空気、その神秘と戯れ
自然の力を彫刻する
- アーティスト: Daniele Frazier
- 写真: Todd Oldham

ダニエル・フレイジャー(Daniele Frazier)は、最近のアーティスト ステートメントで、風は「超自然の力」だと書いている。目で見ることもできないし、止めることもできない。髪をそよがせる微風もあれば、足をすくうほどの強風もある。機械で作り出したものであれ、空気が動いた結果であれ、軽やかな風はまるで地球が戯れの気分になっているかのようで、浮き浮きする安堵をもたらす。この記事に登場するフレイジャーの空気彫刻作品「Air Dancers」は、スタイリストであり『i-D』シニア ファッション エディターでもあるシドニー・ローズ・トマス(Sydney Rose Thomas)が選び、デザイナーのマーティン・キーン(Martin Keehn)がセットで仕立てた服を、空気で大きくうねらせながら優美に浮遊させている。楽しい童話に出てくる巨人みたいだ。それとも、トレンチコートの中で、3人の子供たちが肩車しているのだろうか? 通りすがりの車を呼び込もうと腕を振っている、とてもお洒落な洗車ガレージの男だろうか? 彼らは、高く聳えて空に近づくほど大きく揺らぐ。大きく揺らぐからこそ、吹き飛ばされずにすむ。空気と物体の関係を模索する作品は「要は、凧の糸を複雑にしたもの」だと、フレイジャーは説明する。
浮力と張力を均衡させて高く聳える空気彫刻では、地上に比べて、服の体積がはるかに重要な意味を持つ。ニューヨークのクィーンズ地区のフォレスト パークで、地上に繫ぎとめ、9人のスタッフがつかまえているにもかかわらず、凧のように今にも飛び去ってしまいそうな気配がある。そんな悪戯な感覚は綿密に練り上げた計画と工学の成果だ。簡単ではないのに簡単そうに見せるところが、アーティストの腕の見せ所。例えばこれらの彫刻作品は、実物大の構造に基づいて、クチュール用透明プラスチックでぴったりのサイズに作った気密の型でライニングされている。フレイジャーはマットレスのカバーからとったMylarのシートを2枚重ね、ハンダごてを使いながら、メタル シートの上でシルエットを作っていった。この作業をしながら、J・M・バリー(J.M. Barrie)の童話『ピーター・パン』で、ウェンディが取れてしまった影をピーター・パンの足に縫い付ける場面を思い出していたと言う。型が彫刻の影になったのだ。
撮影の段階になると、どんなものでも手に入る材料で遊んでしまうデザイナーでアーティスト、トッド・オールダム(Todd Oldham)の出番だった。15歳のときに枕カバーを妹のドレスに変えたのが手始めというオールダムは、その後90年代を通じ、「MTV世代」という呼び名ができるほど当時の10代が熱中したMTVチャンネルの人気番組『House of Style』のDIYコーナーで、身近にあるもので好きなものを作る方法を伝授し続けた。「Air Dancers」は、人間のモデルが着ていないから、キャラクターを自由に想像できる。巨大な彼らは何を望んでいるのだろう? 素敵な服を着て、私たちの惑星を取り巻く不可視の素晴らしい大気に隅々まで満たされて、ポジティブな可能性に飛び跳ねている。膨らんだトップスと波打つパンツには、オールダムが妹のために初めて作ったドレスと同じ独創性、もしかしたらもうちょっと剽軽な独創性がある。正真正銘の悪戯好きが空想した、手作りのクチュールだ。

画像のアイテム:シャツ(Charles Jeffrey Loverboy)、パジャマ シャツ(Versace Underwear)、T シャツ(Saks Potts)、スカート(Dries Van Noten)、トラウザーズ(Marshall Columbia)
2016年、ニューヨーク シティの自宅に関するインタビューで、オールダムは「ガーデニングと同じ考え方」で室内を装飾すると語っている。ロードアイランド スクール オブ デザイン ミュージアムで開催されたアーカイブの展示でも、同じ理念に言及している。超現代的な作品に見られるように、オールダムが手掛けるものには常に季節があり、季節と同じく、過ぎ去っても終わってしまうことはない。空気というすべての点で自然の力を操るフレイジャーのアプローチにも、同様の本質がある。環境を共同制作のパートナーとして位置付けることは、その力の前に謙虚であることを意味する。気象を左右できるのは、気象以外の何者でもない。フレイジャーは、学生のとき、校内の送風機にトイレット ペーパーの吹き流しをつけて、屋内竜巻とでも言うべきビデオ作品を制作した。今思えば、風を使いこなそうとした最初の作品だった。大きなアイデアを小さな空間で表現できるのは、軽量の素材や膨張できる素材があればこそ。何しろ屋外でのアート制作は、公衆の場所でありふれた素材を使うときでさえ、手法と法律の間に数多くの条件が課されるのだ。「地面にシャベルを突き刺すだけでも、事前に普通賠償責任保険に加入しなくてはいけない」と、フレイジャーは述べている。
そういう損害賠償の法的責任は、「神の行為」、すなわち天災あるいは不可抗力という言葉で規定される。宇宙の中で回転している球体上のちっぽけな存在にすぎない人間には、どうしても予測や備えを成し得ない圧倒的な事象があるというわけだ。しかし、「異常気象の発生原因を環境に対する人間の干渉に遡れるエビデンスが山ほどある」なか、フレイジャーには「神の行為」という言い習わしが皮肉に響く。それでもなお、たとえ人間の行為による影響を理解していても、大いなるものの可能性を除外することはできない。人間界の枠に押し込めることなく自然界の要素と交信する行為には、スピリチュアルなところがある。フレイジャーの目は聖なる移ろいを拾い出す。「樹皮に吹き矢みたいに突き刺さった麦わら、幹を貫通するように樹に取り込まれた鉄骨、完全な形で漆喰壁に埋め込まれた蝋燭、木板の中に押し込められた花」。ここに登場し、私たちの周囲で浮遊しているのは、「ひとりのアーティストの創作について考えさせる、自然であり自然ではない人為の産物」だ。
- アーティスト: Daniele Frazier
- 写真: Todd Oldham
- スタイリング: Sydney Rose Thomas
- テーラリング: Martin Keehn
- スタイリング アシスタント: Sofia Amaral
- 制作: Hens Tooth Productions
- 撮影場所: Forest Park, NYC
- 協力: Vivid Kid NYC
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: October 1, 2021






