ジジ・ハディッドと
オフィスで働く
スーパーモデルが立ち上げたニューヨーク発のブランドGuest in Residenceの舞台裏
- インタビュー: Emilia Petrarca
- 写真: Anton Gottlob
- スタイリング: Daniel Gaines

今日は出社日。山ほど持っているGuest in Residenceのカシミアのセットアップを着る。悩まなくていいし、きちんとして見えるし、着心地がいい。それに自分がボスなんだから、着たいものを着るのは無問題。ヘッドフォンをつけてドアに向かう。次は気分を上げる音楽だ。今朝にふさわしいのは「Neon Moon」? それも、ケイシー・マスグレイヴス(Kacey Musgraves)とブルックス&ダン(Brooks & Dunn)が共演したバージョンなら、原曲よりちょっぴり前向きな勢いがつきそうじゃない? よし、それが正解。プレイボタンをタップし、ニューヨークのダウンタウンの石畳を踏んで、すぐそばの職場に向かって歩き出す。ちょうど曲が終わるのと同時に―曲の長さは5分もない―到着だ。

Gigi 着用アイテム:テーラードジャケット(WARDROBE.NYC)、ベスト(Guest in Residence) 冒頭の画像 Gigi 着用アイテム:コート(ALAÏA)、セーター(Guest in Residence)
子育てと、出張の多いもうひとつの仕事に追われていて、同僚たちと直接顔を合わせるのは久しぶりだ。わくわくしてくる。オフィスに行くことは、楽しくて、ある意味新鮮なイベントなのだ。なぜか? なぜならあなたはジジ・ハディッド(Gigi Hadid)、すなわち世界じゅうで引っ張りだこの人気スーパーモデルのひとりだから。ファッションウィークに比べると、オフィスは地に足がついていて、落ち着いている。それに何より創造の刺激を与えてくれる。それにここは「あなたが」作ったファッション ブランドGuest in Residenceの、「あなたの」オフィスだから、自分が付き合いたいとびきりの才能たちを集めることも、仕事全体をちょっぴりアートクラスみたいに進めることも思いのままだ。
「オフィスに着くと、全員に挨拶して近況を報告し合うの―。みんなに会うのが嬉しくて。チームのみんなが大好きだから」とハディッドは言う。「次にすることは、たぶんプレッシャーを与えちゃってるかな。オフィスのなかをぶらぶら回って、いろんなものを見て歩くから。デザイン ディレクターのCJ [キム(Kim)]なんか、『G、それまだ見ちゃ駄目!』って怒る。見るものはそのときによってプレゼンだったり、サンプルだったり。出張とか娘のカイとの旅行とかで留守にしてると、オフィスに戻ったときはいつも、ちょっとあちこちほじくり返したくなっちゃうの」
ハディッドがGuest in Residenceを2022年に設立した目的は、上質で流行に左右されず、しかも比較的手頃なカシミア素材のベーシックアイテムを、さまざまな現代的なシルエットと使いやすいカラーで展開する、というものだった。「永久にモデルを続けるわけにいかないじゃない」と言うハディッドは、コロナ禍によるロックダウン下での妊娠中にこのブランドの構想を練りはじめた。だから自身が好んで身に着ける、うっとりするほど暖かくて柔らかなものに引き寄せられたのは自然だった。それに、なんといっても彼女は贅沢好きな牡牛座でもある。

Gigi 着用アイテム:セーター(Guest in Residence)

