ホヨンが
ハリウッドを
手にするまで

「モデルや俳優のレッテルを剥がした今」、韓国アイコンの世界征服が始まる

  • 文: Hyunji Nam
  • 写真: Ilya Lipkin
  • スタイル: Minji Kim

Hoyeon 着用アイテム:ジャケット(032c)パンツ(032c)

Hoyeon 着用アイテム:シャツ(Cecilie Bahnsen)

12時間の仕事が終わり、ソウルの空は暮れ始めた。でも、チョン・ホヨン(Jung Hoyeon)の物静かなエネルギーは疲れを知らない。「早く撮影を終わらせて家に帰ることが今日の目標じゃなかったもの。良い成果を出すことが優先」というホヨンは、この記事の筆者である私を含め、セットで仕事をしているメンバーたちの疲労と焦りを感じているのだろう。「結局のところ、私たちは観てくれる人たちのために仕事をしてるの」。ということで、私はインタビューを始める

ネットフリックスの大ヒット作『イカゲーム』(2021年)で一躍名声を手にした韓国のモデル・俳優は、突然舞い降りた大人気にのぼせてはいない。むしろ、自分の仕事をできるだけ多くの人たちと共有する方法に考えを巡らせる。「もし明日死ぬとしても、今日は微笑みながら生きたいの」とホヨンは言う。「死があるからこそ、人生には意味がある。私は今を幸せに生きて、与えられるチャンスに応えて、他の人たちのインスピレーションになることに意識を集中してるわ」

ホヨンは、わずか30歳の若さで、韓国俳優の多くが夢見るだけのハリウッド入りを果たした。「『イカゲーム』のおかげで、俳優としての第一歩は上手く踏み出せたと思う」。その後すでに、2つの新作に取り組んだ。ひとつはApple TV+から10月11日放映開始のミニシリーズ『Disclaimer』で、監督はフォンソ・キュアロン(Alfonso Cuarón)だ。もうひとつは近日公開予定の長編映画『Hope』。高く評価されている映像作家ナ・ホンジン(Na Hong-jin)がメガホンをとり、マイケル・ファスベンダー(Michael Fassbender)、テイラー・ラッセル(Taylor Russell)、アリシア・ヴィキャンデル(Alicia Vikander)などが出演している。

「いつまでもモデルはやっていられない。じゃあ、他に何ができるんだろう? 」と思ったの。

『Disclaimer』では、TVドキュメンタリー ジャーナリストのキャサリン・レイヴンズクロフト(Catherine Ravenscroft)に協力する野心と情熱の警察官キム(Kim)を演じる。レイヴンズクロフトを演じるのは、アカデミー賞を2度受賞した名俳優ケイト・ブランシェット(Cate Blanchett)だ。英語を話す役は初めてとあって、ホヨンにとっては大きなチャレンジだった。「韓国生まれの韓国育ちだから、英語のセリフを棒読みするんじゃなくて、感情を正しく表現できるように努力したわ」とホヨンは説明する。「だけど、チャレンジしなかったら、絶対に自分の可能性がわからないでしょ。だから正面からぶつかった。アルフォンソ・キュアロンやケイト・ブランシェットみたいなベテランが揃ってたから、環境も最高だったしね。チャレンジにつきものの苦痛や困難を恐れる代わりに、自分をレベルアップして、将来の自分を思い描く機会だと考えるの。新しい仕事をするたびに成長していけるのが嬉しいわ」

ホヨンは、このインタビューの数日前に上海で開催された「Louis Vuitton(ルイ ヴィトン)」2024年プレフォール ショーから帰国したばかりだったが、なんとショー会場でブランシェットに遭遇したという。「実際にケイトにあった人はみんな同感だと思うけど、本当に健全なエネルギーの俳優さんなの。彼女の横で演技をしてるときでさえ、思わず『俳優としても人間としても、こんな健全な人になりたい』と思ったもの。一生に一度でもお目にかかれればいいと思ってた俳優さんと共演できるなんて、すごく光栄だった。今でも信じられないくらい」

一方のブランシェットはホヨンについて、「『イカゲーム』ではひと際輝いてたし、ランウェイでもすごい存在感だったから、実際に会ったときはすごく驚いたの」とSSENSEに語った。「温かくて率直で…。だから、すぐに打ち解けたわ。よく笑って、情熱と好奇心に溢れてるのに、アルフォンソが求めたような鋭くてひたむきなキャラクターにするりと変身してみせる。驚くべき才能の持ち主よ。仕事に対する姿勢も素晴らしくて、大きな成功を手にしているのにとても謙虚。彼女と仕事をする時間はいつも楽しかった」

