ファッションデザイナーであることの醍醐味

『A Magazine Curated By』の創刊25周年を記念して、シモーン・ロシャとフランチェスコ・リッソが対話した

  • 写真: Huy Luong

ファッション デザイナーをキュレーターとして招き、その美学を探求するコンセプト マガジン『A Magazine Curated By』の創刊25周年を記念して、3月6日にパリで開催される特別展にSSENSEがパートナーとして参加する。最新コレクションのショーを間近に控えたシモーン・ロシャ(Simone Rocha)とフランチェスコ・リッソ(Francesco Risso)の以下の対話は、『A Magazine』 特別号に掲載される。

創刊25周年を記念すべく、数か月前から準備を重ねた『A Magazine Curated By』特別号は、ファッション デザイナーたちの対話集です。さまざまなクリエイターのなかでも特に、ファッション デザイナー同士の対話に触れる機会は多くありません。彼らにはそれぞれの世界があるからです。しかし、どのデザイナーも独自の視点に立ち、直接創作に関わっていることに変わりはないのです。特別号の狙いは、この共通項に基づいた対話から、創作とその過程に対するデザイナーたちの理念に耳を傾けることでした。同時に、『A Magazine Curated By』作りに関わる、往々にして「声なき」メンバーたちの考えや体験も欠くことはできません。キュレーターとして招かれたデザイナーにサポートと助言を提供し、各号を完成に導くエディターやアート ディレクターたちです。彼らとデザイナーたちの言葉が読者のみなさんにインスピレーションをもたらし、創作を促すことを期待してやみません。 — 編集長 ブレイク・アビー(Blake Abbie)

冒頭の画像:『A MAGAZINE CURATED BY』2000/2004–2025

フランチェスコ・リッソ(以下FR):

僕の場合、デザインは子供の頃に始まったんだ。とても賑やかな家庭でね、兄も姉も全員、僕よりはるかに年上だった。父がたくさん人を連れて来るんだけど、僕は無口。そういうなかで、色々な物を作るのが僕の癒しになったわけだ。クローゼットを掻き回して、色んなものを繋ぎ合わせて、自分の服を作る。姉たちにとっては迷惑な話だけど、やめられない。周囲があんまり賑やかなもんだから、僕にとっては、服を作ることが話す方法、コミュニケーションの手段だった。僕がクリエイティブな仕事をしてるのは、シンプルだけど思い出や意味のあるものを通して、感情や感覚や言葉にならないものを表現したいんじゃないか、今でもそう思うよ。

シモーン・ロシャ(以下SR):

おもしろいね。私も小さい頃はすごくおとなしかったのよ。

FR:

そうなの?

SR:

内気ではなかったけど、自分を見せるのが嫌だった。自分の考えを持ってたけど、口にするのが嫌だったのよ。人の集まりの中でどう感じるべきか、その部屋の中でどう感じるべきか…いつでもちゃんとわかってたわ。そういう自分のなかの考えを、着るもので表現できる気がしたの。制服でもいいし、制服の着方でもいいし、母の洋服、父の洋服、フリーマーケットで見つけた古着でもいい。すごく無口な私に代わって、着てるものが話す感じ。それがずっと、他の人たちと私を隔てる壁になってた。普通、注目されたい人は服を脱ぐようだけど、私は逆。もっと着る。コートを3枚重ね着して外出するとか。

FR:

いいね、それ。

SR:

私にとっては、それが快適に関心を引く方法だったから。

FR:

子供時代の僕の感覚とすごく似てる。僕は本当に姉たちの服にハサミを入れてたからね。今は笑い話だけど、当時はカンカンだよ。ただ僕は、そういう行為を通して、服を作ることの意味を理解したかった。ほとんど強迫観念だったな。

SR:

Marniのクリエイティブ ディレクターになったとき、解放感があった? あなたがキュレーションした『A Magazine』を見たけど、素晴らしい仕上がりだったわ。すごく自由な感じがして。今の仕事で自由になれた気がする?

FR:

大なり小なり自由を感じた段階はあるけど、最初はとてもそうは言えなかった。前任者から引き継ぐものと僕の知られていない部分をバランスさせて、なおかつ自分に忠実であろうとするのは、簡単じゃなかった。僕はMarniを立ち上げたコンスエロ(Consuelo)のクローンじゃない。最初にそう宣言したけど、ともかく当初は、自分に忠実でありつつ、同時に非常にMarniらしいと思われていること、Marniらしくないと思われていることの理解に努めたよ。色々と興味深いプロセスではあったな。解放感を妨げたもうひとつの理由は、それまでに僕はファッション デザイナーとして10年以上仕事をしていたせいで、特定の衝動や習慣が身についてたこと。そういうものからも、自分を解放する必要があった。徐々にではあるけれど、僕たちファッション デザイナー全体が、非常に直感的に自分たちを解放したときがあったと思うんだ。とても素晴らしい感覚だった。

SR:

そう、確かに以前とは違う感じがする。私の場合は、変だけど、Jean Paul Gaultierの仕事をしたときのほうがよほど自由で、何でもできる気がしたわ。別に自分のブランドに縛られてるわけじゃないのに、変よね。ただ、自分のブランドとは責任の大きさが違うのよ。

