マイケル3世式
命運を賭ける9月号

真に優れた
ファッション誌編集長は
かつてない秋シーズンを
読者へ届ける

  • 文: Michael the III
  • 写真: Michael the III

ファッション誌の編集長である君は、人とは違う。着こなしも素晴らしいが、素晴らし過ぎはしない。言い替えるなら、自分のスタイリングだけが大事だなんだと覚らせるほどではない。要は、君にはビジョンがあるということ。常に、いるべき場所に、いるべき時の前にいる。多分に独裁的かもしれないが、ファッションの暴れまくる手綱をしっかりと掴むには、とりあえず編集長の名目が必要だ。えり好みが激しくて、尊大で、完璧で、少しばかり大袈裟なところがあれば、君は「編集長症候群」のあらゆる症状を呈している。しかし心配無用。すべては上手くいく。請け合おう。

「編集長症候群」は「主人公症候群」と非常によく似ているが、発見された時期が新しい分だけ、「主人公症候群」より望ましい。学生時代に責任を持たされたグループ プロジェクトの数が多過ぎたり、成人後にクライテリオン チャンネルの視聴登録が28か月に達したことなどをきっかけに発症することもあるが、大半は先天性である。「編集長症候群」は、いくつかの方法で判断できる。まず、日頃からレザーに関して一家言あるか? 最近、シャルトルーズグリーンが頻繁に目につくか? それでもはっきりしない場合は、高密度脳波計測を行なうことで、編集者は凡人揃いの同僚たちに勝るという信念の有無を診断できる。

副作用には、人生に対する恒常的な不満が含まれる。列挙すると、意表をつく頭韻(連続する単語あるいは密接に関連した音節を同じ音の子音または文字で始める修辞法)、些細な無能力によって引き起こされる身震い、消化不良、多大な文化意識による眩暈、難解な言葉を好んで用いる傾向、難解な言葉に伴う不眠、博物館での徘徊、首の付け根の痛痒感、などである。常にストレスを感じるので、平凡で古臭い「主人公症候群」や職務記述書を伴わない苦痛を羨むことだろう。

「編集長症候群」は、Pradaのブーツを履いてもネパール風のショールでハートを隠しても、消えることがない。沈み込むような、あるいは空高く舞い上がるような感覚が生じ、移り変わるファッションに伴い、君の評判が綱渡りなことが強く意識される。もうすぐ9月になる。どうしようもなく、あの『ファッションが教えてくれること』の9月が来る。そして、9月号に君の命運がかかっている。

思い返せば4月、春夏シーズンのプレタポルテの最中で、間もなくやって来る秋に備えて準備を始めた。今回のテーマは何だろう? 必要なスタッフは揃うだろうか? 読み応えのある記事になるだろうか?等々を自問したかもしれない。

専門分野のエキスパート、身分の低い見習い、アシスタント、ファクトチェック担当者、アート部門、キャンディの包み紙をむいてくれる特別実習生、デジタルと美容とファッションの各編集者…多数が、それぞれの肩書もよく理解しないままに、君を取り巻いている。それほど部下の数が多いと、キャスティングや依頼による友人役に割ける時間はないと思いがちだが、完璧な9月を実現するのは仕事だけでない。デザイナーや広告主と、「仕事上」の飲食を共にする機会も山ほどある。バランスをとるのは君の仕事だ。

忘れてならないのは、決してミューズと友達づきあいをしないこと。さもないと、君の興味が失せた後も延々と、崇拝を期待されるかもしれない。ついては、交渉の余地のない契約を結んでおこう。「私(ミューズの氏名)は、両者の利益のために、ここに独占契約を締結する。本契約により、9月号が(後援者の氏名)の命運を握る期間中、あるいは(後援者の氏名)の興味が私から離れるまで、私は競合する編集者に対して、インスピレーションを与える、助長する、喜ばせる行為を一切行なわないものとする」

意見をひねりだす練習も欠かせない。そのためには、母さんと市場へ行ってみよう。このリンゴは歯応えがいいか? 1979年秋のリンゴと食感が似ているか? ちなみに、1979年秋の食感は、事実であっても想像であっても構わない。今シーズンは花の香りが感じられるか? このように君の観察力を吟味してみることだ。カタツムリの歩みにも似た果物のトレンドでさえ把握できないようなら、ファッションの世界で見込みはない。

おそらく君の視点には世界でもっとも大きな意味がある事実を、謙虚に受け入れよう。同時に、批評で敵を作ることは避けよう。無料のサンドイッチを提供するのは弱さの証だから、代わりにスープを差し出そう。「初稿にしてはいい出来だね」とか「こういうふうに見せたかったんじゃないかな」という言い回しをすれば、必ずうまくいく。

