植物と親しむ

ミルク シスルからイブニング プリムローズまで、ボタニカル化粧品の考察

  • 文: Rebecca Storm
  • アートワーク: Joseph Töreki

St. Ivesのアプリコット スクラブは、顔の角質ケアに一番人気のエクスフォリエーション製品として90年代に市場を席巻したが、製品名に核果類の小さな果物の名前が入っていなかっとしても、同じ道を辿っただろうか?

St. Ives アプリコット スクラブは、確かに、果実の硬い部分で肌の角質を取り除く。しかしSt. Ivesはクルミの名を出す代わりに、柔らかい果肉に包まれ、みずみずしく、可愛らしい色のアプリコットを前面に押し出してマーケティングを展開した。実際のところ、アプリコットで局部的な栄養効果があるのは核種から抽出されるオイルだけで、St. Ives アプリコット スクラブにアプリコットの有効成分は含まれていない。しかし、後ろから二番目にアプリコット エッセンスを記載した成分一覧を見る限り、この事実は曖昧にぼかされる。このアプリコット エッセンスは肌に養分を与えるいう説もあるが、効果が証明されているわけではないのだ。つまりSt. Ives アプリコット スクラブとアプリコットは厳密にいえば無関係にもかかわらず、私たちはアプリコットのような肌になれると勝手に思い込む。ここで興味を引かれるのは、アプリコット云々の事実に基づいた議論ではなく、真実であれ売り言葉であれ、自然界と接点を持つ製品に私たちがいともたやすく魅了されることだ。

私たち人間は、肌につけたものと一体になると考えるのか、自然の力を使いこなすと考えるのか。どちらにせよ、植物はセルフケアの世界で威信を誇る。植物は生命力を指し、私たちの外側に存在する活力を象徴する。さまざまな形態でどれほどの数が提供されようと、溢れるエネルギーを拒絶するのは私たち人間にとって至難の技だ。自然は人類より遥かに前から地球上に存在したし、あらゆる苦難を課されたにも関わらず、多くの人間より長く存在するだろう。天然成分を利用すれば、私たちははるかに広大な自然の連続性にあやかることができる。これはほとんど精神的とも言える実践、現代セルフケアの祈りに等しい。

そこで、天然成分がセルフケアの基本になった経緯と正確な効果を理解するために、5種類の植物とそれらの植物を配合した製品を検討してみた。

藻類

藻類はか弱いが、不滅の存在だ。多くの単細胞植物体と同じく、環境中の「死」とも言うべき二酸化炭素を取り込み、光合成によって酸素を吐き出してくれる。フランス語で「海」を意味するLa Merがブランド名に選ばれ、熱烈なファンを獲得したのも不思議ではない。藻類はヘアケア製品の保湿剤や増粘剤として使われることが多く、研究によると、皮膚における色素沈着を改善し、太陽光線によるダメージを和らげる働きもあるらしい。後者の光保護作用に関してはまだ推論の段階だが、廃水から、ひいては水界生態系から、ジエタノールアミンやトリエタノールアミンといった混ぜ物を除去することは常に望ましい。藻類の働きを試すには、Christophe Robin ラスール クレイ & タヒチアン アルジー シッカニング シャンプー ペースト 250 mlOmorovicza Miracle フェイス オイル 30 mlSalt and Stone Squalane フェイス クリーム 48 mlなど。

イブニング プリムローズ(マツヨイグサ)