FR:

いちばん大事なもの、自分のすべて、自分の名前がついているものを台無しにするわけにはいかないから。

SR:

若い頃の私は、今よりはるかに気儘で純真だった。自分のアイデンティティをすごく純粋に表現したコレクションを作れたのは、そのせいだと思うわ。自分とは別人になることも強いられなかったし、周囲もそういう私を活かすことでブランドを育てられた。今だって私は自分の好きなことをできるし、すごく大きな自由がある。とても幸運だと思うけど、残念ながら、責任も付いてくる。

FR:

そればかりは逃れようがない。

フランチェスコ・リッソとシモーネ・ロシャの対話、『A MAGAZINE CURATED BY』2000/2004–2025: DIALOGUESより

SR:

どのシーズンも同じってわけにはいかないでしょ。100%の確信がないときもあれば、すごく苦しむときもある。

FR:

僕はまだ君のショーを観たことがないけど、君の創作には、遠くからでもパワフルなエモーションを強く感じる。そこが君の素晴らしいところだ。去年の夏、一緒にギリシャに滞在してた僕らの共通の友人が僕のショーを観に来てね、「同じくらい楽しめるのは、シモーンのショーだけだ」って。

SR:

私、ショーが大好きだから。ショーは最高。

FR:

そうだね、いいことだと思うよ。だけどショーだけじゃなくて、ショップに出ているものにも、ショーと同じエモーションを感じる。それは自由でもあると同時に、君を制約するものでもあるんだな。

SR:

簡単ではないわね。コレクションを作ることが大好きだから、ショーはすごくパワフルに出来上がる。最初からショーを念頭に置いてるの…会場でどう見せるか、どういう感覚を演出するか、モデルには誰を使うか。だけどSimone Rochaのショップもあるから、来店するお客様が少しでもショーの雰囲気を感じられるように、かなり考慮してる。

FR:

素晴らしい。

SR:

ショップって、とても楽しいし、素晴らしいわ。私、話し合いにも積極的に参加するのよ。すごく拘りが強いくせに共同作業も大好きって、変でしょ。どんどんみんなに発言してもらう。そのくせ、意見は聴かない。

FR:

よくわかる、それ。

SR:

あなたが白い紙で覆った屋内でドレスを見せたアイデアは、とても印象的だった。すごく感心したわ。

FR:

ありがとう。あれは楽しかった。だけど、君が言ったように、どのシーズンも同じじゃないからね。多少なりとも自由を感じるシーズンがあるし、そういうときは制約がプラスの方向に作用する。次のショーを控えて、今はクレージーな時期だろ。君はどうか知らないけど、僕はコレクション ショーというファッション界の美しい儀式に全力を注ぐんだ。チーム全体、デヴ・ハインズ(Dev Hynes)をはじめとして音楽で参加してくれるメンバーたち…僕らはみんな、静かに僕らがいる世界と場所を観察する。どう展開していくのかはわからないけど、時として自分を制限するのもいいことだって気がしてならないんだ。夢を持つのが必要なときだけど、静かに深く考えることも必要だと思う。それでなくても膨大なエネルギーが浪費されてるから、何であれ無駄にはできない。悪いエネルギーがあるし、世界のあちこちで悪いことが起きてる。ファッション デザイナーになろうと思ったとき、常に僕のなかにあったのは、何か良いもの、何らかの喜びをもたらしたいという思いだったよ。それなのに、すごく華やかで派手な仕事の気がすることもある。

SR:

私、静かに考えるときは寛大な気持ちになる。それって、さっきから私たちが話してることよね。つまり、強く押し出すときとちょっと引いてみるときがある。ふたりとも今はコレクションの発表が間近に迫ってるから、最善を尽くして、全力を出して、今というときに正しいと思うことをやるしかない。不必要に競争するのって、すごく疲れるわ。だって、ファッションで大事なのはデザイナーの個人主義や性格じゃないでしょ。着たときに何を伝えてくれるか、何を感じさせるか。ある人にはひとつのことを感じさせて、違う人には違うことを感じさせる。それがファッションよ。だから、こうして私たちが対話する場を持てるのは大歓迎だわ。だけどファッション業界全体では、あらゆることがもっと対立的で、もっと攻撃的。私たちが攻撃的になる必要、ある?

FR:

ファッション業界の組織の誰かが、勇気を出して言ってくれればいいんだけどな。ぜひ、そういう発言を聴いてみたいもんだ。

SR:

私が独立したデザイナーで、自分でペースを決められるのは、すごく幸運だと思う。とは言っても、ファッション業界の内側にいる限り、レースに参加せざるを得ない。

FR:

だけど色々ひっくり返してるじゃないか。いいことだよ。

SR:

ところで、去年の夏、アートのプロジェクトでロンドンへ来たっていう話だったけど、そのプロジェクトは実現したの?

