塔が崩れ落ちるとき

タロット カードと建築から
不変なる変化を説き明かす

  • 文: Khalila Douze
  • アートワーク: Noiamreiss

タロットカードには、引いたときに差し迫った凶運を感じさせる1枚がある。宇宙がふるう力として解釈される「塔」のカードだ。このカードは、生活に衝撃と崩壊をもたらす破壊的な出来事を表す。例えば、職を失う、癌を宣告される、スキーで足を骨折する…。炎に包まれ崩れかけている建物として描かれることが多く、破滅に向かって落下している人物が描かれていることもある。

昨年の私は、私生活で一連の「塔」的な出来事を体験した。なかでもいちばん大きかったのは思いがけない母の死だった。計り知れない喪失をもたらした母との別れには、当然、希望が潜んで入る兆しなどまったくなかった。ところが時が経つにつれ、母のいない暮らしが与えてくれるいくつかの展望に、私は心を開き始めた。それは、私が自分自身の母となって内なる子供と繋がり、同じように悲嘆にくれている私のクライアントへの思いやりを深め、死の恐怖に向かい合い、私自身に備わっていた粘り強さをしっかりと自覚する機会でもあった。

教師、ライター、ソーシャル ワーカー、タロット占い師のジェシカ・ドア(Jessica Dore)は新著『Tarot for Change(変化のタロット)』で、「塔」のカードを、実存的不安を和らげる一連の性格特性になぞらえている。この観点から見ると、崩れ落ちる塔は「いちばん恐ろしいカードから力強い恩恵」に変化する。私自身がクライアントのためにタロット占いをするときも、「塔」は考え方次第で恩恵に変わりうると告げることが多い。「塔」は進路の修正を促す自然の力であり、たとえ実存的恐怖がトラウマを生じうるとしても、障害を取り除ける可能性が必ず潜んでいることを思い出させる。塔が崩れるときは、新しい塔を再建する機会でもある。必要なのは、新しく建てる塔を思い描いてみることだ。

私は長年タロットとの関係を深めてきて、これは占いというよりもの探しゲームに近いと思うようになった。タロットカードを読むのは、今は亡き母が建築家としての仕事で「見えないものを見えるように」したやり方と似ている。並んだカードを前にして、先ず私は自問する。カードに現れた形、色、シンボル、数は何を訴えているか? パターンは? 欠けているものは?

美術、建築、設計を学ぶ学生は、大抵の場合、ものの見方を学び直すことから始める。ベティ・エドワーズ(Betty Edwards)は、今や古典となった名著『脳の右側で描け』で、描画には境界、空間、関係、光と影、そして全体を知覚する技能が必要だと断言している。そのような観察こそ、設計の過程と占いの過程に共通する要素だ。観察したことを解釈した結果、新しい空間と構造体、新しい指導と展開が芽生えてくる。落葉と再生を繰り返しながら成長する樹木と同じように、絶えず人生の物語を書き換え、居住空間を作り変えることで、私たちは成長し、癒され、変容していく。

タロット占いでも設計でも、直観的に有意義な解釈や創造を得るには、人間を物質(身体と自然環境)と精神(宇宙)の両面で観察し、そこから意味を引き出すことが重要だ。ル・コルビジェ(Le Corbusier)の愛弟子でありながら正当な評価を与えられていないシャルロット・ペリアン(Charlotte Perriand)は、ノルマンディーの海岸で拾い集めた小石や流木や瓦礫から発想して、感覚的な家具をデザインした。バウハウスのメンバー、建築家、理論家だったジークフリート・エベリング(Siegfried Ebeling)は、人体機能の鋭い観察によって設計に対するアプローチを『膜としての空間』として概念化した。メキシコのカーサ オルガニカを始めとする「生物学的建築」や、ガーナ系英国人の建築家デイヴィッド・アジャイ(David Adjaye)が設計したフロリダのウィンター パーク ライブラリー&イベント センターなどは、自然界のパターンを感知する能力に基づいて作られている。

