パファージャケットに関する
とんでもない勘違い

スタイルと機能性を備えた冬のアウターウェアの賛否両論を再考する

  • 文: Alek Rose

毎年、冬が巡ってくるたびに、根拠のないパファージャケット反対論が復活する。パファージャケットは市販されているどの冬着よりも暖かく、シェル素材には防水加工が施されていることが多いし、ダンベルの代わりになりそうな重いウールのオーバーコートと比べたら驚くくらい軽量で、しかもポケットに収まるほどコンパクトに畳める。冬季のアウターウェアに必要なすべての条件を満たしているのだ。なのに、どうしてこうも意見が分かれるのか?

Emily Ratajkowski、ニューヨークにて。写真:Ignat/Bauer-Griffin/GC Images 冒頭の画像:C.P. CompanyとStone Island によるSergio Perreroの作品の展示。イタリア、Zona Tortonaにて。写真:Vittorio Zunino Celotto/Getty Images

Irina Shayk、ニューヨークにて。写真:Ignat/Bauer-Griffin/GC Images

疑問に答える前に状況を説明しておくから、参考にしてほしい。まず、僕はパファージャケットが大好きだ。あのプロポーション、暖かさ、重さなど無きに等しい軽さで、印象的な外見と実用性を完璧に兼ね備えている。僕と意見を同じくするセレブも多い。イアン・ライト(Ian Wright)は「退屈な実用性」を笑い飛ばす巨大なパファージャケット、エミリー・ラタコウスキー(Emily Ratajkowski)はThe North Faceのピンクのクロップ丈ヌプシ、イリーナ・シェイク(Irina Shayk)はお洒落な全身ブラックのコーデといった具合だ。先日同じくらいパファーが大好きな友人と話したとき、僕は堂々と宣言したものだ。パファージャケットに飽きるなんて絶対にありえない。僕は、買えるもんなら次から次へ新しいパファージャケットを買うし、Ten cC.P. Companyといったブランドの品質とディテールは、新しいジャケットを買うたびに、最初のジャケットを買った際と同じくらい大きな喜びを味わわせてくれるだろう。

最初に買ったパファージャケットは何かって? それには、2006年まで時間を巻き戻そう。当時の僕はイングランド北部の学生だった。夏は存在せず、冬は寒く、暗く、雨の多い北イングランドの気候は、そこで生活する人間に影響を及ぼし、共通した性格を形成する。したがって僕も、その他無数の北部青年たちが踏みならしたと同じ道を辿って、保温性と防水性とサブカルチャーなスタイルを等分に融合したBerghausのようなブランドに絶対的愛情を注ぐようになった。パファージャケット初心者のために説明しておくと、元来登山用品ブランドだったBerghausは、北イングランドで誕生し、広く愛されるようになったヒーローなんだ。地元で製造される製品は手に入りやすく、品質も確実だった。ニューヨーク民ならThe North Faceだろうが、北イングランド民ならBerghausだ。というわけで、初めて買ったBerghausの防水パファージャケットは、正真正銘生活の質を向上させる衣服の世界に僕の目を開かせ、その後の人生を変えた。2021年には、思い切って、知る人ぞ知る独創ブランドTen cのダウンジャケットを買った。これでパファージャケット愛の水門は開け放たれ、高級ダウンジャケットにすっかり心を奪われてしまった。昨年はついに、熱狂的なファンを擁するイタリアンブランドC.P. Companyのタン フード ダウンジャケットの魅力に屈した結果、ダウンジャケットひいては衣服全体に対する期待はますます膨らんだ。縫製後に染色したガーメントダイのナイロンシェルはほぼ透明だが、わずかにメタリックなイエローの色合いがあり、軽やかなフェザーの保温性からフードのラバー加工トグルに至るまで、あらゆるディテールが完璧に考え抜かれている。これこそがダウンジャケットの可能性であり、ダウンジャケットのあるべき姿だ。

