セックス プレイの
新しいカタチ

アートなオブジェになった現代のセックストイを斬る

  • 文: Whitney Mallet
  • アートワーク: Sierra Datri

飛び出る、潰れる、くすぐる。ピンク、ミント、マンゴー。曲線的なフォルム、お洒落なマット仕上げのシリコン。セレブが宣伝するデザインを重視した最新の快感ツールは、男根崇拝や卑猥さをまったく感じさせないのが自慢だ。最高に品よくセックスを楽しむためにある。例えば先端にミレニアル ピンクのボールが付いたGoopのバイブレーターは、ペニスというよりコーンに乗ったアイスクリームを思わせる。「何か、もう少し知的なことをやってみたの」と、グウィネス・パルトロー(Gwyneth Paltrow)は『New York Times』に語っている。

かつてセレブが手を広げるのはフレグランスやレストラン チェーンと相場が決まっていたが、今や知名度を利用するベンチャー ビジネスはセルフケアの分野だし、デザイン性の高いセックストイを最新のウェルネス商品として売り込んでいるスターは、パルトローに限らない。パンセクシャルなモデル兼女優のカーラ・デルヴィーニュ(Cara Delevingne)と彼女の超個性的な眉は、Lora DiCarloという「フェムテック」企業のオーナーだ。売り物の商品は290ドルのロボット マッサージ器で、Gスポットとクリトリスを同時に刺激する。『フィフティ シェイズ オブ グレイ』で一躍有名になったダコタ・ジョンソン(Dakota Johnson)は、「現代のセックス」を掲げるMaudeの共同クリエイティブ ディレクターだ。こちらのマッサージャーは45ドルと、少しお安め。イギリスの大胆奔放な歌手リリー・アレン(Lily Allen)は、Womanizerと共同でセックストイをデザインしている。直接の接触ではなく、空気の流れで優しく刺激するのが特徴の「Liberty」は99ドル。タブー視されているマスタベーションの汚名をすすぐことを目指す同社の「#IMASTURBATE」では、キャンペーンの顔にもなっている。

露骨なエロティック路線のカーディ・B(Cardi B)は、『Up』のミュージック ビデオにオーストラリア企業Vushの「Majesty 2」バイブレーターを登場させ、大きな貝殻の中で4人の女性たちと体を摺り寄せ、舌を舐め合う。だが、セレブが後押しするセックストイのマーケティングは、ほとんどの場合、品の良さを打ち出そうと必死だ。デザインだって、可愛いらしいラビット バイブレーターより垢ぬけている。そう、『セックス アンド ザ シティ』で、シャーロットが「まあ、この可愛いウサちゃんったらピーター・ラビットみたいな顔までついてるわ!」と口走った、例の台所用品みたいな日立のマジックワンドだ。新種のセックストイは、ポストモダンのソファみたいな形、グレーやチャコールやミント グリーンの色で、デザイン オブジェのふりをする。

私が18歳のときに一緒に暮らしていた女性は、自慰は「絶望の末」の行為だと考えていたものだが、オーガズムのギャップを示した統計を私はよく知っている。それによると、ストレートの女性はセックスでオーガズムに達することが一番少ない。それも大幅に少ないのだ。南部州のテキサスやジョージアは、70年代後半に絡み合って進行した女性解放と性解放の動きに対抗して、性器具の販売を禁じた。これらの法律はなんと21世紀になっても有効だった。アラバマ州では、猥褻禁止法の下、現在もセックストイの販売が違法だ。パルトローやデルヴィーニュやアレンがそれぞれのメッセージで挑戦するタブーや偏見は、非常に大きな意味を持つ現実の問題だ。女性主導の会社が、女性の体を十分に理解し、女性がもっと快感を得られる商品作りを始めた現在の動きに、心から期待したいと思う。