ローズという名前にもかかわらず、バラにはまったく似ていない。午後遅くになって薄い黄色の花を咲かせる性質のほかは、イブニングとの関連もなさそうだ。基本的にどの部位も食べられるので、北米では何世紀にもわたって、多数の先住民族が食用とホメオパシーに利用してきた歴史がある。種子にはポリ不飽和脂肪酸の一種のガンマリノレン酸(GLA)が非常に豊富に含まれ、抽出したオイルは月経前症候群(PMS)や更年期にホルモン バランスを改善するサプリメントとして服用されることが多い。皮膚炎、乾癬、一部のホルモンを原因とするニキビの症状緩和に効果があるとも言われる。これら皮膚疾患に対する局所治療効果を裏付ける科学的エビデンスはほとんどないが、継続して使用すると「皮膚の水分、経表皮水分蒸散量(TEWL)、ハリ、弾力、疲労抵抗、荒れ」のすべてに改善が見られたとする研究もあり、条件付きながら、GLAが肌にとって局部的に重要な脂肪酸であることを裏付けている。私たちの体内ではGLAを合成できないので、イブニング プリムローズが皮膚軟化剤として配合された製品は大歓迎だ。例えば、Aesopのプリムローズ フェイシャル クレンジング フェイス パック 60 mlプリムローズ ハイドレート フェイス クリーム 60 ml、根強い人気ブランドVintner’s DaughterのActive Botanical セラム 30 mlYves Saint LaurentのOr Rouge L'Huile フェイス オイル 30 mlなど。

ホホバ

ホホバは北米の砂漠地帯に自生する多年性低木で、種子を絞って得られる豊富な分泌物が活用されている。これは一般にホホバ オイルと呼ばれ、他の強力な成分や有効な成分を希釈するベース、通称「キャリア オイル」として使われることが多い。ホホバ オイルは化学的にはワックス エステルで、私たちが生成して肌から分泌する皮脂と化学組成が非常に似ている。そのため、何十年にも前から、ヘア ケアおよびスキン ケア製品のコンディショニング成分として配合されてきた。元来、保存可能な期間が異常に長く、他のキャリア オイルが悪臭を放つようになっても、ホホバ オイルは大丈夫。自己保存はお手のものというところだ。ワックスの性質によって、皮膚に含まれる水分と軟化作用の維持を助け、天然バリア機能を高めるため、非常に信頼できる成分として天然スキンケアの領域で活躍している。ホホバ オイルが配合されているのは、F. Millerのフェイス オイル 30 mlヘア オイル 30 mlAfrican Botanicsストレッチマーク ボタニカル オイルRahuaリーブイン トリートメント 60 mlなど。

シー バックソーン(サジー)

シーバックソーンの実は非常に酸っぱくて、特にビタミンCを多く含む。オイルは種から抽出されるが、果肉や葉から抽出されることもあり、スキンケアの配合成分として高い効果を発揮する。色は抽出した部位によって異なり、血のように濃い赤から、鮮やかなオレンジ、薄い黄色まで。組成に含まれる脂肪酸は乾燥肌を改善し、研究によると肌への酸素供給を促進する。WONDER VALLEY ヒノキ ボディ オイル 200 mlHaeckels Bladderwrack & Buckthorn ボディ クレンジング 300 mlHenua Organicsミラクル ビタミン オイル 15 mlなど。

ミルク シスル(オオアザミ)

ミルク シスルにはトゲが多く、赤紫色の花を咲かせる。深く切れ込んだ葉の白い模様は、聖母マリアがイエスに乳を飲ませるときに落ちた乳だという言い伝えがあり、マリアアザミあるいはブレスド(祝福された)シスルの呼び名もある。反対に、少しばかり反道徳的な無節制をそそのかすこともある。二日酔いの朝、訳知りな自然療法信者の友人がサプリメントとして勧めてくるのは、ミルク シスルに肝臓を守る働きがあるためだ。肝臓保護作用があるシリマリンは種から抽出される有効成分で、経口使用による抗炎症および抗酸化の効果が挙げられることも多い。このように医薬の領域で高く評価されているミルク シスルは、スキン ケアの領域でも徐々に「癒しの力」を確立しつつある。研究によると、局所への塗布によっても同様の効果が示されているから、以下の製品を含め、成分一覧に登場する機会は今後ますます増えるだろう。Tata Harperのナリシング オイル クレンジング 125 mlコンセントレイト ブラトニング セラム 30 mlBoosted Contouring セラム 30 mlのほか、NATUREOFTHINGS Restorative Floral バス ソーク 250 mlなど。肌を鎮めるクレンジング作用に期待したい。

  • 文: Rebecca Storm
  • アートワーク: Joseph Töreki
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: May 4, 2021