FIDAN NOVRUZOVAの華麗なる官能

旧ソ連の残滓と西欧文化が絡み合う前時代的で新しいデザイン

  • インタビュー: Liana Satenstein
  • 写真/スタイリング: Dean DiCriscio

最高に不細工な靴が、最高にセクシーな人たちの足を飾ったら? そんな「Havvaムーブメント」を生んだ張本人が、デザイナーのフィダン・ノブルゾバ(Fidan Novruzova)だ。彼女の代表的なフットウェアHavvaは、鍛冶屋が履いたらちょうどよさげだが、それが包むのは、ベラ・ハディッド(Bella Hadid)やイリーナ・シェイク(Irina Shayk)といった面々の煽情的なおみ足。さらにストリートスタイルにおける桁外れのヒットにもなっている。「ここ2年は、私を見かけたら、ほぼほぼFIDANの靴を履いてたんじゃないかな」と話すのは、ブランドの熱烈なファンで、ファッションについては一家言あるニコラス・トラン(Nicolas Tran)だ。「Havvaのグラデーション ブーツかミュールか。どっちかだね」

さて、ノブルゾバのいわゆるドタ靴は、正確には不細工ではない。ブランドFIDAN NOVRUZOVAの手にかかった「ブサセクシー」な靴なのだ。足全体を包み込むずんぐりとした長方形という特徴的なシルエットのおかげで、ブーツもミュールも一目でHavvaだとわかる。ボリュームのあるサイズ感が重要なのは言わずもがなだが、そこには正確で緻密なエレガンスが潜んでいる。「FIDANのデザインは、有機的な要素、手作り感、シンプルなモダニズムのバランスが絶妙なの」と話すのは、スタイリストのキャット・ティパルドス(Kat Typaldos)。彼女は、歌手のキャロライン・ポラチェック(Caroline Polachek)やシンガーソングライターのマギー・ロジャース(Maggie Rogers)など、多くのクライアントにノブルゾバのアイテムを身に着けさせている。「特にブーツには、こうした美学が色濃く出ている。どこか懐かしいのに、蠱惑的な雰囲気があるのよ」

ディテールの華やぎと倒錯は見誤りようがない。Havvaの上向きに反り、ほんのわずか隆起した先端は、あたかも誰かの視線をせがむかのようだ。ノブルゾバの靴のもう一つの特徴に、優雅に齢を重ねた上質なフットウェアを思わせる表現がある。例えばあるデザインでは、シャーペイ犬のような分厚い皺をシューズのアッパーに寄せ、時とともに革靴に刻まれる皺へのドラマチックな賛美を捧げる。「ああいう皺をデザインして、それもうんと強調してみせたかった」とキシナウのスタジオにいるノブルゾバは言う。さらに、デザイナーの説明によれば「クラシカルな艶出しのテクニックを基に、そこにステロイド剤を効かせたみたいな」ぼかし染めのレシピも見逃せない。垂れたオイルの毒気を含んだ黄色や、オーロラを連想する霞のかかった深いピンクなど、その色味は美しい。

ノブルゾバの靴を理解することは、彼女の生い立ちとデザイン哲学を理解することに等しい。28歳のデザイナーはアゼルバイジャン人の両親のもとに生まれ、モルドバの首都キシナウで育った。そのため、ゴツくて先が四角い靴なら、ソビエト崩壊後の街の市場でさんざん目にしている。「ソビエト崩壊直後の初期のメンズシューズがテーマといったら近いかも。そういう形や皺を強調したのは、あの時代の着こなしや履いていた靴がヒントになっている」と彼女は言う。「消費主義以前のスタイルね」

