アレックスはいつだってアレックス
TikTokで人気のアレックス・コンサーニは、リアルタイムのユーモア動画でモデルとしての成長を見せる
- 文: Devan Diaz
- 写真: Richie Shazam
- スタイリング: Dara Allen

ニューヨーク シティの時間は速く流れる。アレックス・コンサーニ(Alex Consani)の時間はもっと速く流れる。ベイエリア生まれの19歳は、2021年秋にTom Fordコレクションでデビューを飾って以来休みなくランウェイを歩き続け、去年はなんと18回のショーをやってのけた。2023年はすでに自己最高記録を塗り替える勢いで、おそらく今秋の春夏ショーの時点で2倍になるだろう。IMGと契約を結ぶ前はSlay Model Managementに属し、テレビシリーズ『Pose』で有名になる前のドミニク・ジャクソン(Dominique Jackson)らと一緒に仕事をしていた。最初に家の中で始めた動画撮影はカメラに慣れる無難なチャンスだったが、コロナ禍のロックダウン中、TikTokに@captincroookのアカウントで参加し、やがて100万人に近いフォロワーを獲得するに至って様相は一変した。初期に投稿された爆買いの戦果、ダンス チャレンジ、ストーリータイムはたわいなく、自由闊達で、ジェナ・マーブルス(Jenna Marbles)や以前クリス・クロッカー(Chris Crocker)名で活動していたアーティストのケイラ・カニンガム(Cara Cunningham)など、収益化が進行する前のインターネットでやたら面白いコメディーを提供していたパーソナリティたちを思わせる。21世紀には、カメラを前にベッドルームで途方にくれる少女ほどヒットするものはないのだ。
だが同世代のステレオタイプなイメージに反して、コンサーニは引きこもりタイプではない。TikTokには、車の流れに逆らって歩き、地下鉄のホームで金切り声を上げ、アン・ハサウェイ(Anne Hathaway)の蝋人形にからむ様子が見られる。このインタビューを行なった日曜日の夜は、スウェーデンでH&Mの仕事を済ませた2日後、パリへ飛ぶ前日という慌ただしさだった。
まず挨拶の握手をすると、「このインタビューは汚い言葉を使ってもいいの?」と質問された。公共の秩序を乱すふざけた動画をたくさん観ていたから、そんな丁寧な質問をされるなんて驚きだった。パーティーへ繰り出すのではなく、セットでファッション撮影をするのだから、当然と言えば当然かもしれない。「ソーシャルメディアとモデル業を結びつけるのは超簡単だった」とコンサーニは言う。「アレックスがいて、アレクサンドラがいる」。ふたりはどこが違うのだろう? 「違わない。アレクサンドラは仕事をするときのパーソナリティ。でも、やってることは全部、私そのものな気がする。古い投稿で昔の自分を見るのも全然平気だし」

Alex Consani着用アイテム:スニーカー(Jacquemus)、ワンピース スイムウェア(Marine Serre)、ショートパンツ(BARRAGÁN)、グローブ(Ernest W. Baker)
体操をやってるときは、男の子としてレオタードを着て、でも気持ち的には女の子だった
考える合間にはピンクのエルフバーを吸い、毛布の下の両脚が冷えないように揺すり続けている。私たちは今、ブルックリンのアビエイター スポーツ&イベント センターで、アイスリンクを見下ろすテーブルに座っている。この施設には、体育館、屋内サッカー場、平均台が置かれた体操室、トランポリンのフロアもある。子ども時代のコンサーニは体操とバレエをやっていたが、最終的にはバレエをやめて体操をとった。「体操をやってるときは、男の子としてレオタードを着て、でも気持ち的には女の子だった」と言う。撮影現場にいる何人かのスタッフと同じく、コンサーニはトランスジェンダーだ。「もし私の意見が通るんだったら、今のままで仕事をしたい。特に今みたいな時は、みんなが集まれるのがすごくいいよね」。「今みたいな時」とは説明するまでもない。今年、トランスジェンダーの子どもたちを対象としたホルモン療法を20の州が禁止しようとしているのだ。思春期にホルモン補充療法で女性の身体に変わったアレックスも、かつてはそんな子どもたちのひとりだった。
