ファッション
デザイナーの
夢のチェア

リック・オウエンス、エロルソン・ヒュー、シモーネ・ロシャが理想の椅子を空想する

  • アートワーク: Tracy Ma

「安全と健康を維持するには、どこへ、どのように、体を配置すればいいか」に始まり、果ては「ソファ、椅子、ベッドと場所を変えるだけで、1日中座り続ける毎日がどんなものか」に至るまで、この1年というもの、私たちは自分の体を強く意識するようになった。夢想の達人にもなった。「こんな時」が終わったらどこへ行こうかと考え、ああでもないこうでもないと未来の夢を描き直す。あるいは、次にオンラインで買うものを頭の中でひねりまわす。今年も座って夢想する1年になるのなら、夢想にかけては最高の権威である一流ファッション デザイナー10名に、意識をちょっと違う方向へ振り向けてもらおうではないか。そう、「椅子」という新たな領域だ。リック・オウエンス(Rick Owens)シモーネ・ロシャ(Simone Rocha)カイル・ウン(Kyle Ng)プリヤ・アルワリア(Priya Ahluwalia)マーティン・アリ(Martine Ali)イドリス・バログン(Idris Balogun)エロルソン・ヒュー(Errolson Hugh)、ビアンカ・サンダース(Bianca Saunders)、ローラ & ディアナ・ファニング(Laura and Deanna Fanning)Commissionのデザイナー トリオが理想の椅子を思い浮かべ、それにイラストレーターのトレイシー・マー(Tracy Ma)が姿を与えた。さあ、座り心地を試してみよう。

ローラ & ディアナ・ファニング、Kiko Kostadinov

私は「テタテット」って呼ばれてる。ふたつの椅子がひとつに合体したデザインだから、「ラブ チェア」と呼ぶ人もいるけど、そんな呼び方はお断り。私は「陰と陽」。だから当然クッションは互いに補い合う色で、パウダーみたいに繊細でソフトな肌触りの生地がいい。座面は低いけど、委縮してるわけじゃない。大胆だけど、でしゃばらない。

リック・オウエンス、Rick Owens

スローモーションの『デス ディスコ』を奏でるオレンジの虹に下から照らされて、淡いパープルの優しい霧の中に浮遊しつつ、燃え上がりながら溶けていく、透明なクリスタルのラウンジ チェアが欲しい。

プリヤ・アルワリア、Ahluwalia

熱帯の風景を見晴らす、美しい形の窓が私の夢の椅子。籐を編み込んだ縁取りで、すごくふかふかで、座り心地がいいハンモック チェアみたいな感じ。色は茶色がかったオレンジ。読書には最高の場所よ!

カイル・ウン、Brain Dead

家で椅子に座り続ける生活を改善するには、どうすればいいか。ここのところ、僕はそれを考えている。仕事に関していちばん重要な要素は、多分、椅子だろう。だが、腰を下ろせば仕事をする気になり、なおかつ必要に応じてリラックスできる快適な椅子は、なかなか見つからない。第一に、美しいデザインでなくてはならない。僕が育った家には1980年代のモダンやポストモダンなデザインの家具が沢山あったから、デザインを考えるときは概して当時の記憶が起点になる。好きなのは、臀部の曲線に馴染むべく成形された硬質材の椅子だ。特にガエターノ・ペッシェ(Gaetano Pesce)のデザイン。まるで生体の彫刻みたいに樹脂を成形した椅子には感動する。冷淡でなくて、人間味を感じさせる椅子というコンセプトがいい。

シモーネ・ロシャ、Simone Rocha

フェミニンで、実用的で、手触りが良くて、気持ちが落ち着く椅子。

ビアンカ・サンダース

快適さと柔らかさと弾力性が合体した曲線的な椅子。アームチェアに似てるけど、大きなクッションと言ったほうがいいかな。大きなクッションが椅子の形になって、ワイヤのフレームにバランスよく納まってる。素材は厚めのラム レザーで、ざっくりと太いステッチが入ってる。

イドリス・バログン、Winnie New York

FFFチェアと呼ばれる形状と快適性と機能性を備えたチェア。折り畳み式、フェイク レザーのクッション、アップサイクルのウッド パネルで、ニューヨークのアパートのラグジュアリーと利便性を体現する。なんといってもニューヨークは、空間を最大限に活用しなければいけない場所だから。

マーティン・アリ、Martine Ali

モダンで、丸くて、ミッドセンチュリーのボウルみたいな椅子に似てるのが理想だな。体を心地よく受け止める、雲のボウルみたいな椅子。素材はグレーがかったホワイトのレザーで、ふんわりした枕みたいに柔らかい。透明なルーサイトのベースに乗せてあるから、本当に浮かんでるように見える。継ぎ目はヒンジ式で、光沢のあるシルバーのハードウェアがいいわね。それから「レイジーボーイ」と同じように、収納式のフットレストがある。しかも、お家の中でメッセージを送受信できるブルートゥース テクノロジー搭載!

インスピレーションを刺激されるのは、フィンランド生まれのアンティ・ヌルメスニエミ(Antti Nurmesniemi)が、同じくフィンランド出身の妻でテキスタイルデザイナーのヴォッコ・ヌルメスニエミ(Vuokko Nurmesniemi)と一緒に、1966~1970年頃にデザインしたラウンジ チェアやアーム チェア 004。ただし僕たちのデザインには、たっぷりホワイトのレースを使うよ。

エロルソン・ヒュー、ACRONYM

理想は、最高級の競技用自転車と完全調節型医療ベッドと外骨格を全面的に統合したハイブリッド チェア。それに、Afra & Tobia Scarpa の「ソリアナ」ソファを追加投入。この椅子なら、眠れるし、立てるし、ペダルを漕いでスタジオ中を動き回れる。

2年前の12月、僕は家族と一緒に入院中の祖母を見舞った。結局病院で数日泊まり込むことになったので、僕たちが座ったり寝たりできるように、看護師が精巧な車椅子を持ってきてくれた。あれほど快適で色々と調節できる椅子は初めてだったね。座ったまま動き回れるのはもちろんのこと、駐車した状態で自転車と同じようなレバーと油圧を利用すると、リクライニングになる。実質、ベッド代わりになるんだ。つまり、背骨をまっすぐ伸ばして直角に座った状態から完全に平たく寝た状態まで、どんな姿勢もとれる。おそらく30年以上は経ってる古い車椅子だったにもかかわらず、僕がこれまでに体験した椅子の中でトップに数えられる。

もうひとつ、ずっと憧れてる椅子がある。セグウェイ発明者のディーン・ケーメン(Dean Kamen)が開発した電動車椅子「iBOT」だ。ユニークな設計と仕組みで「立ち上がる」こともできれば、階段を登ることもできるというから驚きだ。でも僕が実際に使うとしたら、排出物ゼロのために、電動じゃなくて、リカンベント自転車みたいな人力にする。

  • アートワーク: Tracy Ma
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: May 7, 2021