ポップスターの
スタイル七変化
リリー=ローズ・デップ主演ドラマ『THE IDOL/ジ・アイドル』の放映を控え、アイドルの歴史とカルチャーの欲求を振り返る
- 文: Anna Zanes

大会場でショーの幕が上がる前、楽屋では、メイクアップ アーティストがポップスターの顔立ちを思いっきり誇張して、立体感をつける。ステージに上がってライトを浴びたとき、のっぺりして見えてはいけない。強烈なスポットライトに負けないくらい明るく輝いて、観客の視線を釘付けにしなくてはならない。そして、ファン集団を惹きつけて離さない方法のひとつは、「次」を期待させること、スタイルを一新してひとつの時代を終わらせ、次の時代を始めることだ。
ポップ史を振り返ると、スターたちのファッションと音楽には深い繋がりが見てとれる。事実、コンサートの観客の反応は40%が音楽、残りの60%は視覚体験に起因するというのが音楽業界の常識だ。指先ひとつでビデオクリップや静止画像を追い続けずにはいられない「ドゥームスクローリング」が蔓延する現在は、それが以前にも増して顕著と言えるだろう。だが、エルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)の腰振りがアメリカ全土のテレビで論争を巻き起こした1950年代から、スタイルは常に決定的な要素だ。ポップスターたちに見る時代別のスタイルの変化、あるいはひとりのポップスターのキャリアを通じたスタイルの進化は、大衆の欲求について、何を教えているだろうか? 特定の時期の切望や要求について、何を語っているだろうか?
そんな厄介なファンタジーの領域で、期待されるHBO局のドラマ シリーズ『THE IDOL/ジ・アイドル』が始まろうとしている。これまでも目ぼしい多くの娯楽作品が、ポップスターというキャンバスに大きな構想を描いてきた。レディ・ガガ(Lady Gaga)主演の『アリー/スター誕生』、ナタリー・ポートマン(Natalie Portman)主演の『ポップスター』、最近ではドナルド・グローヴァ―(Donald Glover)が制作したドラマ シリーズ『Swarm』など、枚挙に暇がない。しかし、マーケティングを信用するなら、『THE IDOL/ジ・アイドル』はこれまでで一番ダーティな内容という触れ込みだ。
物語は、リリー=ローズ・デップ(Lily-Rose Depp)演じる新進気鋭のポップスターと、エイベル・“ザ・ウィークエンド”・テスファイ(Abel “The Weeknd” Tesfaye)演じる、控え目に言ってもスターのキャリアに危惧すべき影響を及ぼすであろうナイトクラブ プロモーター兼自己啓発導師兼カルト リーダーの関係を軸に展開する。リリー=ローズ・デップのキャスティングは、もうそれだけであれやこれやの連想を刺激するうえ、背後にはブリトニー・スピアーズ(Britney Spears)の「ギミ モア」が暗示的に流れ、ティーザーのひとつは「あれがセックス、あれが売り物」のセリフで終わる。おまけに共同プロデュースと監督がサム・レヴィンソン(Sam Levinson)というのだから、非の打ちどころのないスタイルにお目にかかれるのは当然だ。レヴィンソンはドラマ シリーズ『ユーフォリア』で、現代を映したスタイルを非常に夢幻的に描き出し、独自のトレンドを生み出した。異世界を見るようなグラム ルックは、エピソード1が放送されるや、ほぼ瞬時にバイラルになったものだ。『THE IDOL/ジ・アイドル』は、短時間の予告編でさえ、ポップスターの進化を完璧に象徴するファッションに視点を定めている。ケーブルテレビ局のHBOであれエンターテインメント ニュースサイトのTMZであれ、冷酷な音楽業界の中で、若きアーティストたちが自分を作り変え、リブランドしていくのを、私たちは目の当たりにしてきたではないか。

冒頭の画像:写真 Eddy Chen/HBOHere: Getty / 写真 Jeff Kravitz/FilmMagic, Inc
ベッドルームの壁、学校のロッカーの中、ソーシャル メディアのアカウント…。私たちには繋がりを感じる特定のポップスターがいる。彼らはアーティストであると同時に、ポップカルチャーのど真ん中で、浮き沈みを体験するキャラクターだ。私たち観客は、会場の外でコンサート待ちのテントを張ったり、アルバム収録曲を念入りに分析したり、雑誌に掲載された写真の服を逐一解説するTikTokのコンテンツを消費して、ポップスターと彼らの物語の進行を貪欲に追い続ける。私たちの欲望を刺激し、魅惑し、挑発し、トレンドを生み出し、さらには特定の政治姿勢を表現することを、ポップスターに期待する。
ブリトニー・スピアーズを例にとってみよう。1990年代後半から2000年代初期にかけて変化したスピアーズのスタイルとファッションは、同じく成功を収めた何人ものポップスターが辿った道筋でもある。一言で言うなら「無垢の喪失」だ。ありきたりながら注目を集めるこの現象と移行は、いちばん最初のビデオ「ベイビー ワン モア タイム」の、カトリック校の制服らしいミニスカート姿ですでに準備されていた。やがて女生徒スタイルは、乱した髪とビキニ トップとホットパンツへ変わり、ファン集団は巨大に膨らんだ。ローライズのボトムスと丈の短いトップスで腹部を見せるスタイルはファッション界に熱烈な流行を引き起こし、その名残りは今も完全に消えてはいない。ジュエリー煌めく上半身に生きたイエロースネークを巻き付けた2001年度MTVビデオ ミュージック アワードでのパフォーマンス、真紅のラテックスに身を包んだ「ウップス!...アイ ディド イット アゲイン」ミュージック ビデオなど、過激にセクシーさを強調したルックは音楽史に残り、多くの観客にとってエンパワーメントの象徴となったことは間違いない。かくして、ミレニアル世代には、初心なブリトニーからポスターガールへ変身を遂げる強固なパイプラインが埋め込まれた。

