2023秋冬トレンドレポート

フェイクファーからシークインまでトレンド消滅時代における旬のアイデア

    2023春夏シーズンと共に、SSENSEエディトリアル チームが命名した「トレンド消滅時代」なるものが幕を開けた。私たちはトレンドを詮索するトレンドを目撃し、男女の装いを隔てる壁の崩壊に快哉を上げた。そんな春を前菜とすれば、2023秋冬は「何でもあり」時代がいよいよ花開くメインコースだ。今シーズンは、思いのままに装うことがスタンダードになる。デザイナーたちは得意な戦略をかなぐり捨てて、すべての人々の内側に息づく、時には相反するさまざまな人格を引き出そうとしている。この秋冬は、私たちの忘れられた野性と、品行方正な内なるプレッピーの共存だって可能だ。眩いほどに輝きを放ちつつ、マイ・ケミカル・ロマンス(My Chemical Romance)の曲をループ再生し、タガのはずれたエモさに浸ってもいい。バービーになるのも、オッペンハイマーになるのもあなたの自由。みずからを定義する自由を獲得したこの秋は、装いを遊ぶことがすべてだ。

    画像:Puppets & Puppets 撮影:Cris Fragkou 冒頭の画像 (時計回り):AREA 撮影:Adam Powell、Rick Owens 撮影:Eva Losada、Mowalola 撮影:Eva Losada、Botter 撮影:Eva Losada、Luar 撮影:Adam Powell、Ludovic de Saint Sernin 撮影:Eva Losada、Coperni 撮影:Eva Losada、The Row 撮影:Davit Giorgadze、JW Anderson 撮影:Davit Giorgadze、Y/Project 撮影:Eva Losada、Off-White 撮影:Eva Losada

    画像:Coperni 撮影:Eva Losada

    画像:JW Anderson 撮影:Davit Giorgadze

    画像: Sandy Liang 撮影:Cris Fragkou

    モフモフの野性

    柔らかな手触りに心和まない人がいるだろうか? 去る6月、パリで開催されたMarine Serreの2024春夏ショーに、ランウェイの悪戯王トミー・キャッシュ(Tommy Cash)は、頭のてっぺんから足の先までプラチナブロンドヘアで覆ったスーツで現れた。このスタイルは挑発的である以上に、実のところ、私たちがこれからどこへ向かうのかを仄めかすヒントでもあった。そしてパリからニューヨークへと舞台を移し、デザイナーたちが秋のコレクションに大胆に注入したのがフェイクファーだった。

    このMarniのボンバージャケットやSaks Pottsの服のように、首元をふんわりと控えめに縁取るファーは、これからもずっと私たちのお気に入りだが、フェイクファーはもはやジャケットの襟にとどまらず、ほぼありとあらゆるところに登場する。ニューヨークを拠点とするPuppets and Puppetsは、この真紅のホルターブラで、フェイクファーの見事なフィット感を証明し、スペイン出身のデザイナー、パウラ・カノヴァス・デル・ヴァス(Paula Canovas Del Vas)の手がけたブラックのフェイクファー ジーンズは、まったく新しいデニムの地平を開く。

    当たり前のトートバッグに食傷気味? それならOttolingerのブラックキャンバス地のショッピングトートを手に入れよう。どこへ行くにもお気に入りのぬいぐるみを連れて歩いていた頃の気分をもう一度味わえる。こちらのMarniのフェイクファー使いのフーディは、いい意味でディープに仕上がった男臭さを醸し出し、しかもおそろいのローファーもある。もしあなたの後ろを映画『レヴェナント:蘇りし者』のレオナルド・ディカプリオ(Leonardo Dicaprio)が追いかけてきたら、いい線をいっているということだ。Collina Stradaのカエルたちを例に引くまでもなく、どうやらデザイナーたちは動物に魔除けの力を求め、これまでになく、文字通り慰撫と逃避の手段としてのコスチューム作りににじり寄ろうとしているらしい。なにしろ、残念ではあるが、世界の終わりは「今」のような気がするからだ。

