Hodakovaで
馬を駆ける

エレン・ホダコヴァ・ラーソンは、牧場での生い立ちと最先端ファッションを融合したデザインでスウェーデン初のLVMHプライズ ファイナリストに選ばれた

  • 文: Alex Kessler
  • 写真: Nimie
  • スタイル: Isabel Bonner

エレン・ホダコヴァ・ラーソン(Ellen Hodakova Larsson)が初めて自分の馬を持ったのは4歳のときだ。そんな生い立ちは今も如実に表れている。首都ストックホルムから西へ1時間、ストレングネース近くの馬牧場で育ったラーソンは、僕たちがWi-Fiに馴染んでいる以上に自然に馴染んでいた。小さい頃から馬術競技に打ち込んだり、兄と裸足で駆けまわったり、リンゴを齧って品種を言い当てるゲームをしたり、全身で田園生活に浸る暮らしだった。デザイナーとしての現在の創作に明白な特質は、多少風変わりだが牧歌的だった子供時代に形作られたものだ。

ブログブームが世界を席巻した2000年代初頭、16歳になったラーソンはファッションに目覚めた。やがて新たな情熱はテキスタイル専門校での勉学に発露を見出し、精密なテーラリング技術を習得した。彫刻を通して大好きな抽象に熱中したのも同時期だ。そして2021年の卒業後、時を経ずしてHodakovaを立ち上げる。『Vogue Runway』のレアード・ボレッリ=ペルソン(Laird Borrelli-Persson)の解説によれば、ラーソンのそういった人生体験のすべてがHodakovaに織り込まれている。「ラーソンのデザインはショーを目的としていない。再利用に価値を置く生き方と信念の延長だ」

その後Hodakovaはファッション最前線へと進出し、現在32歳のラーソンは栄えあるLVMHプライズの2024年度ファイナリストに選ばれた。スウェーデン出身デザイナーとして初の快挙だ。Hodakovaが目指すのは長く使い続けられる作品であり、どの作品もストレングネースの馬牧場にルーツがある。レザーのベルトを再利用したパネル仕立てのハンドバッグやペンシルスカート、古い腕時計で作ったホルタートップ、縫い針で装飾したミニドレスなど、かつて愛されたものが分解され、再構築されて、新しいもの、魂のあるものに生まれ変わる。古典の上品さ、乗馬界の優雅さ、魔術を連想させる謎めいた中世の雰囲気が混ざり合った美学に魅了されるのは、デュア・リパ(Dua Lipa)、カイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)、グレタ・リー(Greta Lee)ばかりではないだろう。「純粋な創作というと気ままな行為みたいだけど、目的を浸透させれば大きな価値と深い意味が生まれるわ」とラーソンは言う。「いくつもの新しい理解の層が開ける。なぜ創作すべきか、なぜ創作すべきではないか、作品がどう語りかけるか、作品にふさわしい場所はどこか。たくさんの問いかけが始まるの」

ラーソンにとって、サステナビリティは単なる流行語ではない。デザインを貫く理念だ。スタイリストのエリザベス・スチュワート(Elizabeth Stewart)はラーソンに深く根差したエコ意識をいち早く評価し、今月ロサンゼルスでの『ボーダーランズ』プレミア上映会で主演のケイト・ブランシェット(Cate Blanchett)にHodakovaを着せた。102本のスプーンで作ったトップスだ。「彼女が目指す完全にサステナブルなファッションブランドは、ファッションの今後の方向性と完璧に合致している」とスチュワートは語る。7月に開催されたサンディエゴ コミコンでは、エマ・コリン(Emma Corrin)がHodakovaのミニドレスで『デッドプール&ウルヴァリン』上映会に姿を見せた。スタイリストは、エディトリアルとセレブファッションで有名なハリー・ランバート(Harry Lambert)だ。「ラーソンが作る服にはハートと歴史を感じさせるものがある。職人的な手づくりに重点を置くとコスチューム的になりがちだが、ラーソンの作品は肌に馴染む感覚を失うことがない。無理がなく、自然だ」

