2021年春夏シーズンの静物、
または静かなる生活

5人の写真家が物を撮る

  • 文: Rebecca Storm
  • 写真: Phyllis Ma, Nick Sethi, Farah Al Qasimi, Atiba Jefferson, Maisie Cousins

私たちはかつてなく速いスピードで回転している。地球の質量は変動している。両極の氷は溶けているし、海面は拡大しつつある。その結果、私たちの回転軸も変化する。私たちの体は常に動いていて、私たちの生活は動きによって決まる。日常生活が変化するスピードで、感情も上下する。今の生活に静止している感覚はそぐわない。

何世紀も前に静物画が人気を集めたのは、画家が技術を習得できるからだった。菊を生けた花瓶なら、毎日戸外へイーゼルを持ち運ぶ必要がないし、何日も同じ対象をいちばん良い角度から描き続けることができる。やがて静物画は、装飾品であると同時に工芸品ともなった。例えば、粉を吹いたような葡萄と艶やかな葡萄を描いたカラヴァッジオ(Caravaggio)の『果物籠』。デビッド・ラシャペル(David LaChapelle)の『Earth Laughs in Flowers(大地は花の中に笑う)』シリーズは、かつてオランダで絵画の黄金時代を築いたフランドル派の静物画を思わせるが、プラスチック製品、スナック菓子のパッケージ、折り畳み式携帯など、21世紀の印がふんだんに混入している。進化した私たちの生活ではもはや物体を記録する実際的な必要性がないから、現在の静物画には私たち自身を表すものが描かれる。静物画のエッセンスは物質から精神へ変化した。

そして静物画を定義する基準は、コンポジションから無感覚な親近感へ移行した。フィルムのコマや、キャンバスや、スクリーン上のピクセルとして結晶化した「今」の表現が、現在の静物画だ。動いているもののディテールは見逃してしまうが、静物のディテールは見る人の驚嘆と熟考を促す。ピンク色の菱形の樹脂に埋め込まれたサソリ、引っ掻き傷のあるレザー、紗のようにデリケートなニットのトート、その横で蜘蛛の巣みたいに光を捕らえて不快に輝くグラス。使っていようが置きっぱなしだろうが、モノは私たちの生活を解読するための鍵であり、私たちの気晴らし、価値感、自意識、甘やかしを映し出す。

5人の写真家に2021年春夏コレクションを代表するアイテムを撮影してもらった。どう撮るかは、それぞれのスタイル次第だ。従来の直感にしたがう手法もあれば、コラージュやデジタル操作や静止を使う手法もある。メイジー・カズンズ(Maisie Cousins)の華麗な接写作品はPradaやMiu Miuといった一流ブランドの奥行きを感じさせる一方、Areaなど、新進ブランドを輝かせている。スケート好きなアティバ・ジェファーソン(Atiba Jefferson)は、Total Luxury SpaとThom Browneを被写体に選んだ。ニック・セシ(Nick Sethi)の束ねたテキスタイルと手作りの祭壇は、Molly Goddardのスモック、熱烈なファンを持つOnline Ceramicsのタイダイ、待望のHood By Air復活に捧げたオマージュだ。ファラ・アル・カシミ(Farah Al Qasimi)は花を使って、デンマーク ブランドa. roege hoveのニットの触感やKiko Kostadinovの質感と柔軟性を強調した。フィリス・マー(Phyllis Ma)は考え抜いた演出で、STORY mfg.のサステナビリティ、Lemaireのクラシックなレザー ベーシック、Peter Doのスーツにスポットライトを当てた。だがいずれも、衣服がもつ物質性、構造、表現する力を考察している点は共通だ。静かな生活が存在する限り私たちの創造的進化は続くし、誰もがそうであるように、安易なカテゴライズを免れる。

フィリス・マー
ニック・セシ

画像のアイテム:ベルト(Maryam Nassir Zadeh)

ファラ・アル・カシミ
アティバ・ジェファーソン

画像のアイテム:T シャツ(Total Luxury Spa)

画像のアイテム:ダービー(Prada)

メイジー・カズンズ

画像のアイテム:カード ホルダー(Miu Miu)

画像のアイテム:帽子(Prada)マスク カバー(AREA)

画像のアイテム:ピアス(Marc Jacobs)

画像のアイテム:ブレスレット(VETEMENTS)

  • 文: Rebecca Storm
  • 写真: Phyllis Ma, Nick Sethi, Farah Al Qasimi, Atiba Jefferson, Maisie Cousins
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: April 30, 2021