熟慮を重ねたデザインは、必要から生まれる。歴史上初のダウンジャケットは、1922年、ジョージ・フィンチ(George Finch)によって考案された。フィンチはオーストラリアの科学者兼登山家だったから、アウターウェアの開発にはまさにうってつけの活動だった。でも最初に大量生産して特許を取得したのは、アメリカのワークウェア スペシャリストとして有名なエディー・バウアー(Eddie Bauer)だ。1923年に釣り旅行に出かけ、釣り上げた魚を持って帰るときに低体温症で命を落としかけたのがきっかけだった。結局のところ、ダウンジャケットは、寒さの問題を解消し命を救うデザインとして本領を発揮する。なんであれ、特定のスタイルが発展するうえで、これほど強力な基盤はないだろう。20世紀にはMonclerやPyrenexなどのブランドがダウンジャケットの精神に磨きをかけ、その後、レイブからヒップホップまで、さまざまなサブカルチャーに浸透した。そして2024年、豊かな歴史に培われたレガシーは、地滑り的なパファージャケットの大群となって現出する。超がつくほどの実用性から自由奔放なコンセプト指向まで、いずれの方向にもあらゆる形態が連なる。これほど裾野の広いカテゴリーなら、飽くなきトレンドサイクルの犠牲にはならないだろう。

残念ながら、僕たちが好むと好まざるにかかわらず、トレンドサイクルはあらゆるものを餌食にする。だが、パファージャケットはファッションと呼ぶに値しない醜悪な実用品とする言説を鵜呑みにせず、僕たちの見解を作り出すことだってできるはずだ。根拠は僕たち自身の体験、そしてパファージャケットというキャンバスで独創性を表現するデザイナーたちの存在だ。彼らは、ダウンジャケットに求められる絶対の機能性を原点としつつ、同時に、実験的なキルティング、構造の模索、斬新なプリントや染色技術によって従来の型を打破する。川久保玲のアバンギャルドな構築と同じように新奇なデザインもあれば、LEMAIREのオーバーコートと同じくらい繊細で軽やかなスタイルもある。パファージャケットの新たな可能性だ。

画像のアイテム:ダウンジャケット(ERL)

画像のアイテム:ダウンジャケット(ERL)

イーライ・ラッセル・リネッツ(Eli Russel Linnetz)ERLを例に挙げよう。2018年にロサンゼルスでスタートしたERLは、その後、大きな注目を集めるブランドへと成長している。ファッション界の地図上に現在地を獲得するまでには、シグネチャとなったいくつかのデザインが大きく貢献したが、そのひとつが、毎シーズン、前回に負けず目を引く新個性で姿を現すパファージャケットだ。初期のパファーはカモ柄、グラデーションカラーの夕陽モチーフ、大胆なブロックチェックのキルティングデザインで展開していたが、2023年秋冬シーズンの主役はカラフルなフローラル柄だ。

画像のアイテム:ダウンジャケット(CHENPENG)

画像のアイテム: ダウンジャケット(CHENPENG)

同じくCHENPENGの奔放な独創性も、アウターウェアの世界でひときわ力強い輝きを放っている。ブランドを立ち上げたデザイナーのチェン・ペン(Chen Peng)は、ボリューミーなダウンフィルを活かす手法で、斬新なプロポーションを作り出す。「ロンドン カレッジ オブ ファッションの卒業コレクションは、人体の脂肪の分布をテーマにしたんだ。それには、グースダウンが完璧な素材だった」とチェンはSSENSEに語っている。チェンが防寒アウターウェアの世界に魅かれたのは、「ダウン素材は軽量で、いろんなボリュームを自在に作れるし、パファージャケットは暖かさと癒しの力も与えてくれる」からだ。膨らませた肩と誇張した腕で構成する印象的なシルエットは、サイケデリックなプリント地によってさらに個性を強める。コレクションをスクロールするだけで、パファージャケットをひとからげに退屈だと評する意見は意味を失う。

