溢れ出る
フィーリング

陶芸に現れる
シャリフ・ファラグの
饒舌な時空

  • 写真: Ben Beagent

シャリフ・ファラグ(Sharif Farrag)は、現在28歳。陶芸を作り、絵を描く。ひとりの人間なのに、色々な自分になる。「思いついたことをそのまま行動に移すのがすごく楽しい」から、「ただ思うように絵を描いて、ろくろで粘土をひねっていられる日が、最高だ」。だが、そうはいかない日がある。過去の自分が込み入った依頼をやり残していたせいで、現在の自分が、まだ生乾きで慎重を要する作品を、自分で決めた期限までに仕上げなくてはならない。そういう日は、アーティストであることの二面性に挟まれている気がする。スタジオの主たるファラグと、アイデアを形に変えるために助手として働くファラグ。「わかった、わかった。ボスのシャリフは、木曜までに、蔦の部分を全部グリーンに塗らせたいんだな。クソ! まったく嫌なボスだ」という気分になる。

Sharif Farrag『Inside Out Oasis』(2020年)。陶器に釉薬。48.5x32x30.5cm。協力:Sharif Farrag、François Ghebaly(ロサンゼルス)。写真:Paul Salveson。冒頭の画像:Sharif Farrag『Royal Twins Jug』(2020年)。磁器に釉薬。30.5x30.5x20.5cm)。協力:Sharif Farrag、François Ghebaly(ロサンゼルス)。写真:Paul Salveson。

コンセプトと実際の手作業のあいだを往復し続けるファラグに加えて、若いアーティストたちを指導するファラグ、UCLAで陶芸の勉強をしつつ、大学の釜を使い、さまざまなタイプのアーティストたちと交流しながら、同校の修士号取得を目指すファラグがいる。別のファラグは、ロサンゼルスで生まれ育ち今もその街を愛してやまない少年のままでいること、「今の瞬間」を追いかけるためにそれ以外のすべてを忘れ去る感覚を持ち続けること、ちょっと角を曲がればたくさんのビーチがあって街全体が発見されるのを待っているときに1日18時間も働いたりしないことが、どれほど大切かを知っている。もうひとりのファラグは、最近飼い始めたチワワの「ミス・スプリンクルズ」のために、責任ある親としての役目を果たす。スプリンクルズは朝の散歩のお供であり、数多くの作品を誕生させるミューズでもある。「作りかけのキャラクターに耳を付けると、どれもみんな、スプリンクルズみたいになるよ」

Sharif Farrag『Sore Eyes, Tasting Strawberries』(2020年)。磁器に釉薬。34x25.5x25.5cm。写真:Paul Salveson。

ここに紹介する花瓶は、注文品ではなく、ファラグが自分で作っているコレクションの一部だ。装飾と化した容器は、ファラグと作品が交わした対話のコラージュにほかならない。「僕の話はまとまりがないんだ」とファラグは言う。「作品を見ればわかると思うけど」。いつも影響が現れる『ニモ』を始め、子供の頃に楽しんだアニメやコミック。重量感を出すために、時折りeBayで落札するアール ヌーボーのジュエリー。古代エジプトのモチーフ。多種多様な連想のディテールを重ね合わせたデザインには、常に、タイムトラベルの感覚がある。かつて少年だった頃を忘れないため、今もスタジオで懐かしい曲に耳を傾けるように、現在の気配もある。すぐそばにある感覚、アドリブの感覚、ファラグが好む混沌の感覚だ。「粘土で、重力に逆らってるんだよ」。それは、無限の未来に向けて、可能性の限界を試すことでもあろう。

Sharif Farrag『Bobbing for Fresh Air』(2020年)。廃木灰で焼成した磁器に釉薬、金属ネジ。26.5x15x15cm。協力:Sharif Farrag、François Ghebaly(ロサンゼルス)。写真:Paul Salveson。

テレザ・オルティス(Tereza Ortiz)のスタイリング、ベン・ビージェント(Ben Beagent)の撮影で、ファラグの作品をゆるく服に転換した。アーティストとアート、素材と媒体、作る者と着る者のあいだで交わされた、もうひとつの対話だ。「作品の周囲に『場』を作ることと作品を作ることは違う」と、ファラグは確信している。「僕は、スタジオで感じる楽しさを、外側へ伝えようとしている。自分のさまざまな側面に目を向けて、ただ、そのすべてを観察しているんだ」

モデル着用アイテム:ドレス(Molly Goddard)

モデル着用アイテム:ドレス(Kenzo)ハット(Cecilie Bahnsen)

  • 写真: Ben Beagent
  • スタイリング: Tereza Ortiz
  • ヘア: Kalle Eklund
  • メイクアップ: Ignacio Alonso
  • キャスティング: Ortiz Casting
  • モデル: Patricia Devall
  • 制作: Tann Production
  • 画像/写真提供: Sharif Farrag、François Ghebaly
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: October 22, 2021