ハーモニー・コリンのEDGLRDが
マーベル ヒーロー達に対抗する

新マルチメディア デザイン集団が創造する怪しい神々「フロリダローズ」の世界

  • 文: Ross Scarano
  • 画像/写真提供: EDGLRD

ハーモニー・コリン(Harmony Korine)は、ごくたまに、子連れでオフィスにやって来ることがある。11月のある木曜日の午前11時30分を少し過ぎた頃、コリンは息子の手を引いて、マイアミのデザイン ディストリクトにあるEDGLRD(エッジロード)本社へやってきた。すぐに、チームメンバーのひとりがコリンの新作を走らせる。眼前で展開するキャラクター アニメーションに、「まったく違うレベルの代物になったな」とコリンは興奮を隠せない。

立ち上げから1年足らずにもかかわらず、EDGLRDはすでにオフィスが手狭になりそうな気配だ。白い壁は印刷されたコンセプトアートで覆い尽くされ、プロトタイプのスケートボードがいくつもあり、横長のデスクはラップトップと大型モニターに占拠され、フィジカルプロダクトを制作するテーブルでは、角の生えたマスクなどの装着型アート作品を開発中だ。EDGLRDのスタッフはそれぞれ、ビジュアルエフェクト(VFX)、美術、ソーシャルメディア、3D印刷、ゲーミング、スケートボードのエキスパート揃いだ。一流ギャラリーやマーベル シネマティック ユニバース(Marvel Cinematic Universe、略称MCU)の特殊効果で第一線を経験した30名あまりが、今はEDGLRD社員として知識と能力を結集し、多媒体を巻き込んだ視覚文化の新たな可能性を探っている。「IP—知的所有権」といった言葉が当たり前のように飛び交い、ミーティングや電話用の小部屋は満室だ。どこもかしこも活気に溢れている。

マルチメディア デザイン集団EDGLRDは、ハーモニー・コリンが乗り出した新ベンチャーだ。映像作家としてのコリンは、キャリアを通じて、ハイカルチャーとローカルチャー、愉快な低俗と衝撃の前衛、閉鎖的な美術と広汎なケーブルテレビの緊張関係を、愛情深く表現し続けてきた。最近ではセブン-イレブンの広告を手掛けている。EDGLRDを共同設立したブラジル出身の第2世代アニメーター、ジョアン・ローザ(Joao Rosa)は、コリンは皮肉屋ではないと言う。「そういうもの全部が本当に美しいと、心から思ってるんだ」

「フロリダローズ ー フロリダの神々」(FloridaLords)のキャラクターのひとりが動き回っているモニターを前に、「どう思う?」とコリンが息子に尋ねる。フロリダローズは、挑発を恐れない陽気な映像作家コリンがアメリカ合衆国でいちばんミームにされる州で暮らした体験から生まれた。疲弊したオハイオ州の田舎町を舞台にした長編映画『ガンモ』(1997年)が、サンシャイン ステートに場所を移したと思えばいい。コリンが書いた簡略な人物描写を基に、生命を吹き込まれたキャラクターが今、モニター上で身を捩っている。「この人たちは、本当にはいないんだよ。父さんたちが作っただけで、本物の人間じゃないんだ」と教える50歳の父の言葉を、息子はちゃんとわかったようだ。

EDGLRDが目指すのは、フロリダローズを中心に、ひとつの完全な世界を構築することだ。フロリダローズと呼ばれるキャラクター達はEDGLRDの知的財産となり、ビデオゲーム、映画、テレビ、その他あらゆる場所に姿を見せるかもしれない。今のところは、SSENSEが提供するRick OwensMarine Serreが彼らの衣裳だ。

コリンの性格描写に肉付けしてフロリダローズの綿密な人物像を作り上げたのは、クリエイティブ ディレクターの二コラウ・ヴェルゲイロ(Nicolau Vergueiro)だ。ニューヨークでブラジル人の両親から生まれ、ブラジルで成長し、ロサンゼルスで学び、他のチームメンバー達と同様、EDGLRDへ参加するためにマイアミへやって来た。コリンだけ、マイアミ暮らしがほぼ10年近い。ヴェルゲイロによると、マイアミへやって来るブラジル人は概して「右寄りで、多少の金はあって、教養はない」と思われているらしいが、実際に来てみると、マイアミはみんなが規則を無視して自分勝手なことをする、愉快で可能性に溢れた場所だった。

色彩豊かなミックスメディアの個展をデビッド コルダンスキー ギャラリーで開催するなど、商業美術に携わっていたヴェルゲイロは、その後、金融危機を機に、ヨーロッパとブラジルのアート界へ飛び込んだ。やがてローザとのコラボや対話を通じてEDGLRDの軌道へ近づき、コリンの新作長編映画『AGGRO DR1FT』を観て、EDGLRDへの参加を決意した。熱探知カメラで撮影したような『AGGRO DR1FT』の特殊効果チームを編成したのはローザだし、EDGLRDの現在のスタッフも『AGGRO DR1FT』チームの進化形だ。『AGGRO DR1FT』はトラヴィス・スコット(Travis Scott)演じる悪役と彼の殺害指令を受けた暗殺者のストーリーだが、じっくりあらすじを考えるのはおそらく間違いだろう。

コリンをどう捉えるかは、人それぞれだ。世界から有能な人材を結集し、アメリカの一番いかがわしい天国で解き放っている、奇矯だが善意のあるカルト集団のリーダーだろうか。いや、頭のおかしいカルトリーダーではなく、スーパーヒーロー達を集めてアベンジャーズを組織したニック・フューリー(Nick Fury)的存在であり、世界滅亡の危機と闘う代わりに斬新で多面的なコンテンツを夢想し、従来の語り口の長編映画に喜びも関心も失った世代の能力を生かし、刺激を与えようとしているのか。

アベンジャーズと同じく、社会の片隅のはみ出し者が集結したフロリダローズは、それぞれの才能と能力を出し合って、自分達を超える大きなことを成し遂げる。ヴェルゲイロによると、EDGLRDのスタッフがフロリダローズの声優をやる話も出たらしい。

画像のアイテム:ドレス(Rick Owens)

「フロリダローズは、輝かしいマーベルに対抗する怪しいバージョンのマーベルだ」とローザは言う。『キャプテン マーベル』や『マイティ ソー バトルロイヤル』のVFXを手掛けたローザの言葉だから、間違いはない。多弁で、情熱的で、落ち着きがなく、話しながらもオフィスの後ろの窓際から入口まで歩き回り、ラップトップの画面でいろんなスタッフを紹介してくれるローザは、マーベルへの敬意、特に、原作のコミックブックへの敬意を口にする。同時に、マーベルがあまりに大規模な集合体になったことも理解していた。「『マイティ ソー』は、ほぼ僕ひとりが創ったギャラクシーをソーが移動する場面があったのが、とても嬉しかった。ああいう仕事は大勢のアーティストに分散されるのが普通だから、ほぼひとりでワンシーン全部の責任を果たした経験は、アーティストとして例外的にラッキーだった」

EDGLRDが目指すのは、希釈ではなく、付加のプロセスだ。フロリダローズはコリンの脳から湧き出たが、キャラクター達のストーリーを育んだのはヴェルゲイロであり、形を与えたのはアニメーター達だ。世界に向けてキャラクター達を初紹介する一連のスチール写真では、SSENSEが衣裳を提供した。だが、そんなフロリダローズの姿が君たちのモニターに現れるのは、これが初めてではないかもしれない。もしかすると、EDGLRDには別の考えがあるかもしれない。

  • 文: Ross Scarano
  • 画像/写真提供: EDGLRD
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: December 20, 2023