「ウォークインクローゼットのなかに立っていて、思ったの。いろんなブランドからびっくりするほど素敵な服を借りてるけど、もしそれがなかったら、私のワードローブはどんな感じなんだろうって」その問いの答えにまず該当するのが、2枚のカシミアのセーターだ。2013年の秋、ニュースクール大学で犯罪心理学を学ぶためにカリフォルニアから肌寒いニューヨークへと初めて移り住んだとき、両親が贈ってくれたものだ。ハディッドはどちらも今も大切にしていて、たぶんLolo PianaとかThe Rowといったブランドの服の隙間にしまい込まれている。母からの1枚は、革のストラップをあしらったグレーのタートルネック。父がくれたもう1枚は、ボタン留めのゆったりとしたケーブルニット カーディガンだ。「どちらも服を大切に手入れすることを教えてくれた家宝みたいなもの。着るとすごくほっとするし、家に帰ったような気分になる」
Guest in Residence―、長期滞在ゲストというブランド名は、ファッションウィークのあいだ長期間滞在するハディッドの予約に、よくホテルが付け加える但し書きだ。着る人がどこにいようとも、いつも変わらない自分だけの安らぎと家庭的なぬくもりを感じられるように、という意味が込められている。それはまた、私たちはこの地球の「ゲスト」であるという事実のさりげない指摘であり、親から子へと受け継がれるくらい、長く着られる服にこそ投資するべきだというハディッドの信念をも表している。その投資に何千ドルもの大金をかける必要はない。Guest in Residenceは、Lolo Pianaと同じく内モンゴルからカシミアを調達しているが、この秋のコレクションの価格帯は165ドルから795ドルだ。「Guest in Residenceを着る人は、私に言わせると、どんな場所や場面、イベントに現れても、リラックスして自分らしくいられる人。その服をまとったありのままの自分を見せて、その時間や目の前の出会いを楽しめるような人ね」とハディッドは説明する。
Guest in Residenceのブランド哲学について語るとき、ハディッドの心に浮かぶのはヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)だ。「この仕事をしているときは、いつも彼のことが頭にある」と彼女は言う。「多くのことを教えてもらったし、すごく影響を受けたから」。アブローの温かく、寛大で、気取らない精神を作品に取り込むとともに、彼の優れたビジネス感覚に学ぼうと努めている。アブローはどこのタイムゾーンにいてもスマートフォンで仕事をしていたことで有名だが、ハディッドはこれを「ヴァージル時間」と呼んでいる。彼女もオフィスにいないときは、常にチームと連絡を取り合い、ムードボードやスクリーンショット、デッサン、モックアップなどをやりとりしている。使っているのはSlack? とんでもない。「Slackってよくわからなくて」と彼女は言う。「誰かに訊いてみなきゃね」。ハディッドが使うのはWhatsAppだ。「[ヴァージルは]Guest in Residenceのことは知ってたけど、デビューは見てもらえなかった」とハディッドは続けた。「最初のコレクションのデザインは見てくれたけどね。私にはこういうことができるんだって、自信を持たせてくれたのは彼だった、間違いなく」
ハディッドは、過去にオフィスワーク的な職に就いたこともある。一度は音楽スタジオで働き、電話番とお茶くみ等々の仕事をこなした。でも、クリエイティブなオフィス空間に身を浸し、それどころか、そのオフィスを経営するのはこれが初めてだ。アブロー亡きあと、彼女は人も羨むようなメンターたちに恵まれ、教えを乞うた。“恐れ知らず”の異名をとるドナテッラ・ヴェルサーチェ(Donatella Versace)もそうだし、TOMMYxGIGIで、4シーズンにわたり親密なコラボを展開したトミー・ヒルフィガー(Tommy Hilfiger)も、もちろんそのひとりだ。「リーダーとしての自分について、本当に多くのことを学ばせてもらった。チームに参加して、ああした創造的なプロセスに関わることについても」とハディッドは話す。「スタートを切ったのがあんな巨大な会社のインフラを利用できる場所で、しかもリーダーとしての仕事とクリエイティブな仕事に集中できたことは、ほんとうに貴重な体験だった」
「TOMMYxGIGIのコラボを始めた当初から、ジジにはデザイナーとしても経営者としても成功するために必要な資質があると思った」とヒルフィガーは言う。「集中力は半端じゃないし、明快なビジョンがある。おまけにセンスは極上で、消費者の求めるものがわかってる」