Getty / 写真 KMazur/WireImage
ジャネット・ジャクソン(Janet Jackson)は、多くの点で、現代ポップスターの青写真だ。ジャクソンのスタイルは、アルバムを追う毎に新たなパワーを主張した。それは、彼女自身のクリエイティブなビジョンと業界で成功を収めた有色女性としての立場の両方を掌握する方法だった。最初の2枚のアルバムはサウンドもソフトで、彼女の外見にも、明るい色のバギーなジーンズやオーバーサイズなセーターというスタイルにも、ガーリーな雰囲気が反映されていたが、自己主張が始まったのは1984年の『Control』からだ。ヘアは高く膨らみ、ファッションは視線を引きつけ、やがて力強いショルダーラインがシグネチャになる。『Rhythm Nation』は、ミリタリー調のファッションで攻撃的なパワーを発散した。セクシーな側面が現れたのはその後、『janet.』からのことだ。変化しつつ、どの時代のジャネット・ジャクソンも注目を集めたが、現在は、定番のパワー スーツにフェミニンなチュールのロングスカートとデザイナー スニーカーの絶妙なバランスで、過去のすべてを融合したように見える。

Kyle Gustafson / 『Washington Post』Getty Imagesより
ポップスターのスタイルが表現するパワーとコントロールには、大衆との繋がりという側面があり、ソーシャルメディアの時代には特に強い影響を及ぼす。テイラー・スウィフト(Taylor Swift)は、女性に人気のカントリー ミュージック ガールから世界中の女性に向けて開かれたエンパワーメントの象徴へ成長し、浴びるスポットライトが明るさを増すにつれて、ルックも易々と進化を遂げてきた。『The Eras Tour』が訪れる先々では必ず、「スウィフティーズ」を自称する熱烈なファンたちが、スウィフト好みのシークイン煌めくファッションに身を包んで巷に溢れる。過去のMETガラに現れたスウィフトは、例えば2014年のピンクのOscar de la Rentaドレスに代表されるプリンセス ルックがお気に入りで、大抵いつも真紅のリップカラーをつけている。あくまで女性であることに自信と力強さを表現し、それが音楽にも反映されている。音楽業界に大きなインパクトを与え、聴き手との繋がりを強調するアーティストとしては、シザ(SZA)も挙げておきたい。彼女の歌詞は率直にエモーションを吐露し、本当に彼女の内面と苦闘に耳を傾けているような気持ちにさせる。そんなスタイルが、スポーツウェア、オーバーサイズなジャージ、ビンテージを愛用するスタイルにも表れている。ドレスアップしたときでさえストリートウェアに結びつける方法を見つけるらしく、2017年に『サタデー・ナイト・ライブ』に出演したときは、トラックスーツと合体させたようなドレスを着ていた。近年はビキニ トップですっかり有名だが、2021年の「Good Days」ビデオではビキニ トップがAREAのクリスタルを連ねたデザインに変わっている。必要とあれば、しっかり華麗なファッションに変身してみせるし、そんなふうにもっと体を露出することさえ、シンガー ソングライターとしてのプロジェクトと調和している。
『THE IDOL/ジ・アイドル』でデップが着ているのは、マイクロ ビキニ トップ、ボディコン ドレス、シアなアイテム。パンティが見えるのが重要な要素というルックも、ひとつならずある。どれも、現在バイラルになっているInstagramのインフルエンサーたちと、不気味なほどにそっくりだ。テスファイのほか、多才なダン・レヴィ(Dan Levi)やハリ・ネフ(Hari Nef)、本物のミュージシャンのジェニー・ルビー・ジェーン(Jennie Ruby Jane)、トロイ・シヴァン(Troye Sivan)、モーゼス・サムニー(Moses Sumney)といったキャスト陣も、それぞれのルックで、別の面からポップスターの生態系を物語る。ポップスターは、セックス アピールだけでなく、カネ、注目、何でも即座に手に入るパワーの生態系で生きている。ゴールドのジュエリー、光り輝くテクスチャ、キャットアイ サングラス、レザー、アニマル プリント、シルク スカーフ、色つきアビエイター サングラスで、自らの生き方を示す。『THE IDOL/ジ・アイドル』が与えるのは、「ポップスターはどう見えるか?」という問いへの、古風なほどに典型的な回答だ。ポップスターは、大衆が真に深く切望しているものに見える。
- 文: Anna Zanes
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: May 26, 2023