今日は6月4日、写真撮影の日だ。コンサーニのメイクアップの手直しを待っていると、お洒落で社交家のフォトグラファー、リッチー・シャザム(Richie Shazam)が、今年は企業から「プライド」への協賛金が不足しているという話を持ち出す。スポーツセンターの中2階でテーブルを囲んでいる面々が、おもむろに同意する。ナイトライフやあちこちのセットで顔を合わせたりして、ほとんどは何年も前からの知り合いだ。イメージアップを狙う企業の表面的な支援は陳腐だったけど、そのおかげで何とかやっていけるLGBTコミュニティのメンバーが多かったのも事実だ。「私の知り合いにも、お給料の半分は『プライド』からだった人がいる」と言うのはファーン・セレーゾ(Fern Cerezo)。ダラ(Dara)という名前で仕事をしているスタイリストの右腕だ。そこで私は、資金不足はコンサーニと同じくTikTokのインフルエンサーとして有名なディラン・マルバニー(Dylan Mulvaney)と、彼女を起用して大コケしたBud Lightビールの広告に関係があるのかな? と尋ねてみる。答えはない。シャザムが「機会の創出」を論じ、合間にKodak Portra 400フィルムを取ってくるようアシスタントに指示する。つい最近新しい写真集を出し、撮影現場の明晰かつ現実的な存在であるシャザムの言葉だから、私は真摯に耳を傾ける。何にせよ、財政的な支援が減少する状況で、トランスジェンダーというアイデンティティとは別の理由から、私たちが今日セットで顔を合わせているのは嬉しい。一歩進んで二歩下がる、だ。最初に撮影するルックが整ったところで、私たちはカメラの後ろに身を寄せ合って、撮影を見守る。

Alex 着用アイテム:(Live the Process)、レギンス(Live the Process)、スカート(MM6 MAISON MARGIELA)、アームウォーマー(MM6 MAISON MARGIELA)、ソックス(Rick Owens)
バスケットボールのコートを背景にいくつかポーズを試すが、どれもパッとしない。そこで、床上3メートルの高さにあるフープに座る気があるか、シャザムがコンサーニに尋ねる。承諾したコンサーニを制作アシスタントが二人がかりで持ち上げようとするが、コンサーニはさっさと自力でネットと金属の輪を潜り抜けてしまう。落ちたときのために黴臭い体操用マットが引っ張られてくるが、さして当てにはなりそうもない。シャザムのフラッシュが光るあいだ、みんな静かだ。でもそっと交わされるジョークや囁きのせいで段々エスカレートしていくコンサーニは、両手でバスケットを掴み両脚をネットに絡めた状態で、色々なポーズをとってみせる。私と一緒に見ていたダラが室内で高まる興奮に満足して、「あのバケットハットはぴったりだったね」と言う。そう、ファッションに求めるのはこのフィーリング、被写体がカメラなしには存在できなくなる瞬間だ。『Interview』のファッション ディレクターとして常にニューフェイスと接するダラの解説によると「ひとりしかモデルをキャスティングしないファッション記事は、試金石なのよ。モデルなら誰でもこなせるってわけじゃない」。でも、あの娘はできる。写真のためなら何でもする。
「『Victoria's Secret』のファッション ショーは毎年欠かさず観てた。ジゼル・ブンチェンなんか、メチャクチャすごいよね」
コンサーニは、洋服が大好きな少女たちが入念にお洒落をした過ぎ去りし日々を彷彿とさせる。ランウェイ ショーはわずか3シーズンしか経験していないのに、堂々たる歩きっぷりだ。「『Victoria's Secret』のファッション ショーは毎年欠かさず観てた。ジゼル・ブンチェン(Gisele Bündchen)なんか、メチャクチャすごいよね」と言うコンサーニは、私にとっては新人だが、TikTokのフォロワー多数にとっては、HBOから放映されて一世を風靡した『ユーフォリア』のキャラクター、ジュールズの化身だ。