流れを「曲げる」キアウェンティオ
人気アニメのNetflix実写ドラマに抜擢された17歳のモホーク俳優に未来を見る
- インタビュー: Adam Piron
- 写真: Sandy Kim

始まりはさざ波だ。やがて水面から水滴が持ち上がり、空中に浮かぶ。それらはたちまちひとつとなって激しい水流を作り出し、渦を巻いてひとりの娘を取り囲む。彼女の念を込めた手の動きが、水の動きを操っているのだ。超人気のアニメ シリーズ『アバター:伝説の少年アン』では、「土、水、気、火」の自然四大要素を操る能力を「曲げ」と呼び、「水曲げ」の能力を持つカタラ(Katara)には多くのファンがいる。Netflixの実写化によって、そのカタラがもはやアニメではなく、生きて呼吸する人間になった。演じるのはキアウェンティオ(Kiawentiio)、17歳。アクウェサスネ居留地で生まれ育ったモホーク族の俳優であり、シンガーソングライターでもある。先住民に似た顔つきの、活力と独立心に溢れたアニメ キャラクターが、先住民の俳優によって生命を吹き込まれた。それを目にするのは、若い世代の先住民にとって、力強い自信を感じる瞬間だった。キアウェンティオが演じたカタラは原作に忠実であると同時に、紛れもなく自らの先住民の感覚に根差している。水の部族を襲った暴力を生き延び、二度と悲劇を繰り返さないために立ち向かう姿を見れば、わかる。ウェスタン映画お決まりの約束事に縛られず、脇役やその他大勢に追いやられなかったキアウェンティオのカタラは、前代未聞の快挙と言えるだろう。キアウェンティオは今の世界とこれからの世界を指し示す存在、来るべき未来の前兆だ。

Kiawentiio 着用アイテム:Tシャツ(Miaou)、スカート(sacai)、スカート(Wales Bonner)、シューズ(Maison Margiela)、シューズ(Waverli Thompson earrings)、イヤリング(Waverli Thompson) 冒頭の画像のKiawentiio 着用アイテム: Chopova Lowena dress

Kiawentiio 着用アイテム:ドレス、ワンピース(MSGM)、スカート(Chopova Lowena)、パンツ(Chopova Lowena)、ネックレス(Karen Francis)
写真撮影にやって来たときのキアウェンティオは、バレエ ダンサーのようなスピード、ある種の目的意識、水平線から昇り始めたばかりの何かへ向かう軌道の引力を感じさせた。移動には両親が同伴している。母のバーバラ(Barbara)はコミュニティの文化保存活動に携わり、父のコリー(Corey)は、居留地でボランティアの消防と建築検査を引き受ける。ふたりは誇らしく娘を見守り、Netflix放映に伴う多忙なPRツアーで訪れた場所を数え上げる。着替えの部屋に入ったキアウェンティオは、同じく先住民のデザイナー、ジョシュ・タフォヤ(Josh Tafoya)とカレン・フランシス(Karen Francis)に依頼したコスチュームを見ながら、微笑みを浮かべる。あらゆることがあるべき場所にピタリと収まり、新たな可能性が実現したときというのは、きっとこんな感じなんだろう。「ほんとのことを言うと、現実感がないの。空想の世界か、誰か別の人の人生を生きてるような気がすることがある。特に自分の出身を考えるとね」とキアウェンティオは言う。
「空想の世界か、誰か別の人の人生を生きてるような気がすることがある。特に自分の出身を考えるとね」
昨晩は、ロサンゼルスで『アバター:伝説の少年アン』のプレミア上映があった。レッドカーペットで着た素晴らしいアイスブルーのアンサンブルも、先住民デザイナーの作品だ。デュオクローム タフタのスカートはエヴァン・デュシャルム(Evan Ducharme)、手作業でビーズを縫い付けたコルセットはタシャ・マリー(Tasha Marie)、ジュエリーはBYCHARIとDean Davidson。色といい、コルセットの波模様のビーズ刺繍といい、カタラが属する水の部族「サザン ウォーター トライブ」が脳裏に浮かぶ。子供時代のキアウェンティオはオリジナルのアニメ シリーズのファンだったから、よけいに現在の体験が現実とは思えない。「撮影でブリティッシュコロンビアに1年近くいたの。終わったときは、なんだか、カルチャーショックみたいだった」
もちろん、今、成功のときがやってきたのはわかっているし、節度と落ち着きで成功を受けとめてもいる。だが同時に、ここまでの道のりが思い起こされる。わずか5年前、カナダのTVシリーズ『アンという名の少女』にゲスト出演したのを皮切りに、2020年にはトレイシー・ディア(Tracey Deer)監督のデビュー作『ビーンズ』で主役ビーンズを演じ、最近ではPeacock TVの『Rutherford Falls』、マーベル シネマティック ユニバース(MCU)の『What If…?』、とキアウェンティオのキャリアは目覚ましく成長してきた。その背景には、過去5年、先住民主導のテレビが大きな盛り上がりを見せている事実がある。そして今、Netflixが史上最高レベルの製作費1億2千万ドルを投じた作品で、しかも空前の人気を博した名アニメ シリーズの実写化で、若き先住民の俳優が主役級の役を演じる。まさにカルチャーの転機であり、新たな期待が生まれたときだ。そしてその高みの突端に立っているのがキアウェンティオだ。
電話インタビューで、現在と現在が意味するものをキアウェンティオが語った。