読者はロマンスを好むものだし、ロマンスがふさわしい場合もある。必ずしも9月号のためだけにパートナーを作ることを提案するわけではないが、単数複数を問わず、恋人との親密な写真撮影を事前に計画しておくことが望ましい。すでにパートナーがいる場合は、関係を見直すよい機会だ。パートナーが売れない俳優で宣伝すべき映画は1本もない、配偶者がペアでクロッグを履いてくれないなど、見切りをつけた関係やシーズンのトレンドと一致しない結婚は解消できる。信頼できる法務部であれば離婚手続きを処理できるはずだし、君のために動いてくれるだろう。

バケーションは、別名「ロケ撮影」とも呼ばれるが、少なくとも週1回は出かけよう。ナオミのジャマイカのヴィラが使えるかどうか、ドナテラに尋ねてもらうといい。逞しい男性のバックパックに入れてもらって、雪をかぶった日本の山々を横断するのもいいだろう。セントラル パークで未知の自然を探検してもいい。ただひとつ、9月号が君をどこへ連れていこうと、必ずインパクトのあるメッセージを発信しなくてはならない。

常識と矛盾するようだが、9月号が君の命運を左右する期間中、同じ服を1回だけではなく、むしろ3回まで着なくてはならない。1回目は、自らフィットモデルになって、エディトリアルに関する君の徹底した水準が満たされることを確認する。数多くの手直しをさせた後、薬局に処方薬を取りに行く、返却日を過ぎた本を返しに行く、17匹のプードルを散歩させるなど、君の人生のランウェイで実際に着用するのが2回目。3回目は、すべてが真実であることを証明するために、自宅のスタジオで写真撮影を行なう。フォトグラファーは、リチャード・アヴェドン(Richard Avedon)・ジュニア。

言葉使いにも注意しよう。「イエロー」の代わりに「マスタード」、「サフラン」、「ブロンド」を使い、「パープル」は「エッグプラント」、「ホワイト」は「オイスター」と呼ぶ。もちろん「アジュール」と「セルリアン」の違いを、わきまえておかなければならない。間違っても、オペラの「制作」が「目新しい」などと言ってはならない。「劇作法」が「覚醒した」あるいは「活力を吹き込まれた」と表現すべきだ。それから、フィガロを演じた若きテノールは、「チャーミング」ではなく「天使のような魅力を持つ」と紹介する。

「編集長からの手紙」をもってしても救えないほどありきたりな9月号を作ってしまったら、君の信用は地に堕ちる。定期購読者の数が減れば、招待状も途絶える。オープントゥ パンプスに関する意見さえ求められないなら、君は社会にとってどんな価値があるだろう? 無意味な存在になりたくなければ、厳しい選択眼を慈善事業で活かす道もあるにはある。しかし、性急にファッション最前線を退くことはない。関心を釣り上げる良策も、まだ多少は残っているのだ。ひとつは、例えば、絶対脱げ落ちないことを主眼にアンダーウェアと帽子を融合したデザインなど、物議を醸しているアイテムの応援にまわる方法。対話と論争の口火を切ることさえできれば、絶望がゴールドに変わる可能性もある。

さて、9月号のすぐ後の10月号に備えて雰囲気を一新すべく、家具その他諸々を運び出した君の家は空っぽだ。着ているものを大声でこき下ろされるかもしれないので、一緒に映画を観に行こうという殊勝な友だちもいない。一皿多めにメイン料理を出す心遣いを批判したせいで、2度と口にしないと約束しない限り家族の集まりには歓迎されないし、かといって口を閉じていられる君でもない。9月は巡り来て、去りゆき、離婚もファッショナブルに成立した。今や君の手元に残っているのは、オンラインで顔写りを良くするリング ライト、鏡、除菌用の70%イソプロピル アルコール スプレー、そして、来年はロマンチックな再婚で表紙を飾れるかもしれないという期待だけだ。

Michael the IIIはライター、フォトグラファー、モデルであり、編集長となるべく修行中。『THEFINEPRINT』、『Gayletter』、『Document Journal』、『SSENSE』などに記事を執筆している

  • 文: Michael the III
  • 写真: Michael the III
  • モデル: Michael the III
  • スーパーモデル: Araya Guanipa
  • スタイリング: Michael the III
  • ヘア & メイク: Michael the III, Araya Guanipa
  • デザイン: Michael the III
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: September 1, 2022