不屈のラガーシャツ

2019年に着る、メンズウェア伝統のストライプ

  • 文: Romany Williams

私が持っている中でいちばん仕立ての良い服は、Canterbury of New Zealandのビンテージ ラガーシャツだ。厚手のコットンで、相手チームの選手から、ハルクのような怪力で掴まれても耐えられるデザインになっている。シャツは色鮮やかで、ブルーのストライプにグリーンのストライプ、オレンジ、パープル、ピンク、レッドと、芝による汚れも目立たない。シルエットは幅広のロング丈で、パーカーの上に重ね着もできるし、それだけでも着られる。袖口の黄色のゴムバンドは、スウェットバンドのように、きつすぎもせず、ちょうどいい具合に私の手首を締めつける。はずれないよう襟の内側のグログラン テープに縫い付けられたゴム製の白いボタンを見ると、スクラムのときの整然としたカオスが頭をよぎる。

つい最近、私のCanterburyのビンテージ ラガーシャツは、Martine Roseのものかと聞かれた。今人気のこのイギリス人デザイナーは、ほとんどのコレクションにスポーティなジャージを取り入れていることで知られる。長らくメンズウェアにおいて不朽の定番アイテムだったラガーシャツだが、最近になって、再び注目を集めるようになっている。2019年秋冬コレクションでは、イギリスのメンズウェア デザイナー、ダニエル・W・フレッチャー(Daniel W. Fletcher)が、海老茶色と赤で、襟に2個のボタンを追加した、彼なりの解釈を加えたラガーシャツをランウェイに送り込んだ。Jil Sanderは、白襟シャツの上にストライプのシルクのトップスを重ね、ラガーシャツを錯覚するようなスタイルを作り出した。デイヴィッド・ベッカム(David Beckham)のブランド、Kent & Curwenにおいては、ラグビーはブランドのDNAの一部である。2019年秋冬コレクションでは、ブランドのシグネチャであるイングランドの薔薇のワッペンをあしらったベッカム バージョンのラガーシャツが登場した。Loeweは、長さを足すことで、膝丈のラガーシャツを発表した。クラシックの変型である。Marniは、フリースのボンバー ジャケットにラガーシャツのストライプを用いて、軽量のジャケットの上に重ね着するスタイルを発表した。ジャケットのフードは頭にぴったりとフィットし、耳元はフリースのパッチで飾られており、スクラム キャップを模したデザインになっている。ラガーシャツと言えば、常にNoahやRowing Blazersの名前が挙がるが、他にも、Thom Browne、The North Face Purple Label、Cav Empt、Palace × Polo Ralph Laurenと、ラガーシャツを取り入れたブランドを挙げればきりがなく、目下、プレイヤーには事欠かない状態だ。

ラガーシャツは、ポロシャツの従兄弟のようなものだが、通常、より厚手の襟とゴムのボタン、幅広の横縞によって区別される。オーストラリア代表のワラビーズは緑と白と黄色。イングランド代表は赤と白。アルゼンチン代表はベビーブルーと白。ストライプの組み合わせとストライプの幅、ラグビー用語で言うところの「フープス」の可能性は無限だ。これは、イギリス人の画家デイヴィッド・ホックニー(David Hockney)に最適のシャツでもある。アーティスト個人の服装スタイルが作品に呼応しているのは、彼の遊び心の表れだ。「パシフィック コースト ハイウェイとサンタモニカ」のカラフルに区切られた風景画が良い例だ。

言い伝えでは、ラグビーが初めて発明されたのは1823年のイングランドにおいてらしい。以後、数々の変更を経て、現在では、ワールドラグビー傘下のラグビーユニオンと、国際ラグビーリーグ連盟傘下のラグビーリーグ連盟という、ふたつのリーグとふたつ運営組織に分かれている。他のメジャーなスポーツ組織と同様に、ここにも熱烈なファン、伝統、そして組織的な人種差別がある。だがラグビーの試合の激しさは、サッカーやホッケーの比ではない。そして防具はなきに等しい。ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)が、Off-Whiteのランウェイでアクセサリーとして使いそうな、シンガードやヘルメットすらない。さらにいくつか奇妙な特徴がある。まず、ラグビーのルールでは、後ろにしかボールをパスできない。ゴールのことは謙虚にも「トライ」という。そして音楽。普通に詩歌の詠唱するのではない。ラグビーファンは試合の最中に、18世紀に作られたロマン派の詩人ウィリアム・ブレイク(William Blake)の詩をユニゾンで歌うのだ。これほど特異なスポーツなのだから、ユニフォームがこれほど印象的なのも理にかなっている。

時々、すごく気に入っている服が流行りだすときがある。そんなとき、この服は諦めるしかないかもしれない、という気持ちに直面する。以前なら、その服を着ることは目立つためだった。それが今では、それを着ると周囲に適応して、人と同じになりそうだ。それは重要なことなのか。ラガーシャツは、目立つことと周囲に溶け込むこと、この両方を叶えてくれる服だ。このスポーツで重要なのはチームワークなのだが、そのユニフォームのストライプは他と区別するためのものだ。ストライプによって、近隣のクラブチームと自分のチームは区別され、チームの仲間との生涯にわたる団結、帰属意識を象徴すると同時に、アイデンティティが生まれる。パッチワーク風のラガーシャツは、他のシャツのはぎれを再利用して作られることが多いのだが、複数のデザインの色とストライプが混ざり合って、調和のとれた、ひとつだけのスタイルを作り出す。Canterbury of New Zealandは、これを「アグリー ジャージ」と呼び、Rowing Blazersは、「1日の終わりのラガーシャツ」と呼ぶ。スポーツのファッションにおいて、この種のフュージョンやサステナビリティに対する意識は稀である。スポーツ史におけるもっとも重要なイベント、1995年のラグビー ワールドカップの決勝戦でネルソン・マンデラ(Nelson Mandela)が選んだのは、南アフリカのナショナルチーム、スプリングボクスのラガーシャツを着て出席することだった。この明確な意思表示は、アパルトヘイト政策という暗黒の時代の後、国をひとつに団結したとして高く評価された。ラガーシャツは多くを語るが、中でも特筆すべきは、おそらく、その苦境から立ち直る力だろう。昨今、ラガーシャツほど丈夫に作られた服はそうそうないのだから。

Romany WilliamsはSSENSEのスタイリスト兼エディターである

  • 文: Romany Williams