ショーン・ブラウンの
リミックス哲学

過去は過去のままに、
完成ではなく、
過程を追求するデザイン

  • インタビュー: Sumiko Wilson
  • 写真: Brendan George Ko

トロントにあるショーン・ブラウン(Sean Brown)のワンルーム スタジオはショールームと化して、すべての感覚を刺激する。ベチバーとクローブの香りが漂い、足を踏み入れるやいなやワインとケーキがふるまわれ、1990年代後半からゼロ年代初期にかけてのミュージック ビデオがループ再生されている。ショーン・ブラウンの現在を形作った要素が未来へ向かう思いと混在し、異なる時系列が共存し、時代が境界を失ってひとつにぼやける。「ここでは時の流れを感じないんだ」とブラウンは言う。

パンデミックが始まったときにイヴァ・ゴルボヴィッチ(Iva Golubovic)、ザカリー・アブラネ(Zachary Aburaneh)と共同設立したホームウェア ブランドCurves by Sean Brownで、これと同じことをブラウンはやろうとしている。斬新なデザインと馴染みのあるデザインの両方をとりいれて、室内空間にカルチャーを吹き込むのだ。最初にバイラルを巻き起こした製品は、CDを模したハンドメイドのラグだった。愛するリル・キム(Lil’ Kim)やダフト パンク(Daft Punk)に敬意を表し、彼らのヒットCDと同じデザインで作ったラグはあちこちのフィードに出没したから、目にした人も多いだろう。Curves以前にも、ブラウンはNEEDS&WANTSとThe Art of Reuseを創設している。前者はバーシティ ジャケットやサテンの単色セットアップを展開する高級スポーツウェア ブランド、後者は選りすぐったビンテージ アイテムを扱うオンライン マーケットプレイスだ。また、リテール空間の代わりに輸送コンテナを使ったポップアップをオープンし、後にNXNEとThe North Faceのためにも同様の企画をデザインした。F. Millerを始めとするブランドのために撮影ディレクションを行ない、ベイビー・キーム(Baby Keem)、シザ(Sza)など、アーティストのためにフォントやロゴを考案したこともある。インテリアを理解するには、こうしたことが欠かせなかったとブラウンは言う。「オレはファッションでバランスについて学んだ。それを空間のリズムに持ち込む」

Curvesは「Tumblr以後、シンギュラリティ以前」の空間に位置するブランドであり、製品名の後ろに付記された「by Sean Brown」は、ある程度、直感から生まれたデザインを意味する。ブラウン自身のフィードと同じく、Curvesの視覚言語は鮮明で、風変わりで、故意に気取りがない。例えば「Archway Chair」は、eBayの商品交換で目にしたアフリカ古来の出産用椅子の構造とTwitterで見かけたパリの新築聖堂の様式を融合しているし、液体がこぼれたような形状のスタンドミラーは、全身コーデの自撮りという新しい流れが視野にある。

スクリーンに流れるミュージック ビデオがロード・タリク&ピーター・ガンズ(Lord Tariq and Peter Gunz)の1997年のヒット曲「Déja Vu (Uptown Baby)」に変わると、現在35歳のアーティスト兼デザイナー兼クリエイティブ ディレクターはテレビに近寄って、クリス・ロビンソン(Chris Robinson)が監督したカメラワークに見惚れる。「この曲はグラミー賞の候補に選ばれたが、逃した。サンプルの著作権も譲らなかったから、まったく稼ぎにならなかったな」。ブラウンは、自分がものを作り出すやり方を、すでにあるサウンドのリミックスになぞらえる。「過去のものを引っ張ってくるのはまったく悪いことじゃないと思う。ただ、サンプルからどんな新しい曲を作るか、ってことだ」。世紀が変わる前後の時代に惹かれるのは、突き詰めれば、しばしば彼が口にする「純粋なアプローチ」ゆえだ。

その後ダニエル・シーザー(Daniel Caesar)やディディ(Diddy)のクリエイティブ ディレクターも務めたブラウンだが、現在はCurvesだけに焦点を絞っているし、配慮が行き届いた暮らしやすい住宅の設計を模索するHypatiaと組んで、ホームウェアから都市開発へ拡大する準備も進めている。自分の設計が誰かの住処に反映されているのを目にするときの興奮は、ステージで見るときの快感に匹敵するのだろうか? 「いや、もっと深い」とブラウンは答える。文字通りにも比喩的にも、ステージは前向きの場所だ。だが暮らす場所に対して抱く親密感は比べものにならないし、もっと長く持続する。