セックストイをビジネスにし始めたウェルネス業界からポールダンスのエクササイズに励む標準的中流家庭の主婦たちに至るまで、新たな文化戦争が進んでいるような気がするし、その発端は90年代に遡って説明できる。1992年、マドンナ(Madonna)の大型豪華本『Sex』が出版された。評論家のキャリン・ジェームズ(Caryn James)に言わせると「エロティックな空想というより、彼女のターゲット視聴者である中産階級にショックを与えるものを並べた、陳腐なカタログ」だ。1995年、ニューヨーク市長のルディ・ジュリアーニ(Rudy Guiliani)はDisneyと取り決めを結んで、タイムズ スクエアの再開発に乗り出した。かくして、アダルトビデオ ショップ、ポルノ映画館、ピープ ショーが立ち並ぶいかがわしいエリアの終焉が始まった。マドンナから1年後、ルディ・ジュリアーニの2年前の1993年、クレア・カヴァナー(Claire Cavanah)とレイチェル・ヴェニング(Rachel Venning)は、女性が利用しやすいセックス ショップがないシアトルでToys in Babeland、後に改名してBabelandを創業した。90年代には、ネオリベラルな都市化政策と並行して、フェミニズムの第三波が押し寄せた。そうこうするうちに文化戦争は複雑になり、もはやドラッグやセックスがはびこる地区 vs 道徳を重んじる人々、BDSMと要約される嗜虐的なセックス プレイ vs 家族中心の価値観の図式ではなくなった。現在は、アダルト ビジネスが追い払われるというより、クィア/フェミニストのセックス ショップがオープンすることで、ジェントリフィケーションの到来が予兆される時代だ。

変化のひとつは、もちろん、セックスに関連した物事が大きくオンラインへ移行したことだ。欲情した人々は、ダイアルアップ接続を利用できるなら、自分の家でこっそりと見たいものを見るようになったから、大半のアダルト ビデオ ショップやポルノ映画館は時代遅れになった。インターネットが急速に発達した陰にはポルノがあったし、今度は、子供たちがコンピューターでやっていることに親が気を揉む番だった。だがある時点でワールド ワイド ウェブの世界はきちんと整理され、今日、 FacebookやInstagramは「コミュニティ規定」を油断なく実施している。たとえシリコンバレーがテクノロジー自由主義を持ちあげても、ソーシャルメディア企業とデジタル決済プラットフォームは、セックストイの販売を含め、オンラインでのアダルト ビジネスを困難にする。一方で、オンライン ビジネスは経費が少なくて済むから、目先の効く人たちがインディーズ タイプの販売を立ち上げることは可能だった。すべてがトレンディに変えられる前、最初にセックストイをウェルネスと銘打った人たちだ。

2012年にポリー・ロドリゲス(Polly Rodriguez)はUnboundを共同設立し、「セクシュアル ウェルネス カンパニー」として、セックストイ、潤滑ローション、フェチなアクセサリーをオンライン販売している。セックス産業は長年、言葉の意味を曖昧にする方法で猥褻禁止法や金融機関からの制約をかわし、社会のタブーをいなしてきた。セックストイをウェルネスとしてリブランディングするのは、おそらく、そうした長い伝統の一環だろう。続いて2015年にゾーイ・リゴン(Zoe Ligon)がSpectrum Boutique、2017年にエイミー&ニック・ボヤジアン(Amy and Nick Boyajian)がWild Flowerをスタートし、セックスに対して肯定的かつ開放的、直販形式、しかし啓蒙に力を注ぐ、というUnboundと類似の路線を打ち出した。これら3つのブランドはどれも、カラフルなミレニアル デザインが大好きだ。ウェブ上で正しく表示されるセーフ カラーの卵形バイブレーターや楕円形ディルドは、どれもこれも、純白のアーチの下に置かれた大理石の台座に鎮座し、みずみずしい観葉植物と並んでいるのがふさわしい気がする。目を楽しませる、洒落た陳列プレイだ!

