離れていても心はひとつ
離れ離れの生活を、一緒にアートして乗り越えた3組の姉妹
- 文: Laila & Nadia Gohar、Nikki & Corinne Maloof、Claire & Darby Milbrath
- 画像/写真提供: Laila & Nadia Gohar、Nikki & Corinne Maloof、Claire & Darby Milbrath

1937年に出版されたヴァージニア・ウルフ(Virginia Woolf)の『歳月』は、「はっきりしない春であった」の文で始まり、50年にわたって家族の歴史をたどる小説だ。生涯最後の出版となった同書のカバーは、一輪の黒いバラ、3枚の空の皿、大小の円をたくさん並べたペン画のデザインで、天候の移ろいやすい季節のみならず、全体の構成より事細かな家族の描写を優先した小説の雰囲気を的確に表現している。ウルフの大半の作品と同じく、表紙デザインを手掛けたのは姉のヴァネッサ・ベル(Vanessa Bell)だ。ベルはウルフのよき協力者であり、ふたりは一緒に仕事をすることが多かった。ウルフが書いていることについて話すと、ベルはすぐに理解した。文章を読まなくても、雰囲気を感じ取ることができた。姉妹とはそんなものだ。
去年の春もはっきりしなかった。以来、はっきりしない春ははっきりしない永遠に変わった気がするが、離れていても、アートで互いを引き寄せた姉妹たちがいる。共通のプロジェクトや新しいアイデアについてアドバイスとサポートを与え合う関係は、「音信」と「繋がり」が別物であることを証明した。
実力派アーティストを含む3組の姉妹が、別々の場所から共同制作した作品と、創作意欲を刺激する家族の特別な絆を語る。未知の世界で歩を進めているような現在、私たちをいちばんよく理解している人を信頼すれば、必ず、懐かしい心の故郷に戻れるのだ。

左の画像:Corinne Maloof「無題」、ニードルポイント刺繍、シルク、レーヨン、ウール。右の画像:Nikki Maloof「The Green Kitchen」、152.5cm × 213.5cm、キャンバスに油彩
ニッキ & コリン・マルーフ(Nikki & Corinne Maloof)姉妹
ニッキ:
私たちは大家族の出なの。ほぼ全員が時間のあるときは何かを作ってるような家族。コリンと会えない今年は、私の絵を下敷きにしてニードルポイントを作るアイデアを思いついた。単純なアイデアだったけど、ふたりともすぐ夢中になってね。コリンにとっては刺繍を通して絵を理解することが新しいテーマになったし、私にとっては、自分の作品がオブジェになる夢のチャンスだから、すごくワクワクした。私がひとりスタジオで描いてるのと同じ絵を、遠く離れた場所で一目ずつ刺繍しているコリンの姿が頭に浮かんだわ。コリンは刺繍糸で、私は絵具で、一緒にステッチしていったのよ。ちょっとの間ふたりの間の距離が消えて、作り出す行為で一緒になれた。
コリン:
最初にアイデアを思いついたときから、段階毎にニッキの考えと知識を教えてもらわなきゃいけないのはわかってた。最初は私の見方が間違ってて、特定の部分が大き過ぎたり、正しい色じゃなかったり。でも配置や色やテクスチャを話し合う都度、ニッキの絵をもっと深く理解して、もっと素晴らしさがわかるようになった。一緒に作業したことで、活き活きとした仕上がりになって、前よりもニッキに近付けた気がする。離れてても、共同作業したおかげで、いつもは別々にやってる創作がひとつに合体したわ。一緒にご馳走を作って、一緒に味わったのと同じよ。