私がCurvesを立ち上げた3人と初めて会ったのはトロントのイースト エンドにある平屋の家で、ブラウンの周りでは組み立てと取り外しが渦巻いていた。ブラウンがクリエイティブ ディレクターとして撮影に参加することを、数か月前にスタッフから頼まれていたからだ。「オレが入手するもの買うものは、全部、考えた後の選択だ」。ブラウンは言う。「サイドテーブル、掃除機、糸くずローラー、キャンドル ホルダー、灰皿、塩コショウ入れ…、ひとつ残らず全部。まな板ひとつを買うにも、きちんと考えてから買う。それがオレのやり方だし、オレの人生もそうありたい」。つまり、Alessiのカトラリーを選ぶ前には、それを使ってゆっくりとティラミスを切り分けるところを頭に描いているわけだ。JW Andersonのローファーを選ぶ前には、それを履いてテクニカラーのクラスター ラグに足を乗せるところを想像している。Hypatiaと一緒に新しい軌跡を描きつつ、Curvesの成長を目指すブラウンが、完璧な過程と理想の住処の追求を語った。

スミコ・ウィルソン(Sumiko Wilson)

ショーン・ブラウン(Sean Brown)

スミコ・ウィルソン:あなたのやり方をCurvesの居住空間へ転換するうえで、最初の一歩は?

ショーン・ブラウン:欠けてる部分を埋めること。オレは空間へ入ると、あれを変える、あれを改める、これをあそこへ置く、スピーカーはあっち、という具合に考えられる。色んなものを足したり引いたりする。そうやって自分の個性と表現を見つけていくのが、インテリアデザインの本質だ。言い替えれば、整理して、構成し直して、まとめること。

Curvesは、始めからずっと、問題解決志向のブランドとして位置づけてたの?

最初はそうじゃなかった。ソリューションを提案するデザインという考え方に近付きつつあるけど、今は足りない部分を埋めてる段階だ。床に水溜りの形のミラーを置く必要があるか? 機能的には必要ないだろう。だが足りない部分を埋めるものではある。

例のCDラグは、発売までに色々なバージョンがあった?

いや。コンセプトはできあがってて、工場から見本が送られてきたのを「よし、Twitterにのせるぞ」って調子だった。ザックとイヴァには止められたが、オレはそれでいけると自信があったんだ。結局は大丈夫じゃなくて、大急ぎで対応を迫られたけどな。実はオレ、ミラーでも同じことをやった。ヒビをどうにかする必要があったのに、「ヒビくらい、大したことない!」と思ってそのままのせたら、投稿で指摘されたよ。でも、それでより真実味が増した。すべては過程だ。

ボブ・ディラン(Bob Dylan)のアルバムのカバー写真みたい。写真がブレてるのは、カメラマンが寒くて震えてたからなんだって。Curvesはそういう不完全さを許容するの?

そう。作り直すってのは、完成までの一部だから。とにかく手を入れて、整え続ける。完成するまで梃子でも動かないってアーティストも何人か知ってるが、そんなことを考えてたら、永久に完成しないよ。

完璧主義者?

過程を無視するほどじゃない。エラーがあっても、それなりに進ませる。過程に完璧を期すというほうが当たってるな。

色を塗るときは線からはみ出さないようにする子供だった?

イエス。食べるときも、豆はここ、ライスはここ、肉はここ、って具合で、いい加減に混ぜたりしない。どうしてそうだったのかは自分でもわからんけど、今でも、空間を設計するときはそういう厳密な性格が残ってる。非常に綿密で、非常に体系的。

きょうだいはいるの?

片親が違うのも含めて、姉がふたり、妹と弟がひとりずつ。だけど一人っ子と同じだ。グループホームで暮らしたり、里子だったりしたから、いずれにしてもひとりだった。

そういう体験は、家庭というコンセプトに影響を与えてる?