だが僕たちの胸を躍らせるのに、必ずしも大胆な色使いは必要ない。例えば、パファージャケット最前線を語るうえで欠かせない韓国ブランドPOST ARCHIVE FACTION(PAF)だ。高機能ダウンジャケットでお目にかかるような技術仕様と革新的なカットの結合は、見慣れたはずの領域を異質な方向へ押し広げる。おそらくもっとも深く印象に残るのは、オフセットな双方向のフロントジッパーギャザーを寄せたファブリック軽やかなフェザーを連想させるオーバーレイヤーといったデザインだろう。どれも華やかな色使いを必要とすることなく、強いインパクトを与える。色を排し、テクスチャとシルエットの捻りで勝負するPAFには、ダウンジャケットに可能な構造とコンセプトを見据えた、純粋なビジョンがある。「パファージャケットには機能美、コンセプトを表現するシルエット、複合的な構造があります。私たちが目指すのは、保温性とスタイルを兼備した、快適な衣服体験の向上です。皆さんが毎日着たいと思うのは、そういう機能を果たしてくれる衣服ですから」とSSENSEに語ったとおりだ。

実験精神に富んだ新生ブランドがパファージャケットのあり方を刷新する前には、一連の先行ブランドが道を拓いた歴史がある。例えば、Stone Island、Ten c、ROAGoldwinのほか、新しく考案したファブリックやディテールで僕たちを驚かせ続けた数多くのブランドだ。CHENPENGやERLやPAFほど大胆でも斬新でもないかもしれないが、いずれも性能を重視したブランドであり、もっと先には、高い防寒性、優れた防水性、軽量の追求に徹したブランド群がある。Arc’teryx、Haglöfs、Klättermusen、The North Face、Monclerなど、名を挙げればきりがない。豊かなレガシーに裏打ちされたこれらのブランドは、長年にわたり、歴史に残る探検、科学研究の遠征、寒冷地での生活に適した衣類を提供し、さもなければ絶対不可能だったかもしれない場所で人類の体験を助けた。これが衣服のもっとも重要な側面のひとつであることを見落としたのでは、完璧に的外れだ。水滴が球となって滑り落ちるファブリック、人間工学に応じて身体が快適に動ける余地を確保したキルティング、体温を逃がさない二重構造の伸縮ストームカフス。パファージャケットは、耐久性と機能が美を具現する領域なんだ。

Quavo、2024春夏パリ ファッションウィークにて。写真:Edward Berthelot/Getty Images

Richie Shazam、2024春夏パリ ファッションウィークにて。写真:Jacopo Raule/Getty Images

確かに、目抜き通りを歩けば醜悪にかさばったパファージャケットを必ず目にすることも認めよう。使われているのは合成素材だし、不均一に偏ったフィルは、いっそ無しでいいような代物だ。本物を模倣しただけのイミテーションは、パファージャケットの基本要素を提供しないし、パファージャケットに可能な独創性もまったく欠如している。だが何事も、最低のレベルでカテゴリー全体を判断するのは間違いだ。

パファージャケットにまつわる分断は、スタイルについて非常に多くを教えてくれる。それらは、今後のシーズンにも通用する価値のある教訓だ。まず、「今シーズンのNGアイテム」なんていう抽象的な予測に従う代わりに、「どの服が僕たちに喜びを与えてくれるか」を考える。寒い冬、「マスト」なウールのオーバーコートよりパファージャケットのほうが暖かいなら、パファージャケットを着よう。2つ目は、優れた機能の美しさを認識する。機能と美しさが相容れないという考えは、ファッション界の害悪の多くを倍増して、過剰消費と浪費を招くだけだ。3つ目は、前述したブランドをはじめ、熟慮を優れたデザインに結晶させた製品とファストファッションの模造品を混同しない。世界には、最先端技術の応用から奔放なコンセプト指向まで、胸躍らせるパファージャケットが山ほどある。スタイルと機能の両面で進化を続ける領域だ。そんな抗い難い魅力の世界に実った果実を、楽しまない手はないじゃないか。

  • 文: Alek Rose
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: January 18, 2023