チャーリー・
コンスタンティノウの
現代神話を着る

イギリス生まれのキプロス人デザイナーが語る遺物、適応、荒廃した惑星でのウェア

  • インタビュー: Romany Williams
  • 写真: Rory Griffin

地中海東部に浮かぶキプロス島には、愛と美の女神アフロディーテにまつわる神話が深く根付いており、古代の遺跡とギリシャ神話との繋がりから、多数の観光客が押し寄せる。何世紀にもわたる混乱と支配帝国の変遷にもかかわらず、キプロス島は状況に適応し、必要に応じて変化し、繁栄を続けてきた。ロンドン生まれのキプロス人デザイナー、チャーリー・コンスタンティノウ(Charlie Constantinou)もまた、適応に強く魅かれる。例えばグレーの2022年秋冬 Adjustable Zipトラウザーズは、ヒップから足首まで両端にOリングを付けた長い双方向ジッパーがあり、開閉次第で5通りのスタイルに変化する。ジャケットのウエストやフード、トラウザーズの膝部分さえ伸縮する。タイダイのグリーン ベストは、ショルダーと背面の調節次第で形を変える。コンスタンティノウのデザインには明確なコンセプトがありながら、あくまで流動的だ。

コンスタンティノウは、2022年、24歳でセントラル セント マーチンズ校のファッション デザイン修士課程を修了し、卒業後間もなく、毎年イタリアのトリエステで開催される国際ファッションコンテスト「ITS」の新人デザイナー部門で、栄えあるグランプリを受賞した。今年はLVMHプライズのセミファイナリストに選ばれた。自然から色使いを発想するコンスタンティノウらしく、ファッション デザインの道へ進んだのも自然な流れだった。「いつの間にか服を買うのを止めて、自分で作るようになったんだ。次に友達の服も作るようになった」とコンスタンティノウは言う。「で、18になったときにスケッチのポートフォリオを作って少人数の大学へ入学したのはいいけど、あらゆることをゼロから勉強しなきゃいけなかった。最初の頃は、ミシンに糸を通すのも教えてもらった記憶がある(笑)。でも頑張って、1〜2年のうちに、経験のあるクラスメイトに追いついたよ」

今でも生まれ育った町で暮らし、家族は全員、15〜20分で行き来できる場所に住んでいる。だから身の回りにはキプロス島出身者がたくさんいると同時に、多様なカルチャーにも馴染みが深い。「キプロスは色んな帝国に支配された島なんだ。エジプトやローマだけじゃなくて、中東や西の英国とも繋がりがある。そこがすごく面白い。一応ギリシャ人を名乗るけど、本当はギリシャ人じゃないし、トルコ人でもない」

Charlie Constantinouのデザインは、サイバーパンク、クラフティ クチュール、SF、ゴープといった言葉で形容されるが、どのレッテルも正確とは言えない。素晴らしく異質で手作り要素の濃厚なコレクションは、何世紀にもわたる過去と「未来」を融合した特異性で、型どおりの分類を拒む。未来へ視線を向け、創作には不良在庫のファブリックだけを使用し、独自の手法で染色し、ナイロンをキルティングする一方で、闇雲な懐古ではなく、好奇心から歴史に敬意を払う。

ロンドンのスタジオで、コンスタンティノウが紡ぎつつあるデザイン神話を垣間見た。

ロマニー・ウィリアムズ(Romany Williams)

チャーリー・コンスタンティノウ(Charlie Constantinou)

始まり

ロマニー・ウィリアムズ:服に関心を持ち始めたのはいつ?