左の画像:Darby Milbrath「Although the Wind」、Projet Pangéeでの個展。右の画像:Claire Milbrathのスタジオ、写真:Joe McMurray
ダービー & クレア・ミルブラス(Darby & Claire Milbrath)姉妹
ダービー:
私は、いつも記憶で妹たちを描いてるの。最初のロックダウンが始まった頃に描いた大判の「Although the Wind」は、妹たちが前景にいる。これまで何度も繰り返し描いてきたから、本物の妹たちに似てるというより、姉妹や姉妹関係の象徴になってるのね。最後に会ったのは1年半。当時私と妹たちが感じた隔たりと不安が、「Although the Wind」に滲み出てる。私の絵には道や通路がよく出てくるんだけど、ある程度は、妹たちが恋しい気持ちと関連してるんじゃないかな。私は妹たちへの感情から創作するけど、その点、クレアははるかに実際的よ。背景はどんな色にしたらいい? とか、描きかけの絵はどうしたらいい? とか、よくメールで相談される。大抵の場合、私からはモード・ルイス(Maude Lewis)やグラント・ウッド(Grant Wood)の絵の画像を送るのが答え代わり。描きかけの絵についてクレアが大陸の反対側からメッセージをくれるだけで励みになることもあるし、お互いがお互いの刺激になってると思う。色やテクニックについて話したり、何か間違いをやらかしたときはフラストレーションを吐き出したり、アート業界のゴシップを交換したり。早くまた、一緒に並んで絵を描きたいな。
クレア:
画家というのは孤独なものかもしれないってダービーは言うけど、私は、画家として猛烈に腹が立ってるとき、ダービーにメッセージを送るの。するとダービーは「不満は変化の始まり」って返信してくる。こんなに長く離れ離れになってるのは、多分初めてよ。ハッピーじゃない状況だと、こまめに連絡を取り合うのも難しいよね。私たちの場合は、毎週のお絵描きチャットが、ふたりだけに通じる一種の暗号になってる気がする。背景の色を相談すると、「思い通りにいかなくなって、最初のアイデアを捨てたとき、残骸から浮かび上がってくるのがいい絵だ」ってダービーは言う。1日かけても思い通りのグリーンが出せなかったって泣き事を言うと、「もっとオープンになってみたら、ダメだと思ったグリーンが本当は完璧なグリーンだと気づくかも」と諭してくれる。これは、生活が大きく変わった後、新しい家で最初に描いた絵。段階を追う毎にダービーにメッセージしたんだけど、いつも、変化を歓迎すること、リスクを受け容れること、もっと花を増やすことをアドバイスされたわ。画家としてのアドバイスは、姉としてのアドバイスでもあったと思う。

左の画像:Nadia Gohar「Want Not」(2020年)、布巾用の布地に油彩。右の画像:Laila Gohar「無題」、ラヴァッシュ、糸
ナディア & レイラ・ゴーハル(Nadia & Laila Gohar)姉妹
ナディア:
2020年が明けて間もない1月の下旬、何かインスピレーションが見つかるんじゃないかと期待して、トロント公共図書館の5階へ行ってみた。そしたらルイーズ・ブルジョワ(Louise Bourgeois)の人生と作品にについて書かれた本に出会った。中でもドライポイントの版画を楽譜用の五線紙に刷った作品がとても印象的だったから、iPhoneに撮影しておいたわ。絵本に描いてあるような子供っぽい家の輪郭が赤い線で描いてあって、窓みたいな5つの四角に、それぞれ、黒い字で「Who(誰が)」、「Where(どこで)」、「When(いつ)」、「Why(なぜ)」、「What(何を)」と書いてある。それが作品の名前でもあるんだけど、撮影した写真をレイラに送信して、その後は忘れてたの。
何か月か後にパンデミックで世界がパニックになって在宅が指示されると、余暇ができた人のために、美術館や色々な機関がオンライン目録やバーチャル ツアーを提供し始めたでしょ。私は丁度、その週のニューヨーク シティ バレエ団のパフォーマンスをストリーミングで見終わったばかりだったから、MoMA近代美術館のサイトを見てみたら、図書館で写真に撮った作品とブルジョワ自身が書いた目録用のエッセイが掲載されてたの。ブルジョワの言葉はその時期にぴったりで、私たちが直面してる世界の状況を書いたみたいだった。もちろん私はこのことをライラに伝えて、世界の現状を考えるためとブルジョワに敬意を表するために、ふたりで一緒に作品を作ることにしたの。
目の前の小さな面に集中して、布巾用の布地とか、手に入るものの上に小さい絵を描いてると、とてもいい気分になれた。特に布巾用の布地は、赤い縁取りのおかげで、方向性もはっきりして、落ち着きのある作品になったわ。
レイラ:
パンデミックが始まった最初の頃は、生活がバラバラに壊れるような気がしたの。だから縫物を始めた。いろんなものを繕ったり縫い合わせたりしてると、気持ちが静まったわ。端切れを使った裁縫の次は、ラヴァッシュっていう薄べったいパン。イベントのために用意したのだけど、キャンセルになったせいでずっとスタジオに置きっぱなしにしてて。パンが大好物だから、食べると最高に心が慰められるんだ。
- 文: Laila & Nadia Gohar、Nikki & Corinne Maloof、Claire & Darby Milbrath
- 画像/写真提供: Laila & Nadia Gohar、Nikki & Corinne Maloof、Claire & Darby Milbrath
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: May 10, 2021