SSENSEのための写真は、イリヤ・リプキン(Ilya Lipkin)がソウルの大学で撮影した。週日にしては、比較的静かなキャンパスだ。「私も20代の最後を大学で過ごしたから、こうやって大学に来ると若さのバイブスが羨ましくなるわ」とホヨンは笑う。「早くモデルをやり始めたせいで、きちんと通えなかったけどね。友だちと学校のカフェテリアへ行く、みたいな思い出はないの。『Korea’s Next Top Model 』のシーズン2出場したのは16のときだったな」。韓国の教育環境には熾烈な競争があるから、学業とモデル業を両立させるのは並大抵のことではない。

初夏の熱波がソウルに腰を据えたある日、終日屋外での撮影に備えて、ホヨンは元気いっぱいにスタッフの士気を高める。スタイリストのキム・ミンジ(Kim Minji)、ヘア スタイリストのチャン・ヘヨン(Jang Hyeyeon)、メイクアップ アーティストのファン・ヒジュン(Hwang Huijung)は、以前からホヨンと一緒に仕事をして、無数の雑誌の表紙撮影や数々の困難を共に乗り越えた仲間たちだ。朝の4時にミニバンに乗って韓国を横断したこともある。「良いときも悪いときも、いつも一緒だった」とホヨンは言う。「最近は学ぶことが難しくなりつつあるけど、モデルの仕事から学んだ最大の教訓は『協力し合うこと』よ。若い頃から他の人たちとの共同作業を理解したおかげで、演技の仕事もそれほど恐れなくてすむ。いつだって助け合えることがわかってたら、どんな状況でも乗り越えられると思えるもの」

モデルの仕事には波があるけど、試練や苦難を経験することで自信が強くなる

何事もシンプルに、素早く行動に移す。これがホヨンの世界の渡り方であり、チャンスの作り方だ。「韓国からニューヨークへ移る決心をしたときは、キャリアの頂点で海外進出に挑戦するんだと思われた。でも本当はそうじゃない。韓国で約6年間仕事をした後は、チャンスがジリ貧になってたのよ。モデルの世界は変化が速くて、以前ほど仕事もこなくなって、まだ若いのに不安を感じるようになってた。そこで『いつまでもモデルはやっていられない。じゃあ、他に何ができるんだろう? 何か新しいことを始めるべきじゃないだろうか』と思ったの。海外へ行くのはエキサイティングな気がしたしね。その頃にはもうニューヨークで活躍してる韓国人モデルがかなりたくさんいて、カッコいいなって」

仲間の名前を出すとき、ホヨンは「オンニ」という言葉を付け加える。お姉さんや女友達に対する韓国語の愛称だ。「キム・ソンヒ(Kim Sung-hee) オンニはMiu Miu(ミュウ ミュウ)のキャンペーンをやったし、パク・ジへ(Park Ji-hye)オンニはChanel(シャネル)やその他たくさんのブランドの仕事をしてた。だから23歳のとき、英語も上手く喋れないくせに生意気にも『私はトップモデルになりたい』なんて宣言して、衝動的にニューヨークへ行ったわけ」

ニューヨークに到着して間もなく、路上はもちろん、カッツ デリカテッセンやタイムズ スクエアといったマンハッタンの伝説的な名所で、ホヨンは撮影されるようになった。韓国出身のサッカー選手がヨーロッパ リーグで活躍するのを目の当たりにする思いだった。私も胸を躍らせて声援を送った。サッカーには最優秀選手と得点王を表彰する制度があるが、モデル界ではModels.comの「栄誉の殿堂」がそれに相当する。ホヨンは、ニューヨークへ移った後、トップ50に選ばれたときのことを今でも思いだす。「語り切れないほど苦労や試練があったけど、トップ50を達成して、もっと自信がついたわ」

コンフォートゾーンから飛び出してチャレンジすることを、ホヨンは楽しむ。「10年間モデル業一筋で、浮き沈みを経験して、今はもっとリラックスしてる」と言う。「最近モデルのシン・ヒョンジ(Shin Hyunji)に会ったときに、その話をしたの。モデルの仕事には波があるけど、試練や苦難を経験することで自信が強くなるよねって」。ホヨンと一緒に『Korea’s Next Top Model』シーズン4に出演したヒョンジは、SSENSEにこう語った。「ホヨン オンニはいつだって情熱に溢れてる。オーディションを受けるときは、決意と自信が目に漲ってる。よく考えて内面を見つめる人だから、私にとっては、すごく刺激される素晴らしい仕事仲間よ」

