オンラインで拡散する
デザインが勝負の決め手

ファッション界に吹き荒れる、閲覧数狙いのデザイン戦術

  • 文: Tora Northman

テクノロジーに憑依された世界では、バイラルであることがファッションの新しい通貨になる。ソーシャルメディアには、一夜にしてブランドを急伸させる力があるからだ。Instagram、X(旧Twitter)、Pinterestなどのプラットフォームは、すでにかなり以前から、トレンドを作り出しブランドの知名度を上げるうえで大きな役割を果たしてきたけど、TikTokがブームになってからは、ブランドが能動的にバイラル化を目論みつつある。

元来、ラグジュアリー ブランドは無難なマーケティングを選び、広告予算の大部分を印刷物や大都市での広告板設置、若干のデジタル広告に費やしてきた。ところが、2〜3年前からは縦型表示のInstagramやTikTokまで範囲を拡大し、ソーシャルメディアへの投稿を増強する手法で認知度と重要な数値を上昇させるようになってきた。すでにマーケティングの謎解きに成功したブランドもある。つまり、携帯画面に表示されたりユーザーが作成するビデオに使われたりすることで、商品そのものに広告の役割を果たしてもらえばどうか? ってこと。

デムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)は、2015年にBalenciagaのクリエイティブ デザイナーに就任して以来、遊びのある斬新な創作で話題を呼び、ファッションの境界を押し広げている。手始めはTriple Sスニーカーだった。現在も続く大ぶりなシューズのトレンドは、Triple Sから生まれた。今では揺るぎないアイコンだ。だけど登場した当時は好みや評価が大きく対立したせいで、インターネット上ではファッションの領域をはるかに超えたユーザーを巻き込んだ喧々諤々の様相を呈した。

Balenciaga2024秋コレクション 写真:Taylor Hill/Getty Images 冒頭の画像:Bella Hadid、Coperni 2023春夏にて 写真:Pierre Suu/Getty Images

昨年12月には、ロサンゼルスで話題の超高級スーパー、Erewhonとコラボしたショーで、10XLの名に恥じない巨大なスニーカーが初公開された。目論みどおりショーは大いにバズり、自然発生的にソーシャルメディアのあらゆるプラットフォームへ拡散していった。自称ファッション評論家から家庭や育児が中心の#mommybloggerまで、あらゆる人が自分の意見を投稿する。誰もが自分の見解をオンラインで披瀝して、束の間の注目を求める。かくして、Balenciagaのショーはソーシャルメディアの隅々まで浸透する。これこそデムナが使いこなす術なのだ。ありきたりなやり方だと思うかもしれないけど、効果に疑いの余地はない。私たちは過去のシーズンで幾度も目にしてきたはず。やたら大きいシューズ、925ドルという法外な価格のタオルスカート、キム・カーダシアン(Kim Kardashian)がMETガラで着た黒装束。呆気にとられるものが飛び出してくることはわかってるでしょ?

The Met Gala 2021に参加するKim Kardashian 写真:John Shearer/WireImage

ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)も、クリエイティブ ディレクターを務めるLOEWEと自身のブランドJW Andersonを舞台に、話題をさらうデザイン技に磨きをかけている。広く一般の興味をかきたてるバイラルな商品作りの結果、限定的な顧客向けの高級ブランドだったLOEWEはすっかりなじみのあるブランドになった。TikTokでは#LOEWEの視聴数が12億を超える。なんと世界の全人口の15%を上回る数字だ。それでも納得できない人には、別の統計を教えてあげよう。四半期ごとに注目ブランドと注目商品のランキングを発表するLyst インデックスで、LOEWEは2022年から13位上昇している。第1四半期には首位、第3四半期末にはMiu Miuに僅差の2位だった。Puzzleトートと、ひとめでLOEWEとわかるAnagramタンクトップは、ともに年間のもっともホットな商品に選ばれた。

2024春夏パリ ファッションウィークのLoeweメンズウェアショーの外にて 写真:Jeremy Moeller/Getty Images

コロナ禍が続くなかで、マーケティングの優先順位は、物理世界での人気からオンラインでのユーザー参加へと大きく移行した。では、実際のショー、実店舗、ファッション界の年間スケジュールを守ってきたブランドを、オンラインで強みと関連性を持てるブランドへ転換するにはどうすればいいか? 表示画面を通して大衆と共振するコレクションを作るには、どうすればいいか? アンダーソンは、コンセプトを強く押し出す手法を選んだ。

2022春夏パリ ファッションウィーク、Loeweウィメンズコレクション 写真:Peter White/Getty Images

ランウェイに復活した2022年春夏コレクションには、かの有名な石鹸ハイヒールや卵ハイヒール、ざっくり切りっぱなしたカラフルなヘアカット、メタリックなブレストプレート付きのドレスを登場させた。その次のシーズンでは、光沢のある風船ヒールのブーツと裾が自動車の形をしたドレス。

ソーシャルメディアでは奇想天外なデザインに関する話題が日増しに広がり、ついにはさまざまな分析や見解にまでのめり込んだ動画がいくつも現れて、これもまたバイラルになった。驚くほど少数のラグジュアリー ブランドしか参入していないTikTokで、現在、LOEWEは120万人超のフォロワーを誇る。アンダーソンは、どのシーズンも必ず、インターネットを沸かせるデザインを一つ二つ投入する。2023年春夏シーズンはピクセルシャツ、本物の草が生えたシューズとコート、そしてもちろんバイラルになった「ポーリーポケット」のアイテムだった。90年代のオモチャを彷彿とさせる「ポーリーポケット」のデザインはTikTokユーザーの好奇心に火をつけ、無数の試着動画が投稿されて、そのどれもが何百万回も再生された。