タロットカード全78枚の半分以上を占める小アルカナも自然の四大元素に分類され、私たちの性向を地(物質)、風(思考)、水(感情)、火(精神)で象徴する。タロット占いに際して、水晶のような自然物質で浄化したり、聖水で洗礼したりすることは珍しくない。先住民には、聖なる薬草や樹脂を燃やしてエネルギーを浄化する儀式「スマッジング」があった。

宇宙の領域に目を向けた設計観は枚挙にいとまがない。モダニズム建築家として有名なルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(Ludwig Mies Van der Rohe)の「神は細部に宿る」という言葉は、しばしば引き合いに出される。「angles(角度)」と「angels(天使)」の語源に魅せられたイタリアの建築理論家マルコ・フラスカリ(Marco Frascari)は、建築に欠かせない数学と工学の基盤を成す幾何学に、霊的な意味が備わっていることを仄めかした。フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright)、カルロ・スカルパ(Carlo Scarpa)、アドルフ・ロース(Adolf Loos)らは、禅宗に根差した日本の建築様式「禅宗様」をとり入れたと考えられている。

これらの視点からは「星」、「月」、「審判」、「女教皇」などの大アルカナが思い浮かぶ。宇宙のシンボルが描かれた大アルカナは、天界の霊的な次元を表現している。もちろん、占いという行為そのものが霊的な領域との交わりだ。フランス系アメリカ人のアーティスト、建築家として多様多彩な作品を数多く残したニキ・ド・サンファル(Niki de Saint Phalle)は、大アルカナから着想した広大な彫刻庭園「タロット ガーデン」をイタリアのトスカーナに出現させた。直観的な占い、設計、自然環境を結びつけた、鑑ともいうべき見事な成果だ。

私は、視覚を通じてインスピレーションを与え、同時に有意義なメッセージを表現できるタロットカードに惹かれるのと同じように、美しい設計もまた、機能的であり、ストーリーを語り、視覚に快いと思っている。あらゆる線と細部を撚り合わせてメッセージを伝達しうる設計は、綿密な配慮の賜物に他ならない。

タロット占いでは、カードの並び方が現在に起こりうる展開を示し、過去の推測が辿った道筋を振り返らせ、未来に願う新たな展開を考え、現実にすることを促す。これらを熟考することで、「塔」のようなカードに象徴される変化と変容の魔法が作動し始める。「現代について我々が知っている唯一のことは、変化だ。現代に何ら不変のものがあるとすれば、それは変化だ」とは、2013年、レンゾ・ピアノ(Renzo Piano)と共にパリのポンピドゥー センターを手掛けた建築家リチャード・ロジャース(Richard Rogers)が『Dezeen』に語った言葉だ。SF作家のオクティヴィア・バトラー(Octavia Butler)も、『Parable』シリーズで、唯一の真実は変化であり神は変化であると結論したが、ロジャースがこれを読んでいたかどうかは定かではない。機械装置、柱、通路など、従来は建物の後部に隠すものを周辺部へ配置する革新的な設計で称賛を浴びたポンピドゥー センターは、内部の再配置に応じる柔軟性を実現した。そのように状況に応じて常に自分を作り変える能力は、タロット占いを通じて生活を再設計する行為と非常によく似ている。内面の軌道と展開の調節を助けるために、カードを読み取り、自分の内側にあるものを掘り起こす行為は、力強い変容を意味する。設計する人は癒す人でもある。私が言いたいのはこれだ。

Khalila Douzeはシカゴを拠点とするフリーランス ライター、クリエイティブ コンサルタント、タロット占い師。『Cultured Mag』、『Vogue』、『Dazed』、『i-D』、その他多数に記事を執筆している

  • 文: Khalila Douze
  • アートワーク: Noiamreiss
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: February 11, 2022