    画像:Thom Browne 撮影:Adam Powell

    画像:Thom Browne 撮影:Adam Powell

    画像:Sandy Liang 撮影:Cris Fragkou

    画像:Coperni 撮影:Eva Losada

    倒錯のトラッド

    American Apparelは、2000年代のベーシック スタイルに新たなセクシュアリティを導入し、今でいうインディー スリーズ期をもたらしたが、2023秋冬の倒錯したトラッドスタイルはこうしたさまざまな衝動を融合した高度な応用編といえるだろう。80年代に触発されたよくある定番ルックより、一見はるかに洗練されているが、水面下には同じ生硬なエネルギーが流れている。そんな美学に先鞭をつけたのが、2023春夏ショーのThom Browne。ツイードのマイクロミニスカートやタータン柄のジョックストラップを見れば一目瞭然だ。2023秋冬へと季節が移ろうなかで、その旗の下に追随者が続々と現れている。人肌恋しい季節もすぐそこ、となれば、どこかクールでほんのりエキセントリックな一着をワードローブに加えるのも悪くない。Luarの非の打ちどころのないピンストライプ パンツに、Lをかたどったシルバーのバックルが印象的なベルトと、カットワークが面白いニットのベストを組み合わせてはいかがだろうか。そういえば、Sandy Liangのバックステージでは、モデルたちが気取ったラッフルディテールのミニドレスや薔薇飾りがポイントのクロップトップを着て夜の図書館司書を気取り、書棚の横でポーズをとっていた。こうした倒錯スタイルでお上品なカントリークラブに押しかけるなら、フランスのブランド、Coperniのスタイルが最強かもしれない。同タイプのドレスやタンクトップを差し置いて、ここでは古風なスレートグレーのニットのプルオーバーに注目だ。手の形をしたシルバーのブローチがアクセントにあしらわれ、その人差し指と親指が乳首をつまんでいる。これはもう、Coperniのひとつまみ、と呼ぶほかはない。

    画像:Ludovic de Saint Sernin 撮影:Eva Losada

    画像:Martine Rose 撮影:Eva Losada

    画像:Rick Owens 撮影:Eva Losada

    画像:Courrèges 撮影:Eva Losada

    輝ける少年少女たち

    ハリー・スタイルズ(Harry Styles)のサーカスの衣装から、プロレス団体WWEの美学、さらにはジェレミー・アレン・ホワイト(Jeremy Allen White)とザック・エフロン(Zac Efron)共演の、A24による新作プロレス映画『The Iron Claw』に至るまで、カルチャーが求めているものは明白だ。コスチュームに触発されたわかりやすくハイコンセプトな装いは、もはやイタいものではない。ピッティ ウオモでのERLことイーライ・ラッセル・リネッツ(Eli Russell Linnetz)によるショーでは、ライムグリーンのランウェイにシルバーとブラックのシークインで覆われたトラウザーズ、ブレザー、ボタンアップシャツが燦然と光を放った。『トワイライト』のチーム・エドワードと聞いてピンと来るなら、今こそあなたが主役を張るときだ。この秋、メタリックなグリッターも、伝説のナイトクラブStudio 54の狂乱のディスコルックも、ド派手なキラキラも、輝きをまとう勇気さえあれば誰でも手に入る。このEGONlabの花柄トップスのシークインは第二の肌となり、一方Dries Van Notenのボンバージャケットは同じくシークインをあしらいつつも、スポーティにまとめている。本気で輝きを追求するなら、シークインでびっしり覆ったミッドナイトブラックのRick Owensのフレアパンツがリングのなかでも外でも本命だ。「あらゆることはプロレスだ」と言われてきたように、年を追うごとに、多かれ少なかれ、私たちの誰もがまるでプロレスのケーフェイのように自己を演じていることが見えてくる。そして今や、全員がケーフェイみたいな装いができるのだ。