2023春夏パリ ファッションウィーク、Loeweメンズウェアコレクション 写真:Victor VIRGILE/Gamma-Rapho via Getty Images

JW Andersonでの異色デザインには、蛙クラッチと鳩クラッチなどがある。どちらもオンラインで大きな話題になり、次シーズンにはもっと多くの鳥形クラッチが現れることになった。2024年ウィメンズウェア春夏ショーには粘土製のフーディ、2023年秋冬ショーには動物の足形のブーツが登場した。このブーツには、『ナルニア国物語』の半獣人に因んで「ミスター・タムナス(Mr.Tumnus)」のニックネームが付けられ、TikTokユーザーの垂涎の的になった。戦略は確実に成功している。今後のシーズンも、アンダーソンは閲覧を喚起するデザインを継続するだろう。同時に、JW AndersonとLOEWE双方で、ラグジュアリーと呼ぶにふさわしいテーラリングとそれぞれのブランド理念を貫くはずだ。デジタル界で話題を呼んだデザインが印象に残る2023年だったけど、CFDAのインターナショナル デザイナー賞とブリティッシュ ファッション アワードのデザイナー オブ ザ イヤーの受賞で証明したように、ジョナサン・アンダーソンには押しも押されもしない実力があるのだから。

Rocket Williams、Pharrell Williams、Frédéric Arnault、Loewe2024春メンズウェアショーにて 写真:Swan Gallet/WWD via Getty Images

バイラルを狙ってデザインされた商品例は枚挙にいとまがない。スウェーデンブランドAVAVAVの4本指ブーツ、HODAKOVAのベルトバッグ、Chanelが2023年Métiers d'Art ショーに登場させたローラースケート、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)が手掛けてLouis VuittonのNFT所有者に限定販売されるMillionaire Speedy バッグ。Miu Miuのバレリーナヒールは、ファッションウィーク期間中のストリートを席巻した。バイヤーやファッション評論家やメディアにコレクションの素晴らしさを納得させるのは、今や容易ではない。だけどそのことが、ブランドにとって以前ほど重要でなくなりつつあるのも確かだ。早い話、インターネット上で注目と支持を得れば成功が約束されるのだから、業界人がどう思おうと構わないのだ。ショーが終わったあと、ランウェイに登場したアイテムがオンラインで盛大にバズれば、翌日にはバイヤーがショールームに押しかけて発注すると思って間違いない。ソーシャルメディアとインターネットで生じる即時的な反応は、すべてのファッション関係者にとってフォーカスグループの役割を果たす。ファッション界の駆け引きは、この直接的な反応によって徹底的に書き換えられた。

新たなビジネスモデルは、ラグジュアリー ブランドに限らず、ニューヨークを拠点とするアート集団MSCHFのようなブランドにも利用されている。2023年初めにMSCHFが発表したBig Redブーツはインターネット上で熱く拡散した。鉄腕アトムを連想させるバカでかい滑稽なブーツだったにもかかわらず、Instagramにコーデ写真を載せたがるユーザーは引きも切らなかった。ソーシャルメディアのインフルエンサーたちは発売前に入手できたし、一般発売されるや即完売。すぐにStockXのような転売サイトに現れ、価格は500ドルを超えた。結局、「いいね!」とユーザー エンゲージメントで勝負は決まる。以来、MSCHFは色違いを売り出し、パリス・ヒルトン(Paris Hilton)を起用したキャンペーンを打ち出した。それら全部がソーシャルメディアでバイラルになったのは言うまでもない。

Bella Hadid、Coperni 2023春夏にて 写真:Pierre Suu/Getty Images

オンラインでの拡散を念頭に置いたデザインは、コレクションに止まらない。ランウェイショーやイベントも同様だ。例えば、Coperniの2023年春夏ショーで話題になったベラ・ハディッド(Bella Hadid)のスプレードレスを思い出してみよう。あの動画はインターネットに遍く行き渡り、スプレーがドレスになっていく様子をありとあらゆる人が目にした。ところで、あのコレクションはスプレードレス以外にどんなものがあったか、あなたは思い出せる? 商品やショーがバイラルになれば、ブランドは一夜にして有名になるかもしれない。突破口が開けるかもしれない。でも、仕掛けた策に自分がはまるリスクだってあるわけ。

ミラノ メンズ ファッションウィーク、JW Anderson秋冬2023コレクション 写真:Victor VIRGILE/Gamma-Rapho via Getty Images

そのバランスは微妙だし、トレンドを決定づける中心的役割がソーシャルメディアへ移行した現在、ラグジュアリー ブランドにとってはかつてなく重大な綱渡りだ。だけど何事もそうであるように、今は成功している閲覧数狙いのデザイン戦術も、いつかは時代遅れになるだろう。その時が来るまでは、InstagramでErewhon x Balenciagaトートバッグを見せびらかし、ランウェイからバイラルになったDilara Fındıkoğluのナイフドレスを着てみせれば、ベストドレッサーの仲間に入れてもらえるし、栄えある地位にふさわしいフォローを得られるんだろう。

  • 文: Tora Northman
  • 翻訳: Yoriko Inoue
  • Date: January 24, 2024