Kiawentiio 着用アイテム:ジャケット(Bode)、ワンピース(Chopova Lowena)、ピアス(Little Tree Wampum)
アダム・ピロン(Adam Piron)
キアウェンティオ(Kiawentiio)
最近選んだ先住民族出身のデザイナーとは、どういう繋がり?
撮影で着たジョシュ・タフォヤは、ニューメキシコの出身よ。実際に会ったのは、2年前かな。ジョシュがよく一緒に仕事をしてる4Kinshipも、ファーストネーションがやってるすごくカッコいいビンテージ ブランドなの。『アバター』のプレミアのレッド カーペットで着たドレスは、ふたりのファーストネーションのデザイナーが作ってくれたわ。コルセットにビーズ刺繍をしたのがタシャ・マリーで、スカートを作ったのがエヴァン・デュシャルム。別々に作ったんだけど、組み合わせてみたらぴったりで、すごく素敵な出来映えだったから、とっても嬉しかった。
家族にビーズ細工をする人はいる? 子供の頃、身の回りにビーズがあった?
ええ、ビーズは母さんがやってる。作っても全然売らないの。売ればいいのに、って私は思うんだけどね。姉さんもやってる。私も時々はやったけど、長続きしたことがないわ。色んなもの作りをやったけど、ビーズは早々と止めちゃった。
僕の母さんも多少ビーズ細工をするから知ってるんだけど、すごく細かい仕事だよね。ところで、例えばレッド カーペットみたいな演技以外の場では、どんなスタイルを考える? どういうスタイルが好き?
ここのところ、私のスタイルはちょっと変わりつつあるの。もともとはバギーなパンツが大好き。ジーンズは最近あんまり穿いてないけど、なんか、手持ちの服をグレードアップしたい気分になってる。何でもついブラックやアースカラーを選んじゃうから、もっと違う色を増やしたいな。時期にもよるんだけどね。夏はスケーターみたいなバイブスにしたくなる。
メンズウェアも大好きよ。膝下まである長いショートパンツにだぶだぶのTシャツとか着て、えっ?私ってどうして男の子に見えるの? ああ、こういう恰好をしてるからか!なんてね。でも最近はメディア向けの仕事が多くなったせいで、私のなかの女性的な面も出すようになってる。
アクウェサスネ居留地で育ったの?
そう。
子供の頃はアニメ版『アバター』のファンだったそうだけど、セットに入ってカメラの前に立つとき、どういうふうにしてアニメで親しんだキャラクターに変身するの?
ほんとのこと言うと、初めてカタラになったときはすごく奇妙な気分だった。子供の頃ずっと観てて、ほとんど崇拝してたキャラクターに自分が変身して、鏡を見たらカタラの私がいる。もう、ウワ! ウワ! ウワ!って感じ。だけど実は、カタラと私の性格には共通点が多いの。一種の諸刃の剣ね。似てるからキャラクターになりやすいけど、それだからこそ、自分とキャラクターを区別すること、自分とキャラクターを分けることが難しい。
カタラを演じるうえで、モホーク族のルーツを活かしたり結びつけたりできた? 君の両親とも話したんだけど、ふたりとも立派な仕事をされてるんだね。お母さんは文化保存活動、お父さんも部族に関わる仕事をしてる。特にカタラは非常にファーストネーションが強調されたキャラクターだから、役作りに両親の影響があった?
私の頭のなかには、いつだって、モホーク族としてのルーツと両親がやってきたことがあるの。それで私という人格が作られたと思う。だからどうしたって、これまでもこれからも、私が演じる役には必ずそのことが繋がってくるよね。私が表現するキャラクターには、必ず、カニエンケハカ(注:モホーク族の意)としての私のルーツがあると思う。今まで言ったことはないんだけど、今の私のすべては母さんと父さんのおかげだと心から思ってる。
役作りのためには、どんな準備をしたの?
アニメ シリーズを片っ端から観たわ。確か2回ずつ観て、それからカタラの性格や考え方が出てる場面を観返して。あ、それから「曲げる」シーンもね。戦いのシーンとかアニメ シリーズのシーンを再現したいときは、カタラが「曲げる」部分を観るとすごく参考になった。
「私が表現するキャラクターには、必ず、カニエンケハカとしてのルーツがある」