今年のLVMHプライズに選ばれことでラーソンの創作に世界の関心が集中したが、異色なのはラーソンがこれまで培ってきたコミュニティの存在だ。ラーソンにとってファッションの創作は自分ひとりの行為ではなく、仲間たちとのコラボレーションであり、錬金術的とさえ言える作業だ。民話として語り継がれる『石のスープ』と同じように、これをちょっと、あれを一振り、とするうちに、すべてがひとつに混じり合って素晴らしいものが誕生する。

牧歌的な生い立ち、デザインの背後にある緻密な創作過程、将来のHodakovaに託す夢、そしてLVMHプライズで優勝した場合の賞金の使い道について、ラーソンに尋ねた。

モデル着用アイテム:コート(HODAKOVA)シューズ(HODAKOVA) 冒頭の画像 モデル着用アイテム:ワンピース(HODAKOVA)シューズ(HODAKOVA)

アレックス・ケスラー(Alex Kessler)

エレン・ホダコヴァ・ラーソン(Ellen Hodakova Larsson)

スウェーデンの田園地帯の馬牧場で成長するのは、どんな体験?

上品そうに聞えるけど、自分たちが食べるものを栽培してたし、実際は農家に近かったわ。私の両親は臨機応変に身の回りにあるものを全部利用してた。兄と私も手伝ったし、とにかくいつも外にいたわね。リンゴの果樹園を裸足で走り回って、色んなリンゴを齧っては品種を当てるゲームをして。実質的に、私は馬の背なかで大きくなったようなものよ。

臨機応変って、どんな具合に?

中古品にかけては、私の母さんは大ベテランなんだから。牧場といっても、自分たちの馬や装具じゃなくて他の人たちのを預かってただけだし、洒落たものや新しいものを買える暮らしじゃなかった。だけど母さんは、安物のガラクタや家具を役に立つものに変えてしまうコツを心得てるの。父さんも同じで、何の知識もないままプロジェクトを始めて、進めながらやり方を身につけていくタイプ。私はそういう考え方の両親に育てられたわけ。手元にあるものを最大限に活用する。手に入るものを、創造と柔軟な思考で素晴らしいものに変えていく。

今でも馬に乗る?

自分の馬じゃないけど、時々乗ってる。色んな面で今の私を作った場所だから、いつかまた馬の牧場を持つのが私の最大の夢よ。私にとって馬は単なる動物以上の存在、友だちなの。初めて自分の馬を持ったのは4歳のとき。母さんと並んで森や野原を駆けたことを、今でもはっきり覚えてるわ。体験がない人にはわからないかもしれないけど、動物と過ごすのは動物と特別な関係を持つことよ。人と動物のあいだに、魔法みたいなコミュニケーションが生まれる。それを理解することがすごく大切だわ。地球上には人間というひとつの種しかいないわけじゃない。動物との繋がりから私は自然を愛し、サステナビリティを目指すようになったし、私が地球上にいるあいだに少しでも世界を良い場所にしたいと思ってる。

モデル着用アイテム:コート(HODAKOVA)

ファッションや美学に関する気づきはどこで育まれたの?

両親、それから毎日厩舎で過ごしながら成長した環境ね。装具の手入れを教えられながら育ったし、馬術の競技に出るようになってからは騎手のユニフォーム一式が欠かせなかった。父さんは軍隊の経歴があるから、軍服のスタイルも影響してる。

私が子供の頃の母さんは、ものすごくお洒落だったの。何かがあるときには新しいドレスを縫うもんだから、時間に間に合わないのはいつも母さん。私は6歳から9歳頃までドレスアップに夢中でね、屋根裏に置いてあった母さんの服をひっくり返しては、それを着て家族の前でパフォーマンスしてみせたもんよ。特に気に入ってたのは80年代のスーツ。