理想の家を追い続けるという点だけ。

理想の家という考え方は、最初、どこから生まれたの?

とにかくあちこち引っ越しばかりだったからだろう。ひとつの場所に落ち着いたことがないから。

落ち着ける場所づくりは、何から始まるの?

先ずレイアウト。どれをどこへ置くか。その後で、それ以外の要素を組み立てていく。配置は、住人、ひいては住人の日常生活での生産性に大きく関わる。

都市開発で向き合うべき最大の問題は何だと思う?

配慮。開発業者は土地の区画を手に入れることとその地域のジェントリフィケーションだけを考えて、住人のことは気にかけない。住人を大切にしないから、生活の質や暮らし方も蔑ろにする。外観、建築材料、サステナビリティを無視して、とにかく建物を作ってカネを稼ぐことしか頭にない。人がみんな、朝目を覚ましたときに自分がいる場所に満足を感じられたら、世の中はもっと良くなるはずだと心底思うね。

もっとも強く刺激されたデザイナーは?

おそらくイヴ・サンローラン(Yves St. Laurent)、ザハ・ハディッド(Zaha Hadid)、エルヴィン・ヴルム(Erwin Wurm)。必ずしもすべてが機能的ではないがアートとして存在しうる、というヴルムの考え方に共鳴する部分がある。どうして鏡は壁に掛けるものと決まっているのか? どうして床の上じゃだめなのか?

子供の頃は、どんなオモチャが好きだった?

クルマとトランスフォーマーをたくさん持ってた。13歳の夏には、山ほど服を買った。製鋼所の仕事で1週間おきに500ドルの給料を貰えたから、服を買い始めたんだ。

Pepe Jeansとか、買ってたの?

いや、Karl Kaniが出たばかりの頃だった。その後、Rocawear、Sean John、Willie Esco、Johnny Blaze、Enyce…。

じゃあ、あなたの自立性が生まれた最初の場所は洋服ダンスだったわけね。

そうだな。まず着るもので自分のアイデンティティをつかむ必要があった。それからほかの場所へ広がっていった。

MTVの『Cribs』でセレブの自宅が紹介されてたけど、最高だと思ったのは?

キャッシュ・マネー・ミリオネア(Cash Money Millionaires)の連中の家がものすごく気に入った。あいつら、プラウラーとかベントレーとか、嫌になるほどクルマを持ってるんだ。ミッシー・エリオット(Missy Elliot)の家もすごかった。

以前の『Vibe』マガジンでいちばん好きだったところは?

Sean Johnの広告のページがあって、ページをめくってくとCalvin Kleinの広告がある。そんなマガジンは、『Vibe』を入れて、数えるほどしかなかった。ふたつの世界が混じり合ってた。Curvesの中心にあるのもあれと同じ、違うものの交差だと思う。

何もかも理想だと思った最初のベッドルームは、どんなだった?

まだそこまで行き着いてない。近づきつつはある。Hypatiaといっしょに設計して、オレがレイアウトを書いたけど、現実にそこにいるわけじゃないから。

イライラすることはある? いつも何かを追いかけてる状態?

なんでオレはこうなんだ? とか(笑)。先週は、どういうわけか、引っ越したくてしかたがなかったし。落ち着きたくないという欲求から来てるんだと思う。何かを作ることに関しても同じだ。いつも、もっといいものを追い続けてる。

昔の仕事を削除するなって、よくフォロワーにアドバイスしてるよね。あれはどうして?

別に悪いと言ってるわけじゃない。ただInstagramみたいなサイト、特にアーティストのアカウントを見てると、昔の投稿を全部消して、25とか、せいぜい100とか、少ない記事しか残ってないアカウントがあったりするんだ。オレ自身は、昔の自分を嫌って新しい自分に生まれ変わる必要は感じないから、過去を隠したり消したりするより、あるがままで進む方がいいと思ってる。進化していくほうが、全面的にリブランディングするより、よっぽどいい​。

今やってることは、若いころに想像してた成功と同じ?

イエス。昔のオレが今のオレを見たら、すごく誇らしいはずだ。

Sumiko Wilsonはトロント在住のジャーナリスト、コピーライター

  • インタビュー: Sumiko Wilson
  • 写真: Brendan George Ko
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: February 18, 2022