チャーリー・コンスタンティノウ:11歳のときにピアノと音楽の勉強を始めて、18歳までは映画音楽の作曲へ進むつもりだった。ところが16歳のときにスニーカー ショップで働くようになって、そこからストリートウェアへ入っていった。

ファッションが好きになり始めたのは、UNDERCOVERと出会ってから。ラグジュアリー ファッションはどこにも僕の居場所がなかったけど、この10年、ファッションの分野で若手がどんどん活躍するようになったし、僕と同じような背景のデザイナーもいる。ネイサー・メイザー(Nasir Mazhar)も同じキプロス人だからね、僕も同じようになれるかもしれないって目から鱗だった。

神話と適応

音楽を勉強した経歴は、デザインを考えるうえでも影響してる?

大きく影響してる。映画と映画音楽は違う世界を体験させてくれるんだ。僕はシーズン毎にちょっとしたリサーチブックを作って、色んなものから感じた影響を書き留めていく。思いつくままだから、古代の遺物について記入したページの次に漫画やビデオゲームの記入があったりするけど、そうやって、別の世界のコンセプトを自分が生きている現実と絡み合わせるのが好きだ。

創作意欲をいちばん刺激するフィクションは?

漫画なら、尾田栄一郎の『ワンピース』の大ファン。スーパーヒーローものとか『スター ウォーズ』とか、子供時代に観て育った映画からもアイデアが生まれるよ。過酷な気象の荒涼とした惑星…、ぜひそういう映画の衣装を作ってみたい。ただし、実際にすごく着やすい服でなきゃダメなんだ。アウターウェア ブランドのColumbiaは、「帝国の逆襲」のレイア姫の衣裳からアイデアをとったジャケットを作ったけど、そういうのにすごく関心がある。

「色々に変化するトラウザーズがあれば、何本も新しいトラウザーズを買わなくていい」

機能性って何だと思う? どういうふうにデザインに活かしてる?

つまるところ、その服にどんな具体的な働きを求めるかだよね。例えばジッパーで調節できるトラウザーズの場合、もちろん見た目が恰好いいことが前提だけど、それ以外に、1本のトラウザーズに5通りのスタイルが収まってる。ジッパーの開閉次第で毎日違う着方ができる。だから、常に消費を追いかける必要もなくなる。色々に変化するトラウザーズがあれば、何本も新しいトラウザーズを買わなくていいだろ。着る人が自分に合わせてスタイルをカスタマイズしてほしいんだ。作り手の側からすれば、思い通りに調節できるデザインだったら、最終的にはワンサイズで事足りるし、調節可能な製品ひとつだけで済むから、複数の型紙やサイズで生産バッチが膨らむこともない。大雑把に言えば、ひとつのものが何通りにも使えるという考え方から機能性が生まれる。

ある意味であなたが作っているのはユニフォームだけど、従来のユニフォームにつきものの堅苦しさがないね。

確かにユニフォームの要素はあるけど、同時に均一的な思考から抜け出そうとしてるんだ。従来のシーズン毎のコレクションからも抜けようとしている。この夏に2番目の「シーズン」コレクションをローンチするけど、シーズンとは無関係な要素が沢山あるよ。常に周囲の状況に合わせられる、それがとても大切なんだ。

ナイロンをキルティングしたアイテムについて教えてくれる?

あれも、適応性を考えたところから発展したテクニックだ。着る人次第で、ファブリックが伸縮できる。ナイロンをキルティングしたバッグなら、中に入れるもの次第で大きくなったり小さくなったりするのと同じだよ。合成繊維を使いながら天然繊維っぽく見せることにも、すごく興味があるんだ。自然由来の素材に見えるけど、人為的な要素のおかげでとても耐久性がある。

あなたのデザインには、幾何学的な形とか螺旋とか、目立たないけどパワフルな模様やシンボルが使われてるでしょ。デザインの過程に、どう神話が関わってるの?

宗教に含まれている神話的な要素にはずっと興味があったし、ギリシャの古い伝承を見聞きして成長したからね。古代の遺物にも現代的なものがすごく沢山ある。METのオンライン カタログや美術館のアーカイブもよく見る。紀元前5世紀のジュエリーが、まるで現代のブランドが作りそうなデザインだったりして、驚くよ。古代のオブジェには必ず未来の要素がある。過去より未来へ目が向いてると言ってもいい。そこに魅かれるんだ。

色彩の理念

あなたの服は全部手作業でオリジナルの色に染めてあるけど、どうやって染料を作ったの?

