書にも載ってるやつ。親が無表情で見つめると、赤ちゃんはより不安になって泣き、自然と学ぶことが難しくなる。その結果、あまり遊ばなくなり、学ぶことも。

先日音楽を流してたとき、ふと「これって幸せなミックスか?」って思った。リアルに幸せな感じだよ、抽象的な幸せじゃない。Young Thugの「So Much Fun」の幸せでもない。The Go! Teamみたいな曲なんだ。誰かに「何を祝ってるの?」って聞かれたときも、生後間もない赤ちゃんとずっと一緒にいるから、俺の顔は笑顔なんだよって感じさ。

いつも「ヘイ!」ってね。

12分しか寝てないのに。「やあ!調子は?」って。誰かが叫んでる、まるで殺されそうに。だけど、「やあ!はい!いいね!」って感じ。まじで、よくやったって感じだよ。

僕のところもまったく同じ状況。サイコーだ!ってね。

ああ!テンションぶち上がりだった。

Earl Sweatshirt着用アイテム:Stone Island。

そんな状況下でアルバムのプロモーションを行う感想は?

確かに大変だ。でも家族のためだからね。制作を始めたとき、アイダが「あなたは仕事してきて。本心よ」って言ってくれた。それが全ての支えだよ。見せかけでも、知的でもない。ほぼ生物学的なレベルだ。

妊娠期間中、これまでのキャリアで最も音楽に打ち込んだと思う。彼女のサポートがあったから解放感を得られた。親としての秘密がここにあるんだ。声に出して言っても、秘密は守られる。子どもができる前は、若き日の人生の悪夢みたいに思える。「俺の人生終わった、やりたいことなんてできない」って。でも違う。やりたいことは素晴らしい彼女と子どもに尽くすことだ。そして幸運にも、好きなことを仕事にできる。だから全力を尽くすんだ。それを無駄にしない。親として、これ以上の理由はないだろう。

面白いね。自分のキャリアで最高の仕事をしている気がする。でも、背水の陣でやらなきゃとか圧力があるからじゃないんだ。家族の許可とサポートがあるからこそなんだ。

家族の安心感があると、なにが起こっても大丈夫ってなるんだよ。

僕のパートナーも仕事に戻って、彼女が出張中は僕が家を守る。だからお互いの負担が理解できる。そうだろ?

もちろんだ。彼女の状況は俺よりずっとクレイジーになるさ。

親になってから、ある種のアートがこれまでと違って響くようになった経験はある? 例えば、僕は子どもが生まれてすぐに青春映画を観たんだけど、以前だったら思春期の主人公に共感していたはずが、親の視点で観ている自分に気づいたんだ。

ああ、もちろんだ。俺たち二人ともそうだよ。父親が混乱している場面があれば、それはもう自分のことになる。親の心理ってやつがわかるようになるんだ。

Earl Sweatshirt着用アイテム:Stone Island。

前回話してなかったけど、僕の父は2021年に亡くなった。だから自分の父に直接会えないまま親になることが不思議な感じなんだ。 [編集注:アールの父、詩人Keorapetse Kgositsileは2018年没]

それってさ、究極的に“父親的すぎる”話だと思うんだよ。まさに「父の核」の体験っていうかさ──つまり、自分の子どもにとって祖父が「言葉」になってしまうってことだよな。

考えてみろよ。自分の息子から見たら、あんたは進化の鎖の中で一番でかいオタマジャクシみたいな存在に見えるんだ。子どもは、あんた以降の姿なんて知らないんだから。
ちょっとスピリチュアルっぽくなるけど、彼ら(死んだ人たち)は俺たちと一緒にいるんだ。もし直接ここにいないなら、より強くあんたと結びついていなきゃならない。なぜなら、あんたが「父親」だから。結局、人が最も似ている「父親」ってのは自分の父親だろ? 俺も父が死んでから気づいたんだ。めちゃくちゃおかしかったけどな。ボロボロになって、ふとバスルームの鏡を見たら、あまりに自分が父に似ててギョッとしたんだよ。しかもそれを際立たせていたのは、自分がどれだけ傷ついていたかってことだった。痛みがあったからこそ、身体的に父と近くなったんだ。奇妙だよな。ほとんど“取り憑かれてる”みたいで。

昔から思ってるんだけど、大事な人が死ぬと、その人の何かをちょっとずつ受け取るんだよ。だって、もう人の記憶の中にしか生きられないわけだから。もし自分や親を嫌ってないなら、そのプロセスは自然に起こる。これはライフサイクルの一部なんだ。例えばさ、うちの母のパートナーが死んだんだけど、その後俺は狂ったように料理をするようになった。あれは彼女のパートナーが得意にしてたことなんだ。もともと料理はしてたけど、死者の“置き土産”ってものが確かにあるんだよ。「これはお前のものになった」ってね。