もっと大きくなって正式な乗馬を始めてからは、ちゃんとしたブランドのちゃんとした製品にこだるようになって、そこからファッションというものを理解していった。トレンドを見分けることとか、ファッションが社会的なステータスを伝達することとか。ファッションに関して何かひとつの認識が生まれたというより、ファッションが持つ力に対してどんどん認識が広がった感じ。特に馬術の世界、それも金持ちの子供たちのあいだでは身なりが物を言うからね。

自分のブランドを立ち上げた経緯と、Hodakovaと名付けた理由は?

自分で起業したいというのは、ずっと前から思ってた。Hodakovaは、私がすごく尊敬してる祖母の苗字。祖母は素晴らしい資質の持ち主だったのよ。未知の世界に立ち向かう勇敢さ、無限の可能性に対する信念、どこの出身であれ本気で学べば何でも習得できるという力強さ。戦争中にロシアに近いカレリアからフィンランド、フィンランドからスウェーデンへ逃れて来た祖母の逞しさは、困難なときこそ全力で事を成し遂げる精神そのものだわ。だから、祖母の力強さを讃える意味で、ブランドの名前にHodakovaを選んだの。立ち上げたときは丁度コロナの最中で、地下のスタジオをクリエイター仲間たちと一緒に使ってた。写真家、画家、3Dプリンターのテクニシャン、ミュージシャンのみんなとコラボしたりリメイクする時間が、とても大事だったわ。

Hodakovaが表現する現在の美学や理念は?

目標は時代を超えること、トレンドにとらわれないこと。だけど根底には好奇心があって、色々な視点と語りの可能性を探ること。サステナビリティは重要だけど、私の創作の本当の核にあるのは、学び、楽しむことよ。それがないんだったらやらないわ。

画像のアイテム:クラッチ(HODAKOVA)

コレクションを創作するときのプロセスを簡単に教えてくれる?

日記を書くみたいな感じ。特定のときの私の考え方や世界観を表現するの。すごく直感的で、「驚き」を追っかけるゲーム感覚よ。魔法が生まれるのは思いがけない瞬間が閃いたときなんだから、絶対に「驚き」がなきゃダメ。成り行きが展開するに任せて、自然な流れを受け入れることね。

コレクションにアップサイクルする素材は、どう調達するの?

制限があることで創造性が刺激されると信じてるから、特定の制限を設けてる。一緒に仕事をするのは素材とAIプログラムを提供してくれる会社よ。そうやってHodakovaの規準をすべて確実に満たしながら、選別と開発を進めていくの。元のアイテムのディテールと結びついたデザインにしたいから、中古品は具体的なスタイルを念頭に置いて選別するわ。そもそものディテールを強調することが大事なの。アイテムを分解して組み合わせるまでには、選別、洗浄、ピーリング、その他11から16の段階がある。平面の布地を縫製するのとは違うから、アップサイクルの特殊なニーズに合った生産方法を伝達するために、独自のシステムを開発してあるの。

アップサイクル用に調達した古着のポケットに、意外なものが入ってたりする?

あるある。使用済みのナプキンからコンドームまで、ありとあらゆるものが出てくる。奇妙なものが出てくるのは、ほぼ決ってメンズのスーツなの。どうしてなのか、興味津々だわ。

LVMHプライズのファイナリストに選ばれた感想は? スウェーデン出身のデザイナーでは初めてだよね。優勝することには、どんな意味がある?

すごく光栄だし、私たちの仕事が評価された証だと思う。変化を推し進めるには知名度と評価が必要だから、ファイナリストに選ばれたのは大きな節目になるわ。Hodakovaを知ってる人が多かったのは意外だったし、面白いと思った。もし優勝できたら、私たちの取り組みが支持されたことを意味すると同時に、ファッション体制の考え方が変化したことも明らかになる。Hodakovaの発展が大きく後押しされるでしょうね。

特に誇りに思う作品は?