    ネポ マミー

    セレブリティの親を持つネポ ベビーたちは、すっかり大人になっても、私たち平民のようなオフの日は1日もない。彼らは豊かさも健康も目立たず楽しむ。たとえばジムでの体幹エクササイズやリュクスなピラティスのあとは、ワークアウトのクラスからするりと高級スーパーマーケットへ向かい、プレスイベントへと移動する。これくらいの気負いのなさを醸し出そうと思うなら、Aloのヨガ用レギンスDries Van NotenのゴールドのヒールSophie Buhaiのフープピアス、そしてTOTEMEのテーラードジャケットを合わせてみよう。このちょっとした数式を使えば、どんな人もネポ ベビーならぬネポ マミーになれるはず。

    画像:Sandy Liang 撮影:Cris Fragkou

    画像:Kiko Kostadinov 撮影:Eva Losada

    画像:Junya Watanabe 撮影:Eva Losada

    画像:Kiko Kostadinov 撮影:Eva Losada

    スニーカーは語る

    スニーカー マニアを尻目に、私たちがこのワードローブの定番に求めるのはもっとさりげないデザイン。そこで登場するのがRick OwensのVintageスニーカーだ。絶妙なゴツさで、派手さはないけれど、いい感じに個性を主張し、グランジにもグラムにも対応してくれる柔軟さも備えている。栄えある2023秋冬スニーカー賞を贈呈するなら、Sandy LiangとSalomonがコラボしたキャンディピンクのコットンシューズ、Martine RoseとNike Shoxの進行中のコラボによる、今季はエレクトリックブルーの現代版ミュール、Wales Bonnerと言わずもがなのadidasのコラボスニーカー、そして相変わらずとびきりセクシーな、安定のNew Balanceのシリーズで決まり。

    リアリティTV中毒

    全米映画俳優組合と全米脚本家組合が同時にストライキを敢行し、今後1年はコンテンツ不毛時代になることが予想されている。つまりリアリティTV番組の独り勝ち状態になるというわけだ。コアなリアリティ番組ファンといえば、Louisa Ballouのドレスをまとってカウチに寝そべり、『Below Deck』を観るのがお約束。このリアリティTV全盛期は、華やかでラウドなラグジュアリーが回帰する先触れだろうか? リアル主婦の面々は「イエス」と言っている。ほんの数エピソード観るだけで、あなたは良くも悪くもリッチな人気ポップスター風スタイルに目覚め、外出前の身支度シーンを見せるGRWM動画のワクワク感に感化されるだろう。ちなみに「Architectural Digest」の最新のホームツアーによると、クリッシー・テイゲン(Chrissy Teigan)の自宅は全室にテレビがあり、彼女のリアリティTV漬けに一役買っているとのことだ。

    コートはロングで

    画像:Acne Studios 撮影:Eva Losada

    画像:Mowalola 撮影:Eva Losada

    画像:1017 ALYX 9SM 撮影:Eva Losada

    画像:1017 ALYX 9SM 撮影:Eva Losada

    万人のためのケミカル ロマンス

    日々の暮らしはさらに不気味さを増していく。ネタバレすると、それはもう既定路線なのだ。ならば、悍ましさとセクシーさが同居する装いこそ、天変地異の絶望的な未知へと突入する世界で乗りこなすのに最もふさわしい美の波だろう。新しいグライムは、超がつくほどぼろぼろに擦り切れ、ペンキで汚れ、オイルでテカり、煙草の焼け焦げがついたスタイル。これらは大切に着る服ではない。クラブをはしごし、アフターパーティーに乱入し、それがなんであろうと、アフターパーティー後の背徳行為に耽るためにある。だが、キャンドルの両端に火をつけ、煙をすべて吸い込むことには、なんとなくロマンがないだろうか? これらの服を最高に引き立てるアクセサリーは、べっとりと脂じみた髪と黒く滲んだアイライナーだ。映画『ブレイド』の血のレイヴがあなたにとって究極の映画シーンなら、Diesel、MOWALOLA、Y/Project、Acne Studios、Rick Owens、そしてVAQUERAをチェックしてほしい。乱れた夜の生き物たちを思わせる、終末が迫る時代のスタイルが見つかるはずだ。

    • 翻訳: Atsuko Saisho
    • Date: August 25, 2023