よろしくなかったのは、性産業に従事する黒人女性の一団に名指しで批判されたWild Flower創設者の行動だ。2019年に『Medium』に掲載された共同執筆の記事には、彼女たちがボヤジアン夫妻に利用されて「競合会社を追い出す汚い仕事をやらされた」とする体験談が書かれている。エイミー&ニック・ボヤジアンは、UnboundがFounders Fundから投資を受けたことが気に入らなかった。Founders Fundは、ピーター・ティール(Peter Thiel)がパートナーたちと組んで立ち上げた、ベンチャー企業への投資ファンドだ。そこで、自分たちで警鐘を鳴らす代わりに、黒人インフルエンサーたちを手先として利用してUnboundの失墜を試みた。一方で、同じくFounders Fundが投資したInstagramを使って事業展開することには、なんら良心の呵責を感じなかったらしい。このスキャンダルについて、SMプレイの女王カーメニフェ X(Karmenife X)は『Paper Mag』にこう語っている。「大局的な見地から言うなら、そうやって白人優位が続いていくってことなのよ。誰かが何かを主張したり黒人がディルドを握ってる写真を投稿したからといって、本当に人種問題に関心があるとは限らない。私たち黒人女性の体を使うからと言って、体の中にいる『人間』を大事にするとは限らない」。参考までに、黒人オーナーによるセックストイとセクシュアル ウェルネスの会社を応援したければ、ベイ エリアが根拠地のFeelmore、トランスジェンダーがオーナーのEnby、クィアが設立したニューヨークのNew York Toy Collectiveなどのほか、パルトローやデルヴィーニュを始めとするセレブが参戦するはるか前、2011年にリアル・ハウスワイフ(Real Housewife)とシンガー ソングライターのカンディ・バーラス(Kandi Burruss)がスタートしたBedroom Kandiがある。

意識高い系ブランディングの描く良識的なパステル画が、実は配慮の欠如を覆い隠す。Wild Flowerはその一例だ。その他無数のミレニアル企業と同じく、Wild Flower、Unbound、Spectrum Boutiqueのアイデンティティは、単にセックストイを売るのではなく、現状を変革し、社会に負わされた汚名に対抗し、開放的であるという姿勢を基盤にしている。自分たちの主張に対してどの程度真摯であるかは別にして、ブランディングと発信するメッセージはかなり似通っている。そして今度は、セレブ率いる新参のセックストイ会社が、同様のお洒落なデザインで、アイデンティティ ポリティクス時代を反映した立ち位置を示唆する。多少希薄ではあるものの、基本的には「フェミニズム万歳!」と同じだ。活動家っぽいブランディングに時折り滲み出る独善にはイラっとするし、意識高い系ブランドが何としても避けたいはずの言葉を使うなら「疑わしさ」さえ感じる。解放的なメッセージを発信してはいても、その大多数は、本当のところ、万人に向けられたものではない。銀行預金の残高は大きく肥満度指数は低い白人女性たち、ランチにターメリック ラテを飲み、ラテックスのフェチな小道具やアダルト映画のポスターが並ぶセックス ショップへ足を踏み入れることなどとてもできない淑女たちに向けられたものだ。

ウェルネスは方向性を変えつつある文化全般の一部分であり、心と体と精神を統合する一体的アプローチを社会の主流へ押し出すと同時に、なおざりにされてきた事柄の優先順位を考え直すフェミニズムの動きでもある。歓迎すべき点も多々あるが、伝統文化の医学や慣行をホワイトウォッシングしているとか、健康なライフスタイルは手が出ないほど高くつくという考えを広めているとか、非難も多い。性産業は今、セックストイを最新のマストなセルフケア ツールとして位置付け、ソフトなPantoneカラーと一見正体不明の滑らかなフォルムで、ベッド脇のテーブルに置いたりInstagramで見せたりしてもまったく問題のない、趣味のいい商品に作り直している。その結果、ひとりだろうがパートナーがいようが、まったく新しい消費者層がより満足感のあるオーガズムの悦びに開眼するだろう。でもウェルネスの導師たちが本当にタブーを打倒したいのであれば、自分たちの仕事の起点であるアダルト産業と反対の側に立つべきではない。そうでなければ、自分たちが挑戦するはずのものを新しいかたちで強化するだけだ。

Whitney Mallettは、ニューヨークを拠点に活動するライターであり、映像作家。フード ポッドキャスト『Mukbangers』の共同司会者でもある。現在は、ダ・ヴィンチ コードから着想した小説を執筆中

  • 文: Whitney Mallet
  • アートワーク: Sierra Datri
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: July 23, 2021