FR:

したよ。ずいぶん長い間絵から遠ざかってたから、15日間作業場の倉庫に籠ってひたすら描き続けるのは、すばらしい体験になった。たまにMarniで描くこともあるけど、その場合は、必ず特定の目的が頭にあるから。今回のプロジェクトは違う。実はプロジェクトを依頼されたのはスローン&ソルジャー(Slawn and Soldier)というふたりのアーティストで、そのふたりが僕を誘ってくれたんだ。とてもとても感謝してる。幅12メートル、高さ4メートルのキャンバスに向かって、完全に自分を忘れて、とにかく描いて描いて描き続けた。思考があるときも思考がないときもあったし、描いたものを窓から放り出したっていい、それでもまったく構わない、と思った。それほど自由な感覚だったんだ。作品の何枚かは前回のコレクションの一部になってる。2月のショーでも1枚見てもらうよ。ぼくたち3人で完成したアート プロジェクトのクライマックスだ。

SR:

素敵。

フランチェスコ・リッソの章、『A MAGAZINE CURATED BY』2000/2004–2025より

FR:

素晴らしい体験だったけど、いちばん感動したのはスローン&ソルジャーと一緒に仕事できたことだ。経歴はぜんぜん違うのに、ひたすら創作という自由でひとつに結ばれた。何かを証明する必要もない。作品に政治的な意味を込めたり、論争を巻き起こす必要もない。ただ僕ら3人の知識を持ち寄って、自由に手を動かすだけ。すごく新鮮で、強く刺激された。

SR:

精神的にも肉体的にも、反復から離れる必要があるよね。半年ごとのショーなんて、自分から距離をとることなしに、やり続けられるわけがないんだから、絶対必要なのよ。

FR:

そういう時間をきちんと確保してる?

SR:

そうとも言えないな。

FR:

もっとそうしたほうがいい。もしやってないんだったら、やらなきゃダメだ。

SR:

わかってる。私、変わってるのよ。やらなきゃいけないことがあると、アドレナリンが大量に放出されるの。私にとっての息抜きは娘たちね。9歳と3歳。純真で、気紛れで、陽気にはしゃいでる娘たちから、解放感を貰ってる。あの子たちがいなかったら、もともっと辛いと思うな。

FR:

絶対そうだ。

SR:

それから、よく泳いでるわ。アイルランドの島生まれだから、水に囲まれて育ったの。泳いでると、とても静かな気持ちになる。今は、ロンドンの貯水池で泳ぐのが、私の息抜き。

FR:

僕らは、もっともっと息抜きしていいはずだ。必ずしも時間を増やすということじゃなくて、息抜きの大切さを理解するってこと。僕も色んなことをやるけど、スローン&ソルジャーとのプロジェクトみたいなのは長い間やってなかった。あのプロジェクトは、仕事であると同時に長い間遠ざかってた活動だから、自分でも驚くほど感動した。まったく、あのふたりには、感謝しても感謝しきれないよ。

SR:

私も、色んな映像作品で友達と仕事をすることがあるわ。仕事であることに変わりはないけど、まったく違うやり方になるのがすごくいい。ほかの人たちと同じレベルに立って、いつもと違うものを作れるのが楽しいの。それが昔と今の違うところだと思う。先輩や後輩のデザイナーも含めて、今の私たちには、色んなやり方で自分の仕事のリズムをコントロールできる知識と自由がある。幸か不幸か、ファッションはあらゆることに関連するでしょ。そういう意味でも、あなたがイラスト、手仕事、それからもちろん写真を混ぜ合わせてキュレートした『A Magazine』が大好きだったの。ファッションには写真が付きものだけど、あなたは自分のやり方を違う方法で見せた。とても斬新だったし、少なくとも、最近になってようやく使われ始めた手法よね。

FR:

ところで、今大嫌いなことは何?

SR:

え? 私が大嫌いなこと?

FR:

どんなことに不満を感じてるのか、興味があるんだ。

SR:

私が何にウンザリしてるか、知ってる? デザイナーの異動の噂話でもちきりなことよ。

FR:

それそれ! 僕もそれを言おうとしてたんだ。ちょっと前にも、「ゴシップに巻き込まれなくて、つくづく良かった」って友達と話したばかり。

SR:

ほんと、バカバカしいよね。

FR:

すごくバカバカしいうえに、僕たちの仕事のすべてが損なわれる。誰がどこへ行ったなんてことは、重要じゃないんだ。まったく始末に負えない。冷静になってほしいよ。

SR:

その通りだわ。私たち、ACミランからマンチェスターへ移るサッカー選手じゃないんだから。ほんと、狂ってる。あなたが言ったように、私たちの本当の仕事がすごく損なわれてる。もちろん、なかには素晴らしい任命もあるけど、それって大丈夫なの?みたいなケースもあるもの。

FR:

優れた人材をスカウトしたり、そういう人材の創作を目にするのは刺激になるけどね。

SR:

だって、まだ作品も発表してないのよ。

FR:

デザインという仕事全体、そこに表現されるアート、それどころかブランドの本質そのものまで、異動のニュースの影に隠れてしまう。

SR:

そう。まるで『裸の王様』みたいな気がすることがあるわ。私たちは服を作るのが仕事なんだから、皮肉な話。

  • 写真: Huy Luong
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: March 6, 2025