Kiawentiio 着用アイテム:ドレス(Ottolinger)、フラット(Rombaut)、ピアス(Faris)

Kiawentiio 着用アイテム:ベスト(VAQUERA)、Tシャツ(Miaou)

Kiawentiio 着用アイテム:ポロ(Acne Studios)、スカート(Dries Van Noten)、スカート(JW Anderson)、ブーツ(Dries Van Noten)、ピアス(Karen Francis)、リング(Lee Charley Jr.)
TikTokとソーシャル メディアの時代に、年若い俳優でいることはどんな感じ?
微妙なバランスだと思う。良しにつけ悪しきにつけ、今はすごく人の言葉に左右されやすいでしょ。身近に溢れてるから。そこから自分を守ることがとても大切だよね。私も、特にNetflixで放映が始まったら、外の世界や人が言うことから自分を守る方法を見つけなきゃいけないだろうな。どんなことが書かれてるか見てみたい、人がどう思ってるか知りたい、って気持ちもあるにはあるけど。放映日が近づくにつれて、ずっとそんなことを思ってる。心の広い人でありたいし、そうであるように心掛けてるから、人の意見は素直に受け取って、自分の気持ちも人の気持ちも傷つけないようにするわ。情報として受け取って、学びに変えるようにしていく。
とにかく規模の大きな作品だから、色んな意見や反響があるだろうと思うのね。そしたら、しばらく放っておいて、私自身がもっと落ち着いたときに戻ってきてもいいんじゃないかな、って気がしてる。
それが健全だと思うよ。ところで、特にエンターテイメント業界に身を置く若き世代のファーストネーションとしては、先駆者のリリー・グラッドストーン(Lily Gladstone)やカワナヘレ・デヴァリー・ジェイコブス(Kawennáhere Devery Jacobs)をどう思う?
すごく素晴らしいと思う。ああいう、才能があってパワフルなファーストネーションの人たちがいるって、素晴らしいわ。私たちは長いあいだ、たくさんのストーリーで限界を打ち破ろうとしてきたでしょ。今は、『リザベーション ドッグス』、『キラーズ オブ ザ フラワームーン』、『エコー』みたいな作品がすぐ頭に浮かぶし、ファーストネーションの人たちが何人も活躍している。エンターテイメント業界にそういう作品が現れてるのは、すごいことよ。私が小さかった頃から考えても、大きな前進だもの。
子供の頃『アバター:伝説の少年アン』に魅かれた大きな理由のひとつは、カタラが褐色の肌のロール モデルだったから。白人じゃない女性のロール モデルは少なくて、カタラはそのひとりだったの。当時でさえ、ファーストネーションの声を上げてる作品は滅多になかったわ。だから、長いあいだ手渡されてきた松明を受け継いで、色んなものに火をつけて、これからの世代をリードできるのは、とっても大切なことだと思ってる。これまで道を拓いてきた素晴らしいファーストネーションの俳優たちに仲間入りできるなんて、私はほんとに恵まれてる。
演技の面で君に影響を与えた俳優はいる? 子供時代に見た俳優とか、今君がキャリアのお手本にしてる俳優とか?