ホヨンは現代の韓国文化を体現している。2021年、脱北者カン・セビョク(Kang Sae-byeok)の奥深くに潜む怒りと傷つきやすさを見事に表現した『イカゲーム』がネットフリックス史上最大の視聴者数を記録したのを契機に、ホヨンのキャリアは一転した。翌2022年には、単独のアジア人として初めてアメリカ版『Vogue』の表紙を飾り、初の韓国人俳優として第28回全米映画俳優組合賞ドラマ部門女優賞を受賞し、エミー賞ドラマ部門助演女優賞にもノミネートされた。それまでの韓国人俳優には未踏の快挙を達成して、ホヨンは一躍アイコンになった。「私が今いる世界は、モデルや俳優のレッテルを剥がした私チョン・ホヨンの世界。とても幸運だったし、心から感謝してる。今が最高よ」

Hoyeon 着用アイテム:ブラウス(Pushbutton)パンツ(HYEIN SEO)

今生では無理みたいだけど、来生ではポップスターになろうと思ったことがある

『イカゲーム』以来、ホヨンの勢いは留まる所を知らない。ザ・ウィークエンド(The Weeknd)の「Out of Time」ミュージックビデオに出演し、数知れず雑誌の表紙を飾り、栄えあるMETガラに姿を見せ、今春ネットフリックスから放映されたコメディシリーズ『タッカンジョン』で話題を呼んだ。八面六臂の活躍は自国だけでなく、世界へ広がっている。『タッカンジョン』で演じたフードライターのホン・チャ(Hong Cha)は、共演したアン・ジェホン(Ahn Jaehong)の元カノという役回りだ。そのアンにホヨンと共演した感想を聞くと「初めて一緒に仕事をしたとき、彼女には人を惹きつけるものすごい力があることを直感したよ。ホヨンの顔がモニターに映るだけで『映画』を感じる。確かなエネルギーが色んな方向へ溢れるんだ。ホヨンの何もかもが新鮮だね」という答えが返ってきた。

ホヨンは、昨年の『Vanity Fair』インタビューで、現在彼女がハリウッドで手にしているチャンスは、道を切り拓いてきた先人たちのおかげだと語っている。「ベテランの俳優たちが時機の到来を辛抱強く待ち続けて、その成果を私たちの世代にもたらしてくれたのよ。これからは、『イカゲーム』、『エブリシング エブリウェア オール アット ワンス』、『ドライブ マイ カー』みたいな映画がもっと観られるようになるわ」。道のりは険しいかもしれないが、絶対に諦めないとホヨンは言い切る。

Hoyeon 着用アイテム:ジャケット(We11done)

根っからの映画ファンであるホヨンは言う。「映画の女性キャラクターを観ると、私もああいうふうに表現したいと思うの。最近は、是枝裕和監督の『怪物』を観て、安藤サクラの演技に感動したわ。『僕らの先にある道』のチョウ・ドンユイ(Zhou Dongyu)も良かったな。先日会う機会があったから、ファンだって伝えたのよ」。この流れで、ホヨンが被っているIDEA Booksの「WINONA」キャップを話題にしないわけにはいかない。ホヨンは人気俳優ウィノナ・ライダー(Winona Ryder)のファンで、『ストレンジャー シングス』でライダーを観られたのがすごく嬉しかったのだそうだ。

現在、ホヨンのInstagramフォロワー数は驚きの1900万人に達する勢いだ。自分の内面を強くしたいと思っていても、超セレブという地位から大きなプレッシャーがのしかかる。比較的に隔離されたファッションモデルの世界に比べ、俳優業はもっと大規模な批評に晒される。エンターテイメント関連の記事に見境のないネガティブなコメントが多過ぎるせいで、韓国のニュースポータルは2020年にコメントをブロックしたほどだ。「プロの俳優として、建設的な批評は受け入れるべきだと思う」とホヨンは言う。「だけど、俳優としての仕事に無関係な個人攻撃は無視するようにしてる。あべこべに、20代初めの頃は毎日エゴサーチして、レビューや否定的なコメントのほうに注意を向けてたのよ」。30代になったホヨンは、周囲から押し寄せる注目や期待にもっと上手く対処できる。それも10代からモデルを始めた経験のおかげだ。「1日に3本も4本もエディトリアル記事の撮影をする時期の後、ニューヨークでモデルのキャリアを築く決心をして、次に韓国へ戻って、映画のオーディションを受けて…そういうこと全部が今の私を作ってる。今振り返ると、無駄だった経験はひとつもないわ」