作ったもの全部が誇りだけど、なかでも特別なもののひとつは、ファッション学校時代からほぼ毎日穿いてるスカート。元は黒いウールのスーツのトラウザーズだったのを逆さにして、少しずつ改良したら完璧なスカートに仕上がった。服は時代を超えて多用途に使える証拠よ。スプーンで作ったドレスも特別ね。学校時代から進化させてきたもので、近くから見ると驚くほど素晴らしいのよ。日用品の境界線を押し広げていくのは、すごくワクワクする。

今回、素晴らしいコワースパークと付属の乗馬センターで撮影した2024年秋冬コレクションは、何がインスピレーションの源?

2024年秋冬コレクションは、厩舎と乗馬の世界に強く影響された子供時代を経て、大人になった今の私を表現した日記の1ページ。私を形作った英国の田園地帯の美学を表現してみたわ。贅沢な素材とパターン、図書室のチェスターフィールド ソファに座ってるときの心地よくてロマンチックな雰囲気、葉巻の香り。私の父さんは厩舎でラジオを聞きながら葉巻を吸ってたから、格子柄やコートで、あの頃の温かさと郷愁を再現してみたの。ショーにはラジオ放送も使ったのよ。今はどこもかしこもアイロニーが流行りだけど、私はアイロニーから離れて、なにかもっと本当のもの、ロマンと夢、善良で知的で真摯に感じさせてくれる環境と服に目を向ける。でも、楽しさもある。アイロニー過多は破壊的だわ。私は、気持ちが良くて楽しい感覚を応援する服を作るほうがいい。

家族は君の仕事をどう受け止めてる? 君がデザインしたものを着てる?

母さんは着てるし、気に入ってくれてる。デザインを逆にしたらとか、カットを変えたらとか、電話でアドバイスしてくるの。アドバイスに従うこともあるわ。インスピレーションの源よ。夏に母を訪ねたHodakovaチームのメンバーが、「Hodakovaの美学はここで生まれたんだね」って言ってた。確かに、Hodakovaは私の母さんと私の生い立ちに深く根差してる。父さんと父さんのパートナーもすごくサポートしてくれる。よくは理解できないながらも、感心してるし、応援してくれる。

兄さんは?

兄さんはソフトウェアのデベロッパーだから、ウェブサイトとか、テック面を手伝ってくれてる。だけど、私のデザインは着てない。着ない。

君と兄さんは、今もリンゴの品種を言い当てられる?

兄さんはすごく記憶力が良くて、なんでも覚えてるの。私はもっと瞬間的。兄さんに子供ができてからは、一緒に過ごすことが多くなったわ。私は昔のことを尋ねるのが大好きなんだけど、先週リンゴの品種当てクイズを出したら、見事正解。私は外見や味や感触は覚えてるけど、名前は覚えてない。

ファッションと乗馬以外に、趣味は?

水泳、ランニング、読書、絵を描くこと、愛犬と遊ぶこと。今年の夏はヨットを手に入れるから、セーリングもする予定。ゴルフとテニスも好きよ。

なんて健全なんだ! 見習うべきだな。

人生のあらゆる面を歓迎するの。人生は広大なんだから、あまり自分を狭い場所に閉じ込めないことが肝心よ。好奇心が鍵。まだまだ探検と体験が沢山待ってるわ。

沢山は語れないだろうけど、9月のショーのヒントをくれる?

クレッシェンドを期待してちょうだい。

  • 文: Alex Kessler
  • 写真: Nimie
  • スタイル: Isabel Bonner
  • グルーミング: Emma Regan
  • プロダクション: Andy Dubois, Fiona Torrens
  • モデル: Bella, Mitsuki
  • キャスティング: Sarah Small (Good Catch)
  • 協力: Coworth Park
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: August 28, 2024