過去の燃焼から模索する
ルカ・マリアーノの未来

Maglianoデザイナーが、ピッティ ウオモでの最新コレクションを語る

  • 写真: Eva Losada
  • 文: Robby Kelly

アルバムの再発売から映画シリーズやビデオゲームのリメイクまで、現在のカルチャーには心を騒がせるノスタルジアの引力が感じられる。そんな過去の蘇生は、いかに感情を満足させ利益を生もうと、裏の面があることを考えないわけにはいかない。安全な過去を懐かしむことは、アートの意味ある前進を阻むのではないか? 私たちは、過去が深く染み込んだ未来に縛られることにならないか?

冷たい空気に身が引き締まるような水曜日、フィレンツェの郊外。Maglianoのデザイナー、ルカ・マリアーノ(Luca Magliano)は片手にBicライターを握り、片手で輪ゴムを弾きながら、私の疑問に思いを巡らせる。

マリアーノは、今シーズン、ピッティ ウオモのゲストデザイナーに選ばれた。近年にはイーライ・ラッセル・リネッツ(Eli Russell Linnetz)マーティン・ローズ(Martine Rose)、グレース・ウェールズ・ボナー(Grace Wales Bonner)らが手にした栄誉だ。ボローニャ芸術自由大学を卒業して間もない2017年、イタリア版『Vogue』の「Who Is on Next? Uomo」コンテストで優勝したマリアーノは、翌2018年にピッティ ウオモでランウェイ デビューを果たしたのち、大きな飛躍を遂げ、2023年にはLVMHプライズのカール・ラガーフェルド賞に輝いた。だから今シーズン、再び世界最大級のメンズウェア トレード ショーを舞台にするのは故郷に錦を飾る感があるし、マリアーノの沈思と内省の理由もそこにある。

イタリアらしい鋭敏な感性のテーラリングと労働者階級のルーツに根差すスタイリッシュなワークウェアの結びつきが特色のMaglianoは、これまでのコレクションで、1980年代のイタリアを席巻したパニナリのスタイルから階級差別やセクシュアリティに対する進歩的な視点まで、幅広い領域に目を向けてきた。

がらんとした屋内のコンサート会場に、コロシアムを思わせる大階段がある。レイブ ミュージックのリズムが轟くなか、その階段を、新コレクションに身を包んだモデルたちが観客席のフロアまでゆっくり下りてくる。「映像の詩人」と呼ばれたロシアの映画監督アンドレイ・タルコフスキー(Andrei Tarkovsky)の『ノスタルジア』(1983年)にオマージュを捧げたセット デザインだ。この映画は、広く高くそびえる大理石の階段を背景に、クライマックスのシーンを迎える。

タルコフスキーが遺した最後から2番目の作品と関連させながらも、「僕は大衆映画が大好き」とマリアーノは言う。まるで、Letterboxd界隈の小難しい映画通とは一切の関わりを持ちたくないみたいだ。「だけどタルコフスキーだけは…」と言いかけ、途切れた言葉を感動の手ぶりで繋ぐうちに、涙の薄膜が瞳を覆う。

「定着したものを覆すには、まず理解することが必要だ」

私たちとノスタルジアの愛憎関係に、マリアーノはどんな答えを見出したのか? あからさまに解説するアーティストではないが、新コレクションの作風を見る限り、愛とロマンスによる解毒を暗示しているように思われる。思考が作り出すビジョンではなく、直接的な現実の愛とロマンスだ。

2024年秋冬コレクションでは、Maglianoに高い評価をもたらしたマスキュリンな正統テーラリングと並んで、これまででもっともジェンダーフルイドなシルエットが登場した。

「流動的であることが時代を呼び起こす」とマリアーノは言う。「衣服にはエロティックな関係性があるし、当然、流動性は政治的でもある。世界で進行していることを無視したショーを作るなんて、不可能だ」

フットウェアにはスクエアトゥのブーツやシックなドレスシューズもあったが、主役は、イタリアのワークウェア ブランドU-Powerとのパートナーシップから生まれた大衆向け安全靴だ。

「ある種のサボタージュだな」というマリアーノの言葉はフットウェアにも当てはまるし、Magliano世界の外側にあるアイテムを内側に引き入れ、その過程で新たな発見を見出す手法にも当てはまる。

高級ファッションとワークウェアの並置は、Maglianoに一貫して流れ続けるテーマだ。新コレクションでは、グラフィック Tシャツや大ぶりなニットウェアの上にジャケットやテーラード アイテムを重ねたり、あるいは逆のレイヤードも見られた。モデルが外側の殻を入れ替えて登場する。手には、イタリアを象徴するレザーのトートバッグと一緒に、グラフィティが描かれたスーパーの袋のようなアクセサリーがある。

ヘッドピースも、ベレーのような帽子からランウェイには無縁な誕生日用のとんがり帽子まで多様だが、いずれもイタリアの老舗高級帽子ブランドBorsalinoとのコラボレーションによる。

マリアーノが言うところの「アイロニーが一目瞭然」なパーティー用とんがり帽子も、共同制作によるサボタージュの一例だ。「サボタージュではあっても、最高級の素材で美しく仕立ててある。定着したものを覆すには、まず理解することが必要だ」

正統のテーラリングを斬新な視点から解釈したコレクションだったが、最後は3着のスーツが登場した。Kitonと共同で緻密にデザインされた、ブラックとホワイトのスーツ セットだ。

今は亡きKitonのデザイナーを「イタリアで最高のテーラー」と称賛するマリアーノにとって、故郷での凱旋ショーを飾るにふさわしい夢のコラボだ。

3番目のスーツは、燃えるようなレッド一色のアンダーシャツとの組み合わせで、圧倒されるようなランウェイの階段を下りてきた。おそらくこれも『ノスタルジア』と関連させたルックに違いない。狂信ゆえに世界から理解されない主人公が、大階段のふもとにあるマルクス・アウレリウス(Marcus Aurelius)の騎馬像にのぼり、人類の兄弟愛を説いたあと、自ら灯油をかぶって火だるまになったクライマックスのシーンが脳裏に蘇る。

「ノスタルジアは受け身の感情じゃない」。マリアーノが敢えて口にした、彼にとっては最大限の説明から、ショーの命題が垣間見える。「ノスタルジアは、根本的なソリューションを選択して、為すべきことを為す方向へ僕たちを促すプロセスなんだ」

  • 写真: Eva Losada
  • 文: Robby Kelly
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: January 12, 2024