ゼンデイヤ(Zendaya)しか思いつかないな。私、彼女がまだディズニーの子役スターだった頃から、『ティーン・スパイ K.C.』や『シェキラ!』をずっと観てたもの。もうひとつゼンデイヤにすごく刺激されるのは、ファッションのセンス。選んだイベントしか出席しないところも大好きだけど、姿を見せたときはすごく存在感があって、はっきり自分を表現してるでしょ。ファッションのセンスと選択がすごく素敵。それから、普通にファーストネームとラストネームじゃなくて、ひとつだけの名前なのが一緒で、親近感を感じるの。
ファーストネーションの俳優が、必ずしも、ウェスタン映画の役に回されない。それが普通のになるって、どういうことなんだろう? みんながずっと夢見てきたことだよね。未来が大きく開かれたような気もするんだ。君はどういうふうに感じてる?
現実じゃないみたい。正直に言うとね、罪悪感を感じることもあるんだ。同じ場所を目指して競い合ってる人が、すごくたくさんいるわけでしょ。私より他の人のほうがふさわしかったんじゃないかと思うこともある。だから、私だって一生懸命頑張ってきたってことを思い出す必要があるの。この気持ち、わかる?
私は、素晴らしい人たちが応援してくれたことが幸運だったのよ。私が今の場所にいられるなんて、信じられない。「誰しも常にいるべき場所にいるんだ」ってずっと父さんに教えられてきたけど、もし機会があれば、ファーストネーションの人たちだけじゃなくて、全部の人たち、特に俳優を志している人たちに、同じ言葉を伝えたいと思う。私たちは常にいるべき場所にいるのよ、ってね。もし望んだ仕事が手に入らなかったら、それが理由。どうしても欲しいことが実現しなかったら、別のことが待ってるから。運命って、すごくおかしなやり方で働くことが多いのよ。私だって、『アバター』への出演が決まるまでは、色んな役のオーディションを受けてたわ。もし他の役に決まってて、カタラの役を引き受けられなかったら?なんて想像もできない。宇宙がクレージーに働いて、物事を完璧に調和させるのは、すごくおもしろいよね。

Kiawentiio 着用アイテム:ドレス(Josh Tafoya)、スカート(Marine Serre)、ブーツ(Acne Studios)
- インタビュー: Adam Piron
- 写真: Sandy Kim
- スタイリング: Kat Typaldos
- クリエイティブ ディレクション: Michael Quinn
- キャスティング: Greg Krelenstein / gk-ld
- ヘア: Tisha Thompson
- メイクアップ: Jasmin Stephen / Factory Downtown
- セットデザイン: Cody Rogers
- 写真アシスタント: Joshua Elan, Mark Nakagawa
- スタイリング アシスタント: Savannah Tyson-Yarbrough
- セットデザイン アシスタント: Nikki Kauten
- プロダクション: The Morrison Group
- プロダクション マネージャー: Alaura Wong
- プロダクション アシスタント: Frankie Benkovic
- ロケーション: NYA Studios
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: March 8, 2024