実践あるのみ。もう何年も前から実験を続けてる。実は、大学時代にあるブランドが生地を寄付してくれたんだけど、それがすごく鮮やかなネオン グリーンで、どう使えばいいかわからなかったのが染色を始めたきっかけなんだ。染めてみたら、最初から色付きのファブリックを使うより、自分の色を作るほうがはるかに良かった。今は基本的に、使う色も色の出し方もわかってる。使うタンクはひとつだけにして水の消費を最小限に抑えてるし、そのおかげで、すごくユニークな色の変化と自然に褪せた感じが出るんだ。服に長い時間が刻まれた感じになる。これまでのシーズンで使った染料が、別のファブリックに使うと全然違う色合いになる可能性もあるよ。ファブリックは全部不良在庫で、ホワイトやべージュみたいなニュートラル カラーだけを選んで自分たちで染色するから、同じ仕上がりはひとつもない。

独特の色調はどこから生まれたの?

色は全部、自然を見て考えつく。遺物も自然の一部だと思う。地球上で何千年もの時間を生きてきたんだからね。常に意識して、それぞれのアイテムやそれぞれのコレクションと一緒に進化する色のストーリーを作っていくんだ。

未来

Charlie Constantinouの3番目のシーズンはどんなものになる予定?

最初のふたつのコレクションの要素を引き継いだうえで、もっとリサーチを重ねて、新しい世界を模索するつもり。僕のコレクションは、以前のコレクションにあった関連性に新しい意味が加わって、シーズンを追う毎に広がっていくんだ。シーズン3にはウィメンズウェアもあるよ。

66°Northとのコラボレーションはどうだった?

あれは2月のアイスランドでキャンペーンを撮影したんだ。修士課程を終えた後に、アイスランドへ来る気はあるかって打診されて、もちろん二つ返事で快諾(笑)。今まで出会ったブランドの中で、その国とイコールと言えるのは66°Northだけだよ。アイスランドで生まれて、アイスランドで成長して、今や国民の96%程度が少なくとも1枚は66°Northの服を持ってるという驚異的な統計があるんだからね。66°Northは素晴らしい土台を築いているし、僕はクリエイティブ ディレクションの面で新しいものを誕生させたかった。そのとおり、66°Northはディレクションを任せてくれて、すごく協力的だった。アイスランドのあちこちにある極限の環境にはすごく創作を刺激されるし、僕たちのビジョンからあの国の伝統を表現してみた。

仕事はひとりで? それともチームワーク?

ほぼ僕ひとり。地元の工場とも、直接、自分で関わってる。今はシーズン3を準備してるから、見習いをふたり使おうと思ってるけど。思うに、新生ブランドにとっていちばん大変なのは、ビジネスの形を整えることなんだ。そのハードルを越えたら、次は基盤作り。店舗と交渉するときも、ニットウェアみたいな作りにくいアイテムは最小限にして、とにかく作り過ぎないことだ。管理が行き届くように、生産も全部地元でやる。自然に成長させていきたいから、ショーもやらない。6か月ごとにあんな重荷を背負ったら、気が狂うほど大変なことになる。ショーのために大急ぎで間に合わせるより、コレクションが十分に熟して、仕上がりに満足できるほうが僕には大切だ。過去を振り返ったとき、完結を感じさせるコレクションが目標だよ。

  • インタビュー: Romany Williams
  • 写真: Rory Griffin
  • スタイリング: Jack West、Charlie Constantinou
  • スタイリング アシスタント: Benita Guo
  • モデル: Gideon
  • 写真アシスタント: Liam Furneaux
  • 制作: Orienteer Mapazine
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: May 10, 2023