キャスリン・
ボーウェンが創る
第二の肌
トロントの若きデザイナーが
テキスタイル、仕立て、
キム・カーダシアンとの
コラボを語る
- 文: Naomi Skwarna
- 写真: Aaron Wynia

現在30歳のデザイナー、キャスリン・ボーウェン(Kathryn Bowen)にとって、衣服は肉体と同じ知性を持つ。パーツが裁断され、配置され、縫い合わされて、肉体に備わった目には見えない漠とした感受性を映し出す。そんな独自のビジョンがキム・カーダシアン(Kim Kardashian)チームの目に留まり、KKWフレグランスの再リローンチ用に3点のドレスを発注された。そして、メッシュを使った非常に印象的なデザインは、3億1100万人のフォロワーを誇るカーダシアンの個人Instagramアカウントで披露された。
ロンドンのロイヤル カレッジ オブ ファッションで学び、さらにその後の2年間ヤン・リー(Yang Li)の下で経験を積み、ヨーロッパ流の仕立てが身に沁み込んだボーウェンだから、上質な織り地で明確なラインのコートやスーツを作っているはずだと思うかもしれない。確かにそうしてきたし現在もそのとおりだが、トロントで誕生させた最新のコレクションは、もっと肉体に接近し、しなやかな仕立てと高性能アスレティック ウェアに等しい動感を融合させている。ストレッチ メッシュ素材と考え抜いたシームのデザインは、爪先まで体に沿って流れるような仕上がりで、まるでアウターウェアとアンダーウェアがひとつになったようだ。シームとライニングが作り出すふたつのイメージが重なり合い、時として、セクシーなMRI画像を見ている気分になる。
2018年にKathryn Bowenを立ち上げたが、パンデミックによって世界が別物になっただけでなく、彼女自身のライフスタイルも変化して、デザインに影響を及ぼした。子供時代に打ち込んだフィギュア スケートに情熱が再燃した。トロントのレスリー ストリート スピットを自転車で走るようになった。緩やかなカーブを描きながら灯台まで続く、長いサイクリング ロードだ。一方で、最近のビスチェ、ブラウス、コルセット ドレス、バイク ショーツには、引きこもり生活も屋外でのスポーツ熱も表れてはいない。対極の中間で、優しく穏やかなカラーと自由な動きに応えるシルエットがミックスされている。
車のトランスミッションを修理する町工場の2階、トロント最古のジムの隣という地味な場所にあるボーウェンのスタジオを訪れ、数時間を共にした。ボーウェンは、新しいコレクションのアイテムを私に触らせ、光に透かして見せてくれた。物に溢れてはいるが整然とした作業机の上には、これから仕立てるウェアが積み重なっている。「どこに何があるか、ちゃんとわかってるのよ」と言う彼女の言葉を、もちろん私は信じて疑わない。

ナオミ・スクウォーナ(Naomi Skwarna)
キャスリン・ボーウェン(Kathryn Bowen)
ナオミ・スクウォーナ:あなたのウェアにはランジェリーみたいなデザインと完璧な仕立てを組合わせたものが多いけど、視覚と構造の緊張関係のどういった点に惹かれるの?
キャスリン・ボーウェン:私は、極端に女性的とか極端に男性的とか、両極の服へは絶対に流れたくないと思ってる。その選択が原点ね。十分に時間をかけて、デザインとスタイリングにバランスを作り出すのが好きなの。シンプルなデザインに複雑なディテールを加えたり、かっちりしたファブリックとソフトなファブリックを組合わせたり、相互に相殺させるのが好き。
何に、あるいは誰に刺激されて、自分でもテーラリングとビスポークのようなフィット感を追求するようになったの?
言うまでもなくアレキサンダー・マックイーン(Alexander McQueen)。それからフセイン・チャラヤン(Hussein Chalayan)。ファッションを勉強している頃からずっと、チャラヤンは天才だと思ってた。すばらしくフィットさせる驚異的な技を持ってると同時に、とてもコンセプト志向なの。北米のカルチャーって果てしない欲望でしょ。いつも新しいトレンドを欲しがって、ショッピングに憑りつかれてる。ロンドンで勉強してるときは、全然そんなじゃなかった。サヴィル ロウがあって、いまだにそこでスーツを誂える人たちがいる。ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)の、とってもパンク ロックなスタイルの歴史も息づいてる。彼女は慣習に挑戦したけど、それでも構造と仕立てに関してものすごく綿密だったわ。
ヤン・リーとの仕事で学んだことは?
彼はフィットをとても大切にして、すべてが完璧になるまで、フィッティングにものすごい時間をかけてた。伝統的な仕立ての方法で素晴らしいコレクションが出来上がるのを目の当たりにして、とてもエキサイティングな経験だった。ほかにも、学べる人を自分で探したわ。トロントの郊外に住んでるウラ(Ulla)は、洋服は絶対に手縫いでなきゃ嫌っていうお金持ちの女性たちのために、長年、クチュールのデザインを手掛けた人なの。今70歳。彼女には、例えば1.5mmまで細かく手直しする方法を教えてもらった。本当に小さくてマイナーなディテールで驚くほどの違いが出るの。フィット、見た目、実際に着たときの様子、すべてが良くなる。


