バラクラバに
守られて
ドラマチックな
冬の被り物の
意味と誕生秘話
- 文: Rachel Davies

後頭部は完全に覆われている。耳が日の光に触れるチャンスはまったくない。生え際から始まって、髪はすべて冬眠中。バラクラバをかぶり、私は自分の世界に籠っている。
もっとも露出部分の大きいバラクラバでさえ、他のどんな被り物より広い面積を覆い隠す。控え目なビーニーでは必ず首がむき出しになり、額の一部が冷気にさらされる。特に遠慮がちなビーニーなら、耳の端は自分で自分の身を守らなくてはならない。マフラーは食わせ物だ。長いから一見暖かそうだが、安心して身を任せるには問題がある。マフラーは重力に弱く、巻きついた首から離れて、すでに十分防寒されている胸や腋の下へ垂れていく傾向があり、最悪の場合はぬかるんだ地面に着地する。でも責めてはいけない。もともと、マフラーに誠実を期待するほうが間違いというものだ。
だが、信頼を念頭に置いて作られたバラクラバは違う。あれはクリミア戦争が戦われていた1854年の秋のこと。ウクライナの漁村を攻め取ったものの、イギリス軍の兵士たちは夏の装備のままで寒さに震えた。銃後の守りを固める女性たちはそれを聞き、兵士たちのために非常に特別な防寒具を編み始めた。戦いは戦地となった場所の名をとってバラクラバの戦いと呼ばれ、兵士たちのために作られた目だし帽は、戦いの名をとってバラクラバと呼ばれるようになった。ロシアのマトリョーシカと同じ、入れ子式命名ではある。
バラクラバとスキーマスクは顔を覆うデザインが似ていることから、ひとまとめにして同じに扱われることが多いが、これはそれぞれの背景を蔑ろにする不適切な混同だ。バラクラバは、実際には手編みでなくても、常に手編みを連想させる。たとえ工場生産であろうと、値札に大層な値段が記されていようと、そもそもの心温まる感覚が残っている。兵士の一団を寒さから守るいちばん手っ取り早い方法が手編みの防寒具、そんな過去の名残りだ。Givenchyのブラウンのウール混バラクラバ然り、Cecilie Bahnsenのピンクのモヘア×シルク混バラクラバもまた然り。反対にスキーマスクは、バラクラバと同じ形状と実用性を強化した印象だし、合成繊維の普及と密接に結びついているせいで工場生産のよそよそしさがある。新繊維のおかげで、何があっても顔にしがみついているのが、スキーマスクの特徴のひとつだ。スキーマスクは、覆い隠した肌を決して露出しない。

違いはともかく、バラクラバとスキーマスクはどちらも誕生して以来、大衆の関心に出没してきた。高級ファッション界にも時折り姿を現した。いちばん新しいところでは1965年の『New York Times』に言及があるがある。英国人デザイナーのクライブ(Clive)のウィンター コレクションにシークインとレースのバラクラバが登場し、「舞踏会用のドレスが蛇のように見えた」という内容だ。最近では、Raf Simonsと故ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)がバラクラバをランウェイに連れ出した。どちらも従来のバラクラバにエキセントリックなひねりが加えられ、コレクション全体の雰囲気作りに一役買っていた。
もっと最近ではバラクラバへの関心がフィーバーの域に達し、この冬、TikTokの#balaclava ハッシュタグは1億2000回の閲覧数を超えた。『Nylon』、『Dazed』、『CNN』、『New York Times』はこぞってバラクラバに関する記事を掲載し、バラクラバの内側に隠された深い意味を覗き込もうとしている。バラクラバの流行がいかに多くを意味しているか。関心が高まるにつれ、傍観者もフォロワーもその点に気づかざるを得ない。もっとも注目に値するのは「どの被り物をファッションとみなすか」の論点だ。例えばヒジャブやニカブを着用する人々は、バラクラバとの相似と扱われ方の違いを指摘する。Tayah (@subwaytattoo)は、バラクラバのトレンドに関する動画でこんな意見を述べている。「いつもヒジャブを着けてる私から見て、バラクラバをかぶってる人をどう思うかってよく聞かれる。私は、みんなどんどんバラクラバを使えばいいと思うわ。だけど、ひとつだけ覚えておいてほしいの。ヒジャブは私たちを苦しめるとんでもない悪習で、みんな大嫌いなのに、宗教のために仕方なく従ってると考えてる人が多いだろうけど、でもそうじゃない! ヒジャブを着けてると、暖かいし、安心感があるし、それに可愛く見えない? でしょ? 私もそう思う! だからみんなもバラクラバを楽しんでちょうだい。そして、私たちもヒジャブを楽しんでるんだってことを心の片隅に置いといて。ヒジャブをするのはちっとも憂鬱じゃないの」
確かに、バラクラバの真髄は、自分にとっての心地よさを尊重することだ。今バラクラバが見直されているのは、ハイファッションに注目されたおかげであるより、パンデミックのお家時間で編み物をする人が急増したことと、多くの人が顔を覆う安心感に気づいたからだ。一方で、バラクラバで街を歩けば必ず視線を引き寄せる。これこそがバラクラバの大きな利点だ。外界から守られている安心感がありながら、注目される素朴な快感を犠牲にすることはない。バラクラバは本質的にドラマチックだ。ただの散歩であっても、過保護にあらゆる障害を排除し、微塵の寒さも許さない。自然界の影響を果敢に撥ねつけ、冷え込むから外に出るのは諦めようという軟弱な考えを嘲る。単調な日々が続く冬の季節、歴史から生まれた防寒具が頼もしい。
Rachel Daviesはニューヨーク シティ在住のライター。日毎、「Architectural Digest」の記事を執筆し、印象的な空間に関する口述歴史プロジェクトMy Most Important Roomの仕事をしている
- 文: Rachel Davies
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: February 7, 2022