ノブルゾバの魅力の幾分かは、キシナウでひっそりと育ったことによるかもしれない。彼女の記憶するこの街では、ソビエト連邦の残滓が、急激に流れ込んできた西側の文化と絡み合うように存在していた。「私たちにとってファッションの歴史といったら、必需品としての服、つまり服飾よりも、体を覆うものとしての服の歴史ばっかりだった」と彼女は話す。衣類として最低限の条件を満たす服をよしとする価値観に対抗するように現れたのが、ソ連の「ファルツォフカ」、つまりジーンズや電子機器のような密輸品を扱う闇市場だった。「ファルツォフカは、この地域で形成されつつあった消費拡大主義の申し子だった」と言うノブルゾバのファッションへの情熱は、インターネットの拡大とともに高まっていった。ブログサービスのBloggerやlookbook.nuなどを通じて、ユーザー発コンテンツの時代の波に触れた彼女にとって、それらはキシナウの外に広がる世界への扉だった。「私は首都にいたけど、それでも雑誌は手に入らなかった。アメリカの『Vogue』なんて買えなかったの。あるのはネット情報だけ」

モルドバで置き去りにされているように感じていたノブルゾバは、2013年、国外でファッションを学びたいと考える。しかし、ファッションの経験は何一つなかった。「両親には『お前なんか何もできないじゃないか。絵も描けないし、服も作れないし』って言われたけど、絶対やってやるって決めてたの」。ノブルゾバは、ロンドン芸術大学のセントラル セント マーチンズで学ぶことを目標に、ロンドンのとあるファッションコースに入った。「まるでジェットコースターに乗ったみたいだった」が、とうとう入学を認められ、セントラル セント マーチンズでファッションデザインとマーケティングを学ぶことになる。ファッションの名門校に入学した当初の自分は、ヘアもネイルも東欧圏の典型的なスタイルで、絵に描いたようなモルドバ娘だったとノブルゾバは振り返る。個性あふれる奇々怪々なスタイルが当たり前の大学で、その姿はひどく場違いだった。

画像のアイテム:トップス(Fidan Novruzova)

セントラル セント マーチンズで親しくなったのが、デザイナーのコリーン・アレン(Colleen Allen)だ。かつてスタジオでノブルゾバと苦労をともにしたアレンは、彼女の成長ぶりに目を瞠る。「バッグや靴のデザインは手ごわい。でも彼女の作品は美しいわ」アレンは言う。「素材で遊ぶのも意外性があって、難しいのにうまくいってる。スパイラルのデニムジャケットや立体的なベルベットのドレスはいい例ね」

アレンは、友人の性格がその服に表れているという。「彼女は人が大好きで、根っからの外向的なタイプ。フィダンがニューヨークに遊びに来たとき、私は彼女のデザインしたドレスを着て一緒にバレエを観に行ったんだけど、彼女の作品って着るとちゃめっ気が湧いてくるの。思いがけなかったな。そういうおちゃめさは私の知っている彼女の一面で、作品を身に着けたとき、本当にそれが伝わってくる気がしたわ」

「ビジュアル面について言えば、ポストソビエトのナラティブ云々は、私にとってムードボードというよりも、実際に生きてきた経験なんだと思う」

セントラル セント マーチンズで何度もやり直しを食らいながら徹夜を繰り返したノブルゾバの努力は、70年代のアゼルバイジャンとレトロフューチャリズムに着想を得た卒業制作コレクションで実を結ぶ。彼女のスクエアトゥの靴たちがデビューを飾ったのもこの時だ。

ノブルゾバは、「ポストソビエト」という片隅に押し込められることを嫌うが、作品にはその文化の名残が自然に存在している。実は彼女自身も、パリにも拠点を作ることを考えながら、のんびりしたモルドバで暮らし、活動することを気に入っている。重要なのは、ポストソビエトという背景やモチーフを無理に強調しないことだ。「卒業コレクションには、(ポストソビエトの影響は) 間違いなくあったし、ブランドの最初のシーズンにも、その要素は残っていた」と彼女は語る。「でも、ビジュアル面について言えば、ポストソビエトのナラティブ云々は、私にとってムードボードというよりも、実際に生きてきた経験なんだと思う」。