そういう非常に綿密な仕立てから、現在のコレクションのストレッチ メッシュに変化した経緯は?
意図したわけじゃないの! あるシーズンに、かっちりした仕立てのデザインと良いコントラストになるんじゃないかと思って、シアなドレスをやったのよ。そしたら、シームが透けて見えるのがすごく気に入って、これはもっとやってみる価値があるなと。シームを見せるだけで新しいデザインになる。しかも、構造には影響しない。テクスチャを付け足すわけじゃないのに、視覚的なテクスチャが生まれる。触覚ではなくて、視覚のテクスチャとディテール。
メッシュは面白い感じに光が散らばって、モワレみたいに見えるよね。
そう、とても優しくて、きれい。おまけに伸縮性があるから、完璧に体形に合わせられるし、シームの配置や作りたい形が思いどおりになる。ただし、シームの配置はとても緻密だから、何度も試行錯誤を繰り返して、自分で考え出した。


あのビスチェには一体シームが何本あるの(レッドのビスチェに目をこらす)? バストの部分も含めて、前と後ろ、合わせて24枚のパネルまでは数えられるけど…。
それプラス、ライニング!
私の数え方が正しかったとして、この小さなビスチェに48枚のパネル。
裁断したパネルを床に並べたら、まるでパズルよ。
フィギュア スケートをやってた時期があるそうね。ラッフルのミニ ドレスを見て、なるほどと思ったわ。今でも滑る?
ええ、フィギュア スケートをやってたのは子供の頃だけど、パンデミック中にまた始めて。今は、フィギュア スケートに関係することで頭がいっぱい。コスチュームは大好きだけど、ラインストーンをたくさん使ったのや煌びやかなのは好きじゃないな。
自分がデザインしたドレスで滑ったことある?
ミュージシャンの友だちがビデオを作るのに、特別製のコスチュームを着て出演したよ(スケート靴を履き、ピンクのメッシュのスケート用ドレスを着た写真を携帯で見せる)。

去年キム・カーダシアン(Kim Kardashian)とコラボレーションしたとき、フィッティングのためにロサンゼルスへ飛んだんでしょ。彼女と一緒にいた時間は?
彼女が何かのせいで遅れたから、最終的には30分しか時間がなかった。手袋も含めて3種類のデザインを準備したんだけど、選ばれたのは最初に作ったメッシュのビスチェ ドレス。ストラップなしで、カラーはブラックとホワイト。前回のフレグランスのローンチはVivienne Westwoodのデザインの3バージョンだったから、今回も、「これがすごく気に入ったわ。次のローンチまでに3バージョン作ってくれる?」って。Vivienne Westwoodの向こうを張るなんて、気が遠くなる。崇拝するアイドルだしね。
キムのドレスは、全部、自分で作ったんだって?!
そう、まさにこの場所で! それからロサンゼルスへ持参して、フィッティングして、これを持って帰ったわけ (私たちが向き合って座るテーブルに鎮座した家庭用ロックミシンを指さす)。壊れちゃいけないと思って、機内持ち込みの鞄に入れて運んだのよ。実は刃が付いてるんだけど、気づかれずに通関できたのは幸運だったわ。私の双子がロサンゼルスに住んでて、彼女のベッドルームで一晩中このミシンを使ったから、とんだ睡眠妨害しちゃった。
キム・カーダシアンのほかに、Kathryn Bowenのデザインを着てるのは誰? あなたは、どんな人に着てほしい?
女性に限らず、あらゆる年齢の人に着てほしい。60歳を超えた人が私のデザインしたコートを着てくれたりすると、とても嬉しいわ。買ったものをとても大事にしてくれるから。セクシーなものもたくさん作るけど(笑)、ありきたりなファスト ファッションのセクシーとは違うわよ。
Naomi Skwarnaはトロントを拠点に活動している
- 文: Naomi Skwarna
- 写真: Aaron Wynia
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: May 31, 2022