Gigi 着用アイテム:ベスト(Guest in Residence)
いつGuest in Residenceに行っても、11人の社員が働いている。中央のスペースに長いテーブルが置かれ、デスクはそれを囲むように配置されている。「あのテーブルに座るのがいいの」とハディッドは言う。「全員でアートの授業に参加してるみたいで、すごく楽しいから」。もうひとつ彼女が気に入っているのは、その空間の手前にある、カーペットを敷いたリビングのようなスペースで、床やカウチの上に生地の見本を広げることだ。「次のコレクションのために色選びをするときはいつも、何もかもそこに広げて検討する。[スタッフは]年齢もばらばらで、いろんなタイプの人がいるからね。全員の意見を聴くとすごいバトルになるけど、めちゃくちゃ面白い。ほんとに議論を大事にしていて、みんなが真剣に参加する」
スタイリスト兼エディターのガブリエラ・カレファ=ジョンソン(Gabriella Karefa-Johnson)など、自分が愛情と尊敬を抱く大勢のメンバーと働きながら意思を通すことは、なかなか難しいこともある。「時々、無理にでも正面切って、言うべきことを言わなきゃ、と思うこともある」とハディッドは言う。「でも大人になるのって、ひどいことを言わなくても自分の意思は主張できるんだと学ぶことじゃないかしら。それはビッチになるのとは違う。男性のボスと女性のボスを比較するときのポイントはそこでしょ。確かに、はっきりものを言うと、みんなビッチだと感じるんだと思う。そう感じるように、私たちは慣らされてきたから。大事なのは、成長して、そういうマインドセットから脱却するってことじゃないかな」。この新しいマインドセットが、ボスになってから私生活に及んできたのでは、と問われて、ハディッドはじつはその逆だと答えた。「正直、元々私生活のほうにそういう傾向があったの。それが仕事のほうにも移ってきた、上からもう一枚服を重ねるみたいに。いいことよ」
この秋、Guest in Residenceは、ハディッドが「ファンキーなクラシック」と呼ぶ、ブランドの軸となるコレクションのさまざまなバリエーションを引き続き展開する。そこには、ホックの金具が誘惑的な、たぶん「デート カーディガン」という呼び名が最もふさわしい1枚や、オフィスから空港へ、あるいはディナーにも着ていけるというコンセプトのEverywhere Cardiganの新色も含まれている。「どこかのブランドの服が欲しくなって、次のシーズンにもう一度見に行くと、もう廃番ってことがあって、ほんと悲しくなる」と言うハディッドは、それとは違うことを試したいのだと話す。ブランドのサイズ展開はXSからXXLで、今季はよりどっしりしたイメージの、新しいシルエットのカーディガン―、ハディッドが「最高にいい感じ」というシリーズと、カシミア フランネルのシリーズも発表する。
ソーホーの街角でカシミア フランネルをまとうハディッドも、実家の農場があるペンシルベニア州の田舎でそれを着て馬に乗るハディッドも、簡単に思い浮かべられる。そこがカシミアのいいところだ。ほとんどどんな場面でも上質感を演出してくれて、たとえあなたがスーパーモデルでも、スーパーインターンでも関係ない。ただハディッドは、ずっと自分を安全地帯から押し出してくれる人々を周囲に置くように心がけてきた。「時々、オフィスで笑っちゃうような会話になる。みんなで論争してて、『ねえ、私クリエイティブ ディレクターなのに、自分の好きなものだけ出すわけにいかないんだ』とか、つい言っちゃったり」とハディッドは笑う。そういえば、After Darkと名付けられたカシミアのアームウォーマーは、ハディッドというよりは妹のベラの好みかもしれない。「時々はほかの人の希望に耳を貸さないとね。自分のチームを信頼してるし。だからこう言うの、わかった、じゃあ今日はあなたが決めて」
Emilia Petrarcaは、ブルックリンを拠点とし、ファッションとカルチャーを専門とするフリーライター。以前は『New York Magazine』の別冊『The Cut』に在籍し、5年間デート向けトップスからアナ・ウィンター(Anna Wintour)のランチ、高級ブランドの中古ECサイトThe RealRealまで、あらゆることを追いかけた。その後は『The New York Times』『T Magazine』『The Wall Street Journal』など多岐にわたる媒体に寄稿。ちなみに、ニューヨーク ファッションウィークにおけるLarry Davidの例の動画の撮影者でもある
- インタビュー: Emilia Petrarca
- 写真: Anton Gottlob
- スタイリング: Daniel Gaines
- ヘア: Laura Polko
- メイクアップ: Carolina Gonzalez
- 写真アシスタント: Justin Leveritt
- スタイリング アシスタント: Ashley Weiler
- 翻訳: Atsuko Saisho
- Date: September 6, 2023