ノブルゾバは会話をちょっと中断し、私にスヴェトラーナ(Svetlana)という有名な物売りの女性のTikTok動画を送ってきた。スヴェトラーナはウクライナのオデッサにある野外食料品市場で、鱗やはらわたが飛び散る魚売り場に立っている。彼女は化粧をした生ける人形そのもので、完璧に唇の輪郭を描き、しらじらと夜が明ける早朝に、夜遊び向きのメイクで決めている。マニキュアをして魚を売る彼女のトレードマークが、キッチュなレースのエプロンだ。それを見て閃いたノブルゾバは、取りつかれたようにまったく同じレースを探した。キシナウのありとあらゆる店を歩き回り、1メートル分見つけたそれを使って、彼女は袖口やポケット、襟を繊細に飾った。「レースは、私のブランドのDNAにふさわしい素材だと思ってる」とノブルゾバは語る。「家庭的な雰囲気があるし、昔ながらの女らしさを強く発している。でもそういう文脈を取り去って伝統から離れたことをやれば、かなり面白いものになる可能性を秘めている」

ノブルゾバの靴が、男性的な重量感のあるイメージをかき立てる一方、彼女の作る服は、反抗的な女性性をのぞかせる。「可愛くなりすぎるとか、ガーリーでポップすぎるとか、あるいは中性的すぎるということはあり得ない」とデザイナーは言う。1月、おしゃれな女の子にとっての守護聖人兼女優のクロエ・セヴィニー(Chloë Sevigny) が、ニューヨークで新作短編映画『Lypsinka: Toxic Femninity』のトークイベントで登壇したが、そのとき着ていたのが、レースで縁取りしたノブルゾバのスカートのセットアップだった。ドイリーのような貴婦人然としたレースがポケットや裾周りを飾るこの一着には、ポストソビエトらしいとがったセンスが詰まっている。ミニスカートの裾を削り、内にえぐれたカーブにしたところが、クラシカルでありながら奇抜なノブルゾバらしい味付けだ。

男性らしさと女性らしさが縒り合わされたこのスタイルが特にはっきり見て取れるのが、ノブルゾバにとって最大のヒット作であるスポーティなナイロンのショートパンツとトラウザーズだ。どちらも俳優のアダム・サンドラー(Adam Sandler)が好むようなブカブカのシルエットで、サイドにあしらわれた可憐な4本のリボンテープがチームユニフォーム風のストライプを形作っている。adidasのトラックパンツを彷彿とさせるが、そういえばこれも東ヨーロッパの市場でよく見かける定番だ。このストライプが緩いリボン結びとなってロマンチックに裾から垂れ、FIDAN NOVRUZOVAらしいフェミニンな華を添える。

ここまでキャリアを築いてきたノブルゾバは、今、デザインするとき、自身のワードローブを念頭に置くようになった。「ブランドを、自分のワードローブを作り上げることだと考えるようになってきた。ブランドは自分のセンスを思いきり追求できる場所。そもそも創造的なことをするために始めたんだもの。誰かが日常的な装いに取り入れたり、1着で着こなせたりするものを作ることがだんだん大切になってきたの」。腰に特大のリボンがあしらわれたトラウザーズなど、ノブルゾバの新作は明らかに女性らしさの面で進化しているし、彼女のバッグも、より機能的なデザインへと変容しつつある。小型ハンドバッグを例に取れば、ガチガチに硬いアコーディオンのようだった初期のバージョンが、今や潰すこともできるショルダーバッグになっている。もしかすると、そんな小物もブーツと同じコースをたどるのかもしれない。

画像のアイテム:ヒール(The Row)

  • インタビュー: Liana Satenstein
  • 写真/スタイリング: Dean DiCriscio
  • モデル: Born Flawed
  • プロダクション: Chloe Snower
  • ヘア & メイク: Adriana Gonzalez
  • スタイリング アシスタント: Harper Slate
  • 翻訳: Atsuko Saisho
  • Date: February 12, 2024