ソウル ファッションウィークも霞むフリーズの大成功
2022年から恒例の大イベントがクリエイティブ界の変化を加速する
- 文: Jinsoo Lee & Hyunji Nam
「今年のフリーズは、ファレル(Pharrell Williams)が来るかもしれないって」
フリーズ ソウルがスタートする何か月も前から、巷では噂が飛び交っていた…ジュピター(JOOPITER)がG-ドラゴン(G-Dragon)と組んで何かやる、ポスト アーカイブ ファクション(POST ARCHIVE FACTION、略称PAF)が限定商品をドロップする、ヒューマンメイド(HUMAN MADE)がソンスに旗艦店をオープンする、ヴェルディ(Verdy)とニゴー(Nigo)も1枚噛んでる。錚々たる大物たちの名前が飛び出すだけでもファッション集団を熱狂させるに十分だったが、蓋を開けてみれば、なんと全部が噂どおりだった。フリーズ ソウルは、わずか3年目にして、ソウルのファッション界とアート界がもっとも待ち望むイベントになった。年を追うごとに熱気は高まり、遂に今年はファッションウィークが霞むほどの成功を収めた感がある。
フリーズは2003年にロンドンで誕生した国際アートフェアだ。以後、世界中のギャラリーが集結して注目のアート作品を販売する、巨大イベントへと発展した。2022年、フリーズ ソウルは韓国国際アートフェア(KIAF)と5年間の提携契約を結び、カンナムにある国際コンベンション センター「コエックス(COEX)」全館をギャラリーで埋め尽くした。ガゴシアン(Gagosian)、ハウザー&ワース(Hauser & Wirth)、デヴィッド・ツヴィルナー(David Zwirner)、ペース(Pace)、ペロタン(Perrotin)、タデウス・ロパック(Thaddaeus Ropac)といった世界的に有名なギャラリーと、韓国大手のアラリオ ギャラリー(Arario Gallery)、ギャラリー現代(Gallery Hyundai)、クッチェ ギャラリー(Kukje Gallery)、PKMギャラリー(PKM Gallery)が一堂に会した。

(左)ファレルとG-ドラゴン。JOOPITERのオークションが行なわれたデリム美術館にて。協力:JOOPITER。(右)オークションの一環として、G-ドラゴンの顔を描いたクウォン・オサンの作品がパラダイス シティに展示された。協力:Paradise City
こうして華々しいスタートを切ったフリーズ ソウルは、大旋風を巻き起こした。報道によると、取引総額はKIAFの10倍を上回る6000億韓国ウォン前後に達したという。ファッション界のラグジュアリーブランドは追い風に乗るべく、アフターパーティやポップアップや展示を打ち出すようになった。ソウル市も手をこまねいてはいなかった。ソウル ファッションウィークとフリーズの同時開催を決定して、国際的な注目の増幅を狙ったのである。すべてをひっくるめてソウル アートウィークと名付けられた期間中は、公共美術館での展示やアートフェスティバルだけでなく、アートを買うつもりがない来訪者に配慮したイベントも企画されて、ソウルは絶え間ないお祭り気分に沸いた。さらに、韓国アート界の主要イベントであるビエンナーレもクァンジュとプサンの2か所で同時開催され、いやがうえにも熱気は高まりを見せた。
しかし実のところ、今年9月4~7日に開催されたフリーズが大きな脚光を浴びる一方で、9月3~7日に開催されたソウル ファッションウィークは明らかに後れをとっていた。ニュージーンズ(NewJeans)をはじめ、K-POPの人気アイドルたちを公式アンバサダーに起用しているにもかかわらず、国際的な成功を手にした韓国ブランドの多くはファッションウィークに参加していなかった。現在SSENSEが扱っている韓国ブランドが公式スケジュールにほぼ見当たらなかった事実も、大いに関連がありそうだ。韓国のメディアはこぞってフリーズを報道し、ソーシャルメディアは、今ソウルでいちばんトレンディな場所で開かれたイベントのフィードに溢れた。ハンナム、ソンス、チョンダム…どこも、ソウル ファッションウィークの公式会場だったトンデムン デザイン プラザからはかなりの距離がある。
なぜフリーズがファッションウィークを圧倒するに至ったのか? その理由を現場で探ってみた。

フリーズの期間中、COEX展示ホールで配布された冊子。裏表紙はグレタ・リーを起用したLOEWEのキャンペーン写真

フリーズの展示会場を訪れたペギー・グー。協力:Courtesy of Frieze&LETS Studio
ファレルのグローバルな人脈
フリーズ ソウルは、パラダイス シティ ホテルを舞台に、ファレルとG-ドラゴンのコラボイベント「Nothing But a G Thang: G-Dragon’s Art and Archive」で待望の幕を開けた。ファレルが2022年に開設したアート オークション プラットフォーム「ジュピター(JOOPITER)」で、GDの長年にわたる広範なコレクションが公開されたのである。GDは、アートのコレクションから得たインスピレーションをもとに曲を作ることで知られ、自身のブランドであるピースマイナスワン(PEACEMINUSONE)の展示でも、積極的にキュレーションを行なっている。