どちらもY2Kファッションが好きなトランスジェンダーのティーンエージャーという意味で、最初こそもっともな比較だったが、時が経つにつれてそんなコメントにも飽き飽きしてるんじゃないだろうか? 「最近、ジュールズ役だったハンター・シェイファー(Hunter Schafer)に会って、ふたりで笑っちゃった。でも、別にいいんだ。みんな仲間だもん。この仕事をしててハッピーよ」。いかにもメディア馴れした回答だが、決してそうではない。コンサーニが見ているのは、オンラインでできた友人たちと現実で一緒にいる、生身の自分だ。親友でもある現在のルームメイトとは、パンデミックの最中にオンラインで知り合った。今、コンサーニはベイプを吸うことであくびを誤魔化している。「もう1本CELSIUSを持ってきて。そしたら大丈夫だから」。ダラは、次のルックでピンクのヘッドバンドを使うかどうか思案中。ヘアスタイリストのソニー・モリナ(Sonny Molina)が、サッカー選手みたいな大雑把なお団子ヘアを体操選手みたいなぴっちりしたポニーテールに変えたところで、ルックは完成だ。コンサーニはポニーテールを揺らし、「ストレートの夏!」と叫び、スキップでシャザムのもとへ向かう。その後ろ姿からパンチラインが聞こえてくる。「ジョーク、ジョーク。まだおチンチンもタマもついてるよ!」そして笑いながら撮影に入る。シャザムがシャッターを切り続ける。
彼女の口からそんな言葉を聞くのは、驚きでもあり可笑しくもある。コンサーニは非常に早い時期に男性思春期を止めることができたから、おいそれとはトランスジェンダーとわからない。そうしようと思えば、隠しておくことだってできた。状況は進歩してるようでも、トランスジェンダーであることを隠して仕事をしているモデルは多い。特にフランス オートクチュール界のガラスの天井はなかなか破れない。だがコンサーニは減給を承知でトランス女性であることをカミングアウトし、セットではゲイ仲間のネット用語で喋る。わかる人だけにわかる、内輪のジョークの世界だ。シャッター音が途切れ、ポニーテールにスプレーを掛け直すために駆け寄ったモリナにも何かジョークを言ったらしいけど、私たちのところまでは聞こえてこない。以前にもコンサーニと仕事をしたことがあるモリナは、「初めて会ったときから、あのユーモアとワクワク感が大好きだったよ」と言う。撮影現場の人間関係には緊張することもあるが、コンサーニは頑として楽しむことを選ぶ。「ハイスクールの卒業パーティーはちょうどコロナの最中で、2メートルのソーシャル ディスタンスをとるために、場所はフットボール場だったの。だから、行かなかった。今いる場所へ進む準備ができてたから」

Alex 着用アイテム:スニーカー(Jacquemus)、トップス(Jacquemus)、スカート(Jacquemus)、バケットハット(Jacquemus)、ソックス(Rick Owens DRKSHDW)
Devan Diazはニューヨーク シティ、ジャクソン ハイツ地区出身のライター
- 文: Devan Diaz
- 写真: Richie Shazam
- スタイリング: Dara Allen
- クリエイティブ ディレクション: Samantha Adler
- 制作会社: FAMILY projects
- エグゼクティブ プロデューサー: Olivia Gouveia
- プロデューサー: Virginia Sheehan
- メイクアップ: Rommy Najor
- ヘア: Sonny Molina
- ネイリスト: Naomi Yasuda
- モデル: Alex Consani
- キャスティング: Greg Krelenstein // GK-LD
- 編集: Ben Draghi
- 照明技師: Ryan Petrus
- 第1写真アシスタント: Tanner Williams
- 第2写真アシスタント: Clay Campbell
- スタイリング アシスタント: Fernando Cerezo
- 制作アシスタント: Peter Christensen、Kim Romero、Enzo Kurmaskie
- 翻訳: Yoriko Inoue
- Date: June 21, 2023