今が最高よ

人生は無限には続かないし、私のインタビューの時間も限られている。そこで、モデルと俳優の後にチャレンジしたいものを尋ねてみた。「今生では無理みたいだけど、来生ではポップスターになろうと思ったことがある」とホヨンは笑う。「ドキュメンタリーの『Homecoming』で、出産後のビヨンセ(Beyoncé)がコーチェラ フェスティバルに備えて準備をしてるのを見て、すごく感銘を受けたの。頂点を極めた人でさえ、もっと努力するんだなって」

音楽、映画、ファッションにわたる韓国コンテンツは、現在、世界からかつてない注目を集めている。そんな未来志向の雰囲気のさなかで世界の人々に「過去の韓国」を知ってもらおうと思ったら、ホヨンはどんな「古い」エンタテイメント作品を薦めてくれるだろう? Instagram アカウントには、『イカゲーム』にも出演したイ・ジョンジェ(Lee Jung-jae)の名作『太陽はない (태양은 없다』(1998年)のスチール写真を投稿していたことがあった。「イ・チャンドン(Lee Chang-dong)監督の『グリーン フィッシュ(초록물고기)』(1997年)や『ポエトリー アグネスの詩(시)』(2010年)、ホ・ジノ(Hur Jin-ho)監督の『八月のクリスマス(8월의 크리스마스)』(1998年)がいいと思う。最近は古風な恋愛映画が少ないから、『八月のクリスマス』は繰り返し観てるわ。最近よく聴いてる音楽は、キム・ヒョンシク(Kim Hyun-sik)の『Like Rain, Like Music(비처럼 음악처럼)』(1986年)。特に今は雨の日が多いからね。歌詞が詩的な古い歌のほうが好きよ。シンチョン ブルース(Shinchon Blues)の[「Regret(아쉬움)」]
(https://www.youtube.com/watch?v=zzF0Nsm3nE0)(1989年) や「Last Station for Farewell(이별의 종착역)」(1990年)も好き」

韓国には「geum-ui-hwan-hyang (금의환향)」という言い回しがある。「絹の服で帰郷する」、つまり「故郷に錦を飾る」と同じ意味だ。Louis Vuittonは、昨年の4月、ソウルの漢江にかかる潜水橋をランウェイにして、2023年プレフォール コレクション ショーを発表した。Louis Vuittonがソウルでその種のイベントを催すのは初めてのことだった。韓国のロックバンド、サヌリム(Sanullim)の1977年ヒット曲 「Already Now (아니 벌써)」と農民の音楽「農楽」と呼ばれる民族音楽が流れるなか、最初に登場してショーの幕を開けたホヨンにとっては、まさしく「絹の服で帰郷する 」ときだった。2017年の春夏ショー以来Louis Vuittonのランウェイは何度も歩いたが、母国でのショーには特別大きな意味があった。「先頭に立って潜水橋を歩いてるときは、イベントの意味を考える暇なんてなかった」とホヨンは回想する。「ランウェイになった橋はすごく長いから、他のモデルたちと歩調を合わせるとか、風が吹きつけてもあまり瞬きしないとか、実際的なことに意識を集中してたから。だけどフィナーレで、友だちやファッション業界の仲間からの声援を聞いたとき、『ああ、ここが私の街だ』って感じたの。普段はランウェイでポーカーフェイスを崩さないけど、あのときばかりは、思わず笑顔になっちゃった」

  • 文: Hyunji Nam
  • 写真: Ilya Lipkin
  • スタイル: Minji Kim
  • タレント: Hoyeon
  • ヘア: Hyeyeon Jang
  • メイクアップ: Huijung Hwang
  • ネイリスト: Nahyun Kim
  • プロダクション: MOTHER Media
  • 撮影アシスタント: Hudson Hayden
  • スタイリング アシスタント: Youngju Lee
  • BTS: Jaedon Lee
  • リタッチング: MCD Creative
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: August 1, 2024