(左)PAFによるJOOPITER コラボ腕時計。韓国で盛大な式典や特別な催しのために製作される伝統的な記念腕時計に似せたデザイン。画像提供:PAF。 (右)JOOPITER イベントに備えるPAFオフィスの様子。画像提供:PAF
オークションには、韓国の有名アーティストであるクウォン・オサン(Kwon Oh-sang)やロバート・ラウシェンバーグ(Robert Rauschenberg)の作品のほか、GDが制作した絵画やオブジェなど、多数の品が登場した。俳優のイ・ジョンジェ(Lee Jung-jae)、抽象アーティストのジョシュ・スパーリング(Josh Sperling)らの有名人が会場を訪れ、アフターパーティではラッパーのプシャ・T(Pusha T)がスターパワーを見せつけた。
オークションの後はキョンボックンに近いデリム美術館でプライベートパーティと展示が行われ、オークション参加者は実物のアート作品を間近に見ることができた。JOOPITERとのコラボには、いくつかの韓国ファッションブランドも一役買った。例えばPAFは、キャップやTシャツ等を含む限定コレクションをデリム美術館で展示したが、文字盤に「JOOPITER」と記した腕時計は即完売の人気ぶりだった。

ファレルとニゴー。デリム美術館でのオープニングにて。協力:JOOPITER
ファレルの20年来の友人であるニゴー(Nigo)もフリーズに現れた。ソンスにHUMAN MADE初の旗艦店をオープンした記念のディナーパーティには、ファレルのほか、ブラックピンク(BLACKPINK)のジェニー(Jennie)、テヤン(Taeyang)、セブンティーン(Seventeen)のバーノン(Vernon)、ル セラフィム(LE SSERAFIM)、ロコ(Loco)らのゲストが姿を見せた。あるファッションエディタ―は「ファレルのグローバルな人脈がソウルに集合して、互いのショーを見たり友情を深め合ったりしてるのを見て、新鮮な息吹とときめきを感じた。パリ ファッションウィークに期待するのと同じ類のエネルギーだ」と語った。ファレルは、ガブリエル・モーゼス(Gabriel Moses)の短編映画『ALL DAY I DREAM ABOUT SPORT』の試写会、アディダス(adidas)の仲間たちと家族の夕食会、レッド ベルベット(Red Velvet)のウェンディ(Wendy)がDJするラジオ番組への出演、ニゴーやカウズ(KAWS)とのディナー パーティを含め、期間中を通じて精力的にイベント多数に出席した。

(左)GD x JOOPITER展が開催されたデリム美術館。協力:JOOPITER。 (右)KAWS、アンブッシュ(Ambush)のユン、NBAスター選手のジェイレン・ブラウン(Jaylen Brown)。デリム美術館で行なわれたJOOPITER パーティにて。協力:JOOPITER
ソウルの注目ブランド大集合
フリーズの熱狂が頂点へ近づくにつれ、韓国の若手ブランドも機に乗じてチャンスを掴もうとした。限定コラボ、目を引く創作、斬新な新シーズン コレクション、旗艦店のオープニングが矢継ぎ早に繰り出され、ぶつかり合い、まさに巨大な嵐の様相を呈した。
主力ブランドのプッシュボタン(Pushbutton)は、6年ぶりのランウェイ ショーで誇らしく復活を遂げた。客席にはデザイナーのパク・スンゴン(Park Seung-gun)と親しい俳優コン・ヒョジン(Gong Hyo-jin)、エイティーズ(ATEEZ)のエリック・ナム(Eric Nam)らの姿があった。一方、ウェルダン(We11done)は熱烈にクルマを愛するライフスタイル ブランド、ピーチズ(Peaches)とコラボしたカプセルコレクションを披露した。旗艦店入口の横にはビンテージのフェラーリが鎮座し、店内ではヘイリー・ビーバー(Hailey Bieber)が着たアウターウェア、ハートカットのスカート、デニムなど、シグネチャのデザインをリメイクした2024年秋冬コレクションが展示された。

Pushbutton 2025年コレクション ショーの舞台裏。協力:Pushbutton
アンダーソン ベル(Andersson Bell)は、ベルリンを拠点とするオットリンガー(Ottolinger)とのコラボをソンスのセレクトショップ「エンプティ(Empty)」で発表し、反響を呼んだ。レーシングの世界から着想したスポーティルックのコレクションは、クルマをプリントしたTシャツ、コントラストパイピングのジャージワンピース、ナイロンのパラシュート カーゴパンツといったラインナップ。フリーズ ソウルを記念したジュンテ キム(Juntae Kim)とアディダス オリジナルス
(adidas Originals)の特別コラボも、同じく「エンプティ」で発表された。内容は2024年秋冬コレクション「PUNKOUTRE」のほか、遊び心でリメイクしたadidas Originalsお馴染みのアイテムたち。Juntae Kimを立ち上げたデザイナーのジュンテ・キムは、「世界で活躍している有名なアーティストやインディー系のアーティストに会えるのが、フリーズの素晴らしいところだ。僕にとっては、カスタムメイドのアイテムをファレルにプレゼントできたことに、特に大きな意味があった」とSSENSEに喜びを語った。

(左)JiyongKimのシグネチャである日焼け退色アイテム。協力:Jiyong Kim。 (右)We11doneとクルマ愛ブランドPeachesのコラボ。We11done旗艦店にて

(左)Andersson Bell x Ottolinger プレゼンテーション。 (右)Juntae Kimらしい遊び心でリメイクしたadidas Originalsアート
抑制された現代的クラシックのトレンドも負けてはいなかった。洗練されたテーラリングと贅沢な素材で知られるレクト(Recto)は、ハンナムに新しくオープンした旗艦店で、アーティストのカン・ウリム(Kang Woo-rim)とコラボ プレゼンテーションを行なった。2024年度LVMHプライズのセミファイナリストに選ばれたジヨン・キム(JiyongKim)は、ソンスで多彩な展示とプレゼンテーションを見せてくれた。ビルの外面にはシグネチャの日焼け退色ファブリックが展示され、館内ではキムのアート作品、革新的な技術、2024年春夏および秋冬コレクションのほか、さまざまなコラボアイテムを見学することができた。
韓国と世界の交差
フリーズ ソウルがかくも光り輝いた理由のひとつは、資金も人手も潤沢なグローバルブランドが後ろ盾となり、アートとファッションの交わりを大きく飛躍させたからだ。例えばサンローラン(Saint Laurent)は、クリエイティブディレクターであるアンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)のキュレーションによって、ソウル旗艦店を新たな文化空間に作り変えた。これを記念した「ポートレート オブ ア コレクション」展では、ピノー(François-Henri Pinault) コレクションから、約60点の現代アート作品がアジアで初めて披露された。同コレクションには、ただひとり、ヨム・ジヒェ(Yum Jihye)が韓国人アーティストとして名を連ねている。会場には、サンローランのグローバルアンバサダーを務めるブラックピンクのロゼ(Rosé)が姿を見せた。
ロエベ(LOEWE)は、ロエベ財団クラフトプライズのファイナリストに選ばれたアーティスト、ジェイク・リ(Jaeiik Lee)の特別展を開催してフリーズを盛り上げた。会場となったソウルのカサロエベには、クリエイティブディレクターのジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が自ら精選したアート作品が、所狭しと展示されていた。一方、シャネル(Chanel)は、ヨル(Yeol)財団と韓国古来の工芸展を共催してフリーズ ソウルウィークを祝った。絶大な人気を誇るデザイナーであり、フリーズ ソウル委員会メンバーも務めたテオ・ヤン(Teo Yang)がキュレーションを監督し、作品の展示に直接的に協力したことも注目に値する。

(左)Saint Laurentがソンウン アート センターで開催したピノー・コレクション「Portraits of the Collection」。 (右)アートと音楽とシャンペンで「Shape of Life」展を祝う夜。カサロエベにて
当然のことながら、こういったイベントには何らかの批判がつきものだ。セレブたちの登場と有名ブランドに注目が集まったフリーズ ソウルは、アートフェアではなく、「ファッションの見世物」だったと非難する声もある。だが何はともあれ、批判があること自体、フリーズ ソウルが世界の注目を集めることに成功し、ソウルで開催される国際文化イベントとして首位の位置づけを確立した証拠にほかならない。
公式ラインナップ以外にも、フリーズ ソウルの熱狂を利用する目的で、多数の各種イベントが相次いだ。ルメール(LEMAIRE)は旗艦店でムービーナイトを敢行し、オーディオ機器ブランドとして名高いオージャス(Ojas)の創業者デヴォン・ターンブル(Devon Turnbull)はリスニングパーティを催した。大きな話題を作り出した実績から、来年のフリーズ ソウルに向けての期待もひしひしと感じとれる。世界経済やアート市場が疲弊の兆候を見せている状況で、フリーズ ソウルは悲観的な予想を覆した。SSENSEのインタビューに応じたJOOPITERのグローバル セールスヘッド、ケイトリン・ドノヴァン(Caitlin Donovan)も同じ意見だ。「アート、デザイン、ファッションの各分野で活躍している人たちが数多く参加したのは、アートや文化に対する深い認識がソウルにあるからです。オークションにもそのエネルギーが反映されていました」。常に自らを作り変えて時代を先取りするソウルと同じく、止まるところを知らない革新精神のパワーを源に、フリーズ ソウルも新たな世界を開拓し続けていくことだろう。
- 文: Jinsoo Lee & Hyunji Nam
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: September 10, 2024