で、この前見たんだけど、量子の世界では「個」というものは存在しないんだって。すべては「エンタングルメント(絡み合い)」で成り立っているらしい。

つまり、個人としての精神ってものさえ、実際にはない。

そうそう。全体から成り立ってるんだよ。その全体に近づけば近づくほど、自分自身と自分のものにたどり着く感じになる。分かるだろ? あんたの父親、あんたの息子──役割を変えるだけなんだ。ちょうどあんたが言ったみたいに、映画を見てるとき、最初は子どもとして見てて、今は父親として見てる。でも見え方はちょっと違うけど、基本は父親なんだ。自分が持っていた父親みたいなもの、あんたはその父親になるんだよ。

このアルバムはいつレコーディングしたの?

昼間だよ。

そんな感じの曲だね。

俺はだいたい、ワークアウトかテラヴァダとバスケをやったあとに録音してたんだ。で、例えば「Exhaust」って曲はちょっと酔っぱらってる時に、ドラッグじゃなくて酒だけどね。「CRISCO」も酒を飲みながら。だから「Exhaust」で締めたんだと思う。「Exhaust」は最初に作った曲のひとつだし。オープニングの曲は、あの生活サイクルが回りだしたころに作ったから、笑いながらラップしてるのがわかると思う。

聴きながら、ラップ中はずっと笑顔だったんだなと思ったよ。

ああ、あれはスムーズだった。大したことじゃないんだ。プロセスを探ってる途中じゃなくて、もう真っ只中に入ってたからね。このアルバムも、ある年齢層の人には、当時の『I Don't Like Shit』みたいな感じだと思う。時代のコメントであり、時代のサインなんだ。2014年のことで、いろんな経験をして育った世代にとっては、新しいライフスタイルが始まったタイミングで、その悲哀もある。まるで、「おい、俺、何も好きじゃない人間になっちゃう」みたいな感じ。で、今では、俺の仲間や同世代のやつら、みんな子どもがいるんだよ。だからこそ、生きて、笑って、愛せ!子どもがいれば、それで完璧だ。まさに君が言った通り、爆弾だ!うわあああ! でも—生きて、笑って、愛せ。妹にも優しくな、みたいなノリで。

このアルバムで気に入ってることのひとつは、誰かと別の道を行くことについて、すごくゆるく構えているところだね。歌詞にもよく出てくるし、これは親になった人や30代後半くらいの感覚だと思う。人は離れていくものだし、それでいいんだ。

もちろんだよ。30代になれば、もう怒りすら湧かなくなるんだ。例えばさ、もう会わなくなっても、愛してる。俺の場合、すごくシンプルなんだ。もしその人が死んだらどう感じるか? 毎日会うわけじゃないし、まぁいいかって感じ。死んだら悲しい? そうだね。でも、たまには「愛してるぜ」って伝えればいいんだよ。そうすればうまくいく。

君のお母さんは、もう1人孫ができて喜んでる?

それがな、俺が一番感謝してることなんだ。前に言っただろ、母のパートナーが亡くなったって。それで本当にひとつの循環なんだよ——一年後に女の子が生まれた。赤ちゃんがみんなの物事を理解させてくれたんだ。最近は、ほとんどの時間幸せだね。赤ちゃんがいるんだ。シンプルな幸せが俺を見つけてくれた。それがタイトルの意味でもある。最初はちょっと皮肉で付けたんだよ。『Live, laugh, love』、だって世の中めちゃくちゃだから。今は本当に怖いんだ。でも、いや、やれよってことさ。

本当にそうだね。

今だ。やれよ。みんな、めっちゃそれを必要としてるんだ。俺の人生の目標って、多分、全部の決まり文句が深みを持つくらい生き延びることだったんだと思う。だってそれが大事なんだ。年寄りの言い方を聞けばわかるだろ、全部が深い意味を持ってるって。

ロス・スカラノ(Ross Scarano)はピッツバーグ出身のライター兼編集者である。これまでに『ニューヨーク・タイムズ』、『ザ・ビリーバー』、『ウォール・ストリート・ジャーナル』、『ザ・リンガー』、『GQ』、『ピッチフォーク』、『コンプレックス』などで執筆している。

  • 文: Ross Scarano
  • 写真: Yudo Kurita / Servicio Represents
  • スタイル: Sage Elsesser
  • グルーミング: Alexa Hernandez / The Wall Group
  • プロダクション: Chloe Snower
  • 照明技師: AJ Wilson
  • スタイリング アシスタント: Miles Chick
  • Date: August 22, 2025