Olly Shinderの
エロティックな
ワークウェア
セントラル セント マーチンズとCELINEで育った新進デザイナーが、ベルリンのテクノクラブとカルチャーとしてのファッションを語る
- 文: Max Berlinger
- 写真: Roxy Lee

オリー・シンダー(Olly Shinder)は、若かった頃、といってもようやく25歳になるのだから今よりもっと若かった頃という意味だが、ロンドンのバービカン センターでジャン ポール・ゴルチエ(Jean Paul Gaultier)の業績を称えるショーを観た。そして早い話が、デザイナーであると同時にショーマンでもあったゴルチエの世界にすっかり魅了された。目の部分からヘアが流れ落ちているマスク、ピエール・エ・ジル(Pierre et Gilles)が制作したシュールで官能的なイメージ、ハシド派ユダヤ教徒から着想して観客を驚かせた1993年秋冬コレクション「ラビ シック」の厳密なロマン、切り裂き作り直して、もはや別次元のテキスタイルとしか思えないデニムのデザインは、今でもシンダーの記憶に残っている。「遊びと技術とユーモアと美しさには無限の可能性があることを見せてくれた」と、活動拠点のロンドンから、電話越しにシンダーの言葉が届く。

Olly 着用アイテム:ジャケット(Olly Shinder) 冒頭の画像 Olly 着用アイテム:シャツ(Olly Shinder)

Olly 着用アイテム:ジャケット(Olly Shinder)、パンツ(Olly Shinder) Tyrone 着用アイテム:バックパック(Olly Shinder)
その時まで、シンダー自身とファッションの関わりはかなり違うものだった。少年時代は学校の制服で成長した。ピンクのストライプが入ったグレーのセーターがひときわ印象に残っている。今にして思えばとんだドラァグだし、うら若きクィア少年にとってはことさらだ。一方で、人々、厳密にはゲイの男性たちが、意思の疎通や交わりの手段として衣服を利用していることも察知した。後に転校した学校には服装の決まりがなかったので、Abercrombie & Fitchを愛用した。幾分、気紛れでやりたがりで軽薄な学生に見えるスタイルは、たっぷりトウモロコシを詰め込んだアメリカーナ カルチャーに、紛れもないホモエロティシズムのスリルが染み込んだ感覚とでも言えばいいだろうか。この時期の経験も、消えることのない認識をシンダーに刻みつけた。先ず何よりも、従来男性を象徴する服を着ることで、自分の中で美しく輝いているものが適切な集団にテレパシーで伝わること。クィアのアイデンティティは、どんなものをどう着るかのゲームであること。男性性と女性性を定義する規準は覆せること。衣服自体が秘密の言語になりうること。
名門のセントラル セント マーチンズ校を卒業後、わずか数年でブランドを立ち上げたシンダーは、肉体労働者のワークウェアとクィア、外に向けた自己表現である同時に内に潜む欲望を伝達しうる衣服という相反の狭間で、両方が同時存在する創作を追求する。そこには、ベルリンで育んだクラブ カルチャーへの愛と、アーティスト、フォトグラファー、デザイナー、エディターなど、ロンドンの雑多な交友関係から掬いあげるインスピレーションも織り込まれている。
シンダーを理解するには、おそらく、学生時代に体験したふたつの研修に目を向けるのがいちばんだろう。ひとつはファッション界の大御所、フランス ブランドのCELINEだった。当時はデザイナーのフィービー・ファイロ(Phoebe Philo)がクリエイティブ ディレクターとして華々しく活躍し、女性性と女性らしさに対する奇妙でセンシュアルな視点に、ファッション界がこぞって魅了されていた時期だ。もう一方の研修先は、スウェーデンのワークウェア ブランドSnickersだった。ブランド名の語源がスウェーデン語で「大工」を意味する「snickare」であることからわかるように、肉体労働向け衣料の専門ブランドだ。シンダーの現在のデザインは、これら両極の斬新な合成と理解できるかもしれない。
「僕はいつも、ちょっとアンチファッションなところがあったから」

Olly 着用アイテム:ジャケット(Olly Shinder)、カーゴパンツ(Olly Shinder)
「僕はいつも、ちょっとアンチファッションなところがあったから」とシンダーは言う。セントラル セント マーチンズに在学中は、奇想天外な身なりをした学生たちの中で、ありきたりな普段着のほうが目立つことを知った。グレーのトラックスーツとかまったく気取らない肉体労働向けの衣類、要は市の作業員が着ている類だ。それらの配慮されたディテール、機能性、飾り気のない実用性にも興味を引かれたが、秘かな反体制の感覚もあった。ベルリンで過ごした時期に、クィアの男性たちがワークウェアでクラブに来ることに気づいていたからだ。「ワークウェアはホットで男っぽくてセクシーだと思われてた。僕はそこをもっと掘り下げてみたかった」
初めてベルリンに行ったのは16歳のとき。たちまち虜になった。特に魅せられたのは、噂どおりにエネルギッシュで、ゲイで、狂熱のパーティーで盛り上がるナイトライフだ。クィアの男性が、いわばストレートを象徴するワークウェアでクラブに来ることには、確実にアイロニーがあった。トム オブ フィンランド(Tom of Finland)のイラストが生身の人間になったところを想像してみてほしい。だがその事実のほかに、実質的な目的があることにもシンダーは気づいた。ワークウェアは、何時間もぶっ通しで踊り、当然ながらドラッグもやれるだけの機能性を備えているのだ。「なんせ長時間だからね。人によっては15時間入り浸りってこともある! それもテクノ クラブなんだし、とてもじゃないけど、ハイヒールや小洒落たドレスはへたばってしまう。ああいう場所にも耐えられる丈夫な服で、同時にカッコよく見えるものでなきゃいけない」

Olly 着用アイテム:ジャケット(Olly Shinder)、カーゴパンツ(Olly Shinder)
シンダーの独創的なデザインには、クィアとストレート、機能とスタイルの二面性がすでに表現されている。元来は実用性重視の服が女性らしいシルク クレープ地で作られ、ミリタリー調トラックスーツのジッパーを開くと思わせぶりなメッシュが現れ、等高線のように肉体の起伏を露わにする。ナイロン メッシュのジム ショーツやタンクトップは、肩や腰元に配されたパイピングが木の根や血管を連想させる。着ている人物の腋腹や三角筋を掴んでいる手に見えなくもない。どのデザインも徹底して肉体を意識している。
遊び心でワークウェアをいじったデザインもある。例えば、シェル ジャケットやパンツに使われているスナップボタンやパネルは、機能が目的ではない。あくまで装飾として袖やボディに連なり、アブなくてセクシーなコルセットを連想させる。タフガイぶりを誇示するジャケットからは、淑女にふさわしいサテンのライニングが目配せを送ってくる。2024年春夏コレクションのランウェイでは、反射パネルが目を引く消防夫のジャケットが現れた後、あまりにローカットで尻が丸出しのショーツが登場した。
クィアな性のエネルギーを強調するために、シンダーは初のルックブックの撮影をヴォルフガング・ティルマンス(Wolfgang Tillmans)に依頼した。ターナー賞を受賞し、ゲイの青年たちの物欲しそうな渇望をとらえた作品で広く知られる写真家だ。
自分のデザインは周囲の世界との対話であり、ファッションは生活と切り離せず、切り離すべきでもない、とシンダーは考える。だから同じ考えのアーティストたちを周囲に集め、共鳴板ともインスピレーションの源ともなるネットワークを作り出す。映像作家、新進アーティスト、雑誌エディター、ミュージシャン。「面白いことをやってる面白い連中に囲まれていたいからね。そういう人たちと話すことで、僕という人間の幅が広がる。それぞれの視点を知ることで、お互いに触発されて、みんなが成長するんだ」
「テクノ クラブなんだし、ハイヒールや小洒落たドレスはへたばってしまう。ああいう場所にも耐えられる丈夫な服で、同時にカッコよく見えるものでなきゃいけない」

Olly 着用アイテム:ジャケット(Olly Shinder)、ショートパンツ(Olly Shinder) Tyrone 着用アイテム:ジャケット(Olly Shinder)

Olly 着用アイテム:ジャケット(Olly Shinder)、パンツ(Olly Shinder) Tyrone 着用アイテム:バックパック(Olly Shinder)
シンダーは続ける。「とにかく、そういう人たちに巡り合えたことが嬉しい。仕事のアイデアが湧いてくるのも、みんなのおかげだ。仕事はみんなと一緒にやるもので、自分ひとりじゃできない。おまけに今は大した予算もないから、仕事に情熱がないと。今という時を一緒に過ごして、新しい作品を作って、友情を固める。生活も仕事も、全部を含めたライフワークだよ」
事実、シンダーには世界から切り離されたファッションなどまったく考えられないし、ファッションは、雑多に混じり合って広く時代精神と呼ばれるものを構成するエネルギーの一部だと思っている。「必ずしもファッションに関係しない人たちの視点も採り入れたい」と言うとおり、2023年秋冬シーズンのルックブックはポーランドのアート フォトグラファー、クバ・ライニウィッツ(Kuba Ryniewicz)との共作だ。「さっきも言ったけど、僕のなかのアンチファッションな部分だな。ファッションのためのファッションには、ちょっと嫌気がさすところがある。違うやり方を見つけて、ファッションをカルチャーとしてとらえたいんだ。カルチャーに何かを付け加える、カルチャーを変える、世界に出て対話の一部として存在する服を作る—。それが僕のやりたいこと」
シンダーに耳を傾けていると、一種の切迫感を感じる。話し方にはどこかクラブのビートが響いていて、ロンドンの若者カルチャーのリズムが脈打つようだ。若者特有の性急さであることは否めないが、ファッション デザイナーとして成功するために必要な意欲でもある。そんな熱い思いがあるからこそ、セントラル セント マーチンズを卒業した後、有名ブランドに就職して怠惰な数年を過ごしたくはなかった。その代わりに、英国は欧州連合から脱退したばかり、世界は前代未聞のパンデミックの渦中、生産は混乱し費用は値上がり、という状況にもかかわらず、すぐに自分のブランドを立ち上げた。
「学校でファッションを勉強していた頃、誰かと共同作業をすると、僕はすごく影響されてた。感受性が強いんだ。でも卒業後の1年間は、自分の内面を見つめてひとつの世界を作り出した、というか、新しい世界が始まったような気がした。だから、誰かほかの人のために働いて、せっかく見つけた自分の世界を失うのがものすごく怖かった。企業に画一化されないためには、自分のビジョンをしっかり掴んで確実に自分を表現できる必要があるのに、そのために自分を準備する貴重な年月が失われてしまう気がした」
それがシンダーの守り抜きたい純粋さ、あるいは価値であり、粘り強さと気力でもある。楽しみで危険な組み合わせだが、大きな推進力を生み出すためには不可欠の組み合わせだ。何はともあれ、ブランドの目標を尋ねると、シンダーの答えは簡単明瞭で力強い。「僕はみんなの服の着方を変革したい」

Tyrone 着用アイテム:バックパック(Olly Shinder)
- 文: Max Berlinger
- 写真: Roxy Lee
- アート ディレクション: Nova Needham
- キャスティング: Madeleine Østlie | aamø
